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エメラルド・シティ 闇にきらめく宝石の街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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野獣の生き方 1

 『野獣の生き方』の主な登場人物です。


◎マルコ

 獣のような恐ろしい顔、そして凄まじい身体能力を持つ男です。顔からは想像もできませんが、まだ十代の少年です。


◎ジュドー・エイトモート エメラルド・シティでもっとも規模の大きなギャング組織『虎の会』のナンバー2であり、有能なキレ者として知られています。


◎ギース・ムーン

 エメラルド・シティで墓守りをしている男ですが……一部では、この街のパワーバランスを一変させてしまう男であるとも言われています。


◎モニカ

 孤児院を仕切っている女傑です。


◎ケイ

 孤児院で生活している若い盲目の娘です。


◎ジョニー(ジョン)・バイパー・プレストン

 孤児院の用心棒をしている、厳つい顔の男です。


◎ギブソン

 マルコの世話をしている若い男です。マルコのマネージャーのようなことをしています。






 人にはそれぞれ、生き方ってものがある。自分に合った、分相応な生き方さえできれば何も問題はない。しかし……人生、何が起きるかなんて誰にもわからない。神をも恐れぬ悪逆非道な生活をしていた奴が、何かのきっかけで聖人君子に変わってしまうことも、無いとは言えない。その逆は……さほど珍しくはないけどな。悪に堕ちるのは、実に簡単な話だよ。

 ただ、生き方を変えるというのは難しい。それまでの人生で培ってきたものを全て捨て去らなきゃならないからな……歳をとると、その難しさはさらに増していく。年齢を重ねていくと、様々なしがらみが出来るし、色んな思い出を引きずって生きることになる。時には、その思い出に引きずられて堕ちていく奴も居る。生き方を変えるなら、若いうちの方がいい。そう言えば、映画なんかだと改心した悪党はたいてい早死にしてるけどな。あれもまた、生き方を変えることの難しさを表現しているのかもしれない。


 ・・・


 ギブソンは今、食堂『ジュドー&マリア』の地下室にいた。いつもと同じく、後金を受け取るためにやって来たのだ。そして、いつもと同じようにドアをノックする。

「開いてるぜ。入んな」

 ジュドーの声もまた、いつもと同じだ。ギブソンはペコペコ頭を下げながら入って行き、アイザックとカルメンに睨まれる……これも、いつもと同じ風景である。

 しかし、いつもと違う点もある。マルコがギブソンの後ろから付いて来ていることだった。

 さらに、背の高くがっちりした体つきの中年女が椅子に座っている。髪は長い金髪で肌は白い。整った顔立ちをしているが……その顔には、数本のギザギザの線が入っている。熱したナイフで、無理やり顔に傷をつけたような……まるで、虎の縞模様のようだ。事務机の上で両手を組み、じっと二人を見つめている。

 彼女こそ、虎の会のリーダー……タイガーだ。


「いやあ、皆さんお揃いですね。いつも御世話になってます」

 そう言いながら、ギブソンは頭を下げる。その後ろにはマルコが立っている。フードを被ったまま、じっとしていた。昔のように、警戒心を露に構えることはない。

 ギブソンは相変わらず、ヘラヘラ笑いながら頭を下げる。しかし内心は不安だった。なぜ二人まとめて呼び出したのか。マルコがここに、どんな用があるというのだろう。


「マルコ……前に出てきてくれるか?」

 不意に、タイガーが声をかける。ギブソンの顔はひきつった。

「え……何でしょうか? 話ならオレが――」

「私はマルコに話しているのだがな……」

 そう言ったタイガーの目は冷酷そのものだった。表情も険しい……ギブソンは目を逸らし、下を向く。一方のマルコはフードを被ったまま、おずおずと前に出る。

 タイガーは机に両手を乗せたまま、じっとマルコを見上げる。

 そして言った。


「マルコ……すまないが、フードを上げて顔を見せてくれないか?」


「え……いや、ちょっとそれは勘弁してくださいよ……」

 ギブソンが慌てて、マルコとタイガーの間に割って入ろうと進み出る。しかし、その動きにアイザックとカルメンが反応した。

「ちょっとあんた! タイガーさんに勝手に近寄るんじゃないよ!」

 カルメンが怒鳴る。そしてアイザックがギブソンの首根っこを掴み、強引に引きずり倒す。不意を突かれたギブソンは派手に転倒し、床に転がされた。

 それを見たマルコが、低く唸る。次の瞬間に手を伸ばし、アイザックを力任せに突き飛ばした……今度はアイザックの巨体が軽々と吹っ飛び、壁に叩きつけられた。

 顔を歪めるアイザック……カルメンが憤怒の形相になる。

「何しやがんだい! この化け物が!」

 吠えると同時に、身構えるカルメン。マルコを相手にしているというのに、怯む気配がまるでない。アイザックの反応も早い。叩きつけられたダメージなどまるで感じさせない動きですぐさま起き上がり、拳銃を抜く。

 そしてマルコも、低い姿勢で臨戦態勢に入る……しかし、ギブソンがマルコに組み付いた。

「マルコ! 大人しくするんだ!」

 ギブソンが怒鳴る。そしてジュドーも動いた。ギブソンとマルコの前に立ちはだかり、アイザックとカルメンを睨む。

「二人とも……外に出て頭を冷やせ。オレがいいと言うまで待ってろ。タイガーさんは、オレがガードするから大丈夫だ」

「ええ!? そんな事できない――」

「いいから行け……これは命令だ」


 ジュドーの声には、いつもの軽薄さがない。有無を言わさぬ迫力に、抗議の声を上げたカルメンは黙りこんだ。そのまま、アイザックに手を引かれて部屋を出る。

 それを見たマルコは、唸るのをやめた。

 そして、自らフードを上げる。

 醜い顔が、露になった……。

「おいマルコ! お前は――」

「いいんだよ、ギブソン……これで許してもらえるならな」

 マルコの声は、ひどく虚ろなものだった。彼は真っ直ぐタイガーを見つめる。

「オレの顔が見たかったのか? これで満足か?」


 そしてタイガーは、マルコの醜い顔をじっと見つめる。眉一つ動かさずに、真っ直ぐ見つめている……しかし、不意にその表情が崩れた。喜び、そして哀しみ……その二つが入り混じった複雑な感情が、顔中に拡がっていく。


「マルコ……お前はよく働いてくれているそうだな。お前のお陰で、私もいろいろと助かっている。お前に直接礼を言いたくて、わざわざ来てもらったのだ……ありがとう」


 そのタイガーの言葉と態度を見て、ギブソンは呆気に取られていた……タイガーと言えば、無法都市エメラルド・シティで最大のギャング組織のリーダーとして生き抜いてきた女傑である。実質的なリーダーは、ジュドーだという話も聞くが……それでも、虎の会のトップである事実に変わりはないはずだ。

 そのタイガーが、マルコを前にして奇妙な表情を浮かべているのだ……。


 おいおい、何なんだよこれは……。


「マルコ……お前は普段、何をしているのだ?」

「うん、本を読んだりアメデオと遊んだりしてる」

「アメデオ? 何なのだ、それは?」

 訝しげな表情で尋ねるタイガー……すると、マルコは笑みを浮かべる。マルコの態度もおかしい、とギブソンは思った。どちらかというと人見知りなはずのマルコが、ぎこちない口調ながらも親しげに話しているのだ。

 会って数分しか経っていない女を相手に……。

「アメデオは……犬。オレの友だち。白くて、凄く可愛い」

「犬か……マルコは犬が好きなのか?」

「うん好き。ロバーツも可愛いよ……孤児院にいる犬だ。アメデオとロバーツを遊ばせると、二匹とも凄く楽しそうだ」

 マルコはたどたどしくも、一生懸命に話している。その話を、優しい表情で微笑みながら聴いているタイガー……その光景は、ギブソンにとって見覚えのあるものだった。

 ギブソンの記憶の中にある風景……亡くなった妻と子供が、あんな風に話していたのだ……ダニーがたどたどしい口調で、その日にあった出来事を話す。一方のシェリーは、笑みを浮かべて聴いている……というものだ。

 ふと、ギース・ムーンの言葉が甦る。

(マルコの母親だったミシェルという女はつい最近、死体で発見されたんだよ。調べるのに苦労したぜ。しかも、かなり酷い有り様だったらしい。頭蓋骨は変形、両手両足はへし折られてたらしい。なぶり殺しにされたみたいだなあ……)


(殺されたミシェルって女は……十二年くらい前に、どっかの女からマルコを預かったらしい。しかし、この女が酷い奴でな……近所の住民の話では、殴る蹴るは当たり前だったらしいぜ。家の中からは、毎日のように悲鳴や泣き叫ぶ声が聞こえてきてたって話だ)


 ひょっとしたら、マルコの実の母親はタイガーなのかもしれない……。

 タイガーなら、マルコの義理の母親をむごたらしい手口で殺したとしても不思議ではない……。


 ギブソンの頭に、そんな突拍子もない考えが浮かんだが、すぐにその考えを打ち消す。いくら何でも、有り得ない話だ……などと思いながら、ふとジュドーの方に視線を移してみる。すると、どこか微妙な表情で二人を見ていた。

 だがジュドーは、突然わざとらしい咳払いをする。そして口を開いた。

「えー、タイガーさん……そろそろ時間ですよ。ギブソンやマルコの方も、いろいろと都合があるでしょうし……」

 ジュドーの言葉を聞き、タイガーの顔にも複雑な表情が浮かぶ……だが、それはほんの一瞬だった。

「そうだな。マルコ……よかったら、また来てくれないか?」

「うん、わかった。また来る」

 頷くマルコ。ギブソンがそのやり取りを見ていると、背後からいきなり肩を掴まれる。凄まじい握力だ……同時に、分厚い封筒を握らせられた。

 そして、ジュドーの声が聞こえてきた。低く、押し殺したような声が……。

「いいか……余計なことは口にするな。お前が何をどう考えようと、それはお前の自由だ。しかしな、下らん憶測や妄想をペラペラとさえずると……この街で長生きはできねえぜ。忘れるな」

 ジュドーの目からは、はっきりとした殺意が感じられた。




 帰り道、ギブソンとマルコは並んで歩く。マルコは妙に嬉しそうな雰囲気だ。一方、ギブソンは真逆の気分だったが……それでも話しかける。

「マルコ……あのタイガーって女と、仲良くなったみたいだな」

「うん。いい人だったけど……とっても不思議な人だと思った」

「不思議な人? どういうことだ?」

 ギブソンが尋ねると、マルコは立ち止まった。そして、今来た道を振り返る。

「あの人……今日、初めて会ったはずなんだ。なのに……どこかで見たような気がする……凄く懐かしい気がした……」

 そう言いながら、マルコはじっと遠くを見つめる……タイガーと話した食堂の方角を。

 先ほどの、ジュドーの言葉……そして、今のマルコの態度。ギブソンの疑惑はさらに強まる。

 タイガーは……マルコの母親なのではないか?


「ギブソン……オレはもう一度、あの人に会いたい。お願いしたいことがあるんだ」

 不意に、マルコが口を開いた。ギブソンは顔をしかめてマルコを見る。

「お願い……いったい何をだよ?」

「他の仕事をさせてくれるように、お願いしてみる……人殺しは、もう嫌だ」

「何だと……」

 ギブソンは口ごもった。マルコは何もわかっていない。組織というものは、一人の人間の意思や考えなど簡単に潰してしまうのだ。

 しかも、マルコは雑魚ではない。今や、エメラルド・シティの有名人なのだ。生ける伝説であるガロードと一対一で闘い、敗れはしたもののガロードに強さを認められた……という噂が広まっている。恐らくは、ジュドーの情報操作だろう。もちろん、その噂は間違いではないのだが。

 それはともかく、今の虎の会にとって……マルコは貴重な手駒のはずだ。しかし、殺しは嫌だなどというワガママを言ったら、果たしてどうなるか……。


 そんなギブソンの思いをよそに、マルコは言葉を続ける。

「ギブソン……オレは力が強い。走るのも速い。何でも出来るんだ。他の仕事だって、出来るはずだ。オレは、人の役に立つ仕事がしたい」

「人の役に立つ仕事?」

「ああ……今までオレは、人を大勢殺してきた。だから、今度は人を助けたいんだよ……困ってる人の役に立つ仕事がしたい」

 マルコの声からは、切実な思いが感じられた……ギブソンは何か言葉を返そうとしたが、とっさに言葉が出なかった。

 そして、ジョニーの言葉を思い出す。


(誰かに必要とされるってのは、気分のいいもんだぜ。自分の力を、破壊ではなく建設的なことに使えるんだ……)


 マルコは成長した。ギブソンの言うことに盲目的に従っていた頃とは違う。その成長は、喜ぶべきことなのだ。

 しかも、今のマルコには仲間がいる。醜い顔のマルコを、暖かく迎えてくれる者たちがいるのだ。それも一人や二人ではない。色んな人間と、マルコは触れあってきた。マルコを助けてくれる者も、大勢いるのだ。

 それに自分としても、マルコの意思は出来るだけ尊重してやりたい。たとえ、どのような結果が待っていたとしても、本人の選んだ道であるならば……。


「わかった……いずれ話し合ってみよう」







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