7話 助けてくれた少女
「そうだよね! スライムに群がられたていたんだから、溶けたら服も無くなるよね!」
「でも普通、服が溶けるぐらいだったら体もやばいんじゃないですか?」
なんだろう、俺には全裸の呪いでもかかってるんだろうか。
「えーっと、回復力と防御力が割とあるからかな? スライムって弱いだろ?」
「でもそのスライムにお兄さんは瀕死の状態だったんですよね?」
「うん、スライムにあんなに群がられた人見たことないよ。それに、スライムに負けてる人も見たことないよ」
「うっ、それは仕方がない理由があるんだよ……」
そう少女2人に詰められて俺は俯いてしまう。
今俺は助けてもらった2人の少女と話している。金髪の方がエミリちゃんで、茶髪がユリアちゃんと紹介された。
ちなみに肝心の服と言えば……もちろん新しい服は着れていない。でも何故まともに話せているのかと言えば、隠せるところは隠しているからだろう。スライムが侵食していなかった背中側の服の残骸を、腰に頑張って巻いている。上半身は裸のままだけど……。まあ、下半身も裸みたいなものだけど。腰ミノよりもひどい。
「おにーさんって、弱いんだね?」
「弱いのにこんな外に出ちゃダメじゃないですか?」
「いや、ちょっと待って! 俺弱くないよ!? 別にスライム以外は倒せるし!」
「いやいや、スライムに負ける時点で弱いからね?」
「それで弱くないってお兄さんは冗談が上手ですね」
エミリちゃんとユリアちゃんが俺をかわいそうな目で見ている。この時点でこの2人からの印象は弱いお兄さんになってしまったわけだ。
「と言いますか、お兄さんってどこから来たんですか? 1人でこんな所にいるって、周りに止められなかったんですか?」
「ホントだね。ここまで弱いとどこ行くのも大変だもんね」
弱くはないよ、弱くは。
「うーん、そうだなー、ここより大分遠い所かな。多分もう帰れないところ」
少し濁して答える。召喚とか転生とか言うとまた冗談とか言われそうだし。それに転生した証拠がない。最初は全裸だったし、腰につけている残骸は異世界の服だし。咄嗟に付く嘘も考えられなかったからな。
「へー、色々あるんだね。あまり聞かないほうがいいとか?」
「うーん? 今のところは?」
「怪しいですけど、わかりました。でも、それはここにいる理由になってないですよね?」
「あっ、ホントだ。なんでここにいるかわからないじゃん!」
「ちなみに、ギルドカードは持っていますか?」
そう言ってユリアちゃんは手のひらサイズの金色のカードを見せてきた。
へぇー、これがギルドカードか。名前と職業が表面に書いてある。
「いや、持ってないけど」
あのジジイに貰ったカードとも違う。
「……えっ? じゃあどこかの団体に所属しているとかですか?」
「団体か……会社が全て管理していたからな。はっきり俺がどこに所属していたとか考えたことなかったな。何とか福祉団体とか?」
「なんですかそれ……。って、もしかしてどこにも所属無しですか!? じゃあ身分を証明する物も……」
「……ないです」
ユリアちゃんに呆れられたようなため息をつかれる。
俺だって証明できるものならしたい。勇者ですって示せるし。何なら前世の免許書でも見せてもいい、異世界転生者だってわかるだろう。あ、でもあれも全てここに来る前に海の藻屑となってしまったか……。
「ホントですか……。どうやってその年まで生きて来たんですか……」
「俺の故郷はとても平和だったんだ。戦争も争いも無縁な生活をしていたよ……」
「……は?」
俺は遠い目で遠くを見てみるが、信じてもらえなかったらしい。
「そんな国や地域聞いたことがありませんよ。証明なしで生きられるなんて……」
そりゃそうだよな。前世の国も証明書なしでは生きられなかったけど。
ああ、ユリアちゃんの目が弱い人を見る目じゃなくなって、疑う目で見ている……。
「じゃあ街に入るのは難しいですね。こんな怪しい人を入れるなんてありえないですし。もちろんお金は……」
「……ないです」
「……はあ、なんですかあなたは。厄介なものを助けましたねエミリ……」
とうとう厄介者扱いをされてしまった。
そりゃ草原でスライムに群がられて、全裸で寝ていた成人男性を疑わないわけがない。
うわっ、自分でも引くような状況だよこれ! まともに話してくれてるこの2人が優しいを通り越しておかしいぐらいだ。
あー、これも全てあのジジイのせいだ! どうにかしてぶん殴ってやりたい!
しかし、この親切な2人を困らせることはしたくないな。スライムから助けてもらっただけでも死ぬほど助かったんだし。ここから去るしかないか。
「……エミリ、聞いてる?」
野宿となればスライムだけ気を付ければ何とかなるし。野営の心得は持っているつもりだ。1か月ほど無人島で実際にしていたからな。裸でも生きられる自信はあるし、俺の強さなら山賊狩りでもすればすぐに衣と住は確保できる。食は森があれば何かしら大丈夫だろう。
はあ、魔王を倒した勇者が山賊狩りして野宿なんてすごい異世界生活になりそうだ。スライムに殺されるよりかはマシだけど。
そんなことを思い、ここから立ち去るために重い腰を上げようとした。
「……んー、じゃあさ、おにーさん」
そのタイミングでエミリちゃんに声を掛けられる。
「ん?」
「街に入る時は私がお金貸してあげるよ? 街に入るぐらいなら身分も証明してあげれるし」
……本気か? 自分で言うのもあれだけど、俺って得体の知れない男だぞ。
「えっ!? ちょっとエミリ! 何言ってるんですか!? この人がまともかわからないんですよ! もうちょっと警戒心を持って……」
「大丈夫だよユリア。この人からは何も悪い気を感じないもん。それに私の勘が言ってる。この人は凄い人だって! 何が凄いかはわからないけど?」
なんて、なんていい子なんだエミリちゃんは!
そんな純粋な目で見られると俺の悪いところが全て見透かされる気がする。
あと、凄い人ってのは合ってるんだけどな。俺って魔王も認める勇者だから!
「ねっ? ユリア?」
そういいエミリちゃんはユリアちゃんの目をじっと見る。そうするとユリアちゃんが折れたように。
「……はあ。わかった。最後の言葉が気になるけど、エミリがそこまで言うなら仕方ないね。じゃあ、お兄さんが街に入るお金は私が立て替えましょう。それに身分も保証します。『アイテムポーチ』あとはこれ」
そういいユリアちゃんは何もない所に手を突っ込んで灰色の布を取り出し、俺に渡してくれた。
へー、想像はしていたけど生で見るとすごいな。「アイテムポーチ」って異空間収納だよな? まじで手品みたいだ。
「『アイテムポーチ』……おっ」
そう思いながら俺も2人に見えないように使ってみる。すると手が一瞬何もない空間に入った。
見ただけでできるとは……さすが「大賢者」だ。今思うと十分チートだよなこれ。
「で、これは?」
渡された灰色の布に疑問を持つ。
「羽織ってください。さすがにその恰好では街に入れません。それでもギリギリですけどね。幸いなのは何も持っていない事ですね。ぎりぎり魔導士に見えなくもないかと」
渡された布を広げてみる。ローブのようだ。大きさは大人でも身を隠せるほどの大きさである。なんでこの子がこの大きさのローブを持っているのか疑問に思うけど、一旦置いておき、立ち上がりローブを羽織ってみる。
「んー、どう?」
なんだか裸コートみたいになってしまった。怪しさが際立った気がする。相手側からどう見えているかわからないけど。
「……なんか、異様さがでたね。魔導士と言っても黒魔導士だね。さすがにさっきよりはマシだけど」
「そうだね……。まあ、仕方ないです。それで行きましょう」
やはり、変な感じになっているようだ。
あれだ、これも全部スライム……いや、その原因を作ったあのクソジジイのせいだ。もし次に会う機会があればぶん殴るだけじゃ収まらない。あのジジイに対する俺の怒りは永遠に昇り続けるのだ。
「あとですね、そのユリアちゃんっていうのやめてくれませんか? ちょっとむず痒い感じがして。ユリアでいいです」
そうか、何も考えずに呼んでたけど。本人がそういうなら呼び捨てにした方がいいのかな。
「じゃあ私もエミリでいいよ?」
「えっ、ちょっとエミリ! あなたまで呼び捨てって、ちゃん付けもどうかと思うけど、さすがに……」
「えー、ユリアだけずるいじゃん。いいでしょ? ねっ?」
「いや、エミリは少なくともさん付けの方が……」
「ゆーりーあー」
否定するユリアちゃんにエミリちゃんがねだる様に言う。
「……はあ、わかった。じゃあ、両方とも呼び捨てでお願いします」
「わかった。じゃあ、エミリ、ユリア。これからよろしく!」
「うん、よろしくねおにーさん!」
「宜しくお願いします。お兄さん」
そう言って2人が起き上がる。
「じゃあ、行きましょうか。色々と道中で話を聞きます」
「ちょうど私達が通って良かったね、おにーさん」
「いや、本当に助かったよ」
本気でこの2人には感謝しかない。何かお礼できる事を考えないといけないな。
そう思いながら2人について行こうとして、
「……そうだ「傲魏」を忘れてた」
さっき投げてしまってた「傲魏」を回収するため2人が歩いている逆方向を向く。
「『瞬動』!」
一瞬で「傲魏」の所まで移動する。
この能力は剣技だったと思うけど、この距離を一瞬で移動できるのは、やばいな。魔王さんありがとう。
「傲魏」を払い「アイテムポーチ」に回収し、2人に向かって歩いていく。
「あれ? おにーさん遅いですよー! なんでそんな所にいるの? 早く行くよー!」
「そうですよ。そんな所にいたらまたスライムに群がられますよー」
「おー、すぐ行くー……って、いや、次はそんなことならないから!」
スライムに負ける事を全力で否定するが、
「いやいや、自分の弱さをわかってください。スライムに負けるお兄さん」
「そーだよ。スライムに負けるおにーさん!」
弱いの代名詞スライムの名前が俺の呼び名についてしまった。しかもそれに負けるお兄さんって……本当の事だけど。
しかし、このままギルドでその呼び方をされると確実に弱いレッテルを貼られてしまう。もうこの2人には散々なところを見せてしまったが、第一印象は大事にしたい。
でも、ギルドに行けばすぐにでも俺の凄さがわかるだろう。何て言ったって俺はチートな数の能力を持っている。見せつけたらすぐに「おにーさんすごい!!」とか「お兄さんってホントは勇者だったんですね!!」とか言って貰えるようになるはずだ。
よし、妄想が捗っているうちにさっさとギルドに行こう。
俺は2人に追いつくように小走りで向かった。




