26話 極大召喚魔法
「……これって……何が起こって…………え?」
今の状況が理解できないのか、召喚されたクレナリリスは目を白黒させてその場に立っていた。
「……えっと、わたしは確かに魔界に帰ったはず……なんだけど……?」
さっきまで魔界にいた事を思い出すように周りを見渡している。
しかしどれだけ見渡してもここはゲンダルフィンの城の中である。
もう殆ど城の形をしていないけど。まあ、急に呼び出されたらそんな反応にもなるだろう。
「無事に呼び出せたのじゃ。妾の言う通りじゃろ?」
「そうだな」
そんなクレナリリスの前で俺とアルデは無事に召喚できた事に満足していた。
「アルデミスがいる……? と言うことは、ここって……待って? どうして、わたしがここにいるの?」
パニックになっているからそんな質問ができるのだろう。
敵陣の真ん中にいるわけだが、悪魔でもパニックになるんだな。
「どうしてとは? ただ、召喚したのじゃが?」
アルデは俺を指さしながら「こやつがしたのじゃ」と言う。
「しょ、召喚!? わたしが、召喚されたっていうの!?」
「うむ」
アルデの言葉に戸惑うクレナリリス。
「……えっ? どうやって? え!? 本当に召喚されたの!?」
「見たらわかるじゃろ? 他にどうやって貴様をここに呼べるのじゃ。召喚しかないじゃろ?」
「有り得ないわ……わたしが召喚されるなんて。人間が悪魔を召喚するって、それも最高位の悪魔よ……! どうやって召喚したのよ!」
「ん? 「魔卿召喚」しかないじゃろ? 最高位の悪魔を召喚するなどそれしかない」
「……は?」
アルデが言い切った言葉にクレナリリスは呆気な顔になる。理解が追い付かないみたいだ。
だから、
「何を言っているのアルデミス……? ただの人間が「魔卿召喚」なんてできるわけがないわ! ふふふっ……えっ、うそ? その顔って……本当に!? ……うそ、あり得ない、あり得ないわ! そうよ! これは何かの勘違い、わたしの転移魔法が逆転しただけ。わたしの魔法がちょっとおかしくなっただけだわ!」
今の現状が受け入れられない。
「必死じゃな。それもそうか、クレナリリスが召喚されたのは何百年ぶりじゃ? それも「悪魔王」になってから召喚されるなんて事。普通は無いからのう」
「その通りよ! 普通こんな事ありえないわ! だから……」
そう言いながらドヤ顔をしている俺とアルデを見たクレナリリスの顔からみるみる精気がなくっていく。
「現実を受け入れるのじゃ」
アルデがにやりと楽しそうに笑った。
そしてクレナリリスの表情が徐々に悪くなっていく。
「いやよ!! 絶対に……絶対に……いやよ……」
そう言いながらその場から動けない事に気づいたようだ。
「……本当に?」
「うむ」
アルデがその言葉を肯定した。
この魔法を人間が知る事が普通はないらしく、人間が悪魔を呼ぶ普通の召喚魔法とは違うもだとアルデが言っていた。
普通の召喚魔法は召喚してから対価を約束して契約を行う。しかし「魔卿召喚」は召喚した時に契約が完了する。完了すると言うより召喚前に契約している事が普通らしい。そうでないとアルデが言ったように自分の魔力が詰まったモノ……魔力結晶などを渡すことなどありえないからだ。
しかし時々相手の契約属獣を奪うために魔力結晶を盗む時がある。普通そんなことができるのは自分よりも弱い相手だけで、強い相手にはできないのだが、もしうまく行った時に召喚されたモノが召喚者を殺さないように行動を制限する機能が付いているらしい。
何とも召喚者にとって都合のいい極大召喚魔法だ。
「うそよ……!!」
だからクレナリリスが戸惑っているのだろう。多分もう現実を受け止め始めていると思う。
「こんな事あり得ない! どうしてわたしを召喚したのよ!?」
まだ諦めきれてないのかクレナリリスが叫んだ。
と言うか、驚きすぎて喋り方が変わってるし。
「えーっと、逃げたから?」
「そういう意味じゃないわよ! どうやってわたしを召喚したの! 方法を聞いているの! 媒体は? わたしを召喚できる媒体が無いでしょ!? 貴方達は何も持っていないじゃ……」
叫びながら俺が持っていた魔王玉を見て固まる。
「……いや、でも、それだけじゃ……人間が使えるって……」
「ちなみにこいつの能力には「大賢者」があって「冒険者」もあるのじゃぞ?」
アルデの言葉に一応胸を張ってみる。
「……っ!? 本当に……?」
「じゃから貴様がここにいるのじゃろ」
「うそ……」
その瞬間クレナリリスはその場に崩れ落ちた。ついに認めた様だ。
ちなみに「大賢者」はわかるけど「冒険者」が関わっているのはどういう事だろうか。今日でアルデに聞きたいことが沢山出てきたな。
「……あり得ない。わたしが召喚されるなんて。わたしの魔王玉を持ってても、魔力差で召喚なんて不可能なはずだわ……」
そしてその体制のままクレナリリスが愚痴を言い始める。
「そう何かがあったのよ。リヴァイアサンがいる限りわたしの魔力は尽きる事は……」
クレナリリスが弾ける様に顔を上げた。
現実を受け入れない為に理由を探している様だが、
「り、リヴァイアサン……は?」
「帰った」
「……は?」
俺の言葉にクレナリリスが目を点にした。
それでも美人なのは流石サキュバスなのだろう。
「……え……えっと、帰ったって、魔界に?」
「えっと、多分? なんか「耐え切れません!」とか言って消えたぞ? な、ティオル?」
「ふっ! あの叫びは滑稽だったな」
ドラゴンから人間の姿に戻ったティオルに声をかける。
「何を言ってるの……」
クレナリリスがまた現実を受け入れなくなったようだ。
「……あり得ない、あり得ないわ。リヴァイアサンが帰るなんて、わたしの命令を無視して……あの従順なリヴァイアサンが……逃げるって、どこまで攻撃したら……えっ、待って! そのレベルのダメージを与えたって……?」
そしてまた俺を見る。
「中々しぶとかったな? アルデ?」
「うむ。全力で打ち放題は中々の快感だったのじゃ。今日まで溜めていた魔力を使い切ったぞ? 流石リヴァイアサンじゃな」
アルデが高らかに笑っている。
「なんなの、なんなのよあなた達……! 規格外すぎるわ……!」
また俯いてぶつぶつ言い始めてしまった。
そろそろ現実を受け入れた方がいい。
「クレナリリス、じゃから貴様がここにいるのじゃぞ? ほらリヴァイアサンからの魔力供給が少ないじゃろ? なら、今のスノハラの魔力は越えられんぞ?」
「魔力がって……えっ? 本当に……?」
「うむ」
「うそでしょ……」
何か知らないが、絶望的な顔をするクレナリリス。
それにしても俺の魔力って今どれぐらいあるんだろう? さっき自称魔王を倒した時もレベルアップの音はしたけどさ。そういえば、経験値はどのタイミングでもらえるのだろうか?
「しかし、面白いことになったなクレナリリス。あの「封惑の魔王」が主の契約悪魔になるとはな。はははっ!」
「そうじゃな。妾と争っていた頃が懐かしいのじゃ。あの暴れまくっていたクレナリリスが誰と契約か……それも人間と契約するとはな? ふはははっ!」
「……いや、うそよ。これは夢なのよ! 人間との従属契約なんて……!」
2人そろって笑うアルデとティオルに対してクレナリリスはかなり嫌そうに頭を振っている。
でも、そこまで嫌がらなくてもいいじゃないだろうか。少し傷ついているんだけど。
「夢だったら我がブレスで目を覚ましてやろうか?」
ティオルが笑いながら口元に魔力を貯めて冗談ぽく言う。
「……いらないわよ! ……どうする……これからどうしたら……」
「ぶはっ! 諦めるが良いぞ? ふははっ」
「はははっ、その通りだ!」
「笑わないでよ!!」
アルデとティオルがクレナリリスを見て笑い続ける。
しかし何か3人で盛り上がっているが、俺にとってはここからどうするか考えどころである。
契約完了してるんだよな? 何となくだけど契約したら繋がりみたいなものができる気がしたんだけどさ。
「なあアルデ、ちょっと整理したいんだけど。俺が使った「魔卿召喚」でクレナリリスが召喚されたって事は、こいつは俺と契約した事になるんだよな?」
その言葉にクレナリリスが体をビクッとさせる。
「そうじゃ。其方が主人でこいつが従者になるはずじゃ。なあ、クレナリリス?」
「いや、していないわよ……? わたしと貴方はまだ契約完了はしていないわよ?」
しかしアルデの言葉をクレナリリスが否定をした。
悪魔との契約とは。
次回の更新は木曜日の昼ごろです。




