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ソサリア魔導冒険譚  作者: 星乃紅茶
【番外編2】 《白き闇からの誘い 編》
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3章 青と白の回廊 外2-6

 降り積もった白砂は幽鬼めいて青の世界に燃え上がり、ひどく美しかった。その広さは、ひとつひとつが区切られた入り江であるにもかかわらず、この場だけでも王宮の東エリアに匹敵するほどであった。


 テロンはかがみこんで砂をこぶしに握り込んでみた。砂はまるで砂漠のもののように乾いていて、すぐに指の間からこぼれ落ちてしまう。普通、海岸に堆積している砂というものは重く湿っていることが多い。だが、ここの砂はまるで作り物めいた粒の揃いようで、風や波による縞模様も形成されず、ただなだらかに敷き詰められている。


 テロンがふと振り返ったとき、砂を踏んで残っていたはずの足跡が、つけたそばからさらさらと埋まり消えてゆくのを目撃した。驚き、そのことを指摘すると、ルシカは瞳に力を込めて周囲を見回して眼を見張った。


「ここには空間全体に、環境維持の魔法がかけられているんだわ。他の魔法陣に織り込まれていたので、言われるまで気づかなかったけど……」


「歩いたルートと自分の位置を常に把握していなければ、迷う可能性もあるのだな」


「ふむ。ここで倒れたら、自分たちも掻き消されてされてしまうということか」


「変なことを言うなよ、兄貴」


 テロンは苦笑し、改めて周囲を見回した。船から見た砂浜は、六角柱によって隣の入り江とは完全に分断されている。ここはそのひとつに過ぎない。砂浜から奥に進むと、そこには同じような柱が立ち並んでいて、まるで本物の森さながらに視界を狭め、迷宮のように入り組んだ通路を形成しているのであった。


 残してきた船影が遠くなり、砂浜の端にたどり着く。林のごとく立ち並ぶ柱の間隙かんげきに三人が進み入ろうとしたとき、後方からオホン、というしわぶきの音とともに低くかすれた声が聞こえた。


「――わしもついて行って良いかな」


 テロンたちは振り返った。船から最後に降りたグリマイフロウ老が、腰にこぶしを当てて背を反らすようにして立っている。伸びた背筋は老人のものとは思えないほどで、眼光鋭く鼻息あらく、気力たっぷりという様子であった。


「しかし――」


 テロンは返事を躊躇ためらった。老人は、革の上着と前掛けを身に着け、たくさんあるポケットに様々な道具をずらりと並べるように突っ込んでいる。けれど、武器らしきものは何ひとつ携えていないようにみえたからだ。


「戦いになったらどうするつもりだ、グリマイフロウの爺さん。……悪いが、船で待っていてくれ。何か見つけたら呼びに戻るから」


 クルーガーが後頭部に手をやり、困ったように老人を見やった。


「でも、納得してくれそうにもないんじゃない? あたしだったらゼッタイついて行っちゃうだろうし。クルーガーだって同じでしょ?」


 ルシカが言った。グリマイフロウ老の瞳の輝きは、好奇心と知識欲に衝き動かされたルシカのものとよく似ている。


 テロンは額を手で覆い、諦めたように首を振った。クルーガーとルシカはもちろん、この老人も興味あることや愉しそうなことをみすみす逃す性質たちではないのである。きっと待機だと命じられてもついてくるだろう。


「兄貴の負けだな」


 テロンの言葉に、クルーガーが目をすがめる。しかし、それ以上は反対しなかった。


「……いいだろう。ただし何かあれば、自分の身の安全を優先してくれ。まァ、それに――さきほどの魔獣から逃れるとき、良い知恵を貸してくれたのも事実だしな」


「さすがは国王陛下、そうこなくてはな。大丈夫じゃ、これでも役に立ってみせるぞい。それに、の王宮を造ったものが去った弥終いやはてがこの島だというのなら、行かぬわけにはいくまいて」


 グリマイフロウ老は欠けたところのない歯をみせ、実に嬉しそうな笑顔で言った。さっそく砂を蹴立てて駆け寄り、三人の若者たちに合流する。


 さっそく柱の造形や展開されている魔法陣についてルシカが話しはじめようと口を開いたとき、きらきらと輝いていたその瞳の動きが止まった。


「待って! 何か……感じるわ」


「どこからだ?」


「あっちの方向に、こことは異なる魔導の気配を感じるの」


 ルシカが差し示したのは船とは真逆の方向、つまり進もうとしている先である。テロンは眼を凝らしてみた。もちろん彼の眼に魔導の干渉は見えないが、そこに乱立しているように見えた柱の一続きが、実は巧妙に奥に向かって伸びている通路を隠していることがわかった。


「……よし、行ってみよう」


 低く発した言葉と同時に、テロンはこぶしを握りしめた。同じように気づいたのだろう、クルーガーが音を立てずに剣の柄を叩いてみせ、警戒を促す。――近くはないが、何かの気配を感じたのだ。


 テロンはルシカの様子をちらりと確かめた。魔導の気配を探ることは、微小ながらも魔力マナを消費しているはずだ。戦いになったときにはなおさらである。少しでもルシカに疲れた様子が窺えたときには、休息を取らせるつもりだった。


「もし進む先に、少しでも妙な気配があったらすぐに教えてくれ、ルシカ」


 クルーガーが声を掛けると、ルシカは力を込めた強い瞳で大きく頷いた。


 緊張した面持ちだが、その瞳に宿っているのは好奇心と高揚、僅かなおそれ、そして知識欲に衝き動かされているときの危うい輝きである。彼女がふいに走りだしてしまわないよう、こちらのほうも警戒しておかなければならないなと、テロンは感じた。


 青と白に塗り分けられた神殿めいた柱の間を抜け、テロン、クルーガー、ルシカ、グリマイフロウ老の四人は歩み進んでいった。まだ気配は遠い。柱の間は暗く、一行の足元を照らす光は、ルシカの手もとに浮かぶ魔法の輝きのみである。気配が近くなれば、それすらも消すことになるだろう。


 陸の六角柱は、水路を埋めていたものよりなめらかな表面をしていた。柱ひとつひとつの傍を通りすぎるたび、魔法の小さな白い輝きが鏡に反射しているかのように増え、時折(まぶし)いほどに感じられる。テロンとクルーガーは周囲の物理的な気配を探りながら、慎重に歩みを進めた。ルシカはオレンジ色の虹彩に白い魔導の輝きを宿しながら、魔法的な危険を探りつつ歩いている。


 遥かな頭上にある天井は闇に沈み、まるで星のない夜空であった。ただ、空気はそよとも動かない。寒くも熱くもない温度に保たれており、呼吸する空気には何の匂いも感じられなかった。言うなれば、不自然なほどに清浄に、あるいは静謐に保たれている空間なのである。


 前方に感じられていた気配が、揺らめいて消えた。テロンとクルーガーは立ち止まり、息をひそめて感覚を研ぎ澄ましたが、何も感じられなくなっている。ルシカに視線を向けると、彼女は首を横に振ることなくテロンの瞳を見返してきた。魔導の気配のほうは変わらず存在し続けているらしい。


「そういえば……」


 静寂に耐え切れなくなったのか、ルシカが囁くように声を発した。


「この島に導かれるように進んできたわけだけれど、月の光が島を照らしていたのよね」


「そうだな。ちょうど雲が切れてくれなければ、ここにたどり着く前にあの魔獣に沈められていたかもしれん」


 緊張を解そうとするかのように、クルーガーが微笑しながらゆっくりと応える。その言葉の遣り取りに、テロンは違和感を覚えた。――何だろう……何かが引っ掛かった。ルシカも何を言おうとしているのだろう。そう考えた次の瞬間、テロンはハッと気づいた。ルシカが彼の表情の変化に気づき、ひとつ頷いて口を開いた。


「そう、月の光だとあたしたちは思ってた……けれど、おかしいとは思わなかった? だって今は――」


「新月だったな、ルシカとドームのテラスで夜空を見ていたとき」


「うん。だから今は繊月せんげつから三日月に変わるところよ。あんなにも明るい光が届くはずがないのに」


 クルーガーもその意味に気づき、目を見開いた。


「そうか……確かに奇妙だな。ではあの光はいったい何だったというんだ?」


 ルシカが唇に人さし指の関節を押し当てた。そのときの光景を詳細に思い出そうとしているのだろう。だが、テロンもあのときは追ってくる魔獣のことばかり気を取られていて、空の様子などはっきりと脳裏に思い出すことなどできなかった。


「いま考えてみれば、風のないはずの魔の海域で、雲が動くはずがない……か」


「なあ、俺は思ったんだが――」


 クルーガーが真剣な面持ちで言い掛ける。テロンはルシカと一緒に、思わず身を乗り出して耳をそばだてた。


「――ふたりで夜空を見上げていたと? 羨ましいなァ、新婚は」


 ニヤリと笑い、兄は言った。テロンは呆気に取られて口が塞がらず、ルシカを見るとちょうどテロンと目が合った。そのすべらかな頬が真っ赤に染まり、テロンもつられて頬が熱くなる。


「冗談だよ」


 両手を挙げるクルーガーに、「そんな場合じゃないだろう」「ないでしょう!」という奇妙な二重奏が向けられる。テロンたちは慌てて口元を押さえ、声を押し殺した。グリマイフロウ老は無言で眉をあげている。


「まァッたく、初々(ういうい)しいな」


 クルーガーが横目で笑い、何事もなかったかのように再び歩きはじめた。


「もーっ、クルーガーってば!」


 小声で叫んだルシカが追いつき、その背中の衣の裾を握ろうとしたときだ。クルーガーが柱を回りこんだ先で唐突に立ち止まったのである。その背中に、勢い余ったルシカが突き当たる。


「どうした、兄貴?」


 テロンも追いつき――兄の肩越しに目の前の光景を見て絶句した。


 そこは、明らかにひとの手で作られた空間であった。王宮の回廊とおなじほどの広さの、美しく整えられた通路が奥闇の彼方へと続いている。足元は、幅の広く段の低いきざはしが刻まれていた。ゆるやかに下へと向かっている。


 両脇に立ち並ぶ柱には、明らかに光を灯す目的の燭台しょくだいがずらりと設けられている。ルシカの手のひらに浮かぶ輝きを受け、そのひとつひとつがきらきらと宝飾めいた光を放っているのであった。


「これはまるで、王宮の回廊だ……」


 テロンは眼を見張った。その燭台は、王都ミストーナの『千年王宮』の回廊に並んでいる光を灯す燭台と、まったく同じ形状のものだったのだ。


 ずんぐりと胴の丸いポットのような球状の容れ物が、優美な線を描く台座とともに柱に固定されている。球の表面には流れる雲のような装飾が施されており、透けるほどに薄いその素材は、見た目に反して強度が高そうな印象があった。


 王宮のものもそうだが、その燭台は燃える炎を灯すものではない。魔法で作り出した光を灯し、維持する構造を持っている。魔法の光のいろというものは本来、あたたかさとは無縁の素っ気ないものであるが、その台座に固定された途端に炎さながらの熱を放ち、透き通るようなオレンジ色のあたたかな光となるのだ。


 きざはしは、さらに奥へと下り続いていた。白くきめの細かい岩石を、さらに鏡のようにものが映るまでに磨いたようにすべらかな表面をしている。あやしくも心惹かれる雰囲気で、まるで秘密の場所にでもいざなっているかのようだ。


 一行は誘われるような足取りで歩み寄った。白い砂が敷き詰められた道の終わり、きざはしのはじまる場所まで。


 テロンは耳を澄ませ、青い瞳をすがめて階段の先に意識を集中させた。動くものはない。殺気もない。けれど、どこまで続いているのかさっぱり行き着く先が見えない。


「……どう思う?」


 クルーガーが低く問うた。


「罠らしき魔法の結界は見えないわ。気になるとすれば、この光を灯す台座の存在くらいね」


 ルシカが口を開いた。


「俺は、この先に進もうと思う。ここまで来て、引き返せないだろ?」


 クルーガーが口元を微笑ませ、恐れ気なく一歩を踏み出す。テロンは兄の肩に手を掛け、自分が先に進む意思を伝えた。兄を追い越し、暗い階段を進んでいく。けれど十段ほど下り進んだ場所で、やんわりと押し戻される感覚があった。見えない壁に突き当たったように、それ以上進むことができなくなってしまう。


「不思議だ……目の前にはただ普通に階段が続いているだけなのに」


 腕を伸ばして見えない壁の存在を確認しながら、テロンは疑問を口にした。背後についてきていたルシカがテロンの横に進み出て、同じように手を差し伸ばす。


「……障壁だわ。展開されている魔法には、闇の気配がする。ずっと感じていた魔導の気配はこれだわ。けれど悪意あるものではないみたい。危険を冒させないための配慮みたいだけれど……」


 魔法の干渉を探るルシカの瞳が、左右に並んでいる燭台に行き着いた。ルシカは細い腕を伸ばし、指先でその表面に施されている優美な彫刻をなぞった。


「――これだわ。光を灯さなければ、この結界は解除できないみたい」


「そこまでわかれば話は簡単だ。ルシカは下がれ。何が起こるかわからないからな」


 クルーガーが歩み出て、ルシカの眼前にあった燭台に腕を伸ばした。口のなかで光を作り出すための魔法語ルーンのひと続きを詠唱えいしょうしはじめる。


「待って、クルーガー」


 ルシカが制止の声をあげた。魔法と剣を扱う青年の腕に手を添え、そっと押さえるようにその腕を下げさせる。


「ここがもし王宮と同じ構造なら、光を灯すのはこの燭台じゃないかも」


「どういう意味なのだ?」


 クルーガーが訊く。


「王宮の回廊や階段に灯される光って、すごい数並んでいるよね? あれらはすべて、毎夜ひとつひとつ灯されているわけではないのよ」


 燭台を見つめたまま、ルシカが語りはじめる。


「並ぶもののうちのひとつに灯すことで、連動してすべてに光が灯されていくの。それは広間でも回廊でも場所が決まって、必ず左側にあるふたつめの台座になっているの」


 ルシカはクルーガーとテロンの顔を交互に見て、ふたりの浮かべていた驚きの表情に小首をちょこんと傾けた。


「……もしかして、ふたりとも知らなかったの?」


「ああ。はじめて聞いた……そうだったのか」


「すべてひとつひとつ、俺の知らないうちに係の者が灯して歩いているのかと思っていた……」


 ふたりがそう答えたのを聞いて、ルシカは眼を丸くした。細く整った優しげな眉を上げ、困ったような微笑みで首を振ると、やわらかな金の髪が流れるように揺れた。


「あっきれたぁ……。ずぅっと生まれたときから住んでいると、当たり前になってしまうのかな。考えてみれば自分の家のことなのに。王宮はいつもきれいが普通で、服もシーツも自然に洗濯されて用意されていたり、そんな感じなのかな。あたしはおじいちゃんとふたりで住んでいたから家事をしていたし、家のことはきちんと把握していたわよ」


「男っちゅうもんは、あまり家のことに関心を持たないものなんじゃよ、ルシカ殿」


 老齢のグリマイフロウが、何やら深く理解しているかのような顔で何度も頷いた。ふたりを擁護しているのか面白がっているのか、ルシカに向けて片目を瞑ってみせる。ルシカが頬を膨らませた。


「いや、ルシカの言う通りだな」


 テロンは照れたように口元を緩め、頬を掻いた。クルーガーは青い瞳をぐるりと回して、肩をすくめてみせる。ふたりの様子にルシカが吹きだし、あたたかな微笑を浮かべた。彼女は段を上へと戻り、入り口から見て左側に並んでいる台座の手前から二番目のものに歩み寄った。


「だから、この場所に灯せばいいのだと思う――」


 ルシカは腕を伸ばし、手のなかにあった魔法の光を燭台に近づけた。球体の表面に手のひらを押し付けると、魔法によって生み出された白い輝きは苦もなく球体の内部に取り込まれ、その白い輝きをあたたかな光のいろに変えて明るく力強く、周囲を照らし出した。


 シュボッ、シュボッ、とあたかも火口ほくちが燃え上がるような音を立てて、近い場所から奥へ向けて次々と光が灯されていく。隣の燭台に連動していくように、同じ輝きが伝わってゆくのだ。


 見える範囲すべての台座に光が灯るのに、それほど時間はかからなかった。それでもまだ階段の先は相変わらず果てのないように続き、燭台の光だけではどこまで続いているのか見極めることができない。相当深い位置まで降りているようだ。


 テロンは驚いた。見えない壁に手を当てていたのであるが、そこにあった抵抗が唐突に消え失せたのだ。手のひらが苦もなくその場を突き抜ける。まるで最初からそこには何もなかったかのように。


「進めるようになっている。闇の結界を、光が解除したということか」


「光を灯す方法を知っている者だけが侵入を許されていると、言わんばかりの仕掛けじゃのぉ」


「まさにそういうことだな。……しかし、いったい何の為だ。王宮に住まうものが訪問することを待っていたというのか? それとも、ここも王宮を建てた者が同じように建造したもので、離宮か隠れ家だったとでもいうことか?」


 クルーガーが腑に落ちないという表情で腰に手を当てた。ルシカの背後に歩み寄り、その肩越しに燭台を見つめる。


「ともかく進んでみよう。他に道があったとしても、この先を調べてからでも良さそうだ」


 テロンが一歩踏み出したときだ。


「あっ!」


 ルシカが短く悲鳴をあげた。通路の下方に向けていた両眼を押さえ、ふらりとよろめく。傍に立っていたクルーガーが、足を踏み外しかけたルシカの肩を支えた。そしてすぐにその体を抱えこむようにして後方にかばう。同時に、腰の剣の柄に手を掛けている。


 テロンは後方に戻れなかった。強い存在感を伴った気配が、すさまじく濃い魔力マナの渦とともに階段途中の空間に現れたのである。さらに十段ほど下りた先だ。


 それは、この場所にたどり着く前に感じていた気配と同じものであった。得体の知れない、この世のものとは思えないほどに異質な気配。テロンは腰を落とし、いつでも『聖光気せいこうき』を発現させられるように全身を緊張させた。


 一行の警戒と動揺の視線のなかで、魔力マナの渦がこごり、ゆっくりと人の形を成してゆく。取り巻くような数多あまたの光の粒を纏う長身のものが現れ、あたかも訪問者たちを歓迎するように両腕を左右に開く。


 その所作は関節の動きを感じさせず、まるで実体などないかのようになめらかで、見惚れてしまうほどに優美なものであった。仲間のうちの誰かがゴクンと喉を鳴らすのが、テロンの耳に届く。もしかしたらそれは、自分であったかもしれない。


「――ようこそ」


 そのものは言った。波動のような音、なかば心そのものに響き伝わる言葉で。



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