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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第4章「最強の勇者」

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2話 あまくておいしいもの



 何というか、ふわふわする様な、ドキドキする様な感覚だ。


 そう言えば、女の子と待ち合わせするなんていつ以来だろう。

 社会人になって仕事に追われて、話す女性なんて会社の同僚、先輩、取引相手ぐらいしかなかった。

 まあ、出会いを求めに動いていなかったってのもあるが。


「もう少しかな?」


 この待ち合わせの場所で待っているってだけで、何というかムズムズする。

 王都センリスクの綺麗な街並みを見ながら待つって言う行為も多分このふわふわ感に作用しているんだろう。

 前にエミリと出かけた時は気にしてなかったけど、こう約束して待ち合わせてみると、また何か違う様な気がする。


「あっ……お兄さん……」


 来たか。


「お、おう、ユリア……っ」


 聞き覚えがある声に反応してその方向に目をやったのだが……。


「……? どうしたんですか?」


「いや……いつもと雰囲気が違うなって」


「そ、そうですか……?」


 一瞬止まるぐらい印象が違った。

 いつも見慣れていた冒険者の格好やエミリの側近の格好とは違う。

 もしかしたらと想像していた、貴族の女性が着る様な上品で派手な衣装ではなく、現代の女性が着る様な清楚な白のワンピースにストールを羽織った女の子がそこに立っていた。


 一瞬見惚れてしまった。

 

 そうだ、こういう時に気の利いた事が言えるかで、これからが決まると聞いた事がある。

 今日はユリアに好印象を持ってもらいたいからな。ちょっと頑張ってみよう。


「うん。凄く似合ってるよ、可愛い」


 そんな事を思っても、よっぽどの気が利いた言葉は出ず、普通の誉め言葉しか出なかったが、


「っ! ……あ、ありがとうございます」


 そう言って恥ずかしそうに下を向くユリア。

 この反応……掴みはバッチリなんじゃないでしょうか?


「そ、それより今日はどこに行くんですか? 今日一日エミリに無理言って空けてもらったので……エミリはゆっくりして来てって言ってましたけど」


 エミリにはこの報酬の事は話している。

 その話をした時に笑顔で「ユリアを楽しませてねっ!」って言っていたので俺も全力で対応する予定だ。


「しっかり考えてるから、今日は俺に任せてくれ。楽しみにしてていいよ!」


 自分でハードルを上げる発言をしてしまったのだが、今日まで脳内シミュレーションしてきたのだ。喜んでくれる自信はある。


「そ、そうですか。じゃあ……今日はお兄さんに任せますね」


「……っ!」


 そう言ったユリアの笑顔はいつもとは違い、憑物が落ちた様ないい笑顔でとても可愛かった。

 いつもとシチュエーションとイメージが違うだけでこうも破壊力が変わるのだろうか。


「よ、よし! じゃあまずは甘いものでも食べに行こうか」


「甘いものですか?」


 その笑顔にドキドキしながら、表情に出さない様にしながら話を変える。隠し切れてないかもしれないが。

 とにかく、女子は甘いものが好きだと言うのは相場が決まっている。

 それにこの国ではそこまで甘いものが出回っていない。エミリの側近をしていたらどうかは知らないけど、よく食べてる事はないだろう。


「わかりました。実は今日朝ご飯を食べていなかったので」


「だったらよかった。かなりお勧めな屋台があるから、行こうか」


「屋台ですか? ぜひ行きましょう」


 何が出るのか楽しみそうな顔をしながら返事をしてくれる。


 よし! 絶対その期待を超えてやろう!

 そう思いながら、屋台街の方に向かう。


 この世界では屋台は主流だ。

 金持ちなら店に入るだろうが、一般の人なら屋台が多い。

 ユリアは貴族だから店に入る習慣や王城で食べる事が多いだろうが、冒険者をしている事で屋台に拒否反応はない。

 ……さて、気に入ってくれるだろうか。


 その店に近づくにつれて甘くていい匂いが鼻腔を擽る。


「いい匂いですね」


「だろ?」


 その甘くていい匂いがする店の前に到着する。


「いらっしゃーい。って、ニイちゃんじゃねえか! 久しぶりだな!」


「おーす」


 甘い匂いを漂わせている屋台のおっさんが俺を見て挨拶する。


「お知り合いですか?」


「ネェちゃんは初めてだな。知り合いっていうか、ニイちゃんがよく通ってるんだよ。その都度大量に買って行くから印象があってな!」


「そうなんですか?」


「いやー、なんて言ったってクレープだからな! こんな所で甘いものが食べれるとは思わなかったわけだ! ちなみにアルデもティオルも好きだな」


「へー、クレープですか。初めて聞きますね」


 ユリアが首を傾ける。

 やっぱり初めてか。これは気に入ってもらえるかもしれないぞ。


「そ、クレープ。甘い食べ物なんだけどさ、俺の故郷でも売ってたお菓子だな。とにかく食べてみたらわかるよ。まずは王道に、おっちゃんプレーンを2つ頼むな!」


「おう! 毎度あり!」


 そして目の前の鉄板でクレープを焼き始める。

 その手つきは職人様々で、見ているだけで面白い。


「へぇ、見てると面白いですね。それに凄く甘い香りがします」


「そりゃクレープだからな」


 おっちゃんがクレープにクリームらしきものを付けて、きれいに巻く。


「ほらよ! 先にネェちゃんからな!」


 そう言ってユリアに出来立てのクレープを渡した。


「ありがとうございます。へぇー、こんな形に。美味しそうですね」


 紙らしき物に包まれた出来立てのクレープを見てユリアが呟く。


「じゃあ、頂きます。あむっ……」


 そして一口かぶり付き、


「……っ!! 美味しいっ!」


「よし!」


 その美味しそうな笑顔に俺はガッツポーズをする。


「なんですかこれ! 貴族達が食べる様な甘ったるいお菓子ではくなく、良い甘さで、後に残る余韻にも浸れる感じ。特にこの生地がいい塩梅に甘さを押さえてる? とにかく、美味しいですね!」


「だろ? そこまで喜んでくれたら嬉しいな!」


 うん、この反応は完璧だ!


「だろ? ってニイちゃんを褒めてるんじゃねーよ! オレのクレープに言ってるんだよ! って事でニイちゃんもほらよ!」


「クレープが褒められる事が嬉しいんだよ。で、あざす! むぐっ。うん、やっぱ美味いな!」


 甘い味が口の中に広がる。

 この世界に来て甘いものといえば果物が定番だったが、クレープの様な砂糖を使った物も恋しくなってきて、これがここにあったのは運命だと感じたぐらいだ。


「……これ、砂糖を使ってますよね? この辺りでは最近はあまり手に入らないんじゃないですか? あと、高いはずです」


「おっ! ネェちゃんよく知ってるな! その通り砂糖はここら辺では取れない。値段も高い。だからこそ使うんだ! ここに無いから売れるんだろ?」


「……なるほど。それはわかりますが、この値段は安すぎないですか?」


 看板に書いてある値段を見て指摘をする。


「流石ユリアだな。よくわかってる! ここら辺では砂糖はかなり高いからこの値段は安く感じる」


「ですよね? だったら……」


「でもここじゃなければ仕入れは高くない」


 ユリアの言葉にかぶせる様に俺はそう言った。


「ここじゃなければ? どういうことですか?」


 仕入れをこのエンスラッドではないならどこで仕入れるのか。

 それは、


「エンスラッドじゃなくて、ドルグランドで仕入れたら安くなるわけだ」


「ドルグランド、ですか?」


 ユリアが疑問を浮かべながら復唱する。


「そうドルグランド。あの国には色々な食材があるんだよ! 俺が求めている殆どの食材が!」


 目を輝かせながら言う俺にユリアが「ああなる程」と言いながらうなずく。


「で、なんでニイちゃんがドヤ顔してるんだよ! ここはニイちゃんじゃなくてオレのセリフだろ!」


「いいだろ、俺が嬉しいんだ!」


 目を輝かせながら話していた俺に突っ込みをいれるクレープのおっさん。

 しかし、これは俺が言いたい事である!


「そう言えば、確か近々行くと言ってましたね。なんでしたっけ……ショーユ? を求めに行くんでしたか?」


「そう! 醤油! それに砂糖も! エンスラッドやゲンダルフィンよりも流通が盛んなドルグランド! 国内の栽培も凄い! 大体の物がある国なんだったら、行くしかないだろ!」


 クレープのおっさんの横槍があっても、食材の宝庫であるドルグランドの話にテンションが上がる。


「そうですね、ドルグランドには行ってみても面白いと思います。私も行きましたがあの国はこの国とは比べものにならないほどいいですね。4つの国の中で1番大きい国なので、人も多いです」


「だろ? そんな国に行かない手はないわけだ! って事をこのクレープを食べて余計に思ったわけ」


「って事をこのニイちゃんは俺から聞き出したんだがな? 砂糖はどこに売ってるんだって。だからニイちゃんがドヤ顔すな」


「はっはっはっ! ありがとうなおっちゃん! このおっちゃんが元々ドルグランドの商人出らしいからな。色々聞いたわけだ」


「へー、そうなんですね。でも、ドルグランドで仕入れるのも大変じゃないですか?」


 普通はそう考える。

 しかし、このおっちゃんにはツテがある。


「普通はな? でもこのおっちゃんはドルグランドに兄弟がいるみたいでさ、そこから安く仕入れられる。ドルグランドまでの往復代を含めて余裕で稼げるぐらいの価値はこの砂糖にあるわけだ!」


「成る程、ツテがあれば納得しますね」


「だろ?」


「で、このニイちゃんはオレの兄弟を頼ろうとしてるんだよな! 図々しいにも程があるぜ!」


「なに言ってるんだよ! 俺の串カツを食って意気投合したじゃねーか! WIN-WINだろ?」


「そのウィンウィンってのがわからんが、まあ、意気投合はしたな!」


 そう言って笑うおっさん。

 こんな感じで串カツ同盟も増えていった。

 いつかハマさんとサッさんにも合わせよう!


 まあ、それは置いておいて、


「それを聞いて、明日から行く準備はしているんだ」


「え? ……明日からですか?」


 俺の言葉に引っかかる様にユリアが聞き返す。


「ああ、明日から。昼ぐらいには出発したいなって思っている」


「……ああ、昼からですね。何日もかかる距離なので別に朝から行く意味もありませんからね」


 少しホッとしたユリアの表情に疑問が浮かぶが、


「……ん? そうだな。でもティオルに乗っていくから別に1日で着く距離だと思ってたんだけど」


「そうでしたね。ティオルちゃんがいればすぐに着きそうですね」


「流石ドラゴンだなって感じだよ」


「……ドラゴンを乗り物にするなんてお兄さんぐらいしかいないですけど」


 はぁ、とユリアがため息を吐く。しかし、納得した様に頷く。


「何かわからねえけど、旅は大変だからな。ドルグランドまではモンスターも出るからな、気を付けろよ」


「おう、ありがとうおっちゃん」


 そう言っておっちゃんが「サービスだ!」と言って小さめの果物入りクレープを渡してくれた。


「ありがとうございます。それにしても、このクレープって食べ物は美味しいですね。エミリにも持って帰りたいです」


「ああそうかそうか! ネェちゃん気に入ったらまたいつでも買いに来てくれ! 種類は他にもあるからな!」


「はい。また来ます!」


 貰った果実入りクレープを一口食べてそう返事を返す。


 ここまで気に入ってくれたら連れてきた俺も嬉しい。それにそんな風に喜ぶユリアを初めて見た。


「じゃあ御馳走様!」


「ご馳走様です」


「おう、ありがとな!」


 クレープのおっさんにお礼を言って、俺たちはクレープ屋を後にした。




       

クレープは甘いものなのです。


次回の更新は来週水曜日の昼ごろです。

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