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エピローグ



「ウィル!」


町を見下ろす高台に建つ壮麗な庭園を誇るルーベンス公爵家。その美しい花々の咲き誇る庭園を見渡せるバルコニーから、王城から帰宅したウルティオの姿を見つけたリリティアは嬉しそうに呼びかけた。


「リリィ」


ウルティオの帰宅に輝くような笑顔を浮かべるリリティアに、ウルティオは愛おしさに溢れた笑みを浮かべる。今、お出迎えを……と、玄関へ降りて行くために部屋へ引き返そうとしたリリティアをウルティオは止めると、その場で足に魔力を纏わせ地面を蹴った。するとふわりと周りの花弁を巻き込んで風が舞い、ウルティオはリリティアのいるバルコニーに着地してそのままリリティアを抱き締めた。


「ただいま、リリィ」

「おかえりなさい、ウィル」


腕の中で花が綻ぶような笑顔を浮かべるリリティアのおかえりなさいに、ウルティオは幸せそうに頬をほころばせた。


「うん、ただいま。リリィは今日、オリアさんのところに行っていたの?」

「はい、お母さんの好きだったユリの花がたくさん咲いていたので、お母さんのお墓にも持って行きたくて」

「そうか。今度、俺も一緒に挨拶に行かないとな」

「ウィル、今とても忙しいのでしょう?無理はしないでくださいね」


心配そうなリリティアに、ウルティオは心配ないとにこりと笑う。


「大丈だよ。オリアさんに報告したいこともあるしね」

「報告?」


首を傾げるリリティアの手を、ウルティオはそっと掬い上げる。


「やっと今日、貴族派の処理が終わったんだ」


ウルティオの言葉に、リリティアは目を見開いた後でほっとしたように微笑みを浮かべた。

建国祭での断罪で罪が明らかになった貴族は多く、その裁判だけでも大変な作業である。しかしそれを行う司法院のトップやその他王宮の中枢を担っていた者たちも捕まったため、行政を回す人材が不足し大変な状況なのだ。その為ウルティオはジョルジュの要請でルーベンス公爵家の当主となり、取り急ぎ司法院を取りまとめ、更には王宮の混乱の沈静化も行っていた。


「本当に、お疲れ様でした、ウィル」


微笑むリリティアを愛おしげに見つめ、ウルティオはそっと口を開く。


「……これでやっと、リリィに伝えられる」

「え?」


リリティアの前に跪き、ウルティオは胸元から取り出した小さな小箱を開いてリリティアに差し出した。


「リリィ、愛してる。――どうか、この指輪を受け取ってくれる?」


リリティアは瞳を見開き頬を染める。

そこには、ベルベットの台座に美しい指輪が納まっていた。リリティアの細い指にも負担にならないよう、けして大きくはないけれど上品で美しい光沢を放つ最上級のダイヤモンドが繊細な加工ではめ込まれている。優美な細い銀色のリングには、美しい百合の意匠。


「リリィに似合う、世界一の指輪を用意したんだ。間に合って良かった」


優しく紡がれるウルティオの言葉に、収穫祭の日、花火のもと交わした約束を思い出してリリティアは瞳を潤ませた。嬉しくて、幸せに胸が締め付けられる。


「とても綺麗です……」

「内側も見てごらん」


そっと手渡されたリングの内側を見てみれば、そこには小さな青いガラスが埋め込まれていた。


「これ……!」

「うん、あの時割れてしまったお守りの欠片だよ」


リリティアがずっと肌身離さずつけていたお守りは、光が収まった後には役目を終えたかのように粉々に砕けてしまっていた。ウィルにもらった大切なお守りが壊れてしまったことは悲しかったけれど、しかし今、その欠片は指輪の内側でキラキラと輝いていた。


「っ……こんなに素敵な指輪、見た事がありません……!」


嬉しくて嬉しくて、心から溢れ出たような輝く笑顔を浮かべリリティアはウルティオの首元に抱きついた。


「ウィル、ありがとうございます!」

「喜んでくれてよかった」


抱きついたリリティアを嬉しそうに受け止めて、そのまま軽々と抱き上げる。真夜中色の瞳が、太陽の光を受けて青空の色を映す。


「リリィ、必ず幸せにするとこの指輪に誓うよ。だからこれから先の未来を、全部俺にくれる?」


熱い想いのこもった青空色の瞳を見つめながら、リリティアは嬉しさに瞳を潤ませ綻ぶような笑みを浮かべる。


「はい!私は、怪盗さんに盗んでもらったあの日から、もう全部、ウィルのものですから」


リリティアの言葉に目を見開いた後、ウルティオは破顔して晴れ渡る青空のような笑顔を浮かべる。そしてリリティアの左手をとって、その薬指に指輪をそっと差し込んだ。


幸せを嚙みしめるように笑い合った二人は、やがて瞳を合わせ、花びらの舞う青空のもとで優しい口付けを交わした。





――この後、オルティス王国では王太子ジョルジュの元で多くの貴族派が罰され、不正の蔓延る政治の場の抜本的な改革がなされていった。

その右腕として活躍したのが、司法を司るルーベンス公爵家の若き当主であった。


彼の活躍でオルティス王国はその後非常に大きな発展を遂げていったと多くの歴史書に記載されているが、彼についてはまるでおとぎ話のような逸話も多く伝えられている。

いわく、彼は貴族派の不正を暴くために怪盗として貴族家に侵入していたとか。

いわく、その時に助けられた少女と恋に落ち、少女を望まぬ結婚式から盗み出したとか。

そんな、まるで物語のような話が多く伝わっていた。それが元となった童話はこの国で大人気であり、ほとんどの国民が一度は聞いたことのある物語だ。

本当にそれは史実だったのかと後の歴史家たちは物議をかもしているが、少なくともウィリアム・ルーベンスが非常に有能であり、彼なくしてこの時代の発展を語れないのは事実だった。また、彼の妻であるルーベンス公爵夫人が希少な光魔法の使い手であったことも、この国の医療を大きく発展させ、また多くの福祉活動で活躍し夫を支えていたことも史実である。

そして、彼が妻を溺愛していたという話も有名で、数えきれないほど多くの逸話が語り継がれているのだった。




(end)






そうして、後の世で語り継がれることになる二人は、まさに物語のように、いつまでも幸せに暮らしました。


『悪役にされた薄幸少女は青空〈ひかり〉のもとに盗まれる』はこれにて完結となります。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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