ランチはファミレス 現地は不本意です
何とも疲労感の濃い午前の勤務をこなし、俺は数人の後輩とともにランチへと出掛けた。
彼らから社食も飽きたため、たまにはファミレスでも行きませんかと誘われたのだ。
テーブルについて、後輩の一人がおしぼりで顔を拭きながら俺の顔を見る。
「澤村さん、会議で盛大に駄目出しされたそうですね。大丈夫ですか?」
「そうそう、専務から怒鳴られたって聞きました」
そんな話になっているのか。不本意すぎる。
「大丈夫だ。軽く訂正版の提出を求められただけだ」
俺は力なく笑う。
一番下の後輩が低い声でそっと質問してきた。
「あの…僕は澤村さんが専務の愛人を寝取って土下座したって噂を」
俺は思わず水を吹き出す。
「ど、どうしてそんな根も葉もない」
「本当なら凄いですね。尊敬します」
三人が一斉に俺を見つめた。
いかん。はっきり否定しておかないと何処でどんな話にねじ曲げられるか堪ったものではない。
「そういう事実はまったくない。専務の愛人は寝取っていない。い、いや、専務に愛人がいたらばの話だが。それから会議で怒鳴られてなどいない。単に課長のプレゼンが芳しくなくて改訂版を…そうだ、それもちょっと違うことになったんだった。ええと、専務の超絶すばらしい原案を生かしたプランニングを俺が出来なかったので別の案を出すことに決まった…ということで…いいかな」
三人ともまるで納得出来ないという表情だ。
「先輩。先輩の無念さはわかりますよ。あの馬鹿専務の愛人を寝取ってしまったために、めちゃくちゃいい旅行プランを出したのに提灯持ちの課長が意地悪でイチャモンつけてきたんですよね」
「澤村さん、元気出してください。ここは俺たちが奢りますから」
「そうです。何なら一杯いきますか」
何だなんだ。こいつらは。
「あのね…君たち。盛大に勘違いしている。そんなドラマチックな展開はない。多少不本意なことがあったのは事実だが、俺は寝取るとかそんな行為をしたことはない。だいたい俺は新婚だぞ」
ハアとため息がみっつ聞こえる。
あからさまに三人とも落胆している。何でお前らが残念がるんだ。
どういう期待をしているのかわけがわからない。
「ま、まあ、俺を元気づけようとしてくれているのは嬉しいよ。ありがたく奢ってもらうよ。アルコールは遠慮するが。アハハハハ」
「ええっ?」
何でそこで驚く。
「澤村さん、真に受けないでくださいよ。先輩に奢るなんて恐れ多いですよ」
「しかも噂がデマならなおさら奢る理由がないよな」
「うん、うん」
…俺が変なのか。
「そ、そうなのか。ご厚意は有り難くと思ったんだが」
「澤村さん、そこは『後輩に奢って貰うなどみっともないことができるか』って言わないと」
三人が笑ったので、俺もつきあって笑った…けど。
ううむ。
さて…そろそろ会社に戻らないと。
俺は少しだけ温くなったコーヒーを啜り、スマホをいじっている後輩達に声をかける。
「そろそろ時間だ、戻ろうか」
「そうっすね。そうしましょう」
それぞれ財布を取り出した後輩に俺は言う。
「ここは俺が面倒見るよ」
三人が一斉に首を振ったり、俺の手を抑えようとしたりした。
「先輩、それは」
「そうですよ、誘ったのは俺たちだし」
「そうそう、もとはと言えば澤村さんを元気づけようとな」
「そうっす。ここは割り勘でいきましょう」
うんうん、と頷きあう三人を見て俺は微笑む。
「そうなのか。気を遣わせて悪かったな。じゃあ割り勘にしよう」
「ええええ」「えっ」「嘘でしょ」
立ち上がりかけた俺に三人が眼を丸くする。
どうした。戸惑うのはこっちだ。
「ど、どうしたんだ」
「いや、澤村さん。ここは『何言ってんだ!俺が後輩に財布を出させるような男に見えるのか!』って俺たちを一喝するところですよ」
「澤村さん、がっかりさせないでください」
「先輩、やる気あるんですか」
えええええええええええええ。
読んでいただきありがとうございました。
今回も主人公が酷い目にあっています。
そして私は意外と楽しくなっています。
次回もさらに主人公が不本意な仕打ちを受ける話ですが、続けて読んでいただけたら彼も本望と思います。




