8話 約束の不成立
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
「あ、おにーさん。やっと戻って来たね」
俺を見て立ち上がるエミリ。
「お、お兄さん……昨日ぶりです……」
エミリに続き立ち上がったものの、少し俯きながら挨拶をするユリア。
「お、おう……」
ユリアと目が合い、俺も一瞬視線を外してしまう。
と言うか、昨日の事があるから気まずいんだけど。
とにかく2人がここにいる理由を聞く。
「ど、どうして2人が?」
「クレアさんに連れて来てもらったんだけど」
気軽に聞いた俺の質問に対してエミリが答えたのだが、その声はいつもと少し違った。
「あっ、いや、そういう意味じゃなくて、さ……」
何しに来たんだという意味で聞いたのだが、エミリの目を見ると少しどもってしまう。
「え? わからないの? ここまで来たって事は、おにーさんに用事があったからに決まってるでしょ? それにおにーさんもユリアに言わないといけない事があると思ってさ」
そう言うエミリの口調はやっぱりいつもと少し違って……
「えっと……もしかして怒ってる?」
「うん、怒ってるよ」
そう言ってエミリが俺を軽く睨んだ。
初めてエミリに睨まれて少したじろいでしまう。
「ちょっ、ちょっとエミリ!」
「ユリア……はぁ。まあ、私が怒るのはお門違いなんだけどね」
ユリアに袖を引かれた事でエミリは少し落ち着いたみたいだが、怒っているのは変わっていない気がする。
「ユリアが昨日帰って来た時はびっくりしたよ。戸惑っているようで、悲しそうだったから。話を聞いたら色々あったってわかったけど」
「そうだよ、私が悪い所があったから……」
「いや、ユリアが悪いだけじゃないよ。少なくともおにーさんが悪いところはあるでしょ?」
そう言って俺の隣にいるアルデとクレアを見る。その後もう一度俺の目を見て、
「詳しい事はユリアの口から言ってもらうから。私から色々言いたい事が有るけど今のところは我慢する」
そう言ってエミリがユリアの背中を押す。
「あっ、え、えっと……」
俺の目の前に押し出されたユリアは俺と目を合わせなさそうにしている。
そうだな、俺のマイナス能力が引き起こしたことだし、俺が悪いと言っても過言ではない。
いや、俺が悪いか。
とにかく謝るべきだな。
そして俺はユリアに向かって頭を下げる。
「ごめんユリア! 昨日は急に帰らせるような事にさせて!! 本当にごめん!」
俺が急に謝ると驚いた様に、
「ち、違います! お兄さんが謝る事じゃ無いですから! 私があの時変な事言って、勝手に出て行ってしまったから。謝るのはこっちの方です。本当にごめんなさい!」
「いや、俺が悪いから! 本当ごめん!」
「私が悪いです! ごめんなさい!」
両方自分が悪いと謝り続ける。
俺からしたらマイナス能力が発動したから悪いのは俺になるが、ユリアからしたらあんな感じで帰った事に思う所があるんだろう。
その瞬間は俺もショックだったし、そう思うのも仕方ない。でも、男として女の子に悪い事をしてしまった。
そんな事を思いながら相互に謝っていると、
「何を言っておるのじゃ。悪いのはスノハラに決まっておろう」
「アルデ!?」
アルデが横から口を挟む。
「あれも全てスノハラのマイナス能力が起こした事なのじゃからな! スノハラが悪いに決まっている! 妾は悪くない! あと少なからずクレナリリスは悪い!」
ちゃっかり自分は悪くないと否定を入れるアルデ。
「わたしは悪くな……悪いわ……」
そしてそのアルデの言葉に何か言おうとしたクレアを睨む。
「マイナス能力……? どういうことですか?」
「それってどう言う事?」
マイナス能力と言う言葉に反応するユリアとエミリ。
そうだな、ここはしっかり話すべきところだな。
俺は重い口を動かす。
「実は俺にはマイナス能力ってのがあって……」
そして俺は昨日の経緯について説明し始めた。
◇
「……お兄さんにマイナス能力がある事は知っていたのですが、ここまでの能力があるとは……知りませんでした」
「それって、ホントマイナス能力だよね……。なんというか、可哀そうすぎるよ……」
ユリアとエミリが俺の能力を知って同情の目で見てくる。
その目は正しいです。本当にこの能力はその目で見てもらうぐらいの能力だとは思う。
まじなんだよこれ! って感じだから!
「前に『村人C』の事を聞いた時はどうかと思いましたが、他にもこんな悪質な能力があるとは……」
ユリアが前の事を思い出しながら、少し安心した様な顔になる。
「でも、あれが私のせいじゃないって事がわかって、本当に良かったです。お兄さんに悪い事をしたってずっと思ってて……」
「いや、本当に俺が、俺の能力が悪いから。ごめんな」
ユリアは昨日からこの事ばかり考えていたようで、胸のつっかえが取れた様だ。
俺も被害者だが、ユリアも被害者だからな。
「いえ、大丈夫です。理由がわかって安心しました……って、安心するのもおかしい事ですが」
「でも私は安心したよ。ユリアがおかしな行動取るなんて、おにーさんが悪いと思ってたから」
そう言ってエミリが「パンッ!」と手を叩いた。
「でも、今回の事はおにーさんが本当に悪いってわけじゃないって事だよね」
「そう! ありがとう! わかってくれてよかった!」
エミリがわかってくれたことに安心する。
昨日の事はどちらにも非が無いと言う事が伝わったことで、俺も胸のつっかえが取れた。
「エミリ、そう言う事だから、別にエミリがそこまで考える様な事じゃなかったでしょ?」
「そうかな? ここに来てユリアのモヤモヤが解決したよね。やっぱり無理にでも会いに来てよかったよ」
そう言うエミリの顔はもう怒っていなかった。
まあ、親友が悲しそうにして帰って来て、それも1日出ている予定だったのに早めに帰って来たって。そりゃ何かあったって思うのは当然だよな。エミリも携わった内容だったし。
俺も俺であの後フォローに行かなかった事は反省している。
まあ、気まずくて行けなかったってのが本音だが。
「本当にごめんな。ここまで来てくれて俺も助かったよ。ありがとう」
わざわざ来てくれた事にお礼を言う。
「いいよ私も言いたい事が言えるから」
お礼に対してエミリがそう言った。
まあ、言いたいこと言われたし、俺も納得したけど……ん? 今言えるからって言った?
「つまり理由はわかったよ。でも、結局昨日はそれで台無しになったのは変わりないよね?」
「そ、そうだな」
エミリが痛いところをついてくる。その言葉に間違いないが、
「エミリ……でも、最後はああなったけど、それまでは凄く楽しかったよ」
ユリアの言葉に少し胸が跳ねる。
そう思ってくれていたのはあの時も言葉にしてくれてたからわかっているつもりだったが、最後が悪かったのでどう思っていたか心配だった。だからこそ今言葉で言われると嬉しい。
しかし、それに対してエミリは話を続ける。
「それはいい事だよ。でも昨日は丸1日って話だったよね? それがユリアからのおにーさんへの報酬」
「エミリっ! そ、そうだけど……」
エミリの言葉にユリアが顔を赤くする。
「それとおにーさん、私との約束もそうだよね? 丸1日ユリアを楽しませる事って約束」
「あ、ああ。そうだったな」
エミリは真剣に俺の目を見ながら言う。
その目は少し笑っている様にも見えた。
そして、
「じゃあ、どっちも約束と契約が不成立だね!」
ニッと笑顔でそう言った。
「不成立……?」
エミリの言う通り100%契約通りだとは言えない。残念だと思う事もあるが、今日エミリがユリアを連れてきた事で気まずさも弱まった。これからを考えたら別に気にしないレベルになったと思う。そう考えれば昨日は俺にとって十分な報酬となっている。
しかしエミリはそんな事は関係ないと笑っていた。
「と言うことで、ユリアとおにーさん!」
そしてエミリが笑いながら、
「ユリアは今からドルグランドに! おにーさんはユリアをドルグランドに連れて行ってください!」
と言った。
「えっ! ちょっとエミリ!」
「エミリどういう……」
しかし俺達の質問に被せて、
「で! しっかり観光をしてきてください!」
「観光!?」
ユリアがエミリの言葉に「どう言う事!?」と叫ぶ。
「観光だよ観光! せっかくおにーさんがドルグランドに行くんだから、ユリアもついて行って楽しんできたらいいと思う!」
「何言ってるのエミリ!? 私は仕事が……」
「大丈夫。仕事なんて私がなんとかできるからね! それにユリア……」
エミリの目つきが変わり、
「これは王女である私からの命令です。行きなさい」
少し強めに命令した。
しかしその顔は笑顔で、ユリアが楽しんできて欲しいって気持ちが顔に出ている様だった。
「は、はい……」
流石のユリアも王女様からの命令として言われれば、拒否できない様だ。
「おにーさんはそれでいいよね?」
「全然連れて行ってもいいけど。ユリアがそれでいいならさ」
「え、えーっと……そうですねドルグランドはもう一度行きたいと思ってましたし、エミリに命令されたら拒否できませんからね」
少し戸惑いながらも行く事に納得した声でユリアが答える。
「じゃあ決定! あーここまで来たかいがあったよ! 最初はおにーさんに文句言いに来たけど丸く治ったね!」
エミリが胸にあった事を全て言えたのだといい笑顔で満足そうにしている。
「やっぱり文句言いに来たのかよ」
「当たり前でしょ! だから思いっきりユリアを楽しませてきてね! 今度こそ帰ってきてからのお話を楽しみにしてるよ!!」
「えっ、ちょっとエミリっ!?」
この場所がエミリの独壇場になって、全てが勝手に決まる。
まあ、俺は断る理由がないから別に連れて行っていいけどさ。より旅行が楽しくなるだろうし。
しかしまあ、強引すぎる決定だけどな。
「って事で、はい。ユリアの荷物!」
「えっ! それって私の荷物だったの!?」
隣に置いていた布袋を拾い上げユリアに押し付ける様に渡す。
「うん、こう言う事があると思って用意させていたから!」
「えっ、ちょっとエミリっ……」
「じゃあ、私は帰るね! クレアさん帰ろうか!」
戸惑うユリアを無視しながら隣でニヤニヤしていたクレアに声をかけるエミリ。
「ふふっ、貴方いいわね。ここまで貴方のペースに持ってくる強引さ。気に入ったわ! ここはわたしも賛同してあげる。ご主人様を取られる感じだけど、昨日の事はわたしも悪いから」
そう言って何か納得した様にエミリと意気投合しているクレア。
と言うか、エミリ、そいつはユリアを殺そうとした奴なのにそこまで仲良くなれるな。
俺が主人だからでも凄い胆力だぞ。
使える物は使うみたいな……流石王女様。
「ご主人様、エミルアリス様はわたしがしっかりお城まで連れて帰るわ。ユリアリア様の事はしっかりね」
そしてクレアが魔法陣を展開させる。
「あーわかった。しっかりエミリを連れて行けよ」
俺は帰ろうとするクレアにしっかりと釘を刺す。
ここまでエミリとユリアを連れて来てくれた事で少しはクレアの事を許してやろうと思う。
あっそれと、
「あと、串カツの事」
「わかってるわ! 串カツの事も任せてくれれば大丈夫だから楽しんで来てね! 行きましょ、エミルアリス様」
「そうだね、クレアさん」
そして魔法陣に乗ったエミリとクレアは消えて行った。
最後の巻き上げは嵐の様だったな。
「……え、エミリ」
あっという間の出来事でユリアは戸惑っている。
俺も最初は戸惑ったが、途中から旅行が楽しみになって、すんなりと受け入れられた。
「って事だ、行こうかユリア」
「……お兄さん。そうですね……」
戸惑っているユリアに声をかける。
ここでじっとしていても時間が過ぎるだけだからな。
「終わったか、待ちくたびれたぞ」
そう言ったティオルがドラゴンの姿に変わる。
「ごめんごめん、とにかく向かうか」
「やっとじゃな!」
俺はユリアを連れてティオルに飛び乗る。
「エミリ……何を考えて……」
ティオルに乗ってからも納得したのか納得していないのかわからない様子のユリアを入れて俺達3人はドルグランドに向かった。
次回の更新は来週または再来週の水曜日の昼ごろです。




