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ソサリア魔導冒険譚  作者: 星乃紅茶
【第五部】 《従僕の錫杖 編》
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4章 海の向こうに渦巻くもの 5-10

 三角江エスチュアリーの底を穿うがち、中型船舶なら港までじかに入ることができるよう整えられた規模の大きな港には、たくさんの者が働いていた。威勢のよい怒号のような野太い声が飛び交い、潮に当たり日に焼けた海の男たちが忙しそうに荷を降ろし、運んでいる。


 大型の船舶は沖合いに停泊する為、はしけも多く浮かんでいた。


 王都に隣接する港である。港の規模としては、北の街道にある大都市ロスタフに次ぐものだ。


「うわぁ~」


 潮風に吹かれ、マイナの黒い髪がさらさらと鳴った。まん丸に開かれた目と口が、その驚きを代弁しているようだ。


「マイナムの港とは全然違います。漁船以外の船がこんなに!」


「王都ミストーナは、陸路と海路が交差する地でもありますから。僕もはじめて見たときは驚きましたよ。こんなにひとがいるのか、世界は何て広いんだろうって。この海から繋がる世界は、もっともっと広いんでしょうね」


 港区域への入り口から倉庫の立ち並ぶ一角を抜け、一気に目の前が開ける場所である。


 そこで立ち止まったマイナを追い越しそうになり、同じように立ち止まったエルフ族の青年が、彼女に共感して話しかけたのだ。


「はじめて見たとき?」


「はい。僕は『隠れ里』という、閉鎖された空間でずっと暮らしていた一族の者ですから」


 ティアヌは薄青色の瞳を穏やかに微笑ませた。その背にぶつかるようにして追いついた女性が、明るい声で話に割って入った。


「大陸の南には、街全体が水没しているみたいに水路だらけで、馬の代わりに船が行き交っている場所もあるわよ。広い世界を巡っていると、いろんな発見があるんだから。旅はオススメよ!」


 茶色の髪を軽く振り、琥珀色の瞳をきらきらさせたリーファが踊るような足どりで、立ち止まったふたりを先にいざなう。


「――ほらほら。ルシカたちが待っているわ。行きましょ!」


 やがて、目指す船が見えてきた。


 王宮が召し抱える船が多数停泊する、一番奥の外洋側にある場所に、今多くの男たちが動いていた。必要な荷や物資などを運び入れ、あちこちの点検を行っている。


 くだんの船は、パッと見ると中型の帆船トップスルスクーナーのようだが、周囲に停泊している商用の、あるいは軍用の、普通の船とは明らかに造りが異なっているのだった。


 ぐっと突き出した舳先には幾何学模様が施され、その飾り装飾と繋がるように左右から海面に向けて、細いが頑丈そうな鎖が出ていた。その鎖を繋ぎとめる役割を担った奇怪な金具の仕掛けは、船の横腹のほうにまで及んでいる。


 見張り台は、舳先に張り出していた。帆柱マストは三本、全長は四十リール(メートル)近くある。


「何だかずいぶん、他と変わった印象の船ですね。今、実際に目にして、僕は馬車を思い出してしまいました」


「……なるほど、言われてみれば、そうね」


 そんなティアヌとリーファの会話につられるように、マイナも顔を上げ、その白い船体を見上げた。


 今のマイナの瞳には、その船全体に張り巡らされた魔導の技による結界が見えている。ぼんやりとだが、昨日の夜から、王宮のそこかしこに展開されている魔法陣やその影響までもが見てとれるようになっていた。


 自分の内に閉じ込められ、今まで表に出てこなかった力が、滾々(こんこん)と湧き出しはじめたような感覚といえば近いだろうか。


 そういう事象を見通す瞳や力を持つ者を何と呼ぶのか考えていると、船の前でマイナたちの到着を待っていた宮廷魔導士ルシカが手を振っているのが見えた。その傍らには、王弟テロンの姿もある。ふたりとも、今の自分たちと同じように、旅装束に身を包んでいた。


「……魔導士……」


 ふいにその言葉が、マイナの脳裏に浮かび上がった。





「おおおっ。こっちじゃ、こっちじゃ!」


 低音がかすれたような印象の声に一同が目を向けると、甲板からひょっこり顔を出した小柄な老人と目が合った。かくしゃくとした動き、老人とは思えぬ身の軽さで船へのきざはしを降りてくる。


 思わず呆気に取られて地面に立ち尽くしたままの一行まで駆け寄ると、老人は王弟殿下に気取った礼をして宮廷魔導士の手を取り、うやうやしく慇懃いんぎんに接吻してみせた。次いでその手を嬉しそうに握ったまま、ぶんぶんと上下に揺すった。


「テロン殿、ルシカ殿っ! いやはや今回急ぎの出航でバタバタと忙しいことこの上ないが、嬉しいのぉ。ありがたいのぉ。我が娘を使っていただける日が来るとは!」


「娘?」


「この船のことだよ。リミエラ号っていうんだ」


 リーファの問いには、テロンが答えた。なるほど、船には女性の名が付けられるというから、そういう扱いなのだろう、と一同が理解する。


「期待してます」


 ルシカが朗らかに笑いながら応え、皆に老人を紹介した。


「グリマイフロウ老よ。機械工学の第一人者で、今回使うこの船の設計者なの」


「ふおっほほほ。科学好きが高じてな、機械技師をやっておるのじゃ。弟のグリマイスクスは化学好きが高じて、花火師なんてことをやっておる」


 ふたり合わせて『ソサリアのグリマイ兄弟』といえば、奇特で常人には理解しがたい論理と技術で世間を驚かせる、天才天災コンビなのであった。


 王国の明るい未来のためには新しい技術も必要だということで、国王や王弟、ことに新しいもの好きな宮廷魔導士から支援を受けて、一緒に暴れ――もとい、新しい技術の開発に取り組んでいるのであった。


「でも、どうして機械工学とやらのひとが、船大工になっちゃったんです?」


 ティアヌが怪訝そうに耳をひくりと動かした。


「それはもちろん! これが、普通の船ではないからなの」


 ルシカのオレンジ色の瞳が悪戯いたずらっぽくきらめいた。


「今回の船旅、できるだけ速く進みたいし、戻るときにもこの港まで一気に帰り着きたいし。何より――外洋の、これから通るルートは魔物だらけでとても危険な海域だから、ぜひともウルの力を借りたいのよ。そのためには普通の船では対応できなくて、ね」


「昨夜もその名前が出ましたが、ウルって誰ですか?」


 続くティアヌの問いにルシカは口を開きかけ、テロンと目を見交わせた。少し迷ってから、改めて口を開く。


「あたしとテロンの友人よ。半年ほど前に知り合ったの。……でも、ちょっと言葉では説明しにくい相手なのよ。だから、あとで直接紹介するね」


「はあ」


 気になっている事をはっきりと説明されず、れたようにティアヌの長い耳がしょんぼりと垂れた。まあまあ、とリーファがその肩を叩いている。


「なんというか――説明のしようがないよな、あいつは」


 テロンが頬を掻きながら付け加え、船に向かって歩きはじめた。


「こうなったら、リーファ。僕たちも手伝いますよっ。一刻でも早く出航して、真実を見極めるのです!」


「ありま……、はいはいっ」


 腕まくりして、魔術師の杖を腰のベルトに手挟たばさんで駆け出したティアヌに、苦笑したリーファが続いた。


 残ったマイナが周囲を見回しながら立ち尽くしているところへ、ルシカが声をかけた。


「あたしたちも行きましょう。船の中を案内するわ。――それから」


 小声で、あまり背が変わらない少女の耳元に囁きかける。


「クルーガーのことなら心配ないわ。止められたって聞くようなひとじゃないもん。またルーファスさんが泣くことになるでしょうけど」


「は、はぁ……?」


「だから、今は気にしないで。行きましょう!」


 にっこりと笑い、ルシカはマイナの手を引いた。そして、船体に取り付けられた舷梯タラップに向かった。


 



 出航準備を終えたリミエラ号は、外洋に向けて向きを変えた。


 乗組員は、テロンとルシカ、マイナ、ティアヌとリーファ、そして強情についていくと言い張ったグリマイフロウ老、あとは乗組員十五名だ。王の直属兵なのだが、その出で立ちと振る舞いは冒険者、雇われの海の男という風情に仕立て上げられている。


 テロンたちも、王宮での服装ではなく、冒険に出かける武道着や胸当、魔法を操る者のための長衣などを各々身に着けた。マイナは黒い髪を結わえ、動きやすそうな丈の短い衣服に着替えていた。グリマイフロウ老は、革の被り物にゴーグル、様々な工具を腰のベルトに収納した前掛けという、一風変わった装備だ。


「準備はいいぞ。おぉ、それから言い忘れておったわい。弟のグリマイスクスから旅への餞別として、特製花火を預かっておる」


「花火……ですか。必要あるのでしょうか?」


 ティアヌが訊くと、グリマイフロウ老はニヤリと精悍な感じに笑った。


「もう積み込んじまったわい。さぁて、では、出航と行きましょうかの」


 グリマイフロウ老に促され、ルシカはテロンに視線を向けた。テロンが頷いたので、甲板から舳先に向かい歩き出す。ルシカは甲板から数段高い位置にある物見台に立った。


 外洋に向け、ルシカは目を伏せ、何事か、低く、高く、うたうように詠唱をはじめた。空中に腕を差し伸べていたが、いつものように魔導を行使するためではなく、何かに呼び掛けているようだった。


 やがて、応えた存在ものがあった。


 ウルルゥゥゥゥゥルルル――!!


 船の前、海面を割るようにして、巨大なものが浮上した。響いたのは笛の音のように高らかなき声だ。


 周囲の船から驚きの声があがるが、事前に知らせが回っていたのだろう、すぐに騒ぎは静まった。


 魔術師ではなく魔導士が就いている、古代王国の再来とまで噂される『千年王宮』のソサリア王国だ。国民たちはすでに少々の不思議では動じないし、交易に訪れる東方や周辺の貿易商人たちも噂で知っているのだろう、奇異と畏れにも似た視線を向けるくらいの動揺で済んでいる。


 波間にうねる巨体は長く、船の倍以上はありそうだ。全てが見渡せたわけではなかったが、敵ならば侮れない、凄まじい死闘を覚悟しなければならない相手だと誰もが思った。


 その場に居て腰も引けず全く驚いていないのは、呼んだ当人のルシカとテロン、そしてグリマイフロウ老のみ。


「あたしたちの友人、『海蛇王シーサーペント』です。名前は、ウル!」 


 ウルゥゥゥルル――!


 ルシカの紹介に、宜しく、とでもいうように高位魔獣が鳴いた。


「――まんま、の命名ですね」


「さすが……」


 ルシカに馴染みのあるふたりがつぶやくように言葉を交わし、少し離れた箱の陰でその会話を耳にした人物は苦笑したのだった。





 ウルはルシカに鼻先を撫でられ、気持ち良さそうに長い胴体をくねらせた。そうして事情を説明されたらしい。


 高位魔獣は知能が高く、ひとと交流するものは人語を解すと伝えられている。ウルは頷くように巨大な頭を縦に振ると、おとなしく船と繋がっている鎖に自らの胴をくぐらせ、ゆったりときはじめた。


 帆を上げていないのに、一行の乗り込んだ帆船は颯爽と港を離れ、海原を滑るように進みはじめたのである。


 だが出航したばかりの船に、何やらずんぐりした物体が、まるでまろぶように必死にヨロヨロと、宙を羽ばたき飛んでくるのが見えた。


 それに最初に気づいたのは、こっそりとしっかりと船に乗り込んでいた、剣を帯び軽鎧に外套マントを纏った剣士――クルーガーだった。


「おい、何か飛んでくるぞ」


 箱の陰から立ち上がったクルーガーは、まるで最初からずっとそこに居たみたいに自然な声をあげ、その物体を指差した。額に手のひらを添え、もっとよく見ようと伸び上がる。その場違いなくらいにのんびりとした声に、あっと叫んで反応したのはマイナだった。


 クルーガーは振り返り、指差していたほうの腕を戻して親指を立て、何事もなかったかのように歯を見せて笑った。


「ようっ。ちゃんと乗ってたぜ」


「え、えっ? よ、ようっ、て……」


 マイナはあまりの驚きにポカンとしたが、クルーガーがちゃんと船に乗り込んでいたことに安堵してホッと息を吐いた。


 甲板で動いていた男たちは黙々と作業を続けている。テロンとルシカは、設計者であるグリマイフロウ老と共に、左舷のほうの金具の具合を確認していた。


「ん? 何が飛んでくるって?」


 クルーガーの声に振り返り、トタトタと甲板を走ってきたルシカは甲板の手摺りから身を乗り出すようにして、その影に目をすがめた。


「うぅーん、あれは『小竜スモールドラゴン』の亜種かなぁ。こっちに近づいてくるみたい」


「――えっ。まさか」


 ルシカの言葉の途中でハッと思い出したように、マイナが反応した。手すりに駆け寄り、同じように伸びあがって紅玉髄カーネリアン色の瞳を細める。


 影はみるみる大きくなり、ずんぐりした胴体に幅広の翼、手足には鋭い爪が生えている小型のドラゴン然とした姿が判別できるくらいになった。


 マイナ自身と変わらない大きさだ。色は青竹色ジュエルグリーンをしており、黒く大きな瞳が実に可愛らしい。翼はあるが見るからに陸上の生き物で、長時間空を飛べる体型ではなかった。本来なら、こんな海上に飛んでくるような魔獣ではないはずである。


「あ、あなた、もしかしてあのときの――?」


 マイナがその『小竜スモールドラゴン』に声を掛けた。


 クルゥエエエェェェー!!


 聞きようによっては、なんとも嬉しそうに思える声で魔獣がいた。


「え、何っ!? 魔物の襲撃なの?」


 甲板下の厨房や船室、倉庫をチェックしに降りていたリーファとティアヌが飛び出してきた。リーファは腰の後ろに手を回し、短剣の柄を握っている。


「ちっ、違います! あの子は――あの子がわたしをマイナムから王都まで運んでくれたんですっ!」


 もうすぐそこまで迫っている魔獣をかばうにして飛び出したマイナに、集まった全員が目を丸くした。


「なんだって? ――うわッ!」


 剣の柄にかけていた手を離したクルーガーの上に、船までやっとのことでたどり着いた様子の魔獣がとうとう力尽き、ドサリと落ちたのだ。マイナが慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


「クルーガー!」


「兄貴!」


 ひと騒動あったが、『小竜スモールドラゴン』に敵意のないことをテロンとルシカが確認して、とにもかくにもマイナから事情を聞けるほどに落ち着いたのであった。


「――あの夜、わたしは父の最期を看取みとったあと、相手が引き連れていた魔物に追い詰められたんです」


 マイナは、襲撃の夜のことを語りはじめた。


「隠れていた場所を見つけられ、魔獣の一体が目の前に立ってました。牙を剥き出して爪を振り上げられ、わたしも引き裂かれて死ぬんだろうと――そう思ったのです」


 絶望的な状況、ただ狩られるだけの獲物……その恐怖を思い出し、話しながらも震えるマイナの肩に、クルーガーがそっと手を掛けた。


 その手の温かさに励まされたように、マイナは続けた。


「わたし、その時――父の言葉を思い出しました。まだ、死ぬわけにはいかないって。それで相手の魔獣の目を見たんです。そうしたら、何だか恐怖が消えて、相手の目も、不思議と落ち着いたような光に変わって……そのとき、燃えていた梁がとうとう落ちて、下敷きになったのかと思いました」


 マイナは顎を上げ、目の前に立つ魔物を見つめた。くぅ、とまるで甘えるように『小竜スモールドラゴン』が鼻を鳴らした。


「気がついたときには、この子の背中に乗せてもらっていました。時々意識を失いながら運ばれていたみたいで、夜が明けたときには、もう朝靄の向こうに王都が見えていました」


「――なるほど。それで、数日はかかる行程を、たった一夜で越えてきたのか」


 クルーガーが、テロンが、納得したように深く頷いた。


「もうひとつわかったわ」


 ルシカが静かな声で言った。


「マイナ、あなたの魔導の力のは『使魔』だわ。つまり、あなたは魔獣使いなのよ。おそらく代々継いでいる魔導の力だと思う」


「わたしが……魔獣使いの魔導士……?」


 マイナはぼぅっとしたままつぶやき、そして目をぱちぱちと瞬かせた。思わず、傍らに立ったクルーガーを見上げる。


「魔導士の気配がしたのは、その為なのか」


 クルーガーが言って、不安そうなマイナを力づけるように口元を微笑ませた。


「きっと、『従僕の錫杖』の力の影響もあるのね。あなたのお母さんも、『使魔』の魔導士だったはずよ――海に落ちても海流に逆らって目指す地へたどり着くことができたのも、その力があったからだわ」


 ウルゥゥゥウルル。


 ルシカの言葉に同意するように、ウルの声が響き渡った。


「そのドラゴンの名前は何ていうんだい?」


 テロンがマイナに問いかけた。


 マイナはおとなしく立っている魔獣の黒い瞳を見つめ、にっこり笑ってその胴を撫でながら言った。


「あなたは、プニールね。わたしを王都まで運んでくれてありがとう。ここまで追いかけてくれたんだもの。一緒に行きますか?」


 クルゥエエェェー!


 魔獣は嬉しそうに長くえ、応えた。


「いやはや、何とも賑やかな船旅になりそうじゃの」


 グリマイフロウ老は顎に生えた髭をしごきながら、興味深そうにその光景を眺めていた。その表情は、この上もなく楽しそうだった。


 船は速やかに進み、三角江エスチュアリーを抜け出て外洋に出た。風が変わり、内陸から吹いていたあたたかいものから、少々冷たい空気を孕んで東から西へと吹くものになった。


 だが、すぐに海流も風も正反対のそれに変わるはずだ。


 ルシカが、ウルと意思の疎通をして彼に進むべきルートを伝えた。舳先の見張り台から戻ろうとしたとき、数段しかないきざはしを踏み外し、ガクリと倒れ掛ける。


 だが、ルシカの顔色で体調を案じていたテロンが素早く駆け寄っていたおかげで、怪我をせずに済んだ。


「ここのところずっと、祭りの前から徹夜状態だったものな。これから船の上だし、ゆっくりと眠って欲しいが……」


「うん。そうするわ、テロン」


 ルシカは素直に頷いて、心配そうな夫に微笑んでみせた。


「ウルが一緒にいる限り、海洋に生息する魔物もおいそれと手が出せないだろうし。ちょっと休んできます。みんなごめんね」


 だが、久しく船に乗ることのなかったルシカが、ただひとつ忘れていたことがあったのである。



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