表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧人間の弟に彼女も未来も全て奪われた俺は、過去に戻って青春をやり直す。  作者: 松竹梅竹松
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/63

第3章 第2話 偲ぶ

「しばらくホールで働いてくれないかな」



 インタビューが終わりバイトに向かうと、突然店長からそう言われた。



「えーと……その前に突然シフトに穴開けてしまってすみませんでした」

「いいよいいよ! 無事でよかった!」



 このファミレスの店長は普通の人間だ。優しくもないし厳しくもない。学生バイトに興味はなく、本部の人に詰められることばかり気にしている普通の社会人。だからこんないかにも良い人みたいな台詞吐くはずがないんだが……。



「なんで私がホールに?」

「聞いてるよね? 越前さんがアイドルの養成所に入れた話」



 あー……もうそんな季節か。確かに光がアイドルの養成所に合格し、目立たないためにもホールからキッチンに移動する出来事はあった。でもその代わりに誰かがホールに移動なんて話あったか……?



「アイドルの卵とヒーロー! その二枚看板にうちの店を盛り上げてほしいんだよね」



 あー……そういう……。まだネット全盛期とは言えない現代だが、刺された未成年の画像がネットに上がっているのは確認してある。新聞記者とも話はしたし、俺の個人情報は世界中に拡散されていると言っても過言ではない。ほんと……こんなことで目立ちたくないんだけどな。



「別にホールも経験したことあるからいいんですけど……キッチンをメインにお願いします。どうせ人の噂も、なんで」

「わかってるわかってる! あれ? 五十嵐くんホールしたことあったっけ?」


「……こっちの話です」

「まぁいいや。それと今度社内報に載るインタビューがあるからよろしく。まだ無理にシフト入れなくてもいいけど、それだけは何卒何卒」



 俺の事件で本部から褒められたか。やけに上機嫌な店長に挨拶してキッチンに入り、暇そうに仕事をしているいつもの面々に頭を下げる。



「ご迷惑おかけしました」

「ほんと。夏休みシフト入れないバイトってどうよ。おかげであたし旅行行けなかったんだけど」

「翠ちゃんきびし~。ツンデレ激しいといっぱい泣いてた話しちゃうよ~?」

「んなことより店長ひどくないですか!? わたしこれからアイドルになるんだからファミレスで働いてるなんて知られたくないんですけど! 一緒に抗議しましょうよ!」

「病院にかわいいナースいた? 漫画のネタにしたいんだけど」



 ……安心する。これだよこれ。誰も俺に気を遣ったりうわべだけを見たりしない。こいつらだけは変わってくれない。この関係が何よりも安心する。



「何もエロい展開はなかった。現実見た方がいいっすよ。ああでもかわいいナースさんは、めっちゃいた」

「おーマジか! どうしよう俺も入院しようかな……」

「26歳フリーターを相手にする女がいるわけないでしょ」

「だめだよ~翠ちゃん。パーさんこの前27になったんだからちゃんと正確に言わないと~」

「26でも27でもおっさんじゃないですか」

「20代はまだおっさんじゃないっっっっ!」



 翠も忍さんも光もパーさんも、誰かしら毎日のようにお見舞いに来てくれたからひさしぶりという感覚はない。でもこの時間。みんなと一緒にくだらない話をしながら働くこの時間が、俺にとっては何よりの宝物。辛いこともたくさんあったが、この時間をもう一度過ごせただけで過去に来てよかったと断言できるほど、楽しい。もっと早く気づけていたら……いや、こういうものはそういうものなのだろう。いつだって気づくのは失った後だ。そう。いつも失ってからその存在の大きさに後悔する。



「……忍さん、その、なんていうか……」

「ん~? どうしたの~?」



 二人っきりになったタイミングで忍さんに声をかけたが、その表情や声は何も変わらない。恋愛の色は、何もない。



「いや……何でもない」



 当然と言えば当然。忍さんが俺に惚れたのは、俺が忍さんを庇ったから。その歴史が消えた今、俺と忍さんの関係が進むはずがない。大人忍さんが過去から消えたのは、つまりそういうことだろう。エージェントの話では大人忍さんと俺が婚約した世界からこの俺だけが消えた形になるから忍さんの幸せがなくなることはないが……それでもやはり、少し寂しい。



 俺はまだ忍さんを好きになれていない。だがあのままいけば、俺はいつか忍さんに恋するはずだった。その未来は、俺が到達することがない未来。もちろん行動すればその未来に近づくことはできるかもしれないが、あの忍さんに会うことは二度とないんだ。



「……かわいかったな」

「なんか言った~?」

「……何でも」



 まぁ考えていても仕方ない。ただ大人忍さんが過去に来てないだけかもしれないし、お互いもっと幸せな未来を歩めているのかもしれない。結局は過去が未来を決めるのだ。俺がこの過去で何かを変えれば、未来は変わる。そう。大事なのは、今なのだ。



「おかえりなさいませ、ご主人様っ」

「だれぇっ!?」



 だが家に帰ったら知らないメイドがいるこの今を。俺は正面から受け止めることができなかった。

9000pt感謝です! あと1000pt! そして大人忍さんはいずれ再登場します! そのタイミングをお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] イッキ読みしました。話の流れがすっごいしっかりしてて、見ていて分かりやすかったです。今後の展開も読めず、次の話が出るのが待ち遠しいです。 [気になる点] どのくらいの話数で終わらすんだろう…
[一言] ナースのくだり、さすがに誤字報告で修正出来るレベルじゃないのでご確認下さい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ