第三十四話 決めた!
(つよい毛玉……毛玉つよい……つよつよ……)
考え過ぎて、クリオネの捕食シーンが頭に浮かんでしまったミーヤは全身をプルプルと震わせた。
毛玉の頭がパッカーンと割れて触手が出るのはさすがに怖すぎる。それにミーヤは生肉は食べないタイプの毛玉だ。
人間の姿でパッカーンしてしまったら、たぶん色々が終わる。
(逆に……毛玉に出来ないことは何だろう? いっぱいあるけど……)
ミーヤは大きくため息をつくと、ヒューゴが持たせてくれた高級ナッツをポリポリしながら、違う方向から考えることにした。
(鳴き声が出せないんだよなぁ……)
それはずいぶん前から気になっていた。動物も鳥も、鳴き声を持っている。鳴き声は、仲間や家族とのコミニュケーションに必要なものだ。
親を呼び、子を呼び、伴侶を探す季節になれば鳴き交わし、外敵には威嚇の声を上げる。動物ならば持っていて当たり前の鳴き声が、毛玉にはない。
(だから声が出ないのかな。必要ないから……)
毛玉には、鳴き交わす仲間も呼ぶ親もいないのだ。
闇に沈んだ森に、夜鳴き鳥の声が長く尾を引いて響く。彼の鳥も、仲間と鳴き交わしているのだろうか。
ミーヤはコロコロと転がった。無数の手で毛先にまとわりついて来る孤独を振り払うように。
(わたしにはへーかがいる! 守護者だし! 父ちゃんだし!)
パタパタと羽ばたいて、ツリーハウスの屋根の上を飛びまわる。
(せ、洗濯室の人たちだって、いるもん!)
ヒューゴが作ってくれた、空中ブランコのような止まり木に尻尾を巻き付けてぶら下がる。
(でも……みんな人間なんだよなぁ……)
ミーヤは自分は毛玉だと思っている。時々人間になる毛玉だ。妖精が人間の姿になって街へ行ったように。ヒューゴが父ちゃんの変身を解いて、イケメン陛下に戻ったように。
(あーあ……毛玉パラダイスはどこにあるんだろう……)
ぶら下がってぷらりんゆらりんと揺れる。
(あ……探知機とかどうかな! 毛玉探知機!)
まさかの無機物だ。だが気持ちはわかる……。
(機械は生やせないかな? そんじゃあ、探知機能のある……うーんと……耳?)
毛玉に見える範囲でないけれど、人間のミーヤには耳がある。耳がダブルで良いのかミーヤ。
(ケモ耳! 異世界アニメに出て来るやつ!)
なるほど! ケモ耳ならば帽子で隠せるし、カチューシャだと言い張ることも出来る。……たぶんきっと。
(あ、でも転がる時に邪魔かも……)
意外に冷静だった。
(うーん、小さめの折れ耳なら大丈夫かな? そういう猫がいたよね? 可愛いやつ!)
確かにスコティッシュフォールドの半折れ耳は可愛い。
(毛玉探知機能付きの折れ耳! イケるかな?)
ミーヤよ、探知するのは毛玉だけで良いのか? ここは欲張って『敵性生物』とかも探知出来るようにしてみてはどうだろう。チート毛玉として爆誕するチャンスだ。
(えっと、生やしてもらう場所は……)
(大きさは……色や形は……)
(探知機としての性能や使い方は……)
ミーヤはアナウンスさんに伝える、細かい条件をつめてゆく。すでに失敗も成功も経験した。しつこいくらいに細かく、自分の希望を伝えることが大切だ。
「よし! 愛されポイント使います!」
充分に時間をかけて考えて、ミーヤは高らかに宣言した。
「小さめの三角で、お花のじゃまにならなくて、上の方が半分前にたおれてる感じでふたつ。わたしの仲間の毛玉の居場所を教えてくれる毛玉にお似合いのお耳を! 頭に生やして下さい!」
『似合う耳』として、任せるのはとても良い。謎の存在であるアナウンスさんサイドの、意図のようなものを探ることが出来るかも知れない。
(鳴き声やつよつよ毛玉は、また今度にしようっと!)
うん。ミーヤはそんなことは考えていない。知ってる。
ミーヤはこれからもヒューゴに『愛されポイント』をたくさんもらえると思っている。
出会った頃に『何の価値もない毛玉だから、きっとすぐに飽きられてしまう』とネガティブだったことを考えれば、ずいぶんと自己肯定感が上がった。
それで良い。それで良いんだよミーヤ。これからもドカドカ『愛されポイント』をもらって、どんどんオモシロ毛玉になれば良い。
オモシロ毛玉でも、つよつよ毛玉でも、残念毛玉だとしても。ヒューゴは君に飽きたりしない。
なぜなら君は、ヒューゴの宝ものなんだから。
* * *
《了解しました》
ミーヤのポイント使用の宣言を受けて、アナウンスさんから相変わらずの淡白な返答が来た。
ミーヤがワクワクしながら待っていると、しばらくしてから頭の上で『ポンッ!』と音がした。
(きっと、耳が生えた音だ!)
黄色い花が生えた時も、翼が生えた時も同じ音が聞こえた。どちらも水鏡で確認するまでヤキモキしたものだ。
だがツリーハウスの壁には、ヒューゴが皇帝の経済力と小物大工の父ちゃんの力を遺憾なく発揮して取り付けてくれた、素敵仕様の鏡がある。
ミーヤはチョンチョンと跳ねてツリーハウスの両開きのドアをくぐり、耳付き毛玉の全容を確認することにした。
(わぁー、ケモ耳だ! 先っぽがちょっとへにょって折れてて可愛い!)
前から見ても横から見ても、立派なケモ耳だ。おまけにピコピコと動かすことが出来る。
(すごく動物っぽくなった!)
確かに! 初期の毛玉は吹き溜まりで転がっている、抜け毛の塊っぽかった。耳があると少なくとも哺乳類に見える。翼があるけど。
(わーい、可愛い! わたし、可愛い毛玉だ!)
ミーヤは嬉しくて、耳をピコピコと動かしながらツリーハウスの中を飛び回った。
(これならへーかが魔王になって世界せいふくするとしても、勇者になって旅に出るとしても、マスコットキャラとして一緒にいられる!)
ミーヤはこの世界がゲームだとしたら、ヒューゴは主人公だと思っているのだ。主人公には過酷な運命がつきものだ。
ところでミーヤ、忘れていないかい? そのお耳は毛玉探知機能が付いているんだよ? そっちの仕様確認もしないと!
一方、その頃ヒューゴは。
ミーヤがお泊まりでいないので、執務室でひとり残業していた。毛玉を愛でる他には大した趣味もなく婚約者もいない26歳皇帝は、仕事以外にすることがないのだ。
込み入った案件の資料に目を通し、必要な各所への指示書を何枚か書き上げて添付する。
「そろそろ上がるか……」
皇帝陛下に残業代は出ない。切ない。
椅子から立ち上がりかけたヒューゴの頭の中で、『パンパカパーン』と例の安っぽいファンファーレが鳴り響いた。
《守護者レベルがアップしました。『変身スーツ・タイプ毛玉』を入手しました。変身しますか?》
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