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ソサリア魔導冒険譚  作者: 星乃紅茶
【第七部】 《双つの都 編》
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5章 暗躍する影 7-15

「なんだか知らねェけど、トルテやナルを殺されてたまるか!」


 リューナは口もとを引き結び、跳躍すると同時に利き腕に力を篭めた。手のなかで剣の柄がギリリと鳴る。


 残存しているトラップの位置は……なるほど、いけるか!


 崩壊を免れ、周囲に残っている罠――剣呑な魔法効果のある魔法陣の位置を素早く目で確認する。いま、リューナの遥か下まで床の気配はなかった。嵐雲のごとき黒々とした土煙舞う闇がわだかまって底知れぬさまは、まるでぽっかりと口を開いた手負いの怪物のあぎとのようだ。


 吸い込まれそうな眼下の光景から視線を前へと戻し、禍々しい妖剣を構えた敵をめつける。


「……莫迦ばかめ。空中では位置を変えることもできぬというにッ!」


 獲物を前にした獣のようなラムダの表情と唇の動きで、そう吐き捨てられたのがわかる。向けられた刃先は血を啜るかのごとき不気味な音を発し、獲物を切り裂きたくてたまらないといわんばかりに打ち震えている。


 けれどその妖剣の呪詛じゅそはリューナまで完全に届かなかった。耳元では埃っぽい空気が虚空を切り裂くようにごうごうと鳴っていたのだ。


 風――そう、ここには躍動している大気がある。闇の領域といえど、幻精界には現生界より顕著に現れる自然の理とさまざまな属性の干渉が存在している。魔法は、はじめから存在している魔力マナを利用するほうが遥かに効率が良い。意思の力で現実を変貌へんぼうさせ、具現化する魔導であるならなおのこと。


 リューナは剣を握っていない左腕を眼前に構え、敵に向けて吼えるように叫んだ。


「そこまで単細胞じゃねぇぞ、舐めんなッ!」


 叫ぶと同時に素早く腕を宙へ滑らせ、魔導の技による魔法陣を描き出す。然るべき動きで導かれた魔力マナはリューナの意思によって絡めとられ、浸食され、現実の事象を望みのままに変えてゆく――。


「ディアン仕込みの魔導技の必殺剣……受けて後悔すんなよッ!」


 空中を舞っていた埃や空気が凄まじい高音を立てて渦巻き、閉鎖された空間ではあり得ぬほどに力強い塵旋風を生じる。渦がリューナの跳躍を助け、加速を生じ、黒鎧の戦士が目を見張るほどの勢いとなった。


 リューナの長剣が、常人の目には映らぬほどの速さで繰り出される。


 ガヅリ! 周囲に舞っていた埃が一瞬で吹き散らされ、鼓膜がしびれるほどの衝撃音が響き渡る。狙い過たず、長剣の刃は黒鎧の肩に食い込んでいた。変則的なリューナの動きに相手は虚を突かれ、回避はおろか、その速度には妖剣での受け流しも間に合わなかったらしい。


「グァ……!」


 叩きつけられた剣に利き腕の肩を押さえつけられ、屈強なラムダも堪えきれず片膝をついた。足もとの床に逆棘のごとき鎧の突起が突き刺さり、そこからビシリと深い亀裂が奔る。びょうに覆われた鎧の肩当の一部は、リューナの腕力と剣撃によって砕かれていた。


 腕に響いてきた手応えを感じ、リューナは一瞬、口もとを緩めかけた――が、すぐに表情を引き締める。


「おかしいぞ、コイツの鎧の下まで届いていねェ……?」


「リューナ!」


 トルテの叫びがリューナの耳を打った。彼に注意を促すときの緊迫した声音――。


「うわッ!」


 本能的に仰け反ったリューナの鼻先を、ビュッと何かが掠め過ぎる。妖剣の闇刃が凄まじい勢いで振るわれたのだ。湾曲した妖剣を巧みに操り、ラムダが接近戦に持ち込んでいた。


 リューナの長い剣は近過ぎると不利だ。硬いブーツで相手の胸を蹴るように押しのけ、強引に距離を開ける。矢継ぎ早に突き出される切っ先を左右に逸らし、避けつつ場所を移動していく。


 相手は重量のありそうな鎧をものともせず、身軽に動き回るリューナを追って、崩れかけた不安定な足場を踏みしだいてゆく。


「足場を全て崩しちまうつもりかよ! 逃げ道を断とうとしてんのか、それとも俺をトルテたちから引き離そうとしてんのか?」


 余程鍛えているというのだろうか。先ほど肩に受けたはずの傷すら気にしているように思えない。逆に、足場のほうは確実に限界を迎えつつあった。リューナの剣やラムダの鎧の突起や重量に少しずつ削がれ、亀裂を生じ、砕けた箇所が増えてゆく。


 リューナの攻撃は、確かに相手に何度も当たっている。だがラムダは衝撃に顔を歪めるだけで、致命的な傷を追った様子はない。相手の鎧そのものには傷が残るが、それだけだ――リューナは顔をしかめ、不自然な体力をみせつけてくる相手の腹めがけ、力任せに剣を叩きつけた。


 体重を乗せた一撃を受け、ラムダが体勢を崩す。リューナはその隙に足場を移動し、相手との距離を開けた。まだ無事に残っていた通路に立って背筋を伸ばし、振り返る。


 仕掛けるなら今しかない――リューナはあえて余裕げな表情を相手に向けた。これ見よがしに肩をすくめ、笑ってみせる。


「こりゃあ思ってたより強敵みたいだな。突撃ばっかりのおっさんだけどさ」


 緊張感のない声で言い放ったリューナに、ラムダが赤を通り越した紫に顔色を変えた。歯をギジリと噛みしめ、リューナに妖剣の狙いを定めて床を蹴る。重そうな鎧をものともせぬ力任せの跳躍に、蹴られた床が砕け散る。


 回廊ときざはしの張り巡らされていた立体迷宮――戦いの余波を受けた石造りの内部は、すでにあちこちがボロボロに崩れている。遠い場所でもいくつか崩落があったようで、不連続な轟音がリューナの耳に届いた。


 リューナは瞑目し、顔をあげると同時に目を開いた。瞳の深海色の虹彩に魔導の白い煌めきが生じる。万物を構成している魔力マナそのものを視覚的に探り、素早く周囲を確認する。


 腕は戦いに慣れた本能のままに素早く動き、雷撃のように襲い掛かってきた妖剣を揺るぎない刃で受け止めた。身を捻るようにして位置を変え、僅かな足場を踏みしめて長剣を振るう。


 ギャリイィィン! 金属同士の衝突音と火花が散り、ラムダが衝撃に表情と体勢を崩す。相手の鎧がまた新たに砕ける――が、やはり致命傷を負ったという様子はない。


 ラムダはあざけるように薄くわらい、ブンと大きく妖剣で真一文字に宙を薙いだ。狭い足場に立っているリューナの状態に、真横に剣を振るわれれば避けられぬと判断したのだろう。


 けれど妖剣が切り裂いたのは、ただの空――。


「何ッ!?」


 驚愕したラムダが弾かれたように頭上を仰ぎ見る。リューナはすでに跳躍していたのだ。ラムダの発した怒声が轟き渡り、次いで力任せに床を蹴った音が響く。


 リューナは勝ち誇ったようにニヤリと笑ってみせた――莫迦ばかはどっちだってんだ! さぁ、来い!


 背丈ほどに長い剣を手近な壁を叩きつけ、リューナは自分の跳躍の方向を変えた。そこへ凄まじい形相をしたラムダが追いつく。


 黒鎧の男は勝ち誇ったように唇を歪め、リューナの目の前で嘲るような笑い声をあげた。空中へあるままの青年の腹へ突き入れるべく、禍々しい輝きを放つ剣を構える。


「今度こそ避けられぬわ! おまえの女もすぐに息の根を――」


 黒鎧の戦士は最後まで言い終えることができなかった。


 リューナは目前で爆発した凄まじい光量に、腕と剣で魔導の本質たる瞳をかばった。鋭敏な感覚に導かれるままに体勢を変え、足から壁へ衝突する。咄嗟に壁の突起を片手でつかんで落下を免れ、宙高くぶら下がった。全て、リューナの狙い通りだ。


「へっへん、ざまみろっての!」


 リューナは威勢の良い声をあげた。魔法の罠(マジックトラップ)によって捕らえられ、壁に貼り付けられて身動きもままならなくなっている黒鎧の男に目を向ける。


「そこでむなしくもがいてな! あとはラウミエールのおっさんに任せておくさ。俺たちは目的地に向かわせてもらうぜ」


 ラムダは凄まじい唸り声で応えた。全身に力を入れて束縛から逃れようと暴れていたが、魔法の戒めは容易に破れないらしい。


 魔導の技で長剣を右腕に収め戻し、足がかりを求めながらリューナはトルテの姿を探した。


 トルテは無事だ――リューナはホッと息を吐いた。十リール(メートル)ほど低い位置、周囲が崩れかけて見通しの良くなった場所に立つ、薄暗い闇のなかでも目を惹く金髪のツインテールとやわらかな色合いの衣服が見える。


「フン! やるな、尻の青い現生界の若造が――と言いたいところだが。まだまだ詰めが甘い」


 魔法の網によって壁に張りつけられたにラムダがニヤリと口の両端を吊り上げて笑い、次の瞬間、自由であった片手首のバネだけで鉤爪めいた妖剣を投げた。禍々しい刃の飛ぶ先は――。


「なッ……逃げろトルテ!」


 叫ぶと同時に夢中で壁を蹴りつけ、リューナはトルテに迫る刃に向けて稲妻のごとく落下した。トルテは視線を上げなかった。聞こえない距離ではないというのに!


 金色の髪が流れるように揺れている。リューナはようやく気づいた――彼女は魔導の技を行使しているのだ。


 両腕を差し伸べるように掲げ、舞い踊るかのように細やかな腰を回して、立体魔法陣を組み上げる。トルテの瞳にはいま、魔導の白い輝きが煌めいているに違いない。


 リューナは蒼白になった――魔法を行使している魔導士というものは、絶体絶命なほどに無防備なのだ!


「くそぉッ!」


 彼の位置は彼女からあまりにも離れすぎていた。宙に放たれた刃を叩き落すことができない絶望的な距離――。こんなときだというのに、トルテはなんの魔導を遣っているんだよ!


 時が歩みを遅くしたかのように、届かぬ腕の先で、彼女の体が刃に貫かれようとしている。リューナの瞳が白熱し、腕に篭められた力が際限なしに強まってゆく――。


 だがそれより早く、土埃と闇の満ちた空間を、巨大な獣が突進してきた。地の底から響いてくるような唸り声が迷宮全体を震撼させる。


 ようやくトルテが顔を上げた。眼前に迫る刃の煌めきに気づいて、鮮やかなオレンジ色の瞳を見開く。


 けれどその刃は凄まじい音とともに噛み合わされた牙の連なりに噛み砕かれ、禍々しい閃光とともに消滅した。見事な牙の連なりは煙を上げるかたまりをぺっと吐き出し、乳白色の瞳がリューナを見上げて得意そうな笑みを形作る。


「す、スマイリーかよッ?」


 リューナは驚いた。トルテの身を危機から護り、ピィピィと騒いでいる古代龍と元気に手を振る幼女を巨躯の背に乗せているのは、荒野で別れたきりの『月狼王』スマイリーだったのだ。


「リューナ!」


 トルテは背を低めてくれたスマイリーのしなやかな首によじ登り、リューナに向けて大きく手を振った。リューナは一旦手近な足場に降り立ったあと、改めて幻獣の大きな背に飛び乗り、手を伸ばして抱きついてきたトルテの体をしっかりと受け止めた。


「ピュルティ、リリュティ」


 のほほんと声をあげる龍の幼児にジト目を向け、リューナは眉を跳ね上げた。


「なんだよ、心配して損したぜ。ピュイおまえ、いったいどこへ居たんだよ」


「吹き飛ばされて落っこちちゃってたんだって。おねえちゃんが気づいて、呼んだら戻ってきてくれて、外に繋がっている穴を広げるのを手伝ってくれたんだから。そしたら、すっごいんだよ! その穴からこの狼さんが入って来たんだもん!」


 ピュイの首にしがみついたナルニエが目をキラキラさせ、嬉しそうな声で事の次第をリューナに報告する。


 リューナの胸から顔を上げたトルテが、ナルニエの言葉を補足した。


「同じ世界と時間のなかで、スマイリーとあたしは繋がっていますから。……手間取ってごめんなさい。『透視クレアボヤンス』と『精神感応テレパシー』の魔法を組み合わせ、こちらの位置を割り出していたのです。ピュイの炎は魔法属性を持っていますから、壁に開いていた換気孔を広げるお手伝いをお願いしたんです」


 そこまで言って、トルテは心配そうに眉を寄せた。


「そういえば、リューナ。あの乱暴なひとはどうしたのですか?」


「あ? あぁ――」


 リューナが答えようとしたときにはもうすでに、スマイリーは身をひるがえして来た道を戻りはじめていた。


 ラムダの怒声が遠ざかる。土埃に煙っていた視界が暗転し、外から吹き込んでくる空気が首筋を掠めてゆく。スマイリーが進入してきた、外まで通じているはずの換気孔へ飛び込んだのだろう。


 内部には充分な幅と高さがあり、緩やかな傾斜になっている。


「なにを企んでいたのかまではわかんねぇけど、今回の騒ぎを起こした張本人みたいだった。『いましめ』の罠っぽい魔法構成の仕掛けがあったのを見て、足留めに使えるかなと思って誘い込んだんだ。今頃ラウミエールが拘束してくれてるといいんだけど」


 リューナは考えを巡らせながら答えた。自分たちに向けられた記憶にない怨恨を差っ引いても、あいつの世界そのものに対する憎悪も相当に深そうだった。それに、あの戦っているさなかの奇妙な感覚……。


「リューナ」


 トルテがそっと寄り添うようにリューナの胸に頬をくっつけ、瞳を伏せた。リューナは彼女の細い肩に腕を回し、抱き支えた。


「少し……疲れました」


 腕のなかのトルテが言った。いつものような快活さはなく、消え入りそうなほど弱々しい声音に、リューナは驚いて彼女の顔を覗きこんだ。


「あたし、まだまだ魔力マナを上手に遣うことができなくて、無駄遣いばっかり……どうすればいいか頭ではわかっていても、そのとおりの魔法陣をすぐに描くことができなくて。ルシカかあさまは状況を見極めて、いつもぴったり必要にされている魔法を遣えるんです。あたしも……ルシカかあさまみたいになりたい」


 トルテは揺れる羨望の眼差しを、遠くに投げかけながら言った。


「ルシカさんは特別だろ。だって宮廷魔導士なんだからさ」


「特別……そうです。みんなかあさまのことは特別だからって。でも、とうさまもおじさまも言ってたんです。特別なのは地位と魔導の力の『名』だけで、彼女自身はなにも特別なんかじゃないって。使いこなせる意思と洞察力、そして周囲を思い遣る気持ちと覚悟があるだけだって」


「ん? だったら……どうして?」


「どうすればあたしも身につけることができるかな。かあさまみたいに……」


「トルテはトルテだろ。俺からみれば、おまえもすげえよ。複合魔導はおまえしか遣えないじゃんか。それに……俺にとってトルテは、他の誰にも代わりができないんだぞ」


 スマイリーは換気孔から飛び出し、常闇に沈んだ平原を走りはじめた。地表への出口は離れた場所にあったようで、遥か後方の闇に宮殿らしき影があった。外気が心地よく、熱くなっていた頬をひんやりと冷ましてくれる。トルテの長い髪が風に流れて、リューナの腕にさらさらと当たっていた。


「リューナ……」


 抱きしめられたトルテは瞳を下げ、リューナの腕を見て微かに息を呑んだ。


「あ、リューナ。ここ、……痛くないですか?」


「ん? あ、あぁ」


 瓦礫が降っているなか、剣を振り回して戦っていたからだろうか。腕のあちこちに傷ができていた。


 『治癒ヒーリング』を遣おうとしたトルテを制し、リューナは自分で傷を癒した。トルテは疲れている――いつも魔導はトルテ任せだけど、俺は『生命』の名の魔導士なんだから、このくらいはやらないと。そう思ったリューナは続けて魔法陣を描き、トルテの負っていた傷を塞いだ。


「魔法は便利だよな。一撃で死ななきゃ、こうしてすぐに傷を塞ぐことができるんだからさ。俺は前で戦っているから怪我して当然でも、トルテにはできるだけ傷ついてほしくないんだけど」


 うつむいたトルテを元気づけようとして、リューナは冗談めかして言った。その言葉に、トルテが伏せていた顔を上げた。


「リューナ! あたしはリューナに傷ついて欲しくないんです。怪我して当然だなんて……そんなふうに言わないで……」


「トルテ……」


 ほのかに輝くオレンジ色の瞳に透き通ったしずくがあふれ、風に散った。


 『月狼』の最上位種であるスマイリーの躍動する体躯が力強く大地を蹴り、静寂の支配する闇のなかをぐいぐいと進んでゆく。背の後ろで聞こえていた幼い龍と幼女のはしゃぎ声は、いつの間にか静かになっている。


 リューナは言葉を探して口を開いたり閉じたりしていたが、真っ直ぐに向けられた眼差しと、少女のこぶしにきゅっと握られた胸のシャツに観念し、素直に言葉を発した。


「わかったよ、トルテ。軽く言っちまってごめん……できるだけ気をつけるよ」


 リューナの言葉を聞き、トルテはようやく力を抜いた。くたりとリューナの腕に体を預けるように目を閉じる。疲れのあまり堪えきれず、なかば意識を失ってしまったように、眠りこんでしまったのだ。


 後ろも静かなままだなと思っていたら、ピュイもナルニエもすでに仲良く寝息をたてていたのであった。スマイリーも気を遣ってあまり揺らさぬように駆け走っているのか、転がり落ちる懸念も必要なさそうだ。


 リューナは腕のなかで眠る少女に眼を戻した。閉ざされたまぶたの端、長い金色の睫毛まつげにひとしずくの涙が残っている。細い肩とあたたかい体を抱きしめ、涙をそっと指先で拭った。


「心配かけているのは、俺のほうなのかもしれないな……」


 進む闇の先に瞳を向けながら、リューナはつぶやいた。





 崩壊してゆく空間で、呪詛のごとき低い声が響く。


「名無き神は運命を掻き乱すのをやめられぬとみえる。だがもう愉しみは終わりだ。思い上がりには相応しい終焉を、傀儡くぐつには消滅を。どう足掻こうが変わらぬ。そうでなければ納得できぬ」 


 床に降り立ったラムダは禍々しき気配を発する弓を握り締め、頭上へ向けた。刹那、黒い雷撃が闇の大地を震撼させた。次いで轟き渡ったのは、闇の領域を統べる影の宮殿の半分が消失した悲鳴のような地鳴りであった。


「覚悟しておけ。このままでは済まさぬぞ……!」



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