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エメラルド・シティ 闇にきらめく宝石の街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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野獣の友 2

「やあギブソン、それにマルコ……とりあえず、おはよう。探してたんだよ」


 すっとぼけた声、そして「とりあえず」という妙な口癖……顔を見なくてもわかる。先日に会った、バーター・ファミリーのサンズだ。ギブソンは振り向いたが……次の瞬間、呆れた表情で口を開く。


「なあサンズ……お前、もう少し何とかならないのかよ? 曲がりなりにも、お前はバーター・ファミリーの大物なんだろうが」

「え? 何が?」

 聞き返したサンズの髪は、寝ぐせだらけでボサボサだった。シャツには返り血ともケチャップとも判別しがたい、正体不明の赤い染みがべっとり付いている。ズボンはところどころ穴が空いていて、さらに足には左右で違う靴を履いているのだ……一見すると、ただの浮浪者にしか見えない。


「何が、って……お前なあ、少しは考えろよ……」

 ギブソンは頭を抱え、苦笑する。先ほどまでの荒んだ気持ちが和らいでいくのを感じていた。一方のサンズは、完全に脱力しきっていた。のほほんとした表情で、ギブソンとマルコを交互に見ている。何を考えているのか……本当につかみどころのない男である。


「まあ、いいや……ところで、オレたちに何か用なのかよ?」

 ギブソンが尋ねると、サンズは肩をすくめた。

「実はな……申し訳ないんだが、お前らに仕事を頼みたいんだ。とりあえず座ろうか」

 そう言って、サンズは地面に腰を下ろした。ギブソンは仕方なく、彼に習って腰を下ろす。マルコも、その場にしゃがみこんだ。


「いやあ、実はだな……あれ? いつの話だったっけな? まあ、細かいことはいいや。ついこの間、旅行者が襲われたんだよ。いや違うな、襲われたっつーか殺されちまったんだよ、これが。それも、一度に六人だよ六人。とりあえず、参っちゃったねえ」

 サンズは両手をひらひらさせながら、一人で喋っている。だが、恐ろしく話下手な男なのだ……しかも、放っておくと話があちこちに飛ぶ。

「いやな、うちのオフクロの兄の嫁の弟も言ってたんだよ……車は凶器だって。そら、凶器だわな。まあ今回の場合も、とりあえずはそんな感じなんだよ……車がビュンビュン走ってる高速道路の真ん中でバカ踊りしてたら、とりあえず轢き殺されても文句言えねえワケじゃん。そう思わねえか? オレ、本気でそう思うぜ。それと一緒でさあ、エメラルド・シティの裏通りでバカ踊りしてたらよう、とりあえず殺されても文句言えねえだろうが……特に、Z地区なんて所にまで入り込んじまったらなあ。こりゃあ、明らかに旅行者が悪いぜ。お前らも、そう思うだろうが」

 そう言うと、肩をすくめて見せるサンズ。だが、話が支離滅裂だ。ギブソンは困惑した表情を浮かべて彼を見た。

「なあサンズ、オレには話がまるっきりわからんのだが……オレたちは何をすればいいんだ?」

「あ、わからねえか? とりあえずごめん。話を続けるとだ、ファンキーな旅行者がなあ、お決まりの観光コースを外れちまったんだよ……そしてZ地区に足を踏み入れた。んでもって、よしゃいいのにさ……よりによって、人外にちょっかいだしたらしいんだよね……とりあえず、その旅行者ってのは確実にオレよりバカだな。お前もそう思うだろう?」

「あ、ああ……」

「まあ、はっきり言って旅行者が百パーセント悪いワケよ。だから放っておこうとなったはずだ……今までならな。ところがよう、今回は違うんだな。ウチのボスと来たら……何を思ったのか、その人外を始末しろなんて言いやがっちゃったんだよね。とりあえず参っちゃったよ。いや中間管理職は辛いね……上と下に挟まれてさ」

 サンズは、奇妙で大げさな身振り手振りを交えながら話す。その説明は恐ろしく要領を得ないものだが……それでもギブソンには、事情が飲み込めてきた。

「つまり、オレたちにその人外を始末しろ、ってワケか」

「おお、その通りだよ……察しがいいねえ。そういうこと」

 サンズは笑みを浮かべながら、両手の人差し指でギブソンを指し、次いでマルコを指す。緊張感の欠片もない、愉快な仕草だ……しかし、サンズの言っていることは愉快な笑い話ではない。


「あ、嫌なら断ってくれてもいいんだぜ。そしたら、とりあえずは他の連中に頼むから……オレも正直、やりたくねえんだよ。だってさ、アホな旅行者がよりによってZ地区に入り込んだ挙げ句、人外にちょっかい出して殺された……こんなん自業自得だぜ。そんなの、ゴリラの群れの真ん中でバナナ食うのと同じくらいバカな行動だよ。あ、ゴリラで思い出したんだけど、オレ昔ワオキツネザル飼ってたんだけどさ……すげえ可愛いかったよ。愛くるしい顔してたぜ。だけどさ、二年前に死んじまったんだよ。そん時は悲しかったなあ……とりあえずは泣いたね。大号泣だね。二時間くらい泣いたかな――」

「わ、わかった……ワオキツネザルはいいから、話を進めてくれ」

 慌てて口を挟むギブソン……このままでは、飼っていたワオキツネザルの思い出話を、たっぷり一時間かけて語るかもしれない。

「あ、悪い悪い……まあ、そんな感じなんだよ。しかしな、嫌なら断ってくれてもいいんだぜ。そん時は他の連中に頼むから……誰もいなきゃ、とりあえずオレ一人でやるけど」

「一人?」

 ギブソンが驚いて聞き返すと、サンズは嫌そうな顔で頷いた。

「ああ、面倒くさいけど一人でやるよ。ただ……正直キツいな。こっちが返り討ちに遭う可能性大だよ。人外は半端じゃねえ強さだからな……」

 そう言うと、サンズはうんざりしたような表情になる。ギブソンは目の前の男の態度に、疑問と不安を感じた。あまりにも緊張感が無さすぎるのだ。まるで、近所に大根を買いに行くのが面倒だ、とでも言わんばかりの……。

「お、おい……大丈夫なのかよ――」

「なあギブソン、ジンガイってのは、そんなに強いのか?」

 ギブソンの言葉の途中、いきなり口を挟むマルコ。ギブソンは驚き、思わず振り返った。マルコはフードを被り下を向いているため、その表情は窺えない。だが、妙だ。人の話に口を挟むようなことなど、これまでにはなかったのだが……マルコにとって、己の強さのみが心の拠り所なのである。さらには、その強さを他者に証明して見せることで……自尊心を満たそうとしているのかもしれない。


「ギブソン、教えてくれ……ジンガイって強いのか? オレより強いのか?」

 再度、同じ質問をするマルコ……ギブソンは答えに迷った。自分の知る限り、マルコは最強だ。しかし……この街には伝説と化している者もいる。マルコより強いかもしれない者が。


 この街の伝説となっている吸血鬼のガロードは、百人以上の武装したギャングたち――それもマシンガンやロケットランチャーなどで武装していた――をものの十分足らずで皆殺しにしたという話だ。確かに、吸血鬼には通常の武器は通用しない。それでも、体を重火器で跡形もなく吹っ飛ばせば……確実に戦闘不能状態になるはずなのだ。にもかかわらず、ガロードはギャングの攻撃をものともせずに暴れまくり、あっという間に死体の山を築き上げてしまったのだ……。

 ガロードは別格だとしても……ガロードに近いレベルの殺傷能力を持つ化け物が相手だとしたら? 


「ギブソン、オレは誰が相手でも負けない。どんな奴でも殺す……オレにやらせてくれ」

 マルコの声。ギブソンは頷き、そしてサンズの方に視線を移す。

「なあサンズ、ちょっと待ってくれ。オレたちは別に構わないが……その前に、筋だけは通さなきゃならないからな」




「という訳なんですよ、ジュドーさん。バーター・ファミリーの仕事なんですが……引き受けても構わないでしょうか?」

 ギブソンは愛想笑いを浮かべながら、ジュドーに尋ねる。一方のジュドーも、頭をポリポリ掻きながら苦笑していた。ただし、その横に控えているアイザックとカルメンは真逆の態度である。苦虫を噛み潰したような表情で、ギブソンを睨んでいた。


 ギブソンは今、虎の会の支配下にあるバー『ボディプレス』の二階に来ている。もっとも、今は開店前であるが……ここは売春宿も兼ねており、二階は女たちと客が会うための部屋が並んでいるのだ。

 その一室に、ギブソンはいる。そしてジュドーもいる。さらに、アイザックとカルメンも……部屋の中は落ち着いた雰囲気であり、こういった場所にありがちなケバケバしさがない。しかし、アイザックとカルメンの存在は、別の雰囲気を醸し出していた……。


「ギブソン、お前も妙なとこ義理堅いな。あるいは用心深いのか……」

 ジュドーは言葉を止め、ギブソンの顔をじっと見据える。ギブソンはヘラヘラ笑いながら、ペコペコ頭を下げる。だが、今にも殴りかかって来そうな表情のカルメンと目が合い、慌てて下を向き目を逸らす。ギース・ムーンと同じく、自分もこのコンビからは嫌われているらしい……。


「これまでは、旅行者が人外に襲われ殺されたとしても……自業自得だ、その一言で済ませていたんだよ、ギブソン。基本的に、人外は夜十時を過ぎない限り、街では人を襲わないんだ……昔、タイガーさんとゴメスが体を張って交渉し、人外どもと契約を結んだおかげでな。しかしだ、エメラルド・シティにおいて旅行客のうろつける場所は限られている。そこを外れたなら、何をされても文句は言えねえ。ましてや、Z地区に足を踏み入れるとは……オレたちから見れば、自殺と同じだよ」

「ですよね」

「そう、今までなら、死んだ愚かな奴と見なされていたはずだ。しかし、マスター&ブラスターは旅行者を襲った人外を処刑することにした。いったい何故なのか……お前にわかるか?」

「いやあ……オレにはわかりませんねえ……」

「まあ、いろいろ考えられるが……結局は、大陸のお偉方からの圧力だろうな。それに加えて、人外への警告の意味もある。マスター&ブラスターはゴメスのように甘くないぞ、下手な真似をしたら狩るぞ、っていうメッセージも込めているわけだよ」

「なるほど……それは気がつきませんでした」

 言いながら、ギブソンは感心した様子で何度も頷いた。もとよりバカのふりをするのには慣れている。バカのふりをしておけば、相手は必ず油断してくれるのだ。そして、喋る必要のないことまでべらべら喋ってくれる……もっとも、それもまた時と場合によりけりだが。


「オレは構わない。ギブソン、その仕事をお前が引き受けたいなら、オレは止めやしないよ」

 ジュドーの言葉を聞き、満面の笑みを浮かべて頭を下げるギブソン。

「ありがとうございます。では、引き受けさせていただきます」

 ギブソンは立ち上がり、深々と頭を下げる。そして下に降りて行った。


「待て……」

 一階のバーに着くと同時に、後ろから声をかける者……振り向かなくてもわかる。アイザックだ。ギブソンはため息をついた。

「何ですアイザックさん、オレは忙しいんですが」

「あんたさあ……こんな下らないことのために、ジュドーに時間を割かせるような真似はしないで欲しいんだよね」

 今度はカルメンだ。カルメンはギブソンの前に回り込み、冷酷な目で彼を見つめた。

「あんたが何しようが、ジュドーの知ったことじゃない。あんたと、あの化け物が――」

「おい待てよ……今の化け物ってのは……マルコのことかよ……」

 ギブソンは殺気のこもった声を発した。同時に、その表情が変わる。軽薄な仮面が剥がれ落ち、冷酷な殺し屋の素顔が現れた……それを見たカルメンは、ニヤリと笑う。

「やっと本性を現したね……あんたの素顔はそっちだろ」

 言うと同時に、カルメンは動いた。両拳を顔の高さに置き、身構える……しかし、アイザックが巨体に似合わぬ素早さで二人の間に割って入った。さらに――


「ちょっとお……店の中で暴れるのは止めて欲しいのよね……」


 不意に後ろから聞こえてきた、野太い声。ギブソンは振り返る。すると、そこにいたのは巨人だった。それも女装した……大柄であるはずのアイザックが小さく見えるほどの巨体。ケバケバしく塗りたくられた化粧。黒いドレスにその巨体を包み、濃いアイシャドーを塗った瞳でギブソンを真っ直ぐ見つめている……その巨人はあまりにも異様だった。殺気立っていたはずのギブソンが、思わずたじろいでしまうほどに。


「ねえジュドー……部下のしつけくらい、ちゃんとしときなさいよ」

 そう言うと、巨人は階段に視線を移す。すると――

「悪いなアンドレ。すぐ引き上げるから」

 言葉とともに、ジュドーが降りて来た。ジュドーはアイザックとカルメンを一瞥した後、何事もなかったかのように去って行く……アイザックとカルメンがそれに続いた。

「まったく、昔はもっと可愛げがあったのに……変わっちゃったわね、ジュドーの奴……」

 女装巨人はどこか切なさ漂う表情で言うと、ギブソンに視線を移す。


「さて、坊や。ちょっと、お姉さんとお話ししていかない?」






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