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エメラルド・シティ 闇にきらめく宝石の街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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野獣の苦悩 2

 ステファンが立ち去った後も、ギブソンはその場に残り、しばらく考え込んでいた。あのステファンの様子は、どう見ても尋常ではない。奴は奴なりに、以前の借りを返したつもりなのだろう。

 それにしても、いったい何が起きるというのだろうか。エメラルド・シティの勢力図が大きく変わるとは言っていたが、それほどの事態とは……ギブソンには想像もつかない。

 はっきり言ってしまえば、ステファンという男は雑魚である。虎の会では、そこそこ大きな顔をしてはいるが……それら全ては、レイモンドたちの後ろ楯があってのことだ。そんなステファンの語る情報では……疑わしい、と言わざるを得ない。


 いや、そもそもの情報源は何なのだろう?

 やはり、レイモンドなのか……。


 ギブソンは首を捻る。レイモンドは警官と殺し屋の二足のわらじを穿いている男であり、殺し屋チームのリーダー格だ。奴なら、何か知っていても不思議ではない。

 だが、奴はそこまでの大物なのだろうか……。

 考えに没頭していたギブソン……だが彼は気を取り直し、掘っ立て小屋を出て行った。今はまだ、判断材料が少なすぎる……いずれにしても、用心しておくにこしたことはないだろう。


 ギブソンが家に戻ると、キャンキャン鳴きながら出迎える白い塊……アメデオだ。続いて、マルコもやって来た。

「ギブソン、お帰り」

 そう言いながら、出て来たマルコ。顔の傷はすっかり癒えている。体の方も問題ない。マルコは本当にタフだ。エメラルド・シティ最強の男であるガロードと殴り合ったのだ。にもかかわらず、その傷がもう完治している。

 そして、治ったのは体の傷だけではない。過去に出来た心の傷……それも癒えてきたように思える。マルコの表情や態度は、心なしか明るくなってきたように思う。


「ギブソン、明日も出かけるのか?」

 食事が終わった後、マルコが聞いてきた。ギブソンは頷く。

「ああ、明日も出かける。大人しくしてるんだぞ……散歩くらいなら構わないがな」

 ギブソンがそう言うと、マルコはためらいがちに口を開いた。

「あ、あの……ギブソン……実は……」

「何だマルコ。何かあるなら言ってみろ」

「あ、あの……う、うちにケイを呼んでも……いいかな……」

「……」

 ギブソンは黙ったまま、マルコを見つめた。そして苦笑する。

「しょうがねえなあ……いいよ、好きにしろ」

 その言葉を聞き、マルコは嬉しそうに頷いた。

「うん、わかった! ありがとう!」




 翌日、ギブソンは競りに参加するために一人で出かけた。

 会場に入ると、みんなの視線が一斉にこちらに向いた……全員、何やら意味ありげな表情だ。

 ギブソンは首を傾げた。一体、どうしたというのだろう……だが次の瞬間、彼らの視線の意味に気づく。ひょっとしたら、彼らはマルコとガロードが闘ったことを知っているのではないか。そして、マルコが敗れたことにも……。

 ギブソンは改めて、エメラルド・シティの情報網に感心した。あの場にいたのは数人……だが、今では街のかなりの数の人間や人外が、マルコとガロードの闘いと、その結果を知っているらしい。

 ギブソンは好奇の視線を無視した。そして、並べられているパイプ椅子の一つに座る。

 ふと、ステファンのことを思い出した。さりげなく見回してみると、やはり今日もいる。ふてぶてしい表情で、パイプ椅子に座っていた。しかし、こちらを見ようともしない。真っ直ぐ前を見ながら、たまに横にいる者たちと言葉を交わしている。ギブソンの視線には気づいているのかもしれないが、完全に無視していた。

 それなら、構わない方がいいだろう。ギブソンは顔を前に向ける。そして、競りが始まるのをのんびり待つことにした。

 すると、タイミングよくゴステロが現れる。競りを仕切る男だ。

「あ〜皆さん、本日もお集まりいただき、ありがとうございます〜。え〜、軽く自己紹介など……今回の競売の司会進行を務めさせていただきます、ゴステロです〜。皆さま、本日もよろしくお願いします〜」

 そう言うと、深々と頭を下げる。ふざけた態度ではあるが……ゴステロは虎の会ではかなりの大物であり、変わった切れ者として有名な男だ。ジュドーからの信頼も厚い。彼の態度に腹を立てられる者など、ここには居ないのだ。

「では、本日も競売を開始します……」

 ゴステロの言葉と同時に、競売がスタートした。


「えーと、では次の仕事へと参ります……異能力者のヴィンセント、および吸血鬼のカイト……その二人です。二百万からですが……ございませんか? ございませんか?」

 ゴステロはそう言って、皆を見回す。しかし、誰も返事をしようとしない。ゴステロはもう一度、声を発する。

「ございませんか? ございませんか?」

「はーい、誰もいないならオレやりますよ……二百万で」

 言いながら、手を挙げるギブソン。そのとたんに、周囲の視線がギブソンに集中した。このバカ、何を考えてやがる……とでも言いたげな表情だ。

 だが、ギブソンはそれを無視し手を挙げ続ける。ヴィンセントとカイトが何者なのかは知らない。しかし……殺さねばならないなら、さっさと殺す。それに何より、自分たちには金が必要だ。ステファンの言葉も気になる。どんな仕事だろうが引き受ける。

「他にございませんか?」

 壇上から皆を見回しながら呼びかけるゴステロ……しかし、誰も声を発しようとしない。ただただ、険しい視線をギブソンに向けている。だが、ギブソンはその視線を受け流す。そんなものに構ってなどいられない。

「ございませんね。では……ヴィンセントとカイトの命、二百万でギブソンさんが落札しました」


 その後、ギブソンはジュドーの部屋へと通された。

「ギブソン、これがその二人の写真だ」

 そう言いながら、ジュドーは写真を取り出し、ギブソンに手渡す。

 ギブソンは写真をじっくり見た。一枚には、凶悪な面構えの中年男。そしてもう一枚には、どこか冷めた目の少年が写っている。

「おっさんの方が、ヴィンセント・クラインだ。そしてガキの方がカイトだよ。ヴィンセントの奴だが、最近ちょっと図に乗ってきていてな……ことある事に、ウチの商売の邪魔をするようになってきやがった。そしてこの間、ついに観光客に手を出したらしい。もう、放っておけねえ……という訳で、お前らに始末を頼みたい」

 ジュドーはそう言った後、アイザックに視線を向ける。アイザックは頷き、喋り始めた。

「ヴィンセントは、二年ほど前にエメラルド・シティにやって来た。こいつは魔法使いみたいな奴さ。得体の知れない力を持ってる。そしてカイトってのは、ついこの前まで人間だったが……何をトチ狂ったのか、自分から吸血鬼になったって噂だ。この二人は最近、仲良くつるんでる。で、あちこちで悪さをしているらしい。今はガン地区の方にいる。二週間以内に殺せ。これは前金だ」

 アイザックはそう言うと、封筒をギブソンに手渡した。

「ありがとうございます。では早速、取りかかりますので」

 ギブソンは頭を下げ、そして出て行こうとした。しかし――

「ちょっと待てよ。なあ、噂に聞いたんだが……マルコがガロードに喧嘩を売り、ぶちのめされたってのは本当か?」

 ジュドーの声……ギブソンは立ち止まった。そして、頭を掻きながら愛想笑いを浮かべる。

「え、ええ……まあ……さすが、生ける伝説は違いますね……」

 ヘラヘラ笑いながら、答えるギブソン。やはり、あの闘いのことは街中の人間が知っているようだ。いや、人間だけでなく人外も知っているのだろう。

「そうか……ガロードは無傷だったのか?」

「いえ、無傷って言えば無傷ですが……マルコの話だと、何度かぶっ倒したらしいんです。しかし、すぐに起き上がって来たらしいですね」

 ギブソンがそう言うと、ジュドーの表情が僅かに変化した。

 そして、口を開く。

「なあ、もしもの話だが……お前とマルコにガロードを仕留めろ、という依頼が来たら……殺れるか?」

「え!?」

 驚くギブソン。ジュドーの顔をじっと見つめるが、ジュドーは掴み所のない表情でこちらを見返した。

「どうなんだ、ギブソン……ガロードからダウンを奪える、それだけでも大したもんだぜ。ならば、二人がかりなら……何とか殺れるんじゃないのか?」

「いやあ……無理でしょうねえ、あははは……」

 ギブソンは仕方なく、笑ってごまかした。正直、そんな依頼は受けたくない。ガロードは、マルコを殺すことが出来たのに殺さなかった。さらに、僅かな間とはいえガロードと話し、彼の人となりに触れた。

 本音を言えば……ガロードとは、なるべく戦いたくない。

「そうか……だが、一つ覚えておけ。以前にも言ったはずだ。オレの仕事は、エメラルド・シティのバランスを保つことだ、と。ガロードという男は、この街のバランスを崩しかねないんだよ……いつか、奴と殺り合うことになるかもしれない。ガロードだけじゃねえ。孤児院の連中もまた、オレたちと違い、何の責任もなく好き勝手に生きてるのさ。モニカはギャングなんざお構い無し……困った連中だよ。いつかオレたちは、戦争になるかもしれん。それだけは頭に叩きこんでおけ」



 競りの会場を出た後、ギブソンは重い足を引きずりながら歩いた。正直、今のどっち付かずの立場がつくづく嫌になってくる。実に面倒な話だ。このままだと、下手をすれば対立している双方を敵に回すことにもなりかねないのだ。

 いずれは、どちらかの勢力に付かなくてはならないのかもしれない……などと思いながら、ギブソンは家に帰った。


「マルコ、帰ったぞ」

 そう言いながら、ギブソンは扉を開ける。すると、聞こえてきたのは楽しそうな笑い声……同時に、わんわん吠えながら走って来た毛の塊が二つ。アメデオとロバーツだ。

「おうアメデオ、出迎えご苦労……そして、よく来たなロバーツ」

 そう言って、二匹の頭を撫でるギブソン。アメデオとロバーツは嬉しそうに、ギブソンの顔を見上げる。だが、マルコら人間たちは出て来ない。薄情な奴らだ……とギブソンは苦笑しながら、奥へと進んでいく。

 奥の部屋にはマルコとケイ、そしてジョニーが座っていた。マルコとケイは楽しそうに本を読んでいるが、ジョニーはつまらなさそうな表情である。だがギブソンが入っていくと、全員が顔を上げた。

「ギブソン、お帰り」

 マルコが言うと、横にいるケイが微笑みながら、ぺこりと頭を下げる。だが、ジョニーだけは憮然とした表情のまま、軽く手を挙げただけだ。

「ケイ、来てたのか。ゆっくりしていけ」

 ギブソンは声をかけ、そして座り込む。すると、ジョニーが凶悪そうな顔を上げてギブソンを睨む。

「おい、何でオレには挨拶しねえんだ? 大体てめえはな、客であるオレたちをもてなそうって気はないのか?」

「ケイは客だが、お前は客じゃねえ。大体この前、オレはお前に腕をへし折られそうになったんだぞ……そんな奴、歓迎できる訳ねえだろうが」

 吐き捨てるように言った後、ギブソンはマルコの方を見た。マルコは楽しそうな様子で、ケイと共に本を読んでいる……いや、正確には読み聞かせているのだろうか。端から見れば、実に平和な光景だ。

「で、お前は今まで何処をほっつき歩いてたんだ?」

 不意に、ジョニーが尋ねる。ギブソンは、マルコの方を向いたまま答えた。

「まあ、色々だよ……オレはな、お前たちと違って忙しい」

「ケッ、どうせギャング共のご機嫌取りだろうが」

 ジョニーの軽口を聞き流し、ギブソンはマルコとケイの方を見ていた。二人はとても楽しそうだ。マルコが本を読み聞かせ、ケイはじっと聞いている。

 ギブソンは、ジョニーに視線を移した。

「おいジョニー、ちょっと買い物に行く……お前も手伝え」

 そう言いながら、ギブソンは立ち上がった。同時にジョニーの腕を掴み強引に立たせる。

「なんだよ、オレは客だぞ……ちっとは客らしく扱えよ」

 ぶつくさ言いながらも、ジョニーは立ち上がった。ギブソンのただならぬ表情から、その意図を察したらしい。

「じゃあマルコ、ケイ……オレたちは買い物に行ってくる。おとなしくしてるんだぞ」

 そう言うと、ギブソンとジョニーは玄関に行った。すると、アメデオとロバーツが玄関まで付いて来る。あたかも、二人を見送ろうとしているかのように……ギブソンは微笑み、二匹の頭を撫でた。

「家のことは、お前らに任せたからな。しっかりと見張っててくれよ」





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