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デート(3)


翌日。リリティアはカミラに手伝ってもらい髪を染め、選んだワンピースを纏いウルティオの待つリビングに降りて行った。薄くお化粧をしてもらった顔を緊張からか赤く染め、ドキドキしながらドアを開ける。


「ウィル、お待たせしました」


リビングに降りて来たリリティアの姿を目にして、ソファで待っていたウルティオは目を見開いた。


「あ、あの、マチルダさんとカミラに支度を手伝って貰ったのですが……」


ミルクティーブラウンの美しい髪は目立たない茶髪に染められているが、カミラによって丁寧に編み込まれて優しい色合いの繊細なレースのリボンでハーフアップにまとめられている。淡いブルーのワンピースがリリティアの華奢な体をふわりと包んで、まるで可憐な花のようだった。

恥ずかしそうに頬を桃色に染めたリリティアに宝石のようなラベンダー色の瞳で見上げられて、ウルティオは魅入られたように立ち上がりその姿を見つめた。


「あ、あの、変じゃないですか?」

「……変?そんな訳ない。……すごく、綺麗だよ」


そっとリリティアに歩み寄ったウルティオは、眩しそうに真夜中色の瞳を細めてリリティアの手をすくいとる。その熱い瞳に、頬が熱くなる。


「俺と出かけるのにこんなにお洒落してくれたの?嬉しいな。そのワンピースもリリィにすごく似合ってる」


それに……と、ウルティオの指がそっとリリティアの首元を辿る。


「このネックレスも、使ってくれてうれしいよ。……ああ、でも困ったな」

「ウィル……?」


弱ったようにウルティオが片手で自身の頭をかくのを見て、リリティアは不安げにウルティオを見上げた。


「可愛すぎて、他の奴らに見せたくない。このまま閉じ込めてしまいたくなって、困る」


ウルティオの微かなつぶやきを耳にして、リリティアはマチルダの話を思い出して顔を真っ赤に染める。


「確か、そのワンピースに合わせた帽子があったね」

「ウルティオ様、こちらです」


準備よく帽子を用意していたカミラから帽子を受け取り、ウルティオは髪が乱れないようにそっと帽子をかぶせてくれる。


「うん、可愛い。少し顔が隠れてもったいないけど、俺の安心のために町ではこれを被っていてくれる?」

「は、はい」

「ありがとう。じゃあリリィ、お手をどうぞ?デートのエスコートは任せて」


少しでも可愛いと思ってくれたのかなど……心配する隙もないほど、その真夜中色の瞳がリリティアを愛おしいと伝えてくれる。

リリティアはふわふわとした温かさで胸がいっぱいになりながら、笑顔で差し出された手に自らの手を預けた。






晴れ渡る青空の下、町は多くの人々で賑わっていた。

初めてこの町に来た日以来、ずっと家にいたリリティアは賑やかな町の様子に瞳を輝かせる。大通りを歩きながら、ウルティオはどこにどんな店や建物があるのかを詳しく案内してくれる。


「この町は貿易で栄えていてね、特に隣国ガイル国との取引が多いんだ。この辺の店ではガイル国からの輸入品を多く取り扱っているから珍しい品も多くて楽しめると思うよ」


大通りの中でもひときわ大きく立派な店舗に、ウルティオは勝手知ったる様子で入っていく。店の中は食料品や生活雑貨、高級なアクセサリーなどが区画で分けられており、美しく陳列されていた。

リリティアはたくさんの本が積まれている一角でふと足を止める。


「これ、ガイル国の歴史書の原書ですね!図書館にあった翻訳版を読んだことがあります」

「リリィはガイル語も読めるの?」

「はい、しゃべるのはそこまで自信はないですが、読み書きは大丈夫です。ガイル国は医学の分野でもとても研究が進んでいるので、いつか読んでみたいと……」


話していてふと顔を上げると、偶然なのか目が合った一人の店員が丁寧に頭を下げて裏に下がっていった。


「?」


不思議に思いウルティオを振り返ると、問題ないよと言うように片目をつぶって口元に人差し指を立てる。そして何事もなかったかのように笑みを浮かべた。


「さ、リリィ。欲しいものはあった?」

「あ、いえ、買うつもりでは……」

「遠慮しないで。欲しいものは何でも言ってね」


その後も町を案内されながら様々な店に立ち寄っては、何でも買い与えようとするウルティオを必死で止めながら町を歩く。それでもリリティアが少しでも興味を見せたものはウルティオが素早く店員に指示してしまうため、どんどんと荷物が増えていってしまった。


「……ウィルは、私を甘やかしすぎだと思います……」

「そう?可愛い恋人に対しては、このくらい普通だと思うけど」

「そんなことないです!それに、私にいくらでもお金をかけようとするから……。私、まだ何もお仕事のお手伝いもできてないのに、やっぱり申し訳なくて……」

「あのねリリィ。これはリリィに頼られたい俺の下心なんだから、リリィが申し訳なく思う必要はこれっぽっちもないんだよ」

「下心……?」

「そ、リリィに頼られるのは俺だけでありたいからね。だからたくさん我儘を言って欲しいんだ」

「この前も、私、たくさん我儘を言ってしまったのに……」

「あんなの俺が嬉しいだけで全然我儘なんかじゃなかったよ。もっと沢山、リリィの我儘を言ってほしいな。他には、何か欲しいものはない?」


本心からそう言ってくれているのが分かるウルティオの言葉に、リリティアはふと先ほど見たおそらく平民であろうの恋人たちの様子を思い出した。


「あ、あの、じゃあ……手を、繋いでもいいですか……?エスコートじゃなくって、あの、普通の、町の人たちみたいに……」

「…………」


ウルティオの沈黙に、リリティアはハッとしたように顔を赤く染めて俯いた。子供じみたことを言ってしまったのではないかと恥ずかしさでウルティオの顔がみれなくなる。


「あ、ご、ごめんなさい、子供みたいなこと……」

「……はあ……また俺を喜ばせることを……」

「え?」


瞳を上げれば、ぎゅっとその手を優しく握られた。前を向いていたウルティオの耳もかすかに赤くなっているのに気づいて目を見開いて見つめていれば、ちらりと太陽に透けた青色の瞳をこちらによこし、ウルティオは照れたように笑みを浮かべた。


「行こうか、リリィ」


少しでも離れないようにと指を絡めぎゅっと握られた手はとても暖かくて、リリティアも笑顔でその手を握り返した。



その後も本屋や可愛らしいお菓子屋などリリティアが好きそうなお店を案内され、とても楽しい時間を過ごした。

ずっと手をつないで微笑み合う二人の姿は、デート中の恋人同士としか見えなかっただろう。


陽が少しずつ傾き始めてきたころ、花屋の前で立ち止まったウルティオはリリティアに振り返る。


「最後に、リリィと行きたいところがあるんだ」




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