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エメラルド・シティ 闇にきらめく宝石の街  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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野獣の繋がり 1

 『野獣の繋がり』の主な登場人物です。


◎マルコ

 獣のような恐ろしい顔、そして凄まじい身体能力を持つ男です。顔からは想像もできませんが、まだ十代の少年です。


◎ジュドー・エイトモート エメラルド・シティでもっとも規模の大きなギャング組織『虎の会』のナンバー2であり、有能なキレ者として知られています。


◎ギース・ムーン

 エメラルド・シティで墓守りをしている男ですが……一部では、この街のパワーバランスを一変させてしまう男であるとも言われています。


◎アイザック、カルメン

 ジュドーの腹心の部下でありボディーガードでもある、片目に眼帯を着けた大男と褐色の肌の美女のコンビです。


◎ギブソン

 マルコの世話をしている若い男です。マルコのマネージャーのようなことをしています。






 人が三人以上集まると、そこに政治が生まれる……誰が言ったか知らないが、言われてみれば確かにその通りだ。そして集団の中には、色んなタイプの人間がいる。おとなしい奴と仕切りたがる奴、声の大きい奴と小さい奴、腕力の強い奴と弱い奴などなど……さらに、大きな集団が出来るとなると、派閥も出来る。派閥には必ず、リーダー格の者がいる。このリーダー格の人間てのは曲者だ。時として、何でこんな奴が……と思うような、小物にしか見えない者がリーダー格の場合もあるだろう。だが小物という人種もまた、いろんなタイプがいる。時として、小物という一言で片付けられない者もいるのだ。力のある人間の弱みを握り、上手くコントロールしているケースもあるし、あるいは、力のある人間の傀儡というケースもある……どんな人間でも、見くびってはいけない。


 ・・・


 ダニー……。

 シェリー……。

 お前ら、どうしてここに居る?

 死んだはずだぞ。

 お前らは死んだはずだろうが……。

 オレの……目の前で……炎に包まれて……。

 最後に見た時、お前らは黒焦げだった……。

 何で生きてる?

 何で、笑ってる?


(お父さん……)

(あんた……)


 やめろ……。

 そんな目で……。

 そんな優しい目で、オレを見ないでくれ。

 オレは死なせてしまったんだぞ。

 お前ら二人を……目の前で……。


(ぼくね、大きくなったら、お父さんみたいに強くなりたい!)


 やめてくれ!

 お前は大きくなれないんだよ!

 オレの……せいなんだ……。




 暗闇の中、ギブソンは目を覚ました。傍らを見ると、マルコが横にいる。心配しているのだろう、不安そうな表情で、こちらをじっと見ている。

「ギブソン、大丈夫か? 頭でも痛いのか?」

 尋ねるマルコ。ギブソンは暗い部屋の中で、にっこりと微笑んだ。

「大丈夫だよ、マルコ。オレのことは気にせず寝るんだ」

「ああ……わかった」

 マルコは頷き、すぐに横になる。ギブソンは笑みを浮かべたが、今しがたの悪夢を思い出し、表情が堅くなる。そう、あの悪夢は未だに自分を解放してくれない……いや、これは自分に一生つきまとうのだろう。

 ギブソンは息子のダニーのことを考えた。五歳にして人生の幕を降ろさなければならなかったダニー……いつも言っていたのだ。お父さんみたいに強くなりたい、と。その言葉に対し、ギブソンは微笑みながら答える。お前はお父さんなんかよりも、ずっと強くなれるよ……と。

 だが、目の前で死なせてしまったのだ。


 ダニー……。

 お父さんは、全然強くない。

 お父さんが強ければ、お前と母さんを救えたんだ。

 なのに……。


 神はなぜ、自分を生かして妻のシェリーと息子のダニーの命を奪ったのだろうか……自分は無慈悲な人殺しである。これまで数多くの人の命を奪ってきた。疑う余地のない罪人なのだ。天が罰を与えるとしたら、自分が受けるべきだ。

 なのに自分が生き延び、シェリーとダニーは死んだ……何の罪もない、あの二人が。

 ギブソンは今も考える。もし、あの日……自分がドライブに行こうなどと言い出さなかったなら。シェリーがドライブに反対してくれていたなら。ダニーが熱でも出してくれていたなら……。

 いや、今さらそんなことを考えても意味がない。自分は生き延びてしまったのである。そう、あの時は……たった一人で無様に生き延びた。

 だが、今は一人ではないのだ。マルコがいる。最強の野獣ではあるが、心はまだ子供。強さと脆さを併せ持つ男……マルコの持てる力は強大だ。しかし、今のマルコはあまりにも物を知らない。このままでは、仮に顔を治したとしても……大陸で普通の人間として生きていくのは、恐らく不可能だろう。人間としての生き方を自分が教え、導いていくしかない。


 そうだ。

 明日はマルコを、食堂に連れていってやろう。

 たまには、美味いものを食わせてやるか。

 それに、外での食事の機会も必要だろう。


 翌日の昼間、ギブソンはマルコを連れて、『ジュドー&マリア』の前に来ていた。マルコは今まで、外で食事をしたことがない。いい機会だとギブソンは考えたのだ。これからは積極的に外出し、買い物のやり方なども教えていこうと。

 しかし――


「悪いけどな、帰ってくれよ」


 店長のリュウは、冷たい口調で言い放つ。ギブソンの表情が険しくなった。

「おいリュウさん、そりゃどういう意味だ?」

「意味? あんたの聞いたまんまだよ。帰ってくれ。ギブソン……今のあんたには何の恨みもないが、あんたらには何も出せねえんだよ」

「理由を言え……」

 溢れ出そうな感情をかろうじて押し殺し、ギブソンは短い言葉を発した。一方、後ろに控えているマルコに動きはない。黙ったまま、おとなしくじっとしている。


「言わなくてもわかるだろうが……なあ、いちいち言わせるなよ……」

「はっきり言え」

「じゃあ言うぜ……ここはな、あんたらみたいな連中の来る所じゃねえんだ。他の客に迷惑なんだよ。特に、マルコは化け物みたいな顔――」

「この野郎! 殺すぞ!」

 ギブソンは自分を押さえられなくなった。リュウの喉を掴む。と同時に、リュウの体を力任せに壁に叩きつける……だが、何者かの手が伸びてきた。そしてギブソンの肩を掴む。

「ギブソン、もういいよ。帰ろう。オレ、牛乳飲みたい」

 言葉の主は、マルコだった。マルコは下を向いたまま、ギブソンを力ずくで引き離す……ギブソンはリュウに怒りと憎しみのこもった視線を向けながらも、マルコに促されて引き下がった。一方のリュウは、複雑な感情のこもった視線をマルコに向ける。そこには怒りや恐怖だけでない、別の感情もあった……どこかすまなそうな目で二人をちらりと見た後、リュウは店に戻って行った。


「マルコ……すまなかったな」

 帰り道、ギブソンが声をかけると、マルコは軽く頷いた。

「いいよ……オレは大丈夫だから」

 マルコの声には、いつもと違い力強さがない。傷ついているのだろう……ギブソンは心底、申し訳ない気持ちになった。こうなるのは予想できたはずだ。なのに自分は……。

 そう、この街ならマルコは受け入れてもらえるのではないか、と期待してしまったのだ。混沌と暴力の支配する無法都市、エメラルド・シティ。ここならば、マルコのような異形の者も、普通に暮らせるのではないかと考えていた。だが甘かったようだ。マルコは、この街でも受け入れられないらしい……。

 ギブソンはやりきれない思いを抱えたまま、とぼとぼと歩いた。だが、あることに気付く。そう、今までと違う点に……マルコは自分を止めたのだ。リュウを痛めつけようとしていた自分を……今日は立場が逆だった。いつもなら、マルコが先に暴れだしそうになり、ギブソンが止めるという形だったはずだ。

 どうやらマルコは人として、少しずつ成長しているらしい。それが自分の影響だとしたら? 自分との生活が、マルコを変えられたのだとしたら?

 ギブソンは立ち止まり、後ろにいるマルコを見つめる。マルコはフードで顔を覆ったまま歩いていたが、不意に立ち止まったギブソンに対し、不思議そうに声をかける。

「ギブソン、どうしたんだよ?」

「なあマルコ、他の所に行ってみるか。屋台のある場所にさ」

「ヤタイ? なんだそれは?」

 首をかしげ、尋ねるマルコ。ギブソンは苦笑し、説明を試みる。

「あのな、屋台っていうのは……いや、口で説明するより見る方が早い。行こうぜ」


 そしてギブソンはマルコを連れ、ガン地区の大通りにやって来た。ここには屋台の立ち並ぶ一角がある。以前、ギース・ムーンと会うために通った場所だ。あの時はのんびり見て回る余裕がなかったが、今なら問題ない。ギブソンはとりあえず、一件の屋台の前で立ち止まった。異能力者であり、殺人犯でもあるバンディが肉を焼きながら、誰かと話している。焼いた肉にタレを付けて、串に突き刺して並べているのだ。

 ギブソンが近づくと、バンディはちらりとこちらを見た。ギブソンは愛想笑いを浮かべて会釈する。バンディは興味なさそうな顔でギブソンを見つめたが……次の瞬間、目が丸くなる。

「あ、あれ? なあ、お前は……ひょっとして、ギブソンじゃねえのか?」

「え……」

 ギブソンは一瞬、どう答えるべきか迷った。だが、すぐに思い直す。誤魔化したところで意味はない。調べられたら、すぐにわかることだ。

「は、はあ……そうですか、何か?」

「あんたら、最近売り出し中らしいな……だが、気をつけろよ。異能力者の中にはアホな奴もいるんだ。異能力者を殺しまくってるとな……そのうち刺客を飛ばされるぜ」

 そう言いながら、バンディはゲラゲラ笑った。それまで話していた相手も、下卑た笑い声を出す。ギブソンはあやふやな笑顔で微笑み返す。

「は、はあ……ありがとうございます。それじゃあ、串焼きをですね――」

「ところでよ、お前らに頼みがあるんだよ……ジョニーって奴をバラしてくれねえかな」

「はい? バラす、というと……殺せってことでしょうか?」

 ギブソンは驚き、戸惑いながら聞き返す。あまりにもストレートだ。しかも、通行人もうろうろしているというのに……だが、バンディは言葉を続ける。

「もちろん、殺せって意味だよ……ジョニーの野郎、オレの鼻をへし折りやがった。野郎のせいで、オレはパクられたんだ。この街で野郎の面を見る度に、折られた鼻がうずきやがるんだよ。なあ、頼むわ……串焼き一年分やるからさ」

「え……いや、それはちょっと……」

 ギブソンは気弱そうな表情を浮かべながら、相手の思惑を探る。果たして本気なのだろうか。バンディの締まりのない表情を見るに、冗談としか思えないが……。

 すると、バンディはニヤリと笑い、串焼きを一本差し出してきた。

「まあ、考えといてくれや……この串焼きは、お近づきの印だ。もらっといてくれ」


 ギブソンは再び歩き出した。その後を、口をもぐもぐさせながら付いて行くマルコ。どうやら、串焼きはお気に召したらしい。ギブソンは歩きながら、バンディの言葉について考えていたが――

 突然、思い出したことがあった。昔、聞いた話によると、バンディを逮捕したのは……確か、ジョン・バイパー・プレストンとかいう男だ。バイパーという通り名で有名な強化人間だったはず。

 そのバイパーにブン殴られて、バンディは鼻と前歯をへし折られた挙げ句に逮捕された……という噂も聞いた記憶がある。となると、今バンディが言っていたジョニーという男は、強化人間のバイパーを指しているのではないのだろうか。

 しかも……バイパーはダックバレー刑務所で服役中のはず。これも噂で聞いたのだが、任務中に誤って多数の一般市民を死なせてしまい、五百年の刑を宣告されたのだ。

 となると……ジョニーとは、バイパーの偽名ではないのか? いや、新しい名前なのかもしれない。いずれにしろ、そんな奴がいるとなると……。


「ギブソン……あれ見ろよ……」

 マルコの声。ギブソンは我に返った。

「マルコ、どうした?」

「あいつ、じっとこっちを見てる。あいつ、この前の……」

 そう言いながら、マルコが指差した先には、治安警察の制服を着た男がいる。この前、尾行した男だ。虎の会の殺し屋であるステファンと何やら話していた治安警察官。ギブソンとマルコに意味ありげな視線を向けている。

「ギブソン、どうするんだ……殺すのか?」

 マルコが尋ねる。ギブソンはため息をついた。

「いっそ、殺しちまった方がいいのかもしれないが……今はやめとこう。まずは話をする」

 そう言うと、ギブソンは警官に近づいて行った。マルコも後に続く。

 すると、警官はこちらに背を向けて歩き出した。ゆっくりと歩き、そして大通りを離れて行く。ギブソンは後を追った。奴は自分とマルコを誘っているらしい……何とも怪しげなお誘いだ。色気など欠片もない。だが、あえてその誘いに乗ってみる。

 警官は歩き続け、裏通りに入っていく。そして、薄汚れた建物の中に入って行った。ギブソンはいったん立ち止まり、周囲を見渡した。コンクリートの建物の隣には掘っ立て小屋らしき物があ建てられており、中からは人の気配もしている。混沌の街にふさわしい、無秩序な街並みだ。

 だが、そんなことはどうでもいい。ギブソンはその後を追って建物に入って行った。中は暗く、数メートル先すら見えない。ギブソンは立ち止まり、振り返った。

「マルコ……この中は大丈夫なのか?」

「わからない……人間の匂いはしてるが、たぶん大丈夫だと思う。オレが先に行ってみる」

 マルコがそう言った直後……突然、部屋の中が明るくなった。






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