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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第1章「不死の魔王」

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6話 「流動体攻防無効」



「知らない天井だ……」


 ……全く見覚えがないんだけど。

 ある日目が覚めたら真っ白い……ってわけではなかった。

 というか今回は天井すらない。澄んだ青い空が目の前に広がっている。


 この光景は知っている。転生する前の海難事故で打ち上げられた浜辺で寝転んでいた時の光景と一緒だ。あの時も空は青かった。


「……いや、違うな」


 一瞬転生前に戻ったのかとも思ったが、首だけ動かすと全く違う景色だった。

 横を向くと鼻をくすぐる草。左を見ても草。


「風が気持ちいいなー」


 そよ風が吹き、草が揺れる。その音が気持ちいい。

 俺は草原の中に大の字で寝転んでいた。


 しかし、そんな状況でも気になる事は1つ。

 すぐに首を下に傾けて、


「……よかった、今回はちゃんと着てる」


 服は着ていた。こんな草原の真ん中で全裸は流石にやばい。服を着ていただけで安心する。


 しかしなんだ。魔王と戦っていたのに急に草原にな変わった。あれは夢だったのだろうか。これが現実であの神様もとい、クソジジイはここに転移させたのだろうか。


「……いや、夢じゃない、か」


 夢ではなかった。

 常に右手から力を吸い取られるような感覚がある。右手を持ち上げると思った通り「傲魏」を握っていた。

 握っていると常に力を吸われるため、「傲魏」から手を離す。すると案の定力が吸い取られる感覚がなくなった。


「しかし、転移させられてすぐに魔王戦とは、まじでエグいだろこれ……」


 先程の魔王戦を思い出して苦笑いをする。倒せたから良かったものの、死ぬ可能性はあったはずだ。いや、普通なら死んでただろう。その原因を作ったのがあのジジィだと思うと腹が立って仕方ない。


「はあー」


 風邪が気持ちいいから、大の字に寝転んだまま少し休憩しようと目を瞑る。

 色々ありすぎた、整理する時間があってもいいだろう。


「……ん?」


 しかし目を瞑ったのも束の間、何か違和感を感じた。

 「傲魏」を離したのに、微量だが他の部分からも力が吸い取られるような、もぞもぞしてるような感じが……。


「……って、なんじゃこりゃぁ!!」


 顔を持ち上げて足元を見ると何かが群がっている。それも大量に。半透明だったり水色だったり……。

 まさかこれは……!


「スライムか!」


 異世界冒険のゲームや漫画、アニメに登場する雑魚の代名詞ともいわれるモンスター、スライム。最近のラノベにはかなり強いスライムがいたり、スライムで無双するやつもあるが、どう考えても俺に群がっているのはただのスライムだ。

 しかし、ここまで大量にいると気持ち悪い……いや、逆にわりとひんやりしてて気持ちいいかも……。

 と言うか、いつの間に俺の足元に来ていた!?


「……って、ん?」


 スライムをじっと見ていると服が少しずつだが溶けている気がする。何となくだけど穴が空いている様な……。


「って、溶けてる! 溶けてる!」


 こいつら何してんの!?

 溶けているということは消化しようとしているわけで。……少しづつだがダメージを受けてるかもしれない。わからないがHPが10000としたら1ぐらいだろうか。痛みなどは感じないから確信は持てないが。


「おいおい、スライム如きが俺を食うだと……? 魔王を倒した俺を?」


 攻撃されている事は間違い。なら、こいつらを倒そう。魔王を倒した俺なら余裕だ。雑魚であるスライムなんて「傲魏」の一振りで一瞬だ。


 隣に置いておいた「傲魏」を握る。

 そしてスライムを振り払おうと剣を振るが……。


「……斬れ、ない?」


 もう一度「傲魏」を振り回す。しかし何度やってもスライムはうんともすんとも言わずスライムに弾かれる。そしてスライムは何もされていないが如く、ただただ夢中に俺を消化しようとしている。


「じゃ、じゃあ、これはどうだ! 『絶永結界』!」


 最強の結界を発動させるが、


「……なんだ、と……!?」


 これもうんともすんとも言わなかった。

 あの「絶永結界」でさえスライムをはがすことはできないのか!? あの攻撃から全てを守るはずの絶対防御が。

 まさか、これが……。


「ちょっと待て、嘘だろ……これが……「流動体攻防無効」の能力なのか……!?」


 思い出されるクソジジィの言葉。

「最弱のモンスター、スライムに攻撃が効かんし、スライムからの攻撃は防御できん。つまり、スライム如きに殺されるというものじゃな!」

 というあのクソジジィの声が脳裏に蘇る。笑っている顔も鮮明に思い出させる。

 そして俺の脳内国語辞典から攻撃と防御の意味が浮かぶ。

 攻撃とは、対象を攻めること……防御とは、防ぎ守ること……だと。

 つまり、スライムに対する行動は仲良くする以外何もできないってこと……だと。


「やばい、これはやばい!」


 魔王との戦いからの今、まったくスライムのことは忘れていたし、こんなところでスライムが群がってくるとも思ってなかった。今の状況は悪い。

 剣を置き、素手でスライムをはがそうと思っても、敵意を持っているからなのか、触れた直後からバチッと弾かれる。それを繰り返しているうちに異常な量のスライムが集まってくる。

 スライムが「ここにおいしいエサがあるよ?」とかでも言っているのだろうか。やめてくれ! 俺は餌じゃない!


「くそっ……」


 焦るが、俺を食べるスライムの動きは速くない。それに攻撃も殆どダメージがない。それに加え、「司祭」による「自動回復」でダメージを食らった直後から回復している。

 ……いや、はっきり言って思っているより焦っていないか。


 そう考えている間にも集まったスライムが群がってくる。スライムの物量で両足が動かなくなっているが、どうこうしている間にスライムの対処方が分かった。それは、ゆっくりと包むようにスライムを持ち上げることだ。

 それにはコツがあり、素早くしてしまうと敵意があるとみなされて弾かれる。そーっと、慎重に大切な物をすくい上げるように。そうこんな感じで……。


「って、時間がかかりすぎるわ!!」


 すくい上げたスライムを地面に投げつけようとして、弾かれて俺の体の上に降ってくる。その間にもスライムは群がっている。今の俺は死体よりも生きがある何も抵抗しない魔力たっぷりの餌だ、さぞかしおいしいだろう。

 無理やり足をばたつかせてもスライムが上にいる限り、弾かれ起き上がることすらできない。とうとう上半身までスライムに群がられる。動くのは右腕と頭だけだ。

 時間がかかってもスライムを剥がす方法をしてもいいと思った時にはもう遅かった。


「ここで、まさか、終わりだと……!? 嫌だぞ! 絶対に嫌だ!!」


 スライムに対して何もできない。俺の異世界生活がスライムに殺されて終わる。魔王は倒せたがスライムに殺されて終わる、残念過ぎることに……。

 くそぅ、アメーバー怖すぎだろ!


「ぶふぅっ!」


 ついに顔面にまでスライムが群がってくる。何もできない。呼吸もできない。このまま窒息死して死んでしまうのだろうか……。

 やばい……意識が、遠くなってきた……気がする……。


 俺はこのまま死ぬんだろうか……。


 微かに見えるのは「自動回復」による黄緑色の光。そして微かに聞こえるのはスライムの動く音と、遠くから聞こえる少女っぽい声……声!?


「あれって……えっ! 何あれ!? あそこ凄いことになってる!? え、どうしてあんなにスライムが大量に!?」


「うわ! ホントだ!? 珍しいね、あそこまでの量のスライム。何か美味しいものでもあるのかな?」


「そうしか考えられない……って、うそっ!? エミリあれ見て! 手が、人の手が!」


「えっ、ホントだ! 誰か倒れっちゃったのかな……って、ユリア動いてるよ!? それも凄く動いてるよ!!」


 耳もスライムに埋め尽くされて聞き取りにくいが、何か聞こえるから腕を動かしてみた。

 しかし、あれだなそこまで苦しくない。息ができなくてもまだ生きてられてるって、レベルの上昇って凄いんだな。

 まあ、でも動けないし、何もできずにもう終わるんだけど……。


「あれはやばいよ!? 助けないと!」


「う、うん! スライムに強い魔法って……火!」


「少し強めに、ユリア合わせるよ! せーのっ!」


 あー、スライムに包まれて溶かされることなく窒息死か……。


「「『ファイアーボール』」」


 俺の目の前で爆発の様な音が聞こえた。

 ……って、なに? 熱い! なんか体が熱いんだけど!?

 しかし、その瞬間体が軽くなり顔面にいたスライムも溶けて消える。その瞬間口に大量のスライムの残骸が入ってきた。


「ごはぁぁっ! げほ、げほ、げほ……」


 反射的に体を起こし、口の中に入ってきたスライムの残骸を吐き出す。

 うぇぇ、スライムってまずい、生臭い、汚い。


「よしっ! 命中したよ!」


 そんなことをしているうちに少女っぽい声が近づいてくる。いや、少女っぽいじゃなくて少女だ。それも2人だ。

 ……ん? 今何か「レジストしました」って聞こえたけど、なんだ?

 ……まあいいか。それよりこれって助かったってことでいいんだよな。


「あれ、ユリア? あそこ光ってないよね? スライムの核がないよ?」


「そりゃね、火で燃やしちゃうと核ごと溶けちゃうから。でも、仕方ないよね人命救助だし。ほら、あの人生きてるよ」


「ホントだ! 生きてた! 良かったよ!!」


 遠目から見て俺が生きてることに安心した様な声が聞こえる。

 そうか、あの子達が助けてくれたのか。


 少女達が駆けて来る。どちらも冒険者風の恰好をしていて、長めの金髪の少女と肩にかからないぐらいの茶髪の少女だ。どちらも美人で可愛らしい。16、17歳ぐらいだろうか。


「おーい、おにーさんだいじょう……っ!?」


「ん? どうしたのエミ……っ!?」


 俺の事がしっかり見える所まで駆けつけてきた少女二人が、俺の目の前で固まる。というか、俺を見て固まっている。

 なぜだ? 自分で言うのもなんだが、俺ってそんなに不細工でもないし太ってもいない。そこまで見た目は悪くないはずだし、俺を見て固まるのはおかしいと……思いたい……。

 多分あの目線の先は俺ではなく俺の後ろにいる巨大なモンスターを見ているのだろう。いないんだけどさ……。

 ま、まあ、考えても仕方がない。

 助けてもらったお礼を言おうと立ち上がる。


「あ、お嬢さんたちが助けてくれたんだよね?」


 その瞬間、少女2人は少し後ずさった。

 物理的に距離を取ったその行動に俺は少し傷ついてしまった。美少女に避けられるって割と辛いんだけど……。


 俺はただ助けてくれたからお礼を言いたいだけなんだ。

 ……そうか、もしかしてこの世界では俺の見た目はそこまで良くないんだろうか? それだったら悲しすぎるが。

 いや、まあ、見た目はあきらめても、俺にはチート能力があるんだよな。力があれば寄ってくる女性はいると信じよう! まだ異世界生活は始まったばかりだし、ポジティブにポジティブに!

 そう、自分で落としどころを見つけてもう一度声をかけるため一歩前に出た。


「「……っ!」」


 その瞬間少女2人は顔を伏せてながら後ずさる。


「えっ? ……えっと、お礼をいいたいんだけど、そこまでにげな……」


「……ぅぅ」


「……ぁぁ」


 嘘だろ……。本気で避けられているのか俺! まじかぁ……。やばい、マジでショックだわ……。でもな、お礼ぐらいは言わせて欲しい……。


「お、お礼だけ、お礼だけだから。少しだけ話させ……」


「わあーーーーーー! おにーさん、ふく、服きてくださーーーい!!!」


「さ、さすがにその恰好は……」


 俺がお礼を言おうとまた一歩近づいた瞬間、2人が俺の下半身を見て声を荒げたのだった。




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