3話 リトルエンジェル
「お兄さん、次はどこに行くんですか? ちょっとさっきのお店が良かったので、少し期待してるんですけど」
少し期待した、からかうような顔をしながら質問するユリア。
もちろんその期待には答えさせてもらいます!
「ちなみにユリアはこの街を散策した事はあるか?」
「散策ですか? 少しはありますが、歩き回ってはいないですね」
「じゃあ、知らない所も多いよな?」
「そうですね。違う街には行っているんですけど、お膝元ってあまり出歩きにくいので。さっきのクレープも知りませんでしたし」
「ふふっ! だったらいい店があるぞ。たぶんユリアは気にいると思う」
「私が気にいる所ですか? 想像できませんが……気になります」
「おう、じゃあ行こか」
ユリアが気にいる場所、エミリに聞いてリサーチ済みだ!
探すのは苦労したと言うか、はっきり言って「こんな所にもあるのかよ!」と思ったが、人間という生き物は癒されたいのが異世界でも共通なのだと認識した。
ちなみにエミリも今度連れて行くことになってしまっている。その時はユリアとエミリと一緒に楽しんでもらおうと思うが。
「どこまで行くんですか?」
「すぐそこだよ」
そう言って、少し路地に入ったらそのお店が見えた。
「ここって……こんな店が? この看板の通りですか?」
そのお店を目の前にしたユリアが少し興奮した様に目を見開く。
「そうだよ。看板の通り」
「こんな店があるなんて……」
「それがあるんだよなー、知らなかっただろ?」
「知りませんでした。は、入っていいですか?」
「うん、入ろうか」
ユリアのテンションが高くなっていく。
ソワソワしながら初めて見る表情で、いつもの冷静でクールな印象がなくなるほどの笑顔だ。
この方が年相応で可愛いんだけどな。
そしてユリアが店の扉を開ける。
「いらっしゃいませー! 皆さんの心の癒し「リトルエンジェルカフェ」へ!!」
扉を開けると受付のお姉さんが出迎えてくれた。
そしてその背後には……
「ユミルにキャルに、ワーフルまで! お兄さんここ本当に……!」
小動物が可愛く俺達を覗いていた。
「ああ、思う存分楽しんでくれ! なんて言ったってここはネコカフェだ!!」
「へ? ネコって何かわからないですけど、ここは天国か何かですか!」
ユリアの語彙力が変わるほど興奮しているのがわかる。
女の子は可愛いものに目がないのだ。
そうここは小動物と戯れられるカフェ、いわゆるネコカフェだ。
外の看板には「貴方の好きな子を見つけて下さい! キャルからユミルまで様々なリトルエンジェル達に癒されてね!」と書いてあった。
「リトルエンジェル」ってちょっと名前はどうかと思うが、正真正銘ネコカフェである。様々な種類の小動物だから触れ合いカフェと言った方がいいだろうか。
ちなみにユミルってのが兎みたいで、キャルが猫、ワーフルが犬だ。一応こいつらはモンスターだが、小動物が愛でる対象であるのはどの世界でも変わらないみたいだ。
「どうぞ、こちらへ。新規のママとパパが帰ってきたよー」
「「ミー」」
「「ナー」」
「「キュー」」
「んんっ!! か、可愛いっ!!」
その小動物達の反応を見て、ユリアの顔が笑顔でいっぱいになってる。
こんなユリア初めて見た。
この笑顔が見れただけでもここに連れてきた甲斐がある。
まあ、こんなに喜んでくれるとは思っていなかったけどな。
そして店員さんにギルドカードを見せて入店する。
「そうですよ。うちの子達はみんな可愛いので、楽しんでくださいね。えーっと、ユリアママとイサムパパですね」
そう言った店員さんに促されてユミル達がいる部屋に入る。
すると何か新しいものを見る様に俺達の足下に集まって来きた。
「んんっ!!」
で、ユリアは部屋に入っただけでこの状態だ。
「じゃあ、そこに座って下さいねー」
店員さんの言葉に従って指定された場所に座る。
ユリアはさっきからソワソワしている。
入り口であれだったから、こいつらが近づいてきたら……。
「……っ」
そして一匹のキャルがユリアの下に近づいてきて……膝に座った。
「っ!! わ、わ、わっ! か、可愛っ!! ばふっ!」
「ナァーー」
その瞬間ユリアがキャルに抱きついた。
ここまでの豹変ぶりにはかなり驚いたが、可愛いからいいだろう。
「可愛いねー、可愛いねー」
そう言ってユリアが誰の目も気にせずにキャル達と遊び始めた。
後々思い返すと恥ずかしくなるパターンだろうが、今楽しければいい!
で、俺も癒されよう!
◇
あれから数時間、ユリアは猫じゃらしらしき物を動かしながらキャルと遊んでいる。
ユリアのお気に入りはキャルらしい。数匹のキャルに囲まれて幸せそうである。
「幸せそうだなー」
そんなユリアを見ながら呟く俺の膝の上には無造作にお腹を撫でられているワーフルがいる。
……俺は前の世界では猫カフェに行った事がなかったが、割と楽しいもんだな。
癒される。
ずっと頭の上に乗ってるユミルが重いなーっとは思っているが。
「ユリアママとイサムパパ、もうそろそろお時間ですが、どうされますか?」
癒されていると現実に返してくれる店員さんの声が聞こえたが……。
「延長で!!」
即行でユリアが答えた。
「あっ……お兄さんいいですか?」
思い出した様に俺を見て確認を取るが、キャル達から離れる気は無さそうだ。
「うん、いいよ」
「ありがとうございます!」
癒されてるならそれでいい。
まあ、準備していたプランを少し変更しないといけないけどな。
「キャルちゃんっ!!」
それからもう数時間ネコカフェにいた。
◇
「すみません、テンションがおかしかったです……」
顔を隠しながら恥ずかしそうにうつむくユリア。耳まで真っ赤だ。
しかし俺としてはいつもと違うユリアが見れて楽しかったので満足である。
「いいよ、いいよ。可愛かったし」
「かわっ……!? あぁ、キャル達のことですよねっ」
「キャル達も可愛かったけど、それを見てテンション上がってるユリアも」
「……っ! それはもう忘れてくださいっ!」
「はははっ」
ユリアの顔が赤くなって照れている。
ちょっといい感じじゃないでしょうか?
それとここまでネコカフェにいるとは思っていなかったが、丁度いい時間になった。
「次なんだけど、お腹空いてきてないか? まあまあ長いこといたからな」
「すみません……もう昼はとっくに過ぎてしまってこんな時間に……」
申し訳なさそうにユリアが謝るが、
「いいよいいよ、楽しんでもらうのが1番だから。ここまで楽しんで貰ったら連れて来たかいがあったよ! じゃあ、少し早いけど、夜ご飯にしよか?」
「そうしてもらうとありがたいです。お昼も食べずに夢中になってしまって……」
「いや丁度良かったかもな。次のお店は少し早く行ったら一押しを出してくれる店だからさ」
「一押しをですか?」
一押しと言う言葉に少し興味を持ったようだ。
「そこのマスターはかなり目利きが良くてな、新鮮な食材を使って料理してくれるんだけど、数が少ないものは先着順になるからな。まあ、それ以外もかなり美味いから別に焦って行かなくてもいいんだけど、せっかくだからな」
「ちなみにどんな食べ物ですか?」
「それは俺もわからなくて。その店のおやっさんしか知らない」
「へぇー、そうなんですね。興味が湧いてきました」
「おっ、いいね! じゃあ行こうか」
「はい、是非!」
そしてその店に向かう。
「路地を通る事が多いですね」
「そうだな。表通りには店構えが綺麗なお店が多いけど、実は裏の方が良い店があるんだよ」
「裏の方がですか」
さっきのネコカフェの時もそうだったが、ユリアが珍しそうにキョロキョロしている。
冒険者をしていても貴族が路地には入る事が少ないだろう。
「でも、あまり治安は良くなさそうですね。そんな所でお店を経営しても大丈夫なんですか?」
「まあ、ユリアが言う通り路地裏は治安が悪いんだけど、そんな所で店を構えてる店主は大抵冒険者上がりだからな。そこは心配ない」
「なるほど」
「ちなみに、ユリアは1人で来たらだめだぞ? 冒険者をしてて強くても女の子が1人では危ないからな」
「いや私だって……あ、そうですね。また来る時はお兄さんに連れてきてもらいます」
「おう、さっきの店もどこでも連れて行くよ」
「はい、お願いします」
そう言うユリアは嬉しそうだった。
「そう言ってる間に着いたぞ」
「ここですか」
少し古びた店構えで、普通なら入りずらそうな雰囲気を醸し出している店の扉には「WELCOME!」と書かれている。
俺は躊躇なく扉を開けて中に入る。
店内は5人ほどが座れるカウンターと4人掛けのテーブルが2つある少し小さめで、カウンターの向こう側に店主が立っていた。
「おやっさん、ちょっと早いけど2人行けますかー?」
「ん? カウンターなら空いてるが」
カウンターの奥にいるおっさんが無愛想に言う。
指定されたカウンターの2席以外は埋まっている。
「大丈夫です。そこでお願いします」
俺はユリアを連れてそのカウンターに座る。
「へぇ、いい感じのお店ですね」
「だろ?」
店の外装からは少し想像しにくい綺麗に整った店内。オレンジ色で店内を照らす明かりは落ち着く雰囲気を醸し出し、こじんまりとした店内は隠れ家のように感じる。
「にいちゃんか、どうする」
「お世話になってます。いつも通り、板さんのおまかせで」
「おう」
俺の注文におやっさんは満足そうに頷いて料理を始める。
「お兄さん、今ので注文したんですか」
「うん。知ってる奴しか通らない注文な。まあ、この店にいる奴全員知ってる方法だろうけど」
少し早い時間にここにいるのは大抵常連だ。
「そうなんですか」
「ちなみにさっき話してた一押しを食べられるのがこの注文方法しかないんだけど、おやっさんに気に入られないと注文が通らない。一見さんお断りって奴だ」
俺もこんな店主と出会うとは思ってなかった。
まあ、この街での出会いは殆ど串カツ関連なんだけどな。
「貴族以外でもそんなお店があるんですね」
貴族しか入れない様な店は腐る程あるだろう。そういう店にも一度は行ってみたいものだが。
「ちなみにお兄さん、今店主さんが料理してる食材って何でしょうか?」
「ん? 俺も見た事ないな。もしかしたらこれが今日の一押しかもな」
瓜っぽい楕円形で真っ白な食材を切っている。
野菜なのかなんなのかわからないが、とにかく未知なる食材だろう。
「お待ちど」
そして俺達の目の前に小鉢が置かれた。中身はさっきの食材を薄くスライスしたもので、上に鰹節の様な物が振りかけられている。
なんとなく玉ねぎのスライスにも見えなくない。
「これは何ですか?」
俺の代わりにおやっさんにユリアが質問してくれた。
「リートフリューだ」
「っ!! リートフリューですか!?」
おやっさんの言葉に驚きの声を上げる。
「どうしたユリア?」
「どうしたもこうしたもないですよ! リートフリューは一定の時期にしか出回らない、貴族でも食べられないと言われている! 伝説の果物ですよ!!」
興奮気味に話すユリアがぐいっと俺との距離を縮める。
ちょっと顔が近いが、その距離も気にならなくなるぐらいの珍しい食べ物だとはわかった。
「そうなんだな。って事は、かなり美味い?」
「当たり前です!! と言いたいところですが、実際私も食べた事ないです……」
ユリアが食べた事が無いなら、貴族も食べれないと言うのは正しいんだろう。
俺はまじまじ小鉢の中を見る。
「おやっさん、実際どうなんだ?」
「食べたらわかる」
無愛想だが、自信満々に言い放った言葉に俺は迷わずフォークを取る。
「じゃあ、頂きます……っ!!」
そして一口頬張った瞬間、
「美味い!! なんだこれ!!」
口の中に暴力的な旨みが広がった。
そして二口目へと手が勝手に動き出す。
俺の動きを見てすぐにユリアもリートフリューに手を出す。
「では、私も頂きます……っ!!」
ユリアも一口食べた瞬間、大きく目を見開いた。
「美味しい! すごいです! この旨味は!」
そして迷う事なく二口目を口に入れる。
「シャキシャキの食感で果物なのに野菜に近い甘さ。でも肉を食べた様な旨みが口の中に広がったと思ったらスッと口から消える後を引かない旨味! 初めてですこの感覚は!」
興奮して流暢に語り出すユリア。
でも、その気持ちはわかる。俺もユリアが言ってる事と同じ内容が全身から吹き出そうだった。
「しかもこれを食べた瞬間余計にお腹が空いてきたぞ!」
「本当ですね。食前酒の様な役割があるのですか」
「それがリートフリューだ」
俺達の反応に満足そうに次の料理に移るおやっさん。
「美味しかったです! 一瞬で小鉢が空に……」
少し名残惜しそうに小鉢を眺めるユリア。
「だな。一発目にこれが出てくると、次がどうかと思うが。それでもこの店で出てくる料理は全て美味い!」
安心して欲しい。この後も最高の料理が出てくるからな!
「はい。期待します!」
そして次の料理が用意された。
とにかく可愛いユリアが見たかった!
猫カフェ万歳!!
次回の更新は来週水曜日の昼ごろです。




