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エメラルド・シティ 闇にきらめく宝石の街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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野獣の苦悩 1

 『野獣の苦悩』の主な登場人物です。


◎マルコ

 獣のような恐ろしい顔、そして凄まじい身体能力を持つ男です。顔からは想像もできませんが、まだ十代の少年です。


◎アメデオ

 マルコに飼われている子犬です。


◎ジュドー・エイトモート エメラルド・シティでもっとも規模の大きなギャング組織『虎の会』のナンバー2であり、有能なキレ者として知られています。


◎ギース・ムーン

 エメラルド・シティで墓守りをしている男ですが……一部では、この街のパワーバランスを一変させてしまう男であるとも言われています。


◎ケイ

 孤児院で生活している若い盲目の娘です。


◎ジョニー(ジョン)・バイパー・プレストン

 孤児院の用心棒をしている、厳つい顔の男です。


◎ロバーツ

 孤児院で飼われているブルドッグです。


◎ガロード

 この街で最強の男……と言われている吸血鬼です。


◎ギブソン

 マルコの世話をしている若い男です。マルコのマネージャーのようなことをしています。






 人間誰しも、悩むことはある。悩みのない人間なんか居やしない。もし居るとしたら……バカかヤク中か、だ。しかし思い悩んでいられるうちは、ある意味まだ幸せなんだよ。本当にヤバい状態では、悩んでいる暇なんかない。とにかく動かなきゃならないからな。戦場で「何故オレは銃を握り、戦っているのか」なんて悩んでいる奴がいたとしたら……そいつは真っ先に頭を吹っ飛ばされるだろうよ。

 エメラルド・シティでも、そいつは同じだ。この街で「オレは何故、人を殺すのだ?」なんて悩んでいたら……そんな奴は真っ先に殺される。持ち物は浮浪者やガキ共に奪われ、死体は人外に食われるだろうよ。

 しかし、それでも悩んじまうのが人間なんだよな……特に、若い奴はついつい悩んじまう。若さゆえの悲しい性、ってヤツかもしれない。


 ・・・


 ギブソンは今、巨大な塀の前に立っている。来る者を拒むかのごとき造りと、辺りに漂う冷たい空気……いつ来ても、この場所は好きになれない。

 だが、そうも言っていられない。ここの住人に言わなくてはならないことがあるのだ。ギブソンは扉を乱暴に叩いた。

 しばらくして、扉が開いた。そして、不機嫌そうな顔がにゅっと突き出される……。

 ギース・ムーンだ。


「なんだよギブソン……何しに来たんだ? まさか、お前がマルコの仇を討ちに来たわけじゃあねえだろうな?」

 からかうような口調のギース……ギブソンは苛立ちを感じ、目を逸らした。

「るせえよ……だいたい、マルコをぶちのめすような化け物相手に、オレが一人で勝てるわけないだろうが……仇を取る気なら、爆撃機にでも乗ってくるよ」

「それもそうだ。ま、爆撃されてもガロだけは生きてるだろうがな」

 そう言って、おかしそうに笑うギース……ギブソンはさらに不快になった。

「オレは、あんたなんかに用はないんだ。ガロードに会いに来たんだよ。あいつに礼を言いたくてな……」

「……そうか。じゃあ、入れ」

 ギースは扉を開け、ギブソンを通した。


 ギースに連れられ、ギブソンは刑務所跡地を歩いて行く。中の設備は古くなってはいる。しかし手入れさえすれば、まだまだ使えそうだ。もっとも、このエメラルド・シティ自体が巨大な刑務所のようなものなのだが……そんなことを考えながら、ギブソンは中を進んで行った。

 やがて、二人は建物の中に入った。階段を降り、地下室に行く。そして、頑丈そうな鉄の扉を開けた。

 そこは殺風景な部屋だった。どうやら、かつては看守たちの就寝部屋として使われていたらしい。粗末なベッドや机、椅子などが置かれている。

 ベッドには、紫の髪の少女が寝ていた。その傍らで、椅子に座り少女を見守っている者がいた。

 ガロードだ。


「あんた、ギブソンじゃないか……マルコは元気か? 何しに来たんだ?」

 ガロードの態度は、平凡な若者のそれだった。体は大柄で筋肉質だ。アイザックよりはやや小さく、ジョニーと同じくらいの体格で目付きは鋭い。しかし、その口調は穏やかだ。

 ギブソンは違和感を覚えた……考えてみれば、ガロードはエメラルド・シティ最強と言われている男なのである。ギース・ムーンがエメラルド・シティで大きな顔をしていられるのも、ガロードの力があればこそだろう。

 だが、ギブソンの目に映るものは……ごく普通の青年だったのだ。

 基本的に天才と呼ばれるような、才能に恵まれている人種は……どこか歪な雰囲気を持っているものだ。良くも悪くも、人格的にクセのある者がほとんどである。しかし、ガロードは……見た目はともかく、中身は普通の青年に見えた。少なくとも、強大な力を手に入れた者に有りがちな傲慢さが感じられない。


「ガロード……この間はありがとう」

「え?」

「あんたが……マルコを力の呪縛から解き放ってくれた。あんたでなきゃ、マルコに勝てなかったろうさ。マルコを力でねじ伏せられたのは、あんたしか居なかった。おかげで、マルコは過去の思い出から吹っ切れたみたいだよ」

「そうか……それは良かったな。あいつに言っといてくれ、挑戦はいつでも受けるってな。ただし、今度は殺し合いじゃない……試し合いだ」

「試し合い?」

 ギブソンが怪訝な顔で尋ねると、ガロードは笑みを浮かべながら答える。

「そう、試し合いだ。自分の力を試す……これは殺し合いじゃないぜ。ただ純粋に、持てる力と技をぶつけ合う。そこにあるのは、憎しみじゃない。己の力を相手に思いっきりぶつける喜びだよ……オレも、マルコとやり合うまで忘れてた感覚さ。楽しかったぜ」

「……」

 ギブソンは改めて、ガロードという男の存在の大きさに気づかされた。マルコと真っ正面からぶつかりあい、そして叩きのめす。マルコの持てる力を、フルに発揮させた上で……自分には、絶対に出来なかったことだ。

 しかし、マルコにはその経験が必要だったのだ……敗北の経験が。それも、ただの敗北では駄目だった。全力を出し尽くして敗れた上で、自らを取り巻く仲間の存在に気づかせる。

 それが出来る男は……結局、ガロードくらいしか居なかったのだ。


「ガロード……もう一度言う。あんたのおかげで、マルコは自分の過去を吹っ切れた。いや、まだ完全にではないかもしれないが……まあ、とにかく、ありがとう」

 頭を下げるギブソン。すると、ガロードは微笑みながら立ち上がり、彼の肩を叩く。

「いや、オレも楽しかったよ。久しぶりに本気で闘えたしな。マルコに、いつでも遊びに来い……って言っといてくれよ。オレも一応は、マルコの友だちのつもりだからな」

 ガロードの顔は、どこか少年のようだった。あまりにも澄んだ瞳……これが、僅か二十分足らずの間に百人以上のギャングを死体に変えた吸血鬼なのだろうか……ギブソンは思わずまごついていた。

「あ、ああ……わかった……伝えとく」




 帰り道、ギブソンはゆっくり歩いた。時間はまだ早く、観光客らがうろついている。

 ギブソンは歩きながら、ガロードという男について考えた。ガロードからは、野心というものが全く感じられないのだ……強大な力を持っているにもかかわらず、世間から離れてひっそり暮らすことを望んでいるらしい。それが何故なのかはわからないが……。

 わからないと言えば、あの眠っていた少女……あれが、噂に聞くルルシーという女吸血鬼だろうか。ガロードを吸血鬼に変えた女。ガロードとルルシーは、エメラルド・シティの生ける伝説であるらしい。吸血鬼を生きている、と表現していいのかは疑問だが。

 いずれにせよ、マルコにとっては必要な通過儀礼ではあったし、ガロードには深く感謝している。しかし、これでまた面倒なことになったのも確かだ……ギース・ムーンの部下であるガロードとのやり取りは、ジュドーとその子分たちに知られれば、確実にろくなことにならないだろう。いや、連中のことだ……もう既に、知っているのかもしれない。

 いや、それどころか……もう既にかなりの数の人間が知っているのかもしれない。最近売り出し中のマルコが、生ける伝説のガロードに挑戦し敗れた……エメラルド・シティの住人としては、聞き逃せないニュースだろう。

 そして大抵の場合、噂話には尾ひれが付くものだ。下手をすれば、マルコとギブソンは調子に乗ってハネ回り、ギースの怒りを買ってガロードにシメられた。そしてマルコとギブソンはギースの手下に……などという噂が拡散されたとしても不思議ではないのだ。


 さて、このことを問いただされたら、どう答えたものかね……。

 まあ、適当に答えるしかねえよな。

 単なるケンカです、とか何とか……。


 そんなことを考えながら歩くギブソン。だが、背後から妙な気配を感じた。こちらを見つめる視線の存在……ギブソンは立ち止まった。さりげなく辺りを見回してみる。

 すると黒髪の少年が、ギブソンの視線を避けるかのようにこそこそと物陰に隠れた。間違いない……ここ最近、自分を付け回している少年だ。

 ギブソンは、少年が隠れた辺りをじっと見つめた。あの少年は、何が目的なのだろう。自分を殺して名を上げようと目論んでいるのか。

 それとも……まさかとは思うが、自分に弟子入りでもしようというのか。

 いずれにしても、放っておいても大した害は無いだろう。しかし、あのしつこさは妙だ。しかも、毎日ギブソンにへばりついているわけではないのだ。忘れた頃に後を付け回してくる……。

 だが、辺りを見回すギブソンの目に、別の厄介事が飛び込んで来た。

 観光客でにぎわう大通り……ステファンが早足で、こちらをじっと睨みながら歩いて来ているのだ。ギブソンは嘆息した。奴は前から、自分のことを嫌っている様子だったが……今度はどんな因縁を付けてくるのだろう。

 ギブソンは少年のことを忘れ、ステファンの方を向く。ひょっとしたら、仕事の話かもしれない。

 だが、ステファンは不意に目線を逸らせた。そのまま、こちらに真っ直ぐ歩いて来る……。

 ギブソンは首を傾げた。一体、何を考えているのだろう。ステファンは真っ直ぐ歩き、立ち止まっているギブソンの横を通り抜けていく。

 しかし――


「黙って付いて来い」


 低い声で囁き、ステファンは歩き去っていく。ギブソンは立ち止まったまま、もう一度あたりを見回す。そして、さりげなくステファンの後を付いて行った。ある程度の距離を空け、早すぎず遅すぎず……。

 ステファンは前をすたすた歩き、やがて裏路地へと入って行く。ギブソンも後を追い、裏路地へと入って行った。辺りの風景は一変している。ボロボロの掘っ立て小屋、テント、そして崩れかけたビル……観光客は立ち入り禁止の場所だ。

 すると、ステファンは前を向いたまま、廃材を積み上げて造ったような掘っ立て小屋に入っていく。どうやら、誰にも聞かれたくない話であるらしい。ギブソンは辺りを見回し、後を追って小屋に入って行った。


 小屋の中に入ると同時に、ギブソンはいきなり腕を掴まれた。そして、耳元にステファンが顔を寄せて来る。

「いいか……一度しか言わねえから、よく聞け。あと一月もしたら、このエメラルド・シティの勢力図は大きく変わる。でかい戦争が起きるかもしれねえ……巻き込まれたくなかったら、マルコを連れてZ地区にでも身を隠せ。それか、いっそエメラルド・シティを出るんだ……わかったな?」

「はあ? 唐突に訳わかんねえこと言うなよ……これから、何が起きるっていうんだよ?」

 ギブソンが聞き返すと、ステファンは血相を変えて睨みつけた。

「声がでかいんだよ……いいか、オレにはこれ以上は何も言えねえ。そもそも、どうなるのかもまだよく知っちゃいねえんだ。とにかく、今のうちに金を貯めとけ。そして、出来るだけ早くここを離れろ。さもないと、お前らも巻き込まれるかもしれねえぞ。それと、明日は競りだ。何でもいいから仕事を競り落とし、金を作っとけ。あと……これはここだけの話だぞ。もし他でベラベラ喋りやがったら、必ず殺してやるからな……」

「おい、ちょっと待てよ。だから何に巻き込まれるんだって――」

 だが、ステファンはその言葉を無視したまま……大股で掘っ立て小屋から出て行った。






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