城へ、そして準備③
司令官とリヴァロ殿下と話を詰めた後、陛下への御目通りは一瞬だった。
そりゃ忙しいだろうからそうなんだけど、チラッと顔を見て「頼んだぞ」と言われて以上である。顔を合わせて承認したという事実だけが必要なのかもしれないね、こういうのって。お貴族様は大変だ。
「兄上もこの件では少しピリピリしてるからね。何より義姉上がストレスであまりお加減がよろしくなくてねえ」
「私が嫁いだばかりにな。まったく、愚兄の近くにいる間に暗殺でもすればよかった」
「アガーテさんは怖いこと言うしねえ」
サラッと流すリヴァロ殿下も相当じゃない?私は黙っておいた。ウィルたちも黙ってたから正解だ。ちなみにツウェルさんは陛下に会う前に帰ってるので、聞かなくてよかったかもしれないね。
「死の地平」への出発は準備が整い次第すぐとなった。そもそもウィルたちが向かおうとしていたから、ほとんど物資は揃っている。あとは私が追加になった分の荷物だけだ。
それも翌日には届けられて感心してしまう。お金持ちってお得だな、やっぱり。
「ステノ嬢、君の分の物資はこれだ。不足がないか確認してくれ」
「ありがとう」
フェルドと一緒に食料や水、テントなどを確認していく。一応簡単な調理器具は入っているけど……私は料理できないので無用の長物になりそうだ。
「フェルド、食料は全部そのまま食べられるものでいいんだけど。向こうで料理するの?」
「火を熾しても問題ないと言ってなかったかい?だったらあたたかい食事をしたほうがいいだろう」
「でも料理できないわよ。あの時は肉を焼いただけだったけど、そんなにおいしいものじゃなかったし」
「料理できないのか?」
意外そうに見られてちょっとムッとした。いざとなればできないことはないけど、冒険中に手間をかけるほどのことじゃないと言いたかっただけなのに。
「料理は冒険者の基本だよ。これまで泊まりがけの依頼はどうしてたんだ?マジックバッグもなかったのに」
「複数日の観測依頼はしたことあるけど、連続して行かなくたっていいでしょ。お弁当買って行って、足りなくなったら戻ってたもの」
「……君には従魔がいるからそれも可能なのか」
そういうことです。そもそも護衛依頼とかずっと行かなきゃ行けない系の依頼はDランクではほとんどないし。Aランクの人と一緒にしないでほしい。
「うちのパーティーは俺が料理担当なんだが、食べられないものとかはあるかい」
「体が受け付けないものはないと思うわ。ウィルとロサは料理しないの?」
「しない」
やけにキッパリと言い切られてしまった。
「……冒険者の基本なのに?」
「俺たちが解散することはないから大丈夫だ」
「あ、そう」
確かに貴族のパーティーだもんね。フェルドさえ出来てればいいってことか。
というかこれ、私の分までフェルドが作ってくれるってことかしら。それはすっごく助かる。
「向こうで食べられるお肉はルーが狩ってこられるから」
「何系がいた?参考までに」
「えーと」
覚えている限りを告げると満足そうに頷かれた。曰く、魔物肉の調理にはコツがいるらしい。臭みとか処理の問題だそうだ。そういうのにこだわってるならおいしいご飯が食べられるかも?ちょっと期待してしまう。
「君たち、食べられる魔物の話じゃなくて普通に対処しなきゃなんねえ魔物の話をしろよ」
ちょっと盛り上がってたところに水を差してきたのはウィルだ。確かにそうなんだけど!
「おいしいご飯は大事じゃない」
「そうですよ、リア様。冒険中だからこそきちんとした食事を摂らなくては。だいたいあなたも食事にはこだわるじゃないですか」
「別に文句言ったことねえだろう」
「顔に出てます」
お貴族様、特にウィルは王族だからいいもの食べて育ったんだろうな。それはもう食事にこだわりまくるだろう。
「出てたか……」
「それに実際の脅威となり得る魔物の話はアガーテ殿下からも聞いているではないですか」
「そうだったのね」
最近まで砦にいたのは私だが、魔物に関する知識が多いのは司令官のほうだ。なにせ魔物の動向を緻密に計算して前線を維持していたのだし。私は力づくで推しとどめるので精いっぱいだった。
「ですから今は食用可能な魔物の話が重要で――」
「フェルド、ステノさんの物資確認が終わったらこっちをしてくださる?」
「……わかった」
熱弁をふるうフェルドにロサが水を差す。
うん、やっぱり食事に一番こだわりがあるのはフェルドってことだね?
フェルドが立ち去っていくのを見て私がマジックバッグに荷物を詰めていると、なぜかウィルが手伝ってくれた。暇なのかな?と思っていると口を開いてさっきの話の続きを始めた。
「アガーテ殿下から確認した魔物の話もそうだが、王族に伝わる資料の中に今回の採取物の情報は載っている。だからどのあたりを探索するかは目星がついているんだ」
「それは助かるわ」
「この間探索方法の話をしたが、やはり森を超えるには徒歩で行くしかねえだろう。徒歩だと移動だけでもそれなりにかかってしまうと思う」
「ルーの足が使えないんじゃそうでしょうね」
だからこんなに物資を持っていくんだし。ルーだって走り通して数日かかったのだから、「死の地平」は本当に広い。「魔王」討伐によってどう変わっているかにもよるけど。
「一番最初に探すのはテラ・ヴェナ・ニムにしようと思う。君も遭遇したことがあるんだろう」
「でも結構『砦』寄りのところだったわよ」
「だがルーが遭遇したことがあるのが確定しているから彼の鼻で探せるだろ」
その手があるか。寝そべっていたルーに「テラ・ヴェナ・ニムのこと覚えてる?」と聞いてみると、パタンと尻尾を振られた。多分覚えてるんだろう。
「フィークス・カリカも匂いが独特だから探しやすいと思う。あとは三つ首竜だな」
「『竜』だものね」
「竜」という種類の魔物は基本的に「死の地平」にしか生息していない。それくらい珍しくて、そして強力な魔物なのだ。戦闘力でいってもずば抜けているはず。
そういえば、「魔王」も「竜」だったはずだ。三つ首竜ではないけれど。
「ウィルは光魔術使える?」
「僕には適性がないからごり押しだ。ロサが少し使える」
「少し、じゃ弱いものね」
「君は?」
「無理よ」
そして「竜」の特徴は光魔術に比較的弱いことだ。「神の落とし子」が「魔王」を討伐できたのもこの属性による相性がよかったこともあると思われる。
「なら、あとは君の『魅了』の威力がどれくらいかにもよるな。僕の体感だと行けると思うが」
「あら、フェルドには慎重論を唱えていたのに」
「……無茶をすると最初に犠牲になるのは彼だ。だからフェルドルスに対しては慎重にいけというくらいがいいんだよ」
そっか。三人はパーティーを組んでると言っても上下関係があるんだ。だからウィルを逃がすためならきっとフェルドは犠牲になる。
フェルドのことはちょっと苦手だけど、だからって私の力を使ったうえで力不足ってなるのは気に食わない。
「わかったわ。私に任せなさい」
「君のそういうところ、本当に聖女だったんだなって思うよ」
「それはよかった。ハッタリは大事だって司令官も言ってたわ」
「同意する。だが今回は中身も伴ってくれよ」
「誰に言ってるのよ」
呆れたような、でもちょっと嬉しそうなウィルは変なヤツだ。えらそうなのに嫌味がなくて、私も少し嬉しかったけど。




