デート(1)
間が空いてしまい申し訳ありませんでした(>人<;)またちょこちょこ更新していきます!
明日は『悪女に仕立て上げられた薄幸令嬢の幸せな婚約破棄』5話の先行配信があります!とても素敵な舞踏会のシーン、是非見ていただければと思います(*^^*)
暖かな暖炉の明かりに照らされたリビングに、ふわりと美味しそうな香りが漂う。その奥のキッチンには、白いエプロンをつけ料理をするリリティアの姿があった。
(あとはスープの味見をして、サラダを盛り付ければ完成。……ウィル、喜んでくれるかな……)
ブランザ公爵からの追手にけりがつき、ウルティオは毎日夕食の時間には帰ってきてくれるようになった。ガスパルがこっそり教えてくれた話によると、忙しい時でも夕食の時間に間に合うようにとんでもないスピードで仕事を処理しているというので心配ではあるのだけれど、いつもとても美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて、リリティアは今日も心を込めて料理を作る。ウィルの為に料理を作れるのはリリティアにとってとても幸せなことだった。
鍋の前で最後の味付けをしていたリリティアは、ふと視線を揺らし、頬を染めて後ろを振り向く。
「……ウィル、そんなに見られていると恥ずかしいです……」
リリティアの視線の先には、帰宅後からにこにことリリティアを見つめるウルティオの姿があった。
「うん、ごめんね。でも、リリィが俺の為に料理をしてくれてるの、一瞬でも見逃すのがもったいなくて。それに髪を結んでるのも、エプロン姿もすごく可愛いから」
心底愛おしそうな笑みと共に告げられる言葉に、リリティアは自分の頬が熱くなるのを感じた。
想いを伝えてから、ウィルは言葉を惜しむ事なくいつも真っ直ぐな好意を伝えてくれる。しかし人からの好意に不慣れなリリティアにとっては毎回顔を真っ赤にさせて満足に返答が出来なくなってしまうので恥ずかしかった。
もっとも、ウルティオにとってはそんな姿も可愛いくて仕方ないと思っているのだが。
立ち上がって歩み寄ってきたウルティオが、嬉しそうに料理を覗き込む。
「後はサラダの盛り付けだけかな?残りは俺がやるからリリィは座って。こんなに美味しそうな夕飯を作ってもらったんだから、後の支度と片付けは俺がやるよ」
「そんな、ウィルはお仕事から帰ってきて疲れているんですから、座っていてくださ……きゃっ」
ウルティオに座っていてもらおうとしたリリティアだが、瞬きのうちに魔法のように手の中のお皿が取り上げられており、気づけばふわりと抱き上げられてウルティオの腕の中にいた。
「ウィ、ウィル!」
驚きに頬を染めるリリティアを宝物のように抱き上げたウルティオは、彼女をそっとリビングの椅子に座らせるとその額に優しく唇を落として反論を封じ込めた。
「はい、交代。リリィは休憩していて」
愛おしそうな笑顔でそう言われて、リリティアは額を抑えたまま真っ赤な顔で何も言えなくなってしまう。
(……すごく、甘やかされている気がする……)
今までもずっと優しくてとても大切にしてくれていることが分かっていたのに、あの日リリティアに触れる事を躊躇わなくなってからは本当にリリティアを甘やかす事に拍車がかかっているように思えてしまう。
リリティアは最近ドキドキとうるさい自分の心臓がいつまで保つかとても心配になっているのだけれど、それでもウィルと一緒に居られる時間は何よりも大切で心温まるものなのだった。
頬の熱を覚ましながら手際よくお皿が並べられていくのを見ていると、そうだ、とウルティオがリリティアに向き直る。
「リリィ、明後日なんだけど、一緒に町に出かけない?改めて町を案内するよ」
ウルティオの言葉に、リリティアはパッと顔を上げた。
「いいんですか?」
「もちろん!もう捜索の心配もないから街に出ても大丈夫だよ。念のため髪色は変えた方が安心だけどね」
「変装ですね!楽しみです」
「ずっと窮屈な思いをさせちゃっていたからね。リリィが行きたいところ、全部連れて行ってあげるよ」
パァッと顔を明るくさせたリリティアに、ウルティオもまた嬉しそうに微笑む。
リリティアにとっては、一日ウルティオと一緒に居られることが何より嬉しかった。
翌日、明日のためにも仕事を全部片づけてくるとウルティオが出かけて行った後、カミラが買い出しの品などを持ってやってきた。
「おはようございます、リリティア様!」
リリティアの侍女を継続することになった日から数日経ったが、カミラはとても熱心に仕事にあたってくれている。家事も全て任せて下さいと言われたけれど、時間はあるのだからとリリティアのお願いで今も二人で家事をしながらたくさんのウルティオの活躍の話を聞かせてくれた。
「おはようございます、カミラ。いつもありがとう」
「本日はウルティオ様の指示でリリティア様用の髪染めの粉もお持ちしました。後で使い方などご説明しますね!お出かけなさるんですか?」
「そうなんです。ウィルが、町を案内してくれると」
「まあ!それではデートですね!」
笑顔で言われた言葉に、リリティアはピタリとその動きを止めた。
「デート……?」
「?違うのですか?」
こてりと首を傾げたカミラの前で、リリティアの頬が段々と赤く染まっていく。
「あ、あの、でも、ウィルは町を案内するとしか」
「恋人と二人で町に行くのはデートなのでは?」
「そ、そうなんですか……⁈」
(ウィルと、デート……?)
リリティアにとっては、デートなんて自分には全く縁のないものだと思っていた。少し前まで公爵家で奴隷のように働き続ける未来しかないと思っていたのに、今は大好きな人と一緒にいられる。それだけでも奇跡のようで、いまだに実感がわかないくらい。それくらい幸せで、夢みたいなのに……。
(も、もちろんウィルは親切で町を案内してくれようとしているだけなんだろうけど、……でも、ウィルは恋人って言ってくれた……。……もしかしたらウィルもデートのつもりで言ってくれていた可能性もあるの……?)
そう考えた途端、リリティアは頭の中が真っ白になってしまった。
頭の中には、恋愛話が好きなマリアンヌから聞かされたデートについてのあれやこれやが駆け巡る。
(そ、そうだ、おしゃれをしなくちゃいけなかったような……)
「カ、カミラ、どうしましょう……」
「え、どうなさったんですか⁈私にできる事でしたら、もちろん何でもお申し付けください!」
「わ、私、デ、デートなんて初めてで、何を着ていけば良いのか分からないんです……。今まで、自分がデートする日が来るなんて、思ったこともなくて、ウィ、ウィルの隣で恥ずかしくない格好って、どんななのか……」
学園でどれだけ優秀な成績を取っていようとも、リリティアの頭はデートにふさわしい格好の最適解を導き出してはくれなかった。クローゼットの中にはウィルから贈られた素敵なドレスやワンピースがたくさんある。けれど、あんなに綺麗な服が私なんかに似合うだろうかと不安が湧き上がってくる。
舞踏会や公式な場で身分にふさわしい服装や礼儀の規定は全て頭に入っていても、お茶会などでずっと婚約者のジェイコブに格好から存在まで貶され続けてきたリリティアは考えれば考えるほど頭が真っ白になってしまうようだった。
それに、今まではウィルと二人で会うときはずっと人目を忍んで会ってきた。収穫祭に行った時も、ただ再び会えたことが嬉しくて。
侯爵令嬢としての肩書もなくなったただのリリィとして、そして恋人としてウィルの隣を歩けるなんて考えたこともなかった。
嬉しくない訳はない。あの収穫祭の日のようにウィルと一緒に町を歩けたら、どんなに幸せだろう。でも、やはりどうしても自分なんかがという自信の持てない弱い心が顔を出しそうになる。
弱り切った様子で涙目でカミラを縋るように見つめるリリティアに、カミラはぎゅんと胸を撃ち抜かれる。このままでも十分お美しいし、どんな格好でもウルティオ様は喜ぶだろうと思いながらも、初めて頼っていただけたことにカミラはやる気を漲らせた。
「ご安心ください!マチルダ姉さんにも協力してもらって、完璧なコーディネートにしてみせますから!」




