29話 リルグレイハルト・バルシェル
「グレイバルトを?」
「そうじゃ。グレイバルトを連れて来たら丸く治るじゃろ。ここは元々あいつの国じゃ。あいつが出て行ったからこうなったのじゃろ? あいつに責任を擦りつけたらいいのじゃ」
そんなの許される……いや……。
「……その手もあるな。王が元に戻るだけだからな。そうなったら……なあ、大臣とかは政治に関わる奴は普通にいるんだろ?」
「いるわよ。わたし達もしっかり使っていたわよ。わたしだけで全て出来るわけではないから。わたし的にはそうして貰えると嬉しいわ。わたしはご主人様に付いていたいもの」
「お、おう……って触るな!」
俺は近づいてくるクレナリリスを払う。油断も隙もない。
「だったらそうするか。それでいいか、エミリ、ユリア?」
「……グレイバルトですか。元魔王ですけど元国王ですからね。この悪魔よりマシだと思います」
「まあ、ユリアが言うならいいんじゃないかな?」
ユリアとエミリが賛成した。
エミリから小さく「この悪魔の方がおにーさんの指示でもっと簡単に交易を盛んにできそうだったのにな……残念」って聞こえた。エミリの言う通りであるが、ユリアが思っているよりクレナリリスを嫌っているからそれはできないだろう。国益については俺もしっかり協力させて頂きます。
あっ、ちなみにグレイバルト本人の意見は関係ない。
「よし。じゃあアルデ、あいつを迎えに行くか?」
「そうじゃな。おいクレナリリス。転移魔法は使えんのか?」
「使えるけど、グレイバルトの城には繋げてないわよ?」
「近くまで行けるならそれでいいのじゃ」
「じゃあ、説得はアルデに任せた。俺は行かなくていいだろ?」
「うむ。別に良いぞ? 説得などせず、強制じゃ」
強制的にアルデが連れてくることになった。可愛そうなグレイバルトである。
「よし、クレナリリス、転移するのじゃ」
「わかったけど、少し……」
そうアルデが言った時、遠くから風に乗って声が聞こえた。
「……まさか剣聖の子孫が生きておられるとは!」
誰かの話し声が聞こえてくる。
壁が無くなり半端なく風通しが良くなった部屋だから、すこし遠くからでも声が風に乗って流れてくる。
「子孫ではない。この方こそが剣聖そのものだ!」
「はははっ! かの剣聖様が今まで生きておられる訳がありませぬ。しかし、先程見せていただいた剣技には感銘を受けました! あの技は剣聖一族しか使えませんからな! そうか、あの剣技を使えて剣聖一族なら今は貴方様が剣聖なのですね!」
「ふん、ただの上級剣技なのだがな」
……おい、この声は聞いたことがあるんだけど。
徐々に声が近づいて来る。アルデ達もその声に移動するのを止める。
「しかし、剣聖様はどうして今にこの国に来られたのでしょうか?」
「ん? 少し剣を取りにな」
「剣ですか? ……私はわかりませんが陛下に聞けばわかる事でしょう。さあ、早く陛下に顔をお見せになってください! そして今この城にいる賊供を打ち倒して頂きたい!」
「貴様! グレイバルト様に質問をしておいてその態度は……」
「良い、ジェミラ。今までこの国を守ってくれたのだ、少しぐらいは許してやれ」
「グレイバルト様……」
「グレイバルト? 今はその様な名前を名乗ってるのでしょうか? あの「剣魔の魔王」と同じ名前な気が……。まあいいでしょう。近衛騎士長も倒れ、今は騎士団長である私、サムハンドしかおりませんが、貴方様のお力になりましょう!」
そして壊れた扉の向こう側で足音が止まった。
「……っ!? 壁に穴が!? 扉も!? まさかっ!! 早く向かいましょう!!」
そして、
「この先が……っ!」
「なんだ? 凄いことに……なっ!!」
開ける必要がない扉から騎士団長らしい人物と、グレイバルトとジェミラの顔が見えた。
「お、お、お師匠様っ!?」
「ふははははっ! グレイバルトか! いいタイミングで来たのじゃ!」
グレイバルトが驚きの余り声を上げ、アルデが高らかに笑う。
まじでナイスタイミングだわ。
狙って来たと思うぐらいだけど、なんでここに来てるのこいつら?
「き、貴様ら!? ここまで来ていたのか……っ!? へ、陛下!? 陛下は!!」
この部屋の状況をみて騎士団長が叫びながら部屋に入って来る。
まあ、この部屋の惨状を見たら誰だって叫びたくはなるだろう。
「どう言うことだ……まさか!? 陛下までもがやられ……っ!? お前はクレアではないか!! クレア、陛下は! これはどうなっているのだ!?」
クレナリリスを見つけて騎士団長はより声を上げる。
俺は質問をされたクレナリリスを見る。
こいつはなんと返すのだろうか?
「この人達にやられたわ」
何言ってるのこいつ? まあ、本当の事なんだけどさ。
「……っ!! き、貴様らぁ!! 許さんぞぉ!! 剣聖様! こいつらを倒しましょう!! ……剣聖様!?」
とぼとぼと歩いてきたグレイバルトに騎士団長は呼びかけるが、グレイバルトは反応しない。と言うかアルデを見て固まっている。ついでにジェミラも。
「なぜ……なぜお師匠様が……!? 意味が、意味がわからん……! ジェミラ!」
「私もわかりません……しかもこの状態、何が起こっているのか……」
「剣聖様!!」
全く違う反応をしているグレイバルトに耐えられなかったのか騎士団長がグレイバルトの肩を掴んだ。
その瞬間、
「うるさい! 黙れ!!」
「ぐあぁっ!!」
グレイバルトが騎士団長を吹き飛ばした。
そして騎士団長はそのまま壁に激突し動かなくなった。気絶したのだろう。
しかしグレイバルトは騎士団長よりも目の前のアルデが気になって仕方ない様だ。
「……それよりお師匠様、良いタイミングって聞こえたのですが……」
「うむ、いいタイミングじゃ。計っておったじゃろ?」
「は? 何を言って……いや、どういうことですか……?」
「其方がこの国の王に戻るって事じゃ」
「「……は?」」
グレイバルトとジェミラが固まった。
「いやいや! 待ってください! オレはここに剣を取りに来ただけですよ!? どうしてオレがこの国の王に!?」
「いや、決定事項じゃから。妾らで決めた事じゃから。其方に拒否権はないのじゃ」
「……は?」
グレイバルトの目が点になった。そりゃここに来た途端そんな事言われたら戸惑うだろう。
「ま、待ってくださいアルデミス様! グレイバルト様はただ剣を取りに……」
「関係ないのじゃ。師匠の言う事じゃぞ?」
「うっ……」
理不尽だなおい。
なんか可愛そうだからこの剣は返してやるか。これを取りに来たみたいだし。
「なんかごめんなグレイバルト。この剣は返すからさ」
そう言って俺は剣を見せる。
するとグレイバルトの顔が驚きの表情に変わる。
「なっ!? それはオレの絶剣「バルグレイド」!! なぜ勇者が持っているんだ!?」
「なんか、自称魔王が持ってたから貰った」
「お前は人の剣を取るのが趣味なのか!? その剣もそうだが、「傲魏」も返してもらってないぞ!!」
グレイバルトが叫ぶ。
しかし人聞きの悪いことを言うやつだな。
「おいおい、倒された奴の物は倒した者の物だろ? 何を言っているんだ?」
「なっ……!? そ、そう言われれば、俺はお前に負けたが……」
グレイバルトの表情に影が差してしまった。可哀そうだな。
「まあいいよ、可哀そうだし。えーっと、どっちが返して欲しい?」
「……絶剣「バルグレイド」だ」
「じゃあ、渡すからには王に戻れよ?」
「……っ!! それとこれとは……!!」
グレイバルトは差し出した手を一瞬止める。
悩むな、アルデ曰く決定事項だ。
「くっ……」
「グレイバルト様……」
そう2人で悩んでいると崩れ去っていた壁から誰かが駆け込んできた。
「王女様! ユリアリア様! 今初老の男と騎士が入って行ったのですが!!」
そう言って入って来たのは健治だった。
そう言えば、今までこいつの存在を忘れていたんだけど、どこに居たんだ?
「敵はどこに?」
「もう終わっているけど?」
俺はそう言ってグレイバルトの後ろを指差す。
「終わった……? ホントですか……?」
「うん」
「またかよ……」
健治がその場でうなだれる。
まあ、気合を入れて臨んだ事に今の所活躍できていないからな。しかしそれが実力だ。いや、近衛騎士長と戦った時はかっこいいと思ったよ?
「って事で話を戻すけど、グレイバルト? それでいいよな? はい、絶剣返すし?」
そう言って絶剣をグレイバルトに渡す。
「お、おう。……いや、待て! オレはいいと一言も……」
「おいグレイバルト、妾の言うことが聞けんのか? なぁ?」
「……っ!! わ、わかりましたお師匠様!!」
「ぐ、グレイバルト様!?」
「仕方ない、仕方ないのだ。師匠の命令は絶対だ。我慢しろジェミラ。お前もわかるだろ? あの師匠に今のオレでは勝てんと……」
「……はい、アルデミス様の言うことは絶対なのは承知の上ですが……」
「だったら諦めろ」
「……わかりました」
よし、これで一件落着だ。この国の事はグレイバルトに任せておけばいいだろう。
まあ、元魔王が国を統治するのはどうかと思うが、あの悪魔よりかはマシだろう。俺的にはクレナリリスを置いていきたかったけど。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
そして俺達の中で話がまとまった時、健治が凄い剣幕で割り込んできた。
久しぶりに健治の登場。
次回の更新は水曜日の昼ごろです。




