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エメラルド・シティ 闇にきらめく宝石の街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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野獣の繋がり 3

「え〜、では次の標的へと移らせていただきます。え〜、異能力者のオリバー・リードですよ〜。まずは百万から、ですが……どうでしょうか皆さん?」

 言いながら、壇上から皆の顔を見回す司会者のゴステロ……だが、誰も返事をしようとしない。死神たちの競売は、既に中盤に差し掛かっている。ギブソンはまだ、一件も落とせていない。しかし、彼は待ってみることにした。ここでは、ギブソンはまだ新米なのである。まずは様子を見る……誰も手を挙げなければ、自分が落とせばいい。


「いませんか? いませんか?」

 再度、皆の顔を見渡すゴステロ。誰も声を出そうとしない。これなら、自分が競り落としても構わないだろう。ギブソンは手を挙げた。

「はーい、いますいます。オレ、百万で……」

 次の瞬間、会場にいる者たちの視線がギブソンに突き刺さる。無言の圧力を感じた。だが、ギブソンはあえて気づかぬふりをする。そんなものにいちいち構ってはいられない。


「ギブソンさんから、百万の声がかかりました〜。他にいませんか? いませんか?」

 ゴステロのすっとぼけた声が会場内に響き渡る。だが、誰も声を出さない。

「え〜、では、オリバー・リードの件、ギブソンさんが百万で落札しました」




「なあ、ギブソンさんよお……あんたのやり方にケチつけたくはないんだがな、あんまり安くされちまうと困るんだよ」


 前金と標的の写真を受け取り、会場を出ようとしたギブソンの前に現れた三人の男たち……彼らの顔には見覚えがある。競売会場に来ていた殺し屋たちだ。冷たい表情で声をかけてきた彼らに対し、ギブソンは愛想笑いを浮かべながら会釈した。

「え? いや、すみませんね。ですが、こっちも生きていかなきゃいけないんですよ……」

 そう言いながら、ギブソンはペコペコ頭を下げる。その時、遠くからこちらを見ている者の存在に気づいた。ステファンだ。ステファンは壁に寄りかかり、腕組みをしたまま、じっとこちらを見ている。ギブソンに助け船を出すような雰囲気はまるでない。成り行きを見守るつもりなのだろうか。ギブソンは心の中でため息をついた。どうやら、ステファンは自分のことが嫌いらしい。提携すると言っても、極めて緩やかな繋がりのようである。当てにならない同盟だ……。


「ギブソンさんよう……仕事には相場ってものがあるんだ。あんたが安い値段で引き受けちまうと……その値段で引き受けてもらえるんだ、と思うバカ野郎が次から次へと出てくる。すると、どうなるか……言わなくてもわかるよな?」

 一人の中年男が、ドスの利いた声で迫る。どうやら目の前の連中は、虎の会でも古株のようだ。要するに、気に入らない新入りをシメようというのだろう。どこにでも、この手の連中はいる。

「ええ、そうですよねえ……ただ、こっちも稼がないといけないんですよ。いろんな人間がいてこそ、バランスが取れていいんじゃないですかねえ」

 ギブソンは言葉を返す。同時に、右手を隠し持っている拳銃に伸ばした。どうやら、自分はトラブルとは無縁でいられないらしい……。


「お前はそれでいいかもしれねえ……だがな、こっちは困るんだよ。なあ、これからはオレたちの相場に従ってくれ。異能力者は最低でも一人につき二百だ。それ以下の値段なら、無視しろ……わかったな?」

 中年男はそう言いながら、鼻先が触れ合わんばかりの位置まで顔を近づけて来る。非常に嫌な気分だ。ギブソンはふと、目の前の男の口の中にピンを外した手榴弾をねじ込みたい衝動を感じた。だが――


「お前ら、こんな所で何やってるんだ……邪魔なんだよ。とっとと失せろ」


 不意にギブソンの背後から聞こえてきた低い声……それと同時に、男たちの表情も変わる。明らかに怯えた様子だ。ギブソンが振り返ると、そこには大柄な男と黒髪の女が立っていた。いつもジュドーの横にいる、奇妙なコンビだ。いや、カップルなのかもしれないが。片目を機械仕掛けのような眼帯で覆っている、たくましい大男。褐色の肌と黒髪を持つすらりとした体型の美しい女……二人とも険しい表情で、建物内から出てきた。


「ア、アイザックにカルメン……お前らには関係ないだろうが――」

「関係ないこともないねえ……ここであんたらに井戸端会議されると、凄い迷惑なんだけど」

 狼狽する男の言葉を遮り、冷ややかに言い放つ女。大男の方は、確かアイザックと呼ばれていたはず。となると、女の方はカルメンという名前なのか……などと考えながら、ギブソンはヘラヘラ笑ってみせる。場の空気は、二人の登場で変わってしまった。男たちは一人を除き、緊張した面持ちで後退りを始めている。彼らも殺し屋のはずだ。その殺し屋連中をここまで怯えさせるとは……この二人の持てる力も、かなりのものらしい。


「お前ら……下らねえことやってないで、さっさと仕事しろ。オレたちが現役だった頃はな、もっと安い値段で引き受けたこともあるんだよ……値段に文句があるなら、オレに言え」

 そう言ったのは、アイザックである。声には何の感情もこもっていないが、かえって不気味さを醸し出している……だが、一人の男が二人を睨みつけながら口を開いた。先ほど、真っ先にギブソンに絡んでいった中年男だ。

「調子こいてんじゃねえよ……オレは知ってんだぞ。てめえらなんざ、ジュドーに拾われる前はただのカタワ――」

 言い終えることはできなかった。罵りの言葉を吐いていた男に、カルメンが滑るような動きで近づく。次の瞬間、腹に拳の一撃――

 カルメンは一見すると華奢な体型の女だ。身長はやや高いが、見た目の体重は五十キロ強であろう。にもかかわらず、中年男はカルメンの一撃で倒れた。体をくの字に曲げ、痙攣する……。

「そうだよ。あたしはね、両手と両足を切られたんだ……マルケスってクズに。この手足は機械仕掛けさ……それも、ゴリラ並みの腕力のね。あんたら全員を殴り殺すのに、一分もかからないんだよ。どうするんだい?」

 冷酷な表情で言い放つカルメン。その直後、アイザックが倒れた中年男を無理やり起き上がらせ、力任せに突き飛ばした。

 そして、他の男たちに視線を向ける。

「オレはさっさと仕事しろ、と言ったんだがな……聞こえなかったのか?」

 アイザックの声には、一切の感情がこもっていない無機質なものだ。しかし、そこに冷めた迫力を感じたのか、男たちはそそくさと立ち去って行った。中年男もまた、腹を押さえたまま歩いて行く……。


「いやあ、ありがとうございます。いじめられて困ってたんですよ。大人の世界でも、いじめってあるんですね……まいっちゃいますよ」

 ギブソンはヘラヘラ笑いながら、二人に近づく……だが、カルメンが睨みながら片手を振った、ように見えた……。

 次の瞬間、ギブソンの鼻先を拳がかすめる。とっさに首を動かして避けたものの……当たっていれば鼻血ではすまないだろう。しかし、カルメンの手足は実に精巧に出来ている。繋ぎ目も全く見えない。このエメラルド・シティで、ここまでの物を造れる人間がいるとは思えない。大陸で、相当の大金を積まない限り無理だろう。

「勘違いすんじゃないよ……お前は笑いながら人を刺せる男だ。ジュドーのことも、腹の中では舐めきってるのはわかってんだよ。言っとくけど、ジュドーを裏切るような真似したら……あたしが殺す。あたしとアイザックはね、ジュドーのためなら何でもする……覚えときな」

 言いながら、ギブソンを冷ややかな目で見据えるカルメン……ややあって、彼女はくるりと背を向けた。そして立ち去ろうとする。

 だが、その背中にギブソンが声をかける。

「ちょっと待ってくださいよ……お急ぎでなければ、一つ聞きたいんですがね。あなた方は、いつからジュドーさんと――」

「お前には関係ないね……それに、あたしの口からは言いたくない。どうしても知りたきゃ、ギース・ムーンにでも聞きなよ。ついでに、あいつに言っといてくんないかな……いずれ、あたしが殺しに行くよ、ってさ」

 そう言い残し、去って行くカルメン……ギブソンと話す気は毛ほどもないらしい。ギブソンは思わず苦笑した。仕方ないので、その場に残っていたアイザックに会釈し、立ち去ろうとした時――

「一つだけ教えてやる。オレは両目をえぐり取られ、この街に捨てられた……大陸で、ギャングと揉めたせいでな。カルメンは……さっき本人が言っていたように、両手両足を切断されて奴隷にされてたんだ。オレたちは人間以下の扱いだった……ジュドーに拾われたおかげで、やっと人間として生きられるようになったんだよ。だから、オレたちはジュドーのために命を張る。たとえジュドーが極悪人であったとしても、オレたちはジュドーに付いて行く。ジュドーの目的の邪魔になるようなら、お前も殺す」


「ケッ、運のいい野郎だな……」

 アイザックとカルメンが立ち去った後、ギブソンに声をかけてきたのはステファンだ。いかにも憎々しげな表情で近づいて来た。ギブソンは彼の態度に苛立つものを感じた。近づいて来たステファンの襟首を左手で掴み、力任せに引き寄せる。

「て、てめえ! 何しやがる――」

「オレたちは組んでるんだよな……ああいう時に助けろ、とは言わねえ。お前にもお前の立場があるんだろうしな……だが、せめて顔だけでも心配してたふりをしとけ。心にもない言葉だとしても、大丈夫か、ぐらいの言葉はかけろ……今みたいな態度をされると、お前の頭を吹っ飛ばすかもしれねえからな」

 言いながら、ギブソンは右手で拳銃を抜いた。そして銃口を腹に押し当てる……ステファンの顔が恐怖に歪んだ。

「お、おい! 何考えてんだよ――」

「てめえを殺したいと考えてんだよ」

 ギブソンは押し殺した声で言いながら、銃口を腹にえぐりこませる……ステファンは震えだした。通行人はいるが、完全に無視している、虎の会の人間もすぐ近くをうろうろしているのだが、知ったことではないとでも言いたげな素振りで成り行きを見ている。


「いいかステファン……お前がオレをどう思っていようが、そんなのはオレの知ったことじゃねえ。お前はしょせん、ただの雑魚だ。それを忘れてイキがるんじゃねえ……いいな?」

「あ、ああ……」

「それと、もう一つ。あの二人……アイザックとカルメンについて、知っていることを全部話せ。今すぐに、だ」


 だが……ステファンの知っている情報は大したものではなかった。ステファンという男は情報収集に関しても、雑魚にふさわしいレベルであるらしい。ギブソンは舌打ちしながらも、ステファンを解放した。そして、歩き始める。

 帰る道すがら、ギブソンはカルメンの言っていたことについて考えた。両手両足を切断されていたらしいが……今のカルメンからは想像もつかない。ギブソンはかつて、大陸にいた時に両手両足を切断された奴隷を見たことがある。その奴隷の主人は金持ちの変態野郎だった……まともな性交など、とうの昔に飽き果てているような人間なのだ。ギブソンはその奴隷の瞳をちらりと見たが、絶望に支配されていた……まさに人形のような目。感情の動きがない、死んだ魚のような目で、ギブソンの顔を見上げたのだ。あれは今でも、胸クソの悪くなる光景としてギブソンの記憶に残っている。

 カルメンもまた、あんな状況にいたのだろうか。そこからジュドーに拾われ、人生をやり直す機会を与えられた……となれば、ジュドーに忠誠を誓うのも当然だろう。奴隷という地獄から引き上げてくれた恩人……もし自分がジュドーの敵に回ったなら、カルメンは全身全霊をかけて自分に立ち向かって来るのだろう。美女サイボーグ……映画やマンガのネタで有りそうだが、現実となると厄介な相手だ……。

 その時、ギブソンの頭にひらめくものがあった。カルメンの機械の手足……あの手足の出来は、極めて精巧なものだった。ギブソンがこれまで見たこともないくらいに。あれだけの技術を持つ者ならば……。

 マルコの顔を変えるくらいはワケないはずだ。


 そう言えば、ギース・ムーンも義手を着けていた。ギースの義手は真っ黒い金属製であり、カルメンの物とは雲泥の差だが。


(どうしても知りたきゃ、ギース・ムーンにでも聞きなよ。ついでに、あいつに言っといてくんないかな……いずれ、あたしが殺しに行くよ、ってさ)


 ギース・ムーンか……。

 その伝言、届けに行ってみるか。






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