1章 魔導の転生 8-3
くるり、と指先を空中で動かすと、青空よりもなお深い碧色の光が空中に現れた。
次いで、黄、赤、銀、そして緑。美しく澄んだ光の色彩は、空中に優美な同心線を描いて、精緻かつ微細な花火のように美しく咲き開く。
魔導を行使する際に具現化されるその現象は、『魔法陣』と呼ばれるものだ。
「魔力の流れを、魔導士の瞳は見ることができる……か」
ヴァンドーナはつぶやいた。それは彼の養父であり師である魔導士ルキアスの言葉だった。
星の光を宿す灰色の瞳の力を緩めると、小さな魔法陣は空中に解けるようにして薄れていった。散じて薄れゆく魔力の光は、常人の目にはただ空中に掻き消えていくように見えるのだという。
けれど、魔導士としての力を持つ者たちの瞳にはその残滓が見え続ける。この世界を構成しているという魔力の変化の痕跡、魔法の影響そのものを視覚的に捉えることができるのだ。
「なるほど……きれいなものだな」
空間に魔法陣を描いていた光は解けるように形を崩し、幾千もの渦となって徐々に周囲との均衡を取り戻していく。魔法を行使したことでほんの少しだけ冷たくなっていた指先に、じんわりとぬくもりが戻ってくる感覚があった。
「魔導の力って、本物なんだ……」
ヴァンドーナはしみじみとつぶやいた。
手品の類ではない。他ならぬ自分自身が行使しているのだ――魔法が現実のものであると信じるしかないではないか。
「こんなふうに、魔法の存在にどこか違和感を感じている俺は、どこから来たのだろう……?」
自問してみても答えはない。物理や化学、力学等の知識に関する記憶は残っていたが、生まれや育ちといった個人的な記憶のほうは、まるで木っ端微塵に砕け散ったガラスの破片のごとくバラバラになっていた。それらを再構築することで記憶を取り戻せないかと挑んではみたものの、気力と時間を注ぎ込んだ果てに萎えてしまった。
「あまり思いつめていたら今度こそ、ルレアに説教されてしまいそうだ。それに今ではもう、夢中になってしまったから」
意思の力によって事象を自在にあやつることができる、類稀なる魔法の力。『魔導』を学び、その力を手に入れることの愉しさと達成感に、彼は目覚めてしまったのだ。
「……魔導とは求めてやまない叡智、か」
それもまた、ルキアスの口癖だった。
この世界に彼が目覚めてから、三ヶ月が経っていた。
あれから少年――ヴァンドーナの『魔導』という力と真理への探求がはじまったのである。
おのれの知識を深めて技を磨きあげることに、妥協も終わりもない。毎日が歴史や言語、そして魔法の原理を学ぶための時間に費やされた。
「よいか、魔導とは叡智であり、確固たる知識に由来するものだ」
魔導士の先達であり師であるルキアスは、事あるごとに繰り返しそう言って聞かせていた。ヴァンドーナとルレア、いずれ未来を背負い立つことになるであろう今は幼き魔導士ふたりに。
「魔導は、変化をもたらそうとしている対象の構造と理を完璧に理解し、頭の中にはっきりと描くことができてはじめて、現実の事象として具現化させることができる。その媒介である魔法陣を作り出すためにも、確固たる知識とイメージができあがっていなければならぬ」
教えるときの師は、難解な言葉を噛み砕くことなく滔々と語り続けたものだ。
「万物は魔力というもので成り立っている。どの物質も生命も、その根源は同じでありながらまったく異なる存在としてこの世界に存在しているのだ。それをまず理解しておく必要がある」
「つまり――細胞も物質も分子の集合体であり、分子は原子から成り、原子は原子核と電子、その原子核は中性子と陽子から成り、そのふたつはクォークから成っている。それは宇宙誕生のときクォークやグルーオンが生成されたからだが……それら亜原子粒子を『魔力』と呼んでいる宇宙があるとすれば、それがこの世界だ――ということか」
ヴァンドーナは理解が早かった。失うことのなかった知識のほうの記憶を携えていたがゆえに。
「置き換えて理解の助けにできるのは、好都合かもしれない」
彼のいた世界では、エンペドクレスの四元素説は後世で否定されたものだったが、この世界では『精霊』として認識されていた。火、水、風、地の属性をもつ彼らの存在と影響力は、光、闇の属性とともに各属性の魔導の技にも活かされている。自然の力に鋭敏な感覚をもつ種族ならば、彼らの姿まで見えるのだというから、驚きだ。
たとえば風の属性をもつ『電撃の矢』は、雷を生じ、行使している魔導士の意思によって自在に放つ方向や方向や道筋まで操ることができるという魔法である。つまり、大気中の分子から電子を移動、イオン化させてプラスとマイナスに分離させ、その電位差をもって動きを操ればいい。自然の雷も、雲の下部と大地の間に電位差を生じて放電したものだ。実力次第で、岩を打ち砕くほどに強めることができる。
つまり『事象の変化』そのものを、意志の力によって引き起こすことが「できる」か「できない」かという点が、彼のいた世界とこの世界との違いなのだ。
物質そのものの構造を『識り』、自分の内を流れる膨大な魔力を媒介として対象の構成元素である魔力を侵食して望みどおりに『作り変える』ことが、魔導の技の本質といえた。
つまり魔導士には、それらを理解することが可能なだけの「頭脳」と、事象を具現化させるために自分の意思を対象へ向けて「極度に集中させ続ける」ことが必須となるわけだ。
よく人間の脳は十分の一しか使われていないと言われているが、まさに先天的に脳の必要領域をフル稼働させることができる者たちのことを、『魔導士』というのかもしれない――彼はそう納得した。もちろん脳を単にフル稼働させただけでは意味を為さない。それに加えて必要なのが、世界の事象を浸食できるほどに濃密で膨大な量の魔力なのであった。
そこまで思い至ったとき、自分に対しての疑問を抱いた。こうなる前には専門課程を終了し、特定の分野の仕事に就いていたのかもしれない。彼にとって魔導を理解するための良き助けとなっていたので、感謝以外のなにものでもなかったが――。
「そんなことが『名無き神』の関心を惹いたというわけではないはずだ……。どうして、あいつは俺をこの世界へ送り込んだのだろう」
その疑問は、彼の心に翳りとして残り続けている。
「俺は、人生をもう一度やり直すことになるのだろうか。この、魔導という魔法が存在する世界で。となると、一度は死――」
「あっ、見ぃつけた! こんなところに居たんですね!」
弾むような声が青空に響いた。ヴァンドーナは、屋根の上に寝転がっていたのだ。慎重に上体を起こし、声の聞こえたほうに視線を向けると、ルレアが天窓から顔を出して彼のほうを見ていた。
「ヴァンったら、ひとりで行ってしまうんですもの。わたし、ずぅっと探していたんですよ」
ルレアは嬉しそうににっこり笑うと、窓枠から腕を突き出した。えいやっとばかりに腕を突っ張り、力を籠める。
「え、ちょ、ちょっと待て!」
「なぜ?」
きょとんと彼を見つめ返したルレアは、一瞬だけ動作を止めた。が、すぐに腕をついて窓から出ようとする努力に戻ってしまう。
「だって――危ないだろッ!」
ヴァンドーナは自身の顔から血の気が引くのを感じた。ここは最上階にある書庫、さらにその屋根の上だったからだ。三階建ての屋敷は、通常の民家を五つ重ねたほどの高さがある。
さらに言うと、少女が顔を出しているのは天井の高い書庫の天窓だ。魔導の技で浮いているのか梯子でも掛けてあるのか――いや、ドサドサズドンと響いてきた音から推測して、なにかを積み上げて足場にしていたようだ。そして今、それらも崩れてしまったということか……!
「ちょっと待ってろ! いまそっちへ行くから!」
「あら、だいじょうぶですよ。だって、あなたもそこに居るんですもの」
なにが大丈夫なのか根拠は理解できないが、ともかくルレアは天窓から完全に屋根の上へと出てしまっていた。傾斜のきつい屋根に指先を引っ掛けるようにして、ヴァンドーナの居る場所まで登ろうとしている。
蒼白になったヴァンドーナが、自身も這うようにして慎重に彼女のほうへと移動した。無理もない、少女の一挙手一投足から目が離せないのだから、自分の手元など見ていられない。
淑やか、かつのんびりとした見た目からは想像もできないが、ルレアは驚くほどに行動力のある女の子だ。それはこの三ヶ月でよく理解できた。なのにドンくさいというか……おっちょこちょいなところが多々あり、まったく目が離せないときている。
「ああ、怖かった!」
気がついたときには、彼女を腕いっぱいに抱きしめていた。
明るいオレンジ色の瞳が、至近距離から彼を見つめている。言葉とは裏腹に、ルレアはすこぶる楽しそうな表情をしていた。頬を薔薇色に染め、乱れた呼吸で上下する胸を片手で押さえながら、それでもこみあげる笑いに抗うことができないかのように。
ゾムターク山脈から涼やかな風が吹き降りてきて、蜂蜜色に輝く彼女の髪をふわりと持ち上げ、さらさらと梳いてゆく。太陽そのものであるかのような色彩の瞳は、陽の光を受けてなおいっそう煌めいてみえた。
「あ……」
ふれあうほどに間近で見つめあっていたことに気恥ずかしくなり、ヴァンドーナは視線を周囲の光景へ向けた。
屋根の傾斜は、おとなでも足が竦んでしまうほどにキツいものだ。地面は遥か下にある。別の意味でも鼓動が早くなってしまうのだった。
「……ルレア、無茶するなよ。ひどい怪我を負ったり、万一死んでしまったらどうするんだ。命を、もっと大切にしてくれ」
彼女が転げ落ちなくて良かった――本音と安堵のあまり、思わず口調が強いものになってしまう。
視線を逸らしていたので、彼女の表情は見えない。呼吸すらも止めてしまったかのように静かになってしまったルレアに、不安になってしまう。
視界の端で、金色のやわらかそうな髪が揺れた。――泣いているのだろうか?
「あ、あのさ、怒っているわけじゃないぞ。俺はただ心配をして」
言いながら顔を向け、彼は驚きのあまり声をあげるところだった。
「心配してくれているなんて……わたし、感激してしまいました!」
彼に向けて身を乗り出していたルレアと、互いの顔の距離が近かったのだ。いっぱいに見開かれた大きな目。瞳の深い部分まで光が当たっている。息がかかるほど近い距離、こんなにも嬉しそうな無邪気な笑顔を向けられては、もうなにも言えなくなってしまう。
言葉を失った彼は、いま自分がどんなに間抜けな表情をしているのか心配になった。心臓の音が耳の奥で音高く響いている。空気を吸い込もうにも彼女の顔があまりに近くて、緊張してしまう。
どきどきと鼓動を乱した胸が痛んだが、不快ではなかった。そのような気持ちをどう呼ぶのかまで思い至らないまま、彼はうつむき、なんとか取り繕うように問うた。
「それで、どうしたんだ?」
「あら、すっかり忘れかけていました。えぇっとですね……もうすぐ昼食ですから、呼びに来たんです」
「そんなことだけで俺を、こんな場所まで?」
答えはなかった。てっきりいつものごとく「はい」という返事が返ってくるかと思っていたヴァンドーナは、訝しげにもう一度、彼女と視線をあわせようとした。だが、目線は彼女と入れ違いに空にぶつかってしまう。
ふわりとした気配と甘い香りの風が彼に届く。ルレアは、目の前ではなく彼の隣に座っていた。
朝の太陽と同じ、透けるようにあざやかなオレンジ色の瞳を、彼女は目の前に広がる森へと投げかけていた。ヴァンドーナのもの問いたげな視線に気づいたのか、彼のほうに顔を向けて微笑みながら口を開いた。
「それから……お隣、いいですか?」
「もう座っているじゃないか」
「ふふっ。わたしのことじゃないんですよ」
ルレアが「ほら」という言葉とともに開いた掌に、小石があった。親指の先ほどの、ごつごつと固そうな黒曜石の――いや、小石ではなさそうだ。
「これ、種なんです。『樹擬人』のものなの」
「あの、動くことができる樹木の? どうしたんだ、それ」
「鳥に運ばれて、お庭に落ちてしまったみたいなんです。そのまま放っておいたら育たないでしょ? だからわたし、森に戻してあげようと思って」
「育たない? この屋敷の庭ならどこでも肥沃な土があるじゃないか。種ならば放っておけば自然に芽が出るものだろう?」
「この屋敷では育つことができないの。死んでしまうことはないけれど、ぜったいに芽は出ないわ。環境維持のために調節された『結界』によって植生の変更はできないように定められているから」
そこまで聞いて、ヴァンドーナは急ぎ視線を投げ、眼下の広大な庭を眺め渡した。
なるほど確かに、うっすらとだが光の濃淡が模様のように庭全体を覆っているようだ。涼やかな薄いヴェールのようでもあり、色のついた空気のようでもある。瞳に力を籠めてみると、幾重にも張られた『護り』の結界魔法が他の様々な魔法と相互に干渉しており、精巧に織り成された守護魔導の力場を展開しているのだと理解できた。
「安全のために張られているものだから、おとうさま以外が勝手に壊したり変更したりしてはいけないの」
「……なるほど、本当だ。驚いたよ、ここから何度も眺めていた光景なのに……自然な感じで、あまりに庭の造形に馴染んでいたので気づかなかった」
「おとうさまは景色に溶け込ませるようにこだわって配置したと言っていましたわ。王宮に使われている技術の応用らしいですよ」
「王宮?」
「このソサリアの王都ミストーナにある、白亜の王宮のことです」
「あぁ」
ヴァンドーナは頷いた。この王国の地理と歴史、現生界のたどってきた歴史――伝え遺されているものすべてを知識として習っている最中だった。
「そうだったな。この世界には、魔法があふれているんだ。あの夢――『名無き神』と逢ったことすら現実のことだなんて」
「え? 『名無き神』って――きゃッ!!」
ルレアがその名を口にしたときだ。穏やかに吹いていた風が突風となって吹きつけ、彼女の手のなかの種が落ちそうになった。慌てて種を掴み直したルレアの姿勢が、急な屋根の傾斜にあっけなく崩れる。
「――ルレアッ!」
しっかりと種を握りこんだまま宙を泳いだルレア。その細い手首に飛びつき……間一髪、掴むことができた!
屋根の縁ぎりぎりの場所で踏み止まり、ヴァンドーナは自分までもが滑り落ちそうになるのをなんとか堪えようとした。
ルレアの体重は驚くほど軽い。これがおとなならなんの問題もなかっただろう。だが、筋力の未発達な少年の力では、支えきれない。その場に留まるのが精一杯だ。
地面はあまりにも遠かった。叩きつけられれば骨折程度ではすまないだろう。
「ヴァン……!」
さすがの彼女も、焦ったようにオレンジ色の目を見開いている。ルレアの肢体は完全に屋根の端から宙へと投げ出され、不安定に揺れていた。ヴァンドーナの背筋を冷たいものが覆い尽くす。
どうすればいいのか――このままではすぐに自分が力尽きてしまい、ふたり一緒に落ちるだけだ。緊張のあまり手のひらにかいてしまった汗で、掴んでいる彼女の手首がずるりと滑りそうになる。
焦る頭脳がヒヤリと冷え、そのはずみで彼は必要なことをようやく思い出した。
「魔導を! このままではふたりとも落ちてしまう」
ルレアの瞳がハッとあがる。自分たちの状況を見て取り――僅かなためらいのあと、巻き込みたくないとでもいうかのように、あろうことか彼の手を解こうとしたのだ!
「……ルレ……くそっ!」
ヴァンドーナは覚悟し、屋根の割れ目に突っ込んでいた指先を躊躇なく離した。空中へとみずから飛び出しながら、すばやく片腕を振り上げる。教わったとおりの然るべき動作を、寸分違わぬように忠実に再現し――。
その瞬間、見事な魔法陣が具現化した。
まばゆいほどの光の紋様がふたりを取り囲み、同時に落下の勢いが弱まった。手と手とを繋げたまま、ふたりの体は羽根が地面に落ちるより緩やかに、庭の草のやわらかな場所目指して降下していく。
ヴァンドーナはホッと安堵の息を吐き、思わず腕のなかの少女を抱きしめた。あたたかく細やかな感触と同時に、その体がはっきりと震えているのがわかった。驚き、そのはずみで魔導の技に対する集中が緩んだ。一気に落下したが、そこはもう地面の上だった。
「あ、ありがとう」
まろやかな響きをもつ声が、弱々しげに発せられた。抱きしめられたままのルレアの頬がぴったりと、彼の決して厚くはない胸に押し付けられている。ヴァンドーナは慌ててルレアのからだを開放した。
「良かった、無事で。……ごめん」
言葉の後半部分は抱きしめてしまったことに対する謝罪であったが、正しく相手に伝わったのかどうか彼にはわからなかった。ルレアは深くうつむいていたからだ。
「ううん、ありがとう。本当にごめんなさい……」
握りこんだ両手を胸に押し当てるようにして、ルレアは小さな声で礼を言った。
「あ、いや、その――あ、種はどうした?」
「あ、うん。ここにあるわ」
ルレアは顔を上げ、握りこんだままであった手のひらを開いてみせた。種は無事だったが、手のひらにくっきりと種の表面の模様が残ってしまっている。
「……あっ、必死だったから。ついぎゅっとしてしまって、種は大丈夫かしら」
「これからそいつ、さっそく森に植えに行かないか」
「本当っ? 行きたい、行きます!」
ルレアが一生懸命に伸び上がるようにして返事をした。その様子に、ヴァンドーナはホッと安堵の息を吐いた。
ふたりはそのまま庭を横切り、門を抜け、森の中を歩いていった。
あたたかな陽光の輪と葉陰の斑模様をすべらかな肌に躍らせて、ルレアは弾むような足取りで歩いていく。やがて立ち止まった場所は、大樹に囲まれながらも太陽の恵みを充分に享受することのできそうな、とても気持ちのよい空間である。
蜂蜜色の髪に陽の光を飾りながら、彼女が嬉しそうな表情で振り返る。
「このあたりでいいかなって思います。屋敷から近いし、すぐに様子を見に来れますもの」
今も屋敷の外は、危険な魔獣の闊歩する森であることに変わりはなかった。それは、この世界での当たり前の光景らしい。
けれどたった三ヶ月経っただけであったが、魔導の技を手に入れたヴァンドーナにとって、森はもはや恐れる領域ではなくなっていることも事実であった。
魔導の力は素晴らしい。その成長ぶりは、肩を並べて同じように勉強に励んできたルレアも同じであるはずなのだが――。
ヴァンドーナは屈み込んで土を掘るのを手伝いながら、無邪気に微笑む彼女の顔をそっと見つめた。
さっき落ちかけていたとき、魔導を使うように言われたときの反応。そして表情。
気のせいでなければ――それは、のほほんとして快活な普段のルレアからは想像すらできなかった、胸を締めつけられるほどに辛く悲しげな表情だったのである。




