エピローグ
マルコは刑務所の跡地に着くと、巨大な鉄の扉を叩いた。後ろには、車椅子に乗ったタイガーと…… その車椅子を押しているケイ、そしてアメデオがいる。
ややあって、扉が開く。そして、ギースが顔を出した。
「よう、マルコ……おやおや、タイガーさんも一緒ですか。まあ、入ってください。足元に気をつけて」
そう言うと、ギースは扉を開ける。そして、マルコたちを招き入れた。
マルコたちは、塀の中に入って行く。塀の中は広く、錆びついたボロボロの金網で仕切られていた。コンクリートでできた小さなアパートのような建物がいくつか、等間隔で設置されている。窓には鉄格子らしき物がはまっているあたり、かつて刑務所であったことがうかがえる。
しばらく歩くと、奇妙な所に出た。金網に囲まれた広い草原のような場所だ。綺麗な花に覆われ、幾つもの墓石が整然と並んでいる。全てが綺麗に磨かれ、コケの生えたものや汚れたものは一つもない。
ギースは、ひときわ大きな墓石を指差した。
「これがギブソンの墓だ……おっと、また客が来たらしい。まったく、墓守りは大変だぜ」
そう言いながら、ギースは墓地を離れて行った。
マルコは、墓石の前に立った。傍らにはタイガーとケイがいる。アメデオはマルコの足元にしゃがみこむと、マルコの表情を不思議そうに眺めていた。だが、一同の表情から何かを察したらしい。顎を地面に着け、目だけでマルコを見ている。
「ギブソン……」
マルコは、それだけ言うのがやっとだった。マルコにとって、初めての友であり仲間であり……そして父親でもあったギブソン。もしギブソンがいなかったら……マルコは今も野獣のまま、大陸をさ迷っていたことだろう。
あるいは、野獣として狩り殺されていたか……。
様々な感情が溢れ出そうになりながら、マルコはじっと墓石を見つめていた。不思議と涙は出てこない。むしろ、胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのような喪失感の方が大きかった……。
「タイガーさん、お久しぶりですね……マルコ、お前も久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
親しげな言葉と同時に墓地に入って来たのは、ジュドーだった。後ろからクリスタル・ボーイ、そしてアイザックとカルメンが続く……。
だが、マルコはその言葉を無視した。ジュドーたちの方を見ようともしない。じっとギブソンの墓石を見つめたままだ……。
ややあって、マルコは顔を上げた。そして、タイガーとケイに声をかける。
「母さん……ケイ……帰ろう。オレは、こんなギャングどもとは関わりあいたくない」
そう言った後、マルコはもう一度ギブソンの墓石に視線を移した。
「ギブソン……また来る。オレ、あんたのことは忘れない……」
「やれやれ、オレはマルコからも嫌われちまったな……」
ジュドーは自嘲気味に言うと、ギースの方に目を向ける。ギースの隣には、いつの間にかガロードが来ていた。
「久しぶりだな、ガロード……顔を合わせるのは、何年ぶりだろうな」
ジュドーはとぼけた口調だ……しかし、後ろにいるアイザックとカルメンの表情は険しい。
そして、この男は複雑な表情だった。
「ガキ……まさかお前が、人間やめちまうとはな。ともかく、礼を言うぜ。ありがとうよ……兄弟の仇を討ってくれて」
そう言うと、ボーイはつっけんどんな表情で頭を下げる。
「ボーイ……お前はこれからどうするんだ……」
溢れる感情を押し殺し、尋ねるガロード……すると、ボーイはニヤリと笑って見せる。
「オレは……ジュドーの下で働く。お前やギースとは敵同士になるわけだ。だから、今日はその挨拶に来たってわけさ」
「待てよ……何で敵にならなきゃいけないんだ? みんなで助け合って――」
「待て待て。ガキ……お前は、五年経っても変わらねえな。相変わらずの甘ちゃんだよ」
ガロードの言葉を、手を振って遮るボーイ。その表情は、どこか切なげだった……。
「いいか……ジュドーやオレは、組織の一員として生きる。ジュドーは、オレの治療費をずっと払い続けてくれていたし、付き合いも長い。ジュドーを助けないわけにはいかねえ。だが、ギースやお前は組織を否定して生きてる。これはもう、生き方の違いなんだ。仕方ないことなんだよ」
「それは……」
「それにな、お前らを嫌ってる人間もウチには多い。伝説、なんて呼ばれるような存在には……必然的にアンチも多くなる。お前に殺されたギャングの身内連中、とかな……そのアンチを取り込み、オレたちは大きくなる。オレたちとお前らとは、どうあがいても仲良くできねえのさ。もっとも、今さらお前らと戦争にはならねえと思うがな……」
ボーイはそこで言葉を止めた。ギースは無表情のままだが、ガロードはやりきれないような表情を浮かべている……一方、ジュドーたちも口を閉じたまま、思い思いの方向を見ていた。
「ガキ……オレたちはみんな、いろんなことを知りすぎたんだ。もう、昔には戻れないんだよ……昔のオレは組織ってヤツが大嫌いだったが、今さらそうも言ってられねえんだ」
ボーイの言葉は、ひどく寂しげだった。
「じゃ、そろそろ失礼するぜ……ルルシーに、よろしく言っといてくれや」
そう言うと、ボーイは出口の方に歩き出した。ジュドー、アイザック、カルメンもその後に続く。
だが――
「ボーイ……オレは、お前を今でも仲間だと思ってる……」
ガロードの声が、背後から聞こえてきた。ボーイは立ち止まったが、振り返らずに答える。
「バカ野郎……オレはな、てめえらが仲間だった頃のことなんか、思い出しもしねえよ……忘れもしないけどな」
《完》
どうにか完結させられました。改めて思いましたが、キャラの描き分けは難しいですね……今回は登場キャラが多いだけに、特にそう感じました。作者の頭の中だけで描き分けが出来ていても、読む人に伝わっていたかどうか……それは今後の反省点ですね。最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。また、レビューを書いてくださったかきくけ虎龍さん、立花黒さん、畑本祥光さんのお三方には本当に感謝しています。
最後にもう一度……ありがとうございました。




