24話 「封惑の魔王」
俺は剣を振り払う。
すると避けたはずのアルデとティオルが詰め寄って来た。
「す、スノハラっ! 危ないじゃろ!!」
「我ごと消す気か! 主!」
「いや、避けろよって言っただろ? まあ、当たってないからよかったんじゃね?」
「よくないわぁ!」
「よくないぞっ!」
叫んでいる2人は置いておいて自称魔王を見る。
進化した瞬間やられたのは可愛そうだけど、優先するのは後ろにいるエミリとユリアだ。
問答無用で倒させてもらった。
「お兄さん!」
「おにーさん!!」
ユリアとエミリがこっちに向かって走ってきた。
「お兄さん倒したのですか!?」
「うん。あいつ動いていないしな」
自称魔王は何度見ても動いていない。
「流石ですねおにーさんは! 目の前で魔王を倒す瞬間が見れたよ! 初めての体験だよ!」
「そうか?」
興奮気味に言うエミリの言葉を素直に受け取り少しむず痒くなる。
ここまで素直に褒められたのは初めてだな。
「で、アルデ、あいつは死んだのか?」
動いていない自称魔王を親指で指しながら、アルデに質問する。
「そうじゃな、受肉をしていない悪魔は死ねば消滅することが多いのじゃが、あの悪魔は受肉をしておるからのう。それに魔王玉も持っていると消滅はせんじゃろう。まあ、見た限りでは倒したと言っていい」
「そうか、なら大丈夫か」
少しフラグかとも感じたけど、もし生き返る事があったらまた倒せばいい。
「じゃあ、あの悪魔から魔王玉を取って肉体を消滅させるか。アルデ頼めるか?」
「嫌じゃ、面倒くさい。其方がすればいいじゃろ? もう時間も経ったし、其方ももう魔法が使えるじゃろ? 使ってみれば良い」
「ん? ……あ、本当だ。使えるようになってる」
アルデに言われた通り魔法を使おうとしたら魔力が動き始めた。
クレナリリスの魔法も時間制限があったのか。
まあ、一瞬でも魔法や拳技が使えなかったら普通は負けるだろう。一瞬でも隙があれば負ける。
実際俺も危ないところだったし。
「じゃあ、終わらせて帰ろうか……っ?」
そう言って魔王に近づこうとしたら、魔王の横に……誰かがいた。
「あら、やられちゃったのね」
その場にはアルデと戦って、逃げたはずのクレナリリスが立っていた。
「おい、そこで何をしておるの……」
そのクレナリリスにアルデが反応するが、
「そうか……」
クレナリリスの動きを見て納得する様に呟いた。
俺もその動きはわかった。自称魔王の懐に手をやっていた事に。
たぶんこのタイミングを窺っていたのだろう。
「ふふっ。アルデミスの思っている通りよ」
そして立ったクレナリリスの手には黒い球体が握られていた。
……動くのが遅かったか。
「おいクレナリリス。貴様それを取りに来ただけか? 我にちょっかいを出しておいてか?」
「ええ、ティオルリーゼ。わたしはこれが欲しかっただけだから」
そう言ってクレナリリスは妖艶に笑う。
「やはりそうじゃったか。何の為にその魔王玉をそいつに渡していたかわからぬが、貴様がこいつらの下についてると思ってなかったからのう? なあ、最強の悪魔「封惑の魔王」クレナリリスよ」
なんだと……!?
「ふふっ。今は魔王ではないのだけどね」
「ふっ! 妾から逃げれるなど早々いないからのう。まだ衰えておらぬところを見てもその魔王よりかは強いじゃろ」
「あら、アルデミスが褒めるなんて珍しいわね」
そう言ってクレナリリスが笑う。
しかし、俺はそれよりも気になることが……。
「ちょっと待てアルデ! え? この常連さんは魔王だったのか!? それに悪魔で魔王って……」
「ん? 言ってなかったか? こいつは最上級の悪魔じゃぞ? サキュバスながら悪魔の中で最強まで上り詰めた悪魔じゃぞ?」
「ああ、我も戦ったが中々の強さだぞ」
「ふふっ、そんなに褒めないでアルデミス、ティオルリーゼ」
「ふっ、褒めてなどおらん。貴様の実力を言っただけじゃ」
いや、待て!
「待て待て! って事はこの常連さんはサキュバスで、人間じゃなくて悪魔って事でモンスターって事なのか!? いや、納得はする……。あれだけの魅力ならサキュバスと言っても納得できるが」
「ありがとう、串スラさん」
そう言って笑うクレナリリスは魅力的であった。
いや俺、ずっと人間だと思ってたよ? かなり強いなって思ってたけど!
「さて、わたしは逃げるとするわ。アルデミスとティオルリーゼがどうして串スラさんに付いているか気になるけど。ここに居たらわたし危ないものね? 今の状態ではあなた達には勝てないもの。魔王化しても勝てるかわからないわ」
そう言ってクレナリリスは魔王玉を握りながら魔力を高めていく。
それに対してアルデも魔力が高まる。
「ふっ! 妾が逃すとでも思っておるのか?」
「ええ。逃げるわ」
そう言って持っていた魔王玉が光始める。
「アルデミス、ティオルリーゼ。魔王玉にはこういう使い方もあるのよ?」
そして魔力が魔王玉からクレナリリスに流れる様に動いていく。
そして、
「……っ!!」
クレナリリスの見た目が変化する。水色髪が白へと変わり、ピンク色の目が真っ赤に光る。悪魔と言う通り黒い翼と尻尾が生える。
それはまさしくサキュバスという見た目だった。
「角は無いのか……」
よく見る羊の様な角だけが見当たらない。
「ふふっ、あるわよ? でもわたしのあれはあまり可愛くないから見えなくしているだけなの」
そう言ってクレナリリスは角があるらしい耳の上を撫でる。
「それが元の姿なのか?」
「ふふっ、ええそうよ。元々はこの魔王玉はわたしの物なの。魔王玉は壊れずに誰かの中に宿っているとその者の魔力を溜めて力を吸収する。だからセルゴラウスを魔王にさせる事でセルゴラウスの魔力も宿ったわけよ。覚えておくといいわよ?」
「……ほう。知らなかったのじゃ」
「まあ、本当は「幻想記」を奪ってから貰うつもりだったけど、今回は仕方ないわ」
なる程な。だからクレナリリスの魔力がさっきに比べて跳ね上がったのか。
後ろのエミリとユリアが震えるほど濃い魔力がこの部屋の中を包んでいる。
「今は逃げる事が優先なのよね。だからここは全力で逃げさせて貰うわ」
そう言ったクレナリリスの魔力がより膨れ上がり、目の前に巨大な魔法陣が出現した。
そして左手に嵌めていた紫色の宝石が付いた指輪と巨大な魔法陣が共鳴する様に光る。
「むっ……!」
その光にアルデが反応したが……。
「『魔卿召喚』」
その瞬間、巨大な魔法陣から黒い光の柱が空まで伸びる。
そして空で光っていたはずの月と星が消えた。
いや、消えたわけではない。
俺の見上げる角度からは見えなくなる様な巨大な何かが空を覆い尽くしている。
その大きさはティオルのドラゴンの姿とも比べ物にならないぐらいに。
「お呼びでしょうか、マイマスター」
その何かがクレナリリスに低く響くような声で話しかける。
いや、ここからは口が見えないので話しているのかはわからないが。
「この子た達の相手をしなさい、リヴァイアサン」
「承知した。ゴアァァァァッ!!」
リヴァイアサンと呼ばれた巨大な何かが咆哮の様な雄叫びを上げる。
リヴァイアサンってまじで?
本当、巨大すぎて何なのかわからないんだけど。
俺の持っていたリヴァイアサンのイメージと違って、なんというか見た感じは魚? クジラ?
「あ、あれは……うそ……? そんな……」
「ユリア、あれって……御伽噺の……魔界の王の属獣、リヴァイアサンじゃ……」
「そんなわけ……」
ユリアとエミリが後ろで呟く程のモンスターのようだ。
「ふはははっ! リヴァイアサンを呼んだか! 此奴、本気で逃げるつもりじゃな!」
「はははっ! 今日一の相手だ! 我が相手してやろう!」
そう言いながら楽しそうに前に出るバトルジャンキー共。
あの2人が笑ってるなら倒せるレベルなのだろう。
巨大すぎて全貌が見えないので俺には強さがわからない。
俺はこのリヴァイアサンより魔王玉を奪うにはどうしたらいいかと、クレナリリスを見ていたら、
「あとついでに貴方も貸して貰うわ」
そう言ったクレナリリスと目が合った。
このパターンはさっきと一緒……!
「やばい! しまっ……」
「なっ! スノハラっ!」
「『永続誘惑』!」
その瞬間、クレナリリスの魔法が発動した。
「ふふっ。串スラ来なさい」
その言葉に従って俺はクレナリリスに向かって歩いていく。
「お兄さん!?」
「おにーさん!!」
ユリアとエミリが叫ぶが、俺はクレナリリスの元に向かう。
「ふふっ。これでわたしが逃げられる戦力は揃ったわね。じゃあね、アルデミス、ティオルリーゼ。ユリアリア様もまた「幻想記」を取りに来るからそれまでは死なないでいてくれると助かるわ」
そして俺はクレナリリスの横に立った。
「リヴァイアサン、串スラ! わたしが逃げるまでこの子達の相手をしなさい。わたしは魔界に帰るわ。『転移魔門』!」
そしてクレナリリスの上空に2メートル程の扉が現れる。
それに向かいクレナリリスは浮かぶ様に飛び上がったのだが……。
「じゃあね、みな……」
何かを探す様に止まった。
「あれ……?」
手を開き何も持っていない事を確認する。
「……わたしの魔王玉が……ない?」
「ん? これか?」
俺はクレナリリスに探し物を見せる様に、手の中にある魔王玉を掲げる。
「どうして貴方がそれを!!」
飛び上る瞬間に取りました。
「……いや、今それを持ってるって事は……わたしの「魅了」が効いてないってこと!?」
あり得ない物を見る様に俺を見るクレナリリス。
「えー、あー、うん。今回は効かなかったみたいだわ」
「どうして……!!」
いや、どうしてと言われても俺もわからん。
とにかく「レジストしました」と鳴ってたから効かなかったとわかったわけだし。
「まあ、だから逃がさないから」
そうカッコつけながら、俺はクレナリリスを見た。
次回の更新は日曜日の昼ごろです。




