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企み(3)


「なんだ、これ……」


その場にいたリリティア以外の全員が、息を呑んだ。

リリティアから温かな光が溢れ出し、その光がウルティオとリリティアの二人を包み込んだのだ。しかしそれは今までの光魔法とは違った。小さな光の欠片たちはまるで意志を持っているかのように二人の間を飛び周り、そこから紡ぎ出された細く美しい金糸のような光はまるで傷を縫うかのように滑らかに動いていった。


暗い部屋の中で、美しく神秘的な光たちがふわりとリリティアのラベンダー色の瞳を照らしだす。その美しい光景に、皆動きをとめて固唾を飲んで見守った。


やがて奇跡のようなその光が収まると、そこには傷など初めからなかったかのような綺麗な腹部が残されていた。


「……よかっ、た……」


瞳を潤ませ安堵の表情を浮かべたリリティアが力を失ったかのようにフラリと倒れ込んだ。


「リリィ!」


焦ったようにリリティアを抱き留めたウルティオが、リリティアを心配そうに抱き寄せる。


「大丈夫だ、坊主。恐らく魔力を一気に使ったせいだろう」


ブレダが近寄り、リリティアを診る。問題ないとの言葉にホッと息をはいたウルティオの腹部も、ブレダは慎重に確認する。


「完全に傷が塞がり、弾も摘出されている。まさか、解毒もされてんのか……?……光魔法による治癒……、初めてみたが、奇跡じみてるな」


興奮気味に検証するブレダを無視して、ウルティオはリリティアに呼びかける。


「リリィ、大丈夫か?」

「……は、い。ウィルこそ、痛みは……」


真っ先にウルティオを心配するリリティアに、ウルティオは溢れるような笑み浮かべた。


「俺はもうなんともないよ。リリィが治してくれたから。ありがとう、リリィ」

「良かった……」


ポロポロと涙を流してウルティオの無事を喜ぶ姿に愛おしさが溢れて、ウルティオはリリティアを強く抱きしめたのだった。



***



『坊主、失血した血まで戻ってるかは分かんねぇんだ、一晩は安静にしとけ。仕事の話も明日に回せよ』


そう言って帰っていったブレダに後を託され、リリティアはウルティオの部屋のベッドの枕元の椅子に座っていた。一人でいると仕事を始めてしまうウルティオを監視するためのブレダからの指示だった。


「俺はもう全く体調に問題はないから、リリィも部屋でちゃんと休んで――」

「お願いします、ウィル。今晩だけでも、しっかり休んでいるのを確認させてください。心配、なんです……」


泣きそうなリリティアに、ウルティオは慌てる。


「ご、ごめん!ちゃんと休むから、泣かないで」


アワアワと焦ったようにリリティアの頬に触れるウルティオの手を握り、リリティアはその胸にぽすりと頭を預けた。


「本当に、無事で良かったです……」


ブレダ先生のお墨付きでもう大丈夫だとはわかっているのだけれど、血まみれのウィルの姿が目に焼きついている。ウィルを失ってしまうのではないかという恐怖がまだこびりついていて離れなかった。きっと自分の部屋に戻っても、その恐怖が蘇ってとても眠る事はできないだろう。


「……リリィのお陰だよ。でも、ごめん。こんなに心配かけさせちゃって」

「いいんです。ちゃんと、戻って来てくれたから……」


震える声でそう告げるリリティアを、ウルティオは心のままにギュッと抱きしめるとそのまま軽々とベッドに抱き上げた。そしてごろりと一緒にベッドに寝転がる。


「ウィル……?」


目を見開くリリティアを、ウルティオは愛おしげに見つめる。


「リリィ、今日はこのまま一緒に寝ようか」

「え?」


パッと顔を赤く染めて慌てるリリティアを、ウルティオは宝物のように腕の中に抱きしめた。

初めは慌てていたリリティアだが、シャツを隔てて感じるウルティオの逞しい胸に頬を寄せるとあたたかな鼓動を感じられる。それを聞いていると大きな安心感に包まれ、リリティアは力を抜いてウルティオに体を預けた。


「何にもしないって約束するから、今夜はこのまま抱きしめていさせて?」

「……あの、ウィルのお休みの、邪魔になりませんか……?」

「まさか!リリィを腕の中に抱きしめて一晩中独り占めできるなんて、こんなに幸せな事はないよ」


リリティアを抱えて上機嫌に答えるウルティオに、リリティアも笑顔をこぼす。


「……私も、幸せ、です」


小さな蕾が綻ぶように、頬を染めて告げるリリティアに、ウルティオは無言でそっと覆い被さると優しい口付けを頬、額、そして唇へと落としていった。


触れられるのが幸せで、ウィルを感じられるのが嬉しくて、リリティアは繋がれた手をきゅっと握り返す。するとウルティオは嬉しそうにさらに口づけを深めた。


「んっ……」


名残惜しげに唇が離され目を開ければ、蕩けそうに甘い笑みを浮かべたウルティオが真上からリリティアを見つめていた。


「ごめんね、あんまり可愛くて自制が効かなかった」


そう言ってゆっくりと唇を拭うウルティオの瞳の熱に、リリティアも熱が移ったかのように頬を赤くする。


「これ以上はやめておこう。約束を破っちゃいそうだからね」


ウルティオはそう言うと、「おやすみ」と額に口付けを落として再びリリティアを抱きしめて横になった。

リリティアはトクトクとうるさい心臓を抱えながらも、先程まであった恐怖はいつの間にか消えていて、何よりも安心できるあたたかい腕の中でいつの間にか微睡に身を委ねたのだった。


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