32話 懐かしいそそる匂い
「話し合いもいい感じになって来たみたいだな?」
「……ふん、グレイバルトめ、妾の言う事に反論するとは、小僧の癖に!」
「まあ、国王に任命されたってのもあるし、思っているよりしっかり考えているんだろ」
俺達は今ゲンダルフィンの王都ウォンキッドの城下を歩いている。
今日も無事にグレイバルトと話し合いが終わった。俺は殆ど話し合いに参加していないが、エミリとユリア対グレイバルトとアルデの構図で話し合いがされていた。実質アルデはエミリ側なので3対1の構図だったが。
しかしグレイバルトに対してはアルデで押し通せる事ばかりだと思っていたが、割とグレイバルトも引かずに争っていた。元国王と言うことでグレイバルトも割と考えているみたいだ。
一応今日で一旦話し合いが終わったので、初めてウォンキッドの街を探索する為にアルデと歩いている。ティオルは今頃串カツを揚げているだろう。
今回の話しは事前準備みたいなもので、これから表立った話し合いをする予定だ。
まだまだエミリ達はゆっくりする事が出来ないだろう。
だから少しでも気分転換にとお昼でもと話していたが、流石にエミリとユリアは勝手に出ていく事はできない様で、城の中で昼食を取っている。
ウォンキッドにはこの話し合いをする前から秘密裏にクレナリリスの転移魔法で来ていたのだけど、この一週間はウォンキッドに泊まっていたので、やっとの自由時間である。
「エミリがエンスラッドにとって都合のいい様にしたかったんだけどって言ってたけど、そう上手くはいかないのか?」
「いや、ここまでエンスラッドとゲンダルフィンの交易がしやすくなるだけでも十分じゃな。今までの交易は結んでいないのも当然な内容じゃたからのう」
ゲンダルフィン側として出席しているアルデは思っているより国の事情に詳しくてクレナリリスと共にグレイバルトと政治の話をしていた。割とクレナリリスがエンスラッドの足元を見ていたらしい。
「しかし、クレナリリスは一緒に連れて来なくてよかったのか? 飯食わなくて?」
「ん? あやつはサキュバスじゃからのう。食事は全く必要が無いのじゃ。其方の魔力さえ与えていれば万足じゃろ。別に毎日やる必要もないのじゃがな」
「えっ? そういうなのか?」
そんな事聞いてないぞ?
「うむ。あやつは普通に近くにいる人間からちょこちょこ奪っておるぞ? それにリヴァイアサンとも契約しとるから魔力は尽きないのじゃ」
「マジか! ……後であいつは締めよう」
毎日俺に引っ付いてきて魔力を吸っていくから必要なのかと思っていたけど、そうだったのか。
「さて、妾達も飯を食うのじゃ! 妾は腹が減っておるのじゃ!」
「はいはい。じゃあ一旦この街を探索しながら食べ歩きだな!」
俺とアルデは街を歩き探索する。
この街はエンスラッドの王都センリスクよりも広い面積なのだが、センリスクに比べてきれいではない。
別に汚いわけではないけど派手さがないと言った感じか。土地があるだけで何もない的な。まあ、センリスクと比べたらってだけで、普通に街としては十分な状態だろう。
歩いていると屋台はあるようで、食品から衣類、日用品まで幅広く置いてある。そこら辺はセンリスクと変わらないんだと思った。
「いい匂いばっかりだな、どれにするか迷うな」
「うむ。種類は多いようじゃなー。あれも美味しそうじゃ!」
所々にある屋台からいい匂いが立ち込めてきて、どれにするか迷っていると、
「……ん?」
鼻孔を擽る一味違ういい匂いが漂って来た。
しかもそれはとても懐かしく、お腹が減る匂いだ。
「……これって……まさかっ!」
「どうしたのじゃ? ……おい、スノハラ!」
その匂いに衝撃を受けた俺は、アルデを置いて匂いの方向に走る。
この匂いは、本当に!?
エンスラッドには無かったのに、ここにあるのか?
「ここか!」
そしてその匂いの下にたどり着く。
「これはっ!!」
「いらっしゃーい」
目の前にあるのはただの串焼き。しかし、そこから発せられる匂いは塩胡椒が振られただけの匂いとは違う。
「おいスノハラ、急に走ってなんじゃ?」
「なあ、おっさん、これは……?」
「ん? 串焼きだが?」
それはわかってる。
「1本くれ!」
「妾も食べるのじゃ!」
俺は即決で串焼きを頼む。
「毎度あり! ほらよ!」
おっさんから渡された串焼きを俺とアルデが受け取る。
「……っ! やばい! この匂い……マジかよ!」
手に持っている串焼きを直接嗅ぐ。
鼻腔を擽る匂いは余計食欲をそそる。
「……いただきます」
そして串焼きを口に入れた瞬間、
「……っ!!」
俺の全身に電撃が走った。
マジか、これはマジなのか! この味だ! これが俺が探し求めていた調味料!
「むむっ! これは美味いのじゃ!」
「こ、こんな所にあるとは……!!」
もう一口食べて確信する。
作ろうかと思っていた調味料。故郷に住んでいた者なら殆どが口にした事がある調味料。
黒くて、塩っぱい液体。旨味が濃縮された故郷の人間なら必ず食べたことがある味。
「これは、醤油だ……!!」
俺はこの串焼きを売っていたおっさんに凄い剣幕で尋ねる。
「おいおっさん! これってどこで仕入れたんだ!?」
「お、おう、どうした? ……これか? これは、隣の国からだな。露店でも売ってるが……」
「隣の国!?」
隣の国と言ったら俺達がいる国じゃないのか? でもあの国には醤油なんてなかったぞ?
「あ、エンスラッドじゃねーぞ? ドルグランドの方だよ」
そうおっさんは訂正する様に言った。
「ドルグランド……?」
「ああ、ドルグランドさ。兄ちゃん知らないのか? 4つの国の中で1番でかい国だよ。この国の北にあるでっかい国さ」
この国の北側に国があるのか。
今まで世界地図とか見てなかったから知らなかったが、おっさんが言うにはこの世界には4つの国があるらしい。
「兄ちゃんは知らないみたいだからさ、いい情報を教えてやろう! ドルグランドにはな、なんと! 世界最強の勇者がいるってさ!」
世界最強の勇者?
「うちのセルドス様よりも強いらしいぜ。まあ、実際に戦ったことはないみたいだけどな」
世界最強の勇者か……しかし、俺は勇者なんかよりも醤油が、そのドルグランドにあることに思考が持って行かれていた。
「まあ、兄ちゃんも機会があれば行ってみたらいいんじゃねえか?」
「……そうだな。おっさんありがとう。あとその串焼き2本くれ!」
「おう、毎度あり! 嬢ちゃんの食いっぷりがいいから、もう1本おまけしておくな!」
「うむ!」
串焼きを受け取ってその場を後にする。
やばい、これはかなり興奮してるぞ!!
「アルデ、これは凄い事が起こったぞ!」
「むぐむぐ……む? なんじゃ凄いのって?」
「決まってるだろ! 醤油だ! 醤油があったぞ!」
「いやわからん。なんじゃそのショーユってのは?」
「お前、醤油だよ、知らないのか!?」
「しらんのじゃ」
なんだよ、こいつは醤油の存在を知らないだと!
「知らないだと!? だったら教えてやる! 醤油ってのはな、俺の故郷では最強の調味料って言われてる物で、これと卵が有れば米が何杯でもいける代物だ!」
「コメ?」
「それに何にでも隠し味として入れる事で、深みが出る!」
「深みじゃと?」
「そうだ深みだ! つまり、今お前が大好きなソースにこの醤油を混ぜると!」
「っ!! まさかっ!!」
「今よりも一段と美味になる!!」
「なんじゃとぉっ!!」
醤油によって味の進化が期待出来る事を悟ったアルデの目が食欲一色に染まる。
「なら、早くそのショーユとやらを手に入れねばいけないのじゃ!!」
「ああ、その通りだ! あのおっさんに聞いて……っ!!」
待て待て! そのドルグランドに醤油があるって事は……もしかしたら醤油以外にも他にも色々あるんじゃないのか!!
例えば米から始まる故郷の味が!!
その瞬間、俺の体を電撃が再度走り抜け、俺の中で一つのことが決定した。
「よし、決めた!」
「ん? 何を決めたのじゃ? あのおっさんからショーユを奪うのか?」
「違う! そんな小さい事じゃない!!」
アルデの言葉を否定して、
「俺はドルグランドに行く!」
拳を握りしめ決意を表明した。
そうだ、ドルグランドに! 醤油を求めて! 俺は行く!
ドルグランドへ俺は行く!!
これで3章は完結です。ここまで読んでくださりありがとうございます!!
もしよろしければ、是非! 感想と評価を頂ければ嬉しいです!!
次回4章の始まりは水曜日の昼ごろになります。
4章の更新のスピードに関しては活動報告でお知らせ致しますので、よろしくお願いします。




