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1-15 王女立つ

「遅い! いつまで私を待たせるきよ! 足が棒になっちゃったらどうするつもり!」

「ほら言われた」


 ギルドに戻ってくると、仁王立ちして待っていたリュネに予想通りの言葉を貰う。

 タケルと一緒に戻ってきたセリュールとビオネスはリュネの言葉に茫然としていた。当然だろう。なにせエクストラ・モンスターを狩るのは命がけだ。戻ってきて労われることはあっても、文句を言われることなどまずない。

 むしろ、エクストラ・モンスターを狩れるハンターに対して文句を言おうなんて考えること自体がありえない。もしかしたら、機嫌一つでその実力が自分に向かってくるかもしれないのだ。機嫌を損ねようなどと考えられるはずがない。


「す、凄いわね。大物なのかしら?」

「まあ大物だな」

「タケルはそれでいいの? あなたはこの町の英雄よ?」

「英雄なんてガラじゃねぇよ。あのおっさんの方がよっぽどあってる」


 タケルの視線の先は、ギルドへと戻ってきたと同時に多くのハンターたちに囲まれたビオネスの姿があった。

 実質的にはタケルが倒したようなものだが、タケルの実力を知らない多くのハンターたちからすればビオネスが何かしてエクストラ・モンスターを倒したと考える方が普通だった。

 そんなハンターたちの歓声に、俺じゃないと否定するビオネスだったが、周囲がそれを聞き入れる様子はない。勝手に盛り上がってしまい、もはや本人と関係ないところで宴会だの飲み会だのと話しが進んでいる。


「まあ、あれもある意味面倒ごとよね」

「実感がこもってるな」

「何度かあったことだしね。前にちょっと面倒な魔物を狩ったときは、宴会の代金のせいで赤字になったし」

「そりゃご愁傷様」

「けど今回はタケルが奢ってくれるんでしょ? 私たちも楽しみにしてるわよ」


 セリュールはパチンとウインクを残してビオネスの元へと向かってしまった。

 タケルは小さく肩を竦めつつ、リュネ達の元へと向かう。


「タケルさん、お帰りなさい。怪我はありませんか?」

「かすり傷一つないぞ。ちっと面倒だったが、面倒なだけだからな。ほれ、魔石も回収してきた」


 袖の下に放り込んでいた魔石をリュネへと手渡す。

 こぶし大の大きさの魔石は、リュネの両手にずっしりと重さを伝えてきた。その感触にニンマリと笑みが浮かぶ。


「ま、よくやったと褒めてあげるわ」

「けど問題がまるっと片付いたわけじゃないだろ?」

「ええ、本題が残ってるものね」


 ギルドの雰囲気から入ることを躊躇している様子だが、ギルドの入り口には兵士たちの姿が見えた。

 纏っている装備は、町の警備兵の物の他にもタケルたちを追っていた特務隊の物も混じっている。


「たまにはこっちから挨拶してあげようかしら」

「え? 逃げないんですか!?」

「今はタケルがいるしね。いい加減追われ続けるのも嫌だし、ちょっと反撃してあげましょ」


 ふふんっと胸を張り、リュネはニーナとタケルを伴って入り口へと向かう。

 自ら近づいてくるリュネの姿に、特務隊の兵士たちは警戒の色を強める。だが、自分たちの任務のためにと、一歩前に踏み出した。


「リュネ様、諦めてくださいましたか?」

「私の身分を知っていて、あえて名乗らないのかしら? だとすれば不敬もいいところね」

「……失礼いたしました。自分は第三特務隊所属、小隊長のイースと申します。宰相の命を受け、姫様をお迎えに上がりました」

「私たちを探していたのはずっと第三特務隊だったのね」

「はい」

「そう。そしてあなたは私が姫であると、クルレント王国第一王女、ロンネフェルト・フィー・クルレントであると認めているのね」

「そうでございます」

「そう」


 リュネは一息つき周囲を見渡す。

 二人の会話を聞いていた兵士やハンターたちは唖然としていた。当然だろう、目の前にこの国の女王様が突然現れたのだから。

 リュネはそんな周囲の様子を確認してから大きく深呼吸する。そしてたっぷりと貯めてから口を開いた。


「なら私、ロンネフェルトが命じます! 兵士たち! 直ちにイースを捕縛しなさい! この者は私に攻撃魔法を放った者たちの主犯です!」

「なっ!? 姫様!?」

「ま、そう言うことだ。悪く思うなよ」


 突然の命令に町の兵士たちも、特務隊の者たちも動けない。

 そんな中、一人だけ即座に動いた者がいた。

 タケルがリュネの背後から素早く飛び出し、刀の柄でイースを鳩尾を打ったのだ。

 ぐふっと息の詰まる声と共に、イースがその場に崩れ落ちた。


「貴様!……」

「俺、今コイツの私兵なんだわ。命令には従わないとな」


 数瞬後、先に我に返ったのはやはりというか特務隊の者たちだった。小隊長がやられたことで、即座に剣を抜く。


「おいおい、俺は姫様の命令に従っただけだぜ? それに反逆するってのは、特務隊として良いことなのかい?」

「私の命令に逆らう、私の命を狙ったイースを庇い建てるなら、あなたたちも国家反逆罪に問うわよ?」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるタケルとリュネの言葉に、特務隊の面々は躊躇する。

 本来ならば、躊躇する必要などなかった。

 たとえ相手が王族であろうとも、正式に国からの命令として出ている以上、特務隊の任務は王国法によって守られているからだ。突然王族の一人がその命令を妨害するような指示を出したとしてもその命令に従う必要はないはずだった。だが今回は体裁が違った。

 リュネの命令は姫の命を狙った者の捕縛。自分たちが受けている姫の確保という命令に反することなく、むしろ王国法の中でも王族の命を守ることは優先されるべき命令である。

 そのせいで即座に動くことが出来なかったのだ。

 その隙をついて町の兵士が動いた。


「制服の違う者たちを捕縛せよ! 町中での攻撃魔法使用違反、及び王女様への殺害の嫌疑がある!」

「「「おう!」」」

「なっ、貴様ら! 俺たちを誰だと思って!」

「王女様からの命令である! 反抗するものは斬っても構わん!」


 精鋭であったとしても数の暴力の前には敵わなかった。ただでさえ数を減らしていた特務隊はあっという間に兵士たちによって包囲され、イースも拘束されてしまう。


「どうせ宰相が手を回すだろうし直に解放されるだろうけど、しばらく牢屋の中にいなさい。その間に私たちが動かせてもらうわ」

「何をするつもりですか。すでに王国の半分は宰相が実権を握っているのですよ」

「やっぱりあなたは宰相側の人間なのね。まあ、私の確保に何も知らない人を寄こすわけがないか。特別にあなたの質問に答えてあげる。簡単よ、宰相の力を跳ね除けるだけの軍を作るの」

「小娘一人にそんなことが本気でできると思っているのか!」

「一人じゃないもの。私にも優秀な部下がいるの。おしゃべりはお終いよ。連れて行きなさい」

「ハッ!」


 リュネの指示によってイースが兵士たちによって連行されていく。

 特務隊の面々もそれに逆らうことなくついていった。

 そして一騒動終えたギルドは、全員がリュネの次の行動に注目していた。

 突然目の前に現れた本物のお姫様である。その上、漏れ聞こえてきた会話はやけに不穏なものも多い。

 できることなら巻き込まれたくない。そんな気持ちでリュネのことを観察していた。


「さて」


 振り返ったリュネは、ハンターたちの方を見る。

 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえてきそうな静寂の中でゆっくりと全員を見渡した後、リュネは人差し指を立ててちょいちょいっとタケルを呼ぶ。

 タケルがリュネに顔を近づけると、リュネが小声で指示を出した。タケルはそれに頷き袖の下から新たな物を取り出す。

 それはリュネが持っているのと同等のサイズの魔石。三体の海竜のうちの一つのものだ。


「あんたたち、私の面倒ごとに巻き込んでしらけさせちゃって悪かったわね! 謝罪とかハンターには一ペスの価値もないのは分かってるわ。だからここでじゃんけん大会をしてちょうだい!」

「じゃんけん大会?」


 ハンターたちが口々に呟く中、タケルが海竜の魔石を掲げる。


「優勝者にはこの魔石をプレゼントしてあげる!」

「「「「「!!」」」」」


 それは声すら出せないほどの衝撃だった。

 魔石のサイズはどう見ても最上級。売れば一生とは言わないものの数年間は遊んで暮らせるサイズ。武器を新調しようとすれば、最高級の物が用意できる。防具でも同様。いや、一式そろえてもおつりがくるだろう。


「私たちはすぐに行かないといけないから、これはギルドに預けておくわ」

「ミリエラ、大会の運営任せるぞ」


 タケルが投げた魔石は、綺麗に放物線を描いてミリエラの手の中に納まった。


「ええ!? 私ですか!?」

「じゃ、後よろしく」


 全てをミリエラに投げ、タケルたちはそそくさをギルドを出る。

 直後、ギルドの中から爆発したような歓声が響き渡り、建物全体をビリビリと揺らす。

 そんな中、リュネは先ほど町の兵士たちに指示を出していた男が残っていることに気付いた。


「あなた、確か隊長だったわね。なにか用かしら?」

「ハッ、此度の不手際、誠に申し訳ございません。あの者たちに宿を襲撃されたとのことで、変わりの宿はご準備できていますでしょうか?」

「そう言えばそうだったわね。色々あって忘れていたわ」


 襲撃の犯人も分かりこれ以上あの部屋を調べる必要はないが、宿側としてリュネをもてなせるほどの準備をすぐに整えるというのも無理な話だろう。

 最高級の部屋だっただけに、原状復帰にも時間がかかる。

 となると別の宿を探さなければならないのだが、エクストラ・モンスターの騒動もありそのことをすっかり忘れていた。


「というかこの町の状態だし、泊まれる宿ってあるのかしら?」

「エクストラ・モンスターの出現の割には、姫様のお連れの方のおかげで被害は少なく済んでいます。すでに直接的な被害にあった場所以外は営業を再開している場所もございますので」

「ならそっちの宿に移るとするわ」

「承知しました。宿の手配はこちらで済ませますので、その間詰め所の貴賓室にてお待ちください。すぐに馬車を用意させます」

「ありがと。あなた名前は?」

「ゼブナクと申します」

「その名前、覚えておくわ」


 ゼブナクが深く頭を下げる。

 そして少しして馬車がギルドの前へと到着した。リュネ達はそれに乗り込み詰め所へと向かう。

 その間にタケルは、改めて馬車の窓から町の様子を確かめるが、ゼブナクの言う通り確かに被害は少ないように思える。

 ソニック・イーターが鳥型であり、タケルを警戒してあまり地上へと降りてこなかったことが要因だろう。そのおかげで、羽ばたきやその巨体による被害が防げた。

 むしろ、大砲による二次被害の方が規模としては大きいかもしれない。

 落ち着きを取り戻し始めている町を抜けて、詰め所へと到着した。

 ゼブナクの先導で貴賓室へと案内される。その部屋は、昨日まで泊っていた宿にも引けを取らないほどの豪華な部屋だ。


「スゲーな。こんな部屋が詰め所にあるのかよ」

「貴族の方のために用意された部屋ですので。これでも王族の方々をお迎えするには不十分なのですが、ご勘弁を」

「マジかよ」

「まあ、確かに超一流ってわけじゃなさそうだけど、いい部屋だし私は好きよ。ここで待たせてもらうわね」

「ありがとうございます。では自分はドアの前で控えておりますので、何か御用がございましたら、お申し付けください」


 ゼブナクが一礼し退室する直前、タケルが思い出したかのように待ったを掛けた。


「あ、ちょい待ち。姫さん、森に残したままの魔石の回収どうする?」


 それは森の中で殺した四体のゲイル・イーターの魔石のことだ。そのうち一体はソニック・イーターであり、今リュネが持っているのと同じもの。

 ゲイル・イーターのものであっても、エクストラ・モンスターというだけあって十分なサイズであることが予想できる。

 このまま放置するのももったいないだろう。


「そうね。兵士の誰かに取りに行ってもらうことは可能かしら?

「もちろんでございます。すぐに兵を送りましょう」

「お願いね。四つ回収できるはずよ。それと領主の方からエクストラ・モンスターの魔石の件で問合せが来るかもしれないわ。魔石は私が持ってるから、その場合は私に取り次ぎなさい」

「承知しました。では改めまして失礼いたします」


 今度こそゼブナクが退室し、リュネとニーナはどっさりとソファーに座り込んだ。そのまま背もたれに体重を預け、深く息を吐く。


「なんだか色々あり過ぎて、凄い疲れました……まだ夕方にもなってないのに」


 夜明け前から襲撃を受け、そのままエクストラ・モンスターの群れとの戦闘に巻き込まれたのだ。気疲れして当然だろう。


「ま、私は久しぶりにお姫様らしい扱いを受けたから満足だけどね。タケルもゼブナクを見習いなさい。あれが私に対する正しい対応よ?」

「ハハハ、ロリっ子はロリっ子で十分だ。依頼料払ったら考えてやるよ」

「ぐぬぬ……まあ今は良いわ。いつか頭を下げさせてこれまでの非礼の数々から私の椅子にしてやるんだから」

「そん時は椅子になったまま城の中駆け回ってやるよ」


 軽く火花を散らせるリュネとタケルの横では、ニーナがいつの間にか寝息を立て始めているのだった。

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