11話 ドルグランドには米がある
「是非、何でも聞いてください」
「おう」
机を挟み対面に座る隆聖に質問を投げかける。
「じゃあ単刀直入に聞くと、ドルグランドには米はあるか?」
大雑把な事は聞かない。とにかく俺が求めている物を聞く。
と言うか米があればそれで十分とも考えている。
「そうですね。米はあります」
「あるのか!! まじか! よし!」
隆聖の答えに興奮が隠せない。
米はあるとは想像していたが、こんなすんなりあると言う事実がわかるとは。
それに米があると言うことは、
「じゃあ味噌は!」
「味噌もあります」
「よし!!」
味噌がある事にガッツポーズをする。
米と味噌その二つがあれば即席朝ご飯が完成する。そしてそこに加わる焼き魚。ああ、これで完璧だ。
魚は『アイテムボックス』持ちの料理人がエンスラッドにいるから新鮮な物が食べられる。少し高くはなるがプライスレスだ。
「醤油はあるとわかってたから、卵もあるし魚もある。おー完璧な布陣だな」
たったの二つの材料があると聞いただけでこれからの食卓にワクワクが止まらない。
米と味噌を持って帰っておやっさんのとこから魚を買えば……楽しみすぎる!!
「醤油がある事はご存知だったのですね」
「元々ゲンダルフィンで醤油と出会ってこの国に来る事を決めたからな。じゃないと来てないし」
「そうだったんですね。そう言われれば醤油は米や味噌より出回りやすいですからね。市場に普通に出回ってますよ」
醤油は普通に出回っているのか。ゲンダルフィンにもあるぐらいだから当たり前か。普通に売ってたりするかもな。
しかしその言葉に少し引っかかる所がある。
「でもその言い方だと米と味噌はあまり出回っていなさそうだな」
「はい、実は……」
「ちょっと待つのじゃ! 話がわからん! スノハラ、コメとかミソとかなんなのじゃ?」
「そうです。私も聞いた事が無いのですが」
俺が興奮して隆聖の話を聞こうとしていた横でアルデとユリアが質問してくる。
仕方ない。その質問は余計俺を興奮させる事になるが、落ち着いて語ってやろう。
「米と言うのはな、真っ白く輝く宝石のような粒だ。それが最高にうまい。味噌は茶色くてしょっぱい調味料で、お湯に溶かせば味噌汁というスープになり、様々な料理の隠し味になる最高の調味料だ」
「そ、そんな食べ物があるのか! 白く輝く宝石の粒じゃと!」
「何にでも使える調味料は魅力的ですね」
「そうだろ! 前に話していた醤油も黒い液体の調味料だ。俺が知ってる中では調味料五英傑といって、砂糖、塩、酢、醤油、味噌がある!」
基本となる調味料を言ってドヤ顔をする。
「調味料五英傑じゃとっ! そこにソースは入っていないのか!」
「あくまでも調味料五英傑は素の状態での調味料の話だ。ソースは別格で……そうだな、チャンピオンとも言える!」
「チャンピオンじゃと!」
アルデにしょうもない事を言いながらワクワクが膨らむ。
やばい、調味料が揃う事と米がある事で、それだけで涎が出そうだ。
「春原さん! ちょっと待ってください」
しかし隆聖から横槍が入る。
「ん? どうした? これからの食生活を考えるともう涎が出るんだが」
「そこまで楽しみにされていたとは……でも当たり前ですよね、故郷の食べ物ですから。ですが今のうちに言っておきます。米と味噌が出回っていない理由を……」
その真剣な顔に一瞬固まる。
「ちょっと待て! そうだ、醤油より米と味噌が出回っていないって言ってたな?」
「はい。はっきり言いますと、そこまで期待しないでください」
「期待するなとは? どういう事だ?」
その言葉で俺の頭にハテナが浮かぶ。
「もしかして、そう簡単に手に入らない物なのか?」
「それもあります……」
「それもある? じゃあ他に何か理由が……」
「まず話を聞いてください」
「おう……」
訳がわからず質問をしようとする俺に待てが入る。
「言いにくいんですが……そこまで美味しく無いんです」
「なん、だと……」
その言葉に俺の目の前は真っ白になり、そのまま倒れるように机の上に突っ伏す。
「す、春原さん……! そこまで落ち込まないでください! 僕の言い方が悪かったです。美味しく無いわけでは無いです。ただ……」
「ただ?」
「別に米としては十分ですが。元の世界で食べていたレベルには近づけないだけって事です」
その言葉に少し立ち直る。
「なんだそう言う事か。だったらまだマシだ。確かにあのレベルの米を作るのは並大抵の事じゃ無いからな。それなら仕方ない」
隆聖の答えに少し安心する。
不味いならともかく、元の味より落ちるのは当たり前のことだ。残念な気持ちはあるが、無いよりある方がいい。
しかしあの銀舎利には程遠いと考えると思ってるより落ち込んでしまう。
「何を落ち込んでいるのだ?」
そんな俺に焼いた肉を食べていたティオルが疑問を投げる。
「真剣に聞いているが、所詮肉ではないのだろ? 我は肉さえあれば何でもいいのだが」
「お前には言ってないから!」
意味不明な事を言うティオルに怒鳴る。
「お前にわかりやすく言うとな、お前にとっての肉が俺にとっての米なんだ! 例えばワイバーンやコカトリスの肉じゃなく、ゴブリンやオークの肉しか食えないみたいな事だ!」
「な、なんだとっ!!」
俺の言葉に絶望の顔をするティオル。
「それは、死活問題ではないか!」
やっとわかったか!
「そのレベルなのじゃな、その米と言うものは!」
隣で聞いていたアルデがじゅるりと手で涎を拭う仕草をする。
「その話を聞いて私も興味が湧きました」
反対側のユリアも楽しみそうに目を輝かせる。
「そう。それが普通の感情だ。米とは……」
「春原さん。そこまでハードルを上げないでください。多分落ち込みます」
俺の興奮を横から掻っ攫うように隆聖がテンションを下げる言葉を挟む。
「なに? ちょっと待て! 落ち込む? そんなにか!?」
「えっと、普通に考えてもらえればいいのですが。醤油はゲンダルフィンでも見たのですよね?」
「ああ、だから来たって……」
「では、米は見ましたか? 聞きましたか? 味噌は製造数が少ないのであまり出回っていないだけですが。米は育てれば作れる物です」
さらっと味噌は少ないと流したが、そう言われれば米は隆聖に聞くまでは情報は無かった。一応食材情報のツテが多い俺がだ。
確かに醤油の情報を得たときに串焼きやのおっちゃんは米の事なんて一言も言ってなかった。あの美味しい米の話を。
「聞いてないし見てもない」
「その理由が何かわかりますか?」
「美味しくないから?」
「いえ、さっきも言った通り不味いわけでは無いです」
「だったら……」
「簡単な事です。ただ単にこの世界の人に普通の米は口に合わないんです」
「……そう言う事か」
聞いた事はある。外国人からしたら米は味が無くてそのままでは食べられないと。
「この世界で出回ってる米は鳥の餌みたいな物という認識ですから」
その言葉に隣にいたアルデが叫ぶ。
「なんじゃと!! スノハラ貴様! 妾に鳥の餌を食わせるつもりじゃったのか!!」
しかしアルデの言葉が耳に入らないぐらいその言葉を真剣に考える。
「なあスノハラ!!」
アルデに肩を揺すられながら、鳥の餌と言う言葉に頭を回す。
隆聖がこのタイミングでそう言った理由を。
「なあ隆聖。今までの話は市場に回っている米の事を指してるんじゃ無いのか?」
「痛い! 痛いのじゃスノハラっ!」
いつまでも俺を揺らしていたアルデの頭をアイアンクーしながら隆聖に投げかける。
すると隆聖が口角を上げた。
「流石春原さんです。その通り今のは市場に回っている米の話です。この国では米はそこまで食べません。ですが一つだけ美味しい米を食べられる場所があります」
「美味しい米を?」
そんな場所があるなら勿体ぶらず初めから言って欲しい。
「はい。すみません、多分勿体ぶらずにと思われたかもしれないですが、少し理由がありまして、話しながら考えてました」
あっ……顔に出てたか。
「でも春原さんなら大丈夫だと思ったので話します」
「なんかすまん」
軽く自分の態度を改める。
「美味しい米が食べられる場所。この国で珍しく米を主食とした村があります」
「米を主食とした村だと!」
主食にする事は毎日食べる事。つまりそれだけ美味くなければならない。
「たぶん春原さんが望んでいる殆どの食材の原産地がその村です」
「俺が望む殆どの食材……!」
望む食材がある村。
その村の光景を想像するとワクワクが止まらない。
何があるのか、何が待ち侘びているのか、食材に土地、そして人。
そしてその場で勢いよく立ち上がる。
「是非そこに俺を連れて行ってくれないか!」
そう言うと隆聖も立ち上がり、
「はい。話したからにはもちろん連れて行きます」
そして握手を交わした。




