10話 ドルグランドの勇者
「ドルグランドの勇者ですか」
そう言われて俺は勇者と名乗った男を見る。
織田隆聖か。見た目はこの世界の服と鎧を着ているが、顔つきは同郷の様に見える。確実に転移して来たのだろう。勇者と名乗ったって事は、健治と同じ様に召喚されたのだろうか。
「もしかすると貴方も勇者ではないでしょうか? それにスノハライサムさん……僕と同郷かもしれないですよね?」
やっぱり向こうもそう思っていた様だ。
「そうですね。多分同郷かと」
「やはりそうですよね! 良かった! 僕、初めてこの世界で同郷方と会いました!」
そう言う勇者の顔は笑顔だった。
そう言われれば転生している奴が他にいるとは、健治達がいたから特にそう思わなかったけど、こうして会うのは珍しい事なのか。
「スノハラさん! よかったら少し話しませんか?」
楽しみそうに目を輝かせながら勇者はそう言い、
「いいですね。私も聞きたい事がありますので」
そう同意して俺達は一旦下に降りた。
◇
「で、織田隆聖さんはドルグランドの勇者って……」
俺達は森の中の少し開けた場所に降り立ち、立ちながら少し話す。
「春原さん、そんなにかしこまらないで下さい。僕より年上でしょうし、特に敬語はやめてほしいのですが。あと隆聖で大丈夫です」
「そうか? ならそうするわ」
そう言われてすぐに態度を変える。
隆聖はかなりのイケメンだ。
何というか名前からしてイケメンだし、仕草も喋り方もイケメンだ。勇者として召喚されるならこういう奴が選ばれるんだろうなと思える人材だと、こう対面しているだけでひしひしと感じる。
もちろん顔がイケメンである事は間違いない。長くないくらいの黒髪で真面目そうな感じなのに、元の世界の最近のアイドルみたいで、可愛いかっこいい系な見た目だ。
「かっこいいですね」
と隣に居るユリアがそう呟くぐらいだ。
その呟きに少しショックを受けるが仕方ない。俺が見てもかっこいいんだから。
「で、ドルグランドの勇者って事は召喚されたって事か?」
この確認は本当の勇者かどうかの確認だ。
俺みたいなエセ勇者ではないだろうが。
「はい。僕はドルグランドで召喚されました。召喚されたのは1年ほど前です」
「1年間もこの世界にいるのか」
健治でも半年ぐらいだったと思う。俺で確か2、3ヶ月ぐらいか。この世界の大先輩だな。
それで、本物の勇者と。
「勇者の能力は持ってるって事だよな」
「そうです。やはり勇者については理解されているのですね」
「一応知り合いに勇者がいるからな」
すると隆聖が勇者という言葉に食いつく。
「本当ですか! でしたらその方も同郷ですか!?」
「そう、同郷だな」
そう言うと、より隆聖の目が輝く。
「これで2人目! 是非会いたいです!」
「おっ、いいぞ。あれだったら俺達が帰る時に一緒に行くか?」
「いいですか! でしたら是非お願いします!」
「おう」
ここまで食いつきがいいのは面白いな。
そこまで同郷に会えるのは嬉しいのだろうか。
「ちなみに春原さんはどこから来られたのですか?」
「エンスラッドって国からだな」
「エンスラッドからですか! という事はその方もエンスラッドの方ですか?」
「そう。エンスラッドの勇者。あっそうだ、他に同郷の連れが2人いるぞ」
「他にも2人! それは余計会いたいです!」
追加の情報を伝えるとより食いつきが良くなったが、徐々に顔が険しくなる。
「でも少し待ってください。あれ、おかしい。エンスラッドの勇者は1人なはず。春原さんも勇者でしたら2人いる事になりますよね? それは僕が知る情報がおかしい事に……」
「あ、俺は勇者じゃないんだわ」
「……え?」
その言葉に隆聖は何を言っているのかわからないと言うような顔になる。
「まじで俺、勇者じゃないから」
再度伝えると隆聖は目を見開き、驚いた表情で固まる。
「ほ、本当ですか!? いや、有り得ませんよ! ドラゴンを従えてるのに勇者ではないと? 手合わせしてないですけど、僕より強いですよね!?」
「んー、強いかどうかはわからないけど」
まあ、多分俺の方が強いだろう。
でもアルデ達との攻防を見た限り隆聖もかなり強い事は確かだ。それに加えて今の状態の俺を見て強いとわかるものはかなり強い証拠。今のところ見破られたのはクレアだけだ。
「少なくとも『勇者』の職業は持ってないな」
「っ!! 『勇者』の職業ではない? では『勇者』の能力も持っていないと……」
「そう。持ってない」
「有り得ない……。それでこの強さなんて」
額に手を当てながら考えるように首を振る。
まあ、仕方ない。俺の力が勇者の力じゃないってなれば何なんだってなるだろう。
申し訳ない。ズルしたみたいなものだからな。
こんな話してても埒があかないから、話を変えようか。
「そんな俺の事よりさ、ドルグランドについて教えてくれないか?」
「そんな事よりって……かなり衝撃的ですよ。でも、そうですね。春原さん達は旅行で来たのですよね。僕ばかり質問しても申し訳ないですね。僕が知ってる事でしたら話しましょう」
よし上手い事話を変えられたな。
「じゃあ少し軽く昼にしながら話すか」
そう言ってずっと忙しなく動いていたアルデとティオルに声をかける。
「用意はできたかー?」
「当たり前じゃ! 完璧に串カツの準備はできてるのじゃ! 妾をこき使いよって! 使うのはこのメイドだけでいいのじゃ!」
「何を言ってる幼女。我は主が言うから用意しただけだ! 我が手伝わなくてもよかったんだぞ!」
「また妾を幼女だと! 貴様、ここで決着をつけるか!」
「ああいいだろう! ここで決着をつけようか!!」
と何故か白熱しそうだから止める。
「うるさいぞ。騒いでたらお前らに食わせる飯はないぞー」
「何! それはずるいのじゃ!」
「そうだぞ主! 我は肉の為に動いているのに!」
「だったら静かに用意しろー」
そう脅しながら用意の続きをさせる。
こいつら最近は単純で本当動かしやすくなったなー。
「じゃあ、飯にするか」
てことで俺はアルデとティオルが用意した机に向かう。
その光景に隆聖は目を丸くしながらついてくるが、
「春原さん、この2人との関係って……?」
その質問をするのはわかる。
「ああ、元エルダーリッチーとドラゴンだな」
「あの子が元エルダーリッチーですか……? 本当に子供にしか見えないですけど……」
驚くのも無理もない。俺もこの元魔王が幼女になったのは意味がわからないからな。
「あの強さだったら納得できますが」
実際に戦ったわけだから納得せざるを得ないだろう。
「でも女の子をこき使うのは少し……」
「大丈夫見た目だけだから。あれでも何百年生きてるババアだから」
「ババアじゃないわぁ!」
聞こえていたのかアルデのツッコミが飛んでくる。
「そう、ですか」
その現状に隆聖は戸惑ってるようだが、真実だから戸惑う意味はない。
「それより誇り高きドラゴンがこんな事になっているとは……」
と隣で人型になったフェニックスがつぶやいていた。
そんなやりとりをしながらテーブルに着く。
この野宿用簡易テーブルセットは思っているより上出来だ。簡易だと言っても十分触り心地が良い木の椅子に4人が囲める丸いテーブル。テーブルクロスを敷けばそれで様になる。
それもこれも『アイテムボックス』のお陰である。何でも入るのに使わない手は無い。アルデもティオルも持っているから収納には困らないし。
「それにしてもフェニックスを仲間って隆聖も凄いな」
そう言って隆聖の隣に座った赤に近いオレンジ色の髪を靡かせた女性を見る。
「ありがとうございます。フェルダは僕の相棒ですから、そう言われると嬉しいです」
さっきまでフェニックスの姿をしていたのだが、ティオルみたいに人型になれるようだ。最上の個体になれば人型になるのなんて容易なんだろう。
見た目はかなりティオルやクレアとはまた違ったような美人で、モデルさんとかカッコイイ系の美人だ。
というか、素直に喜ぶ隆聖に嫌味が全く感じないのが凄い。
「そう言う春原さんもドラゴンが仲間じゃないですか。普通ドラゴンは自分より強い者しか興味がないはずですし。凄いと思います」
「いや、こいつは成り行きってやつだからな。ぶっ飛ばしはしたけどな」
「ああ、あの時の主は凄かった」
「お前は黙ってようなー」
いらん事を言いそうなティオルの目の前に肉を置いて黙らせる。
「これは! 焼いて来ていいのか!」
「いってらー」
そう言って肉を焼きに行った。
「あれは本当にドラゴンなのか……? いやさっきまでドラゴンだったな……。ここまでのドラゴンは見た事ないぞ……」
フェニックスがティオルを見て何に引っかかるのかわからないが、毎度ティオルに対する反応が面白い。
「スノハラ持って来たのじゃ」
ティオルと交代したようにアルデが串カツを持ってやってきた。
「おう、さんきゅー」
そしてユリアの隣に座る。
「春原さんこれって……」
目の前に出された串カツを見て隆聖が声を詰まらせた。
「串カツだ。やっぱりドルグランドにもないか?」
「はい、ありません。懐かしいですね。揚げ物って本当に1年間食べてなかったので。食べてもいいですか?」
「いいぞいいぞ! 思う存分食ってくれ!」
本当に懐かしそうに串カツを見る隆聖。
じゃあ思う存分楽しんでもらおうか。
「よし! じゃあ、食べながらドルグランドの話を聞こうか」
この勇者はどれぐらい強いのだろうか。
次回更新は活動報告で。




