20話 振り下ろされるその瞬間
ユリア視点ラストです。
時間が経つ……。
窓を見ると太陽が傾いてきていた。
私が捕まったのが昼を過ぎてから1時間程ぐらいだったから、もうそろそろ日が沈み始めてもおかしくない。
ただただ、ここから全く動けずに時間が過ぎていくだけだ。
「もうそろそろだな」
「そうですね」
「これで兄さんが最強になるのかー!」
悪魔たちの声が聞こえる。
「まだ最強にはなれんだろ。悪魔の中でもまだ強い奴はいる。例えば元魔王の「封惑の魔王」クレナリリス。あいつの魔王玉をクレアが持って来たから吾輩は魔王になれた。そのクレナリリスはいつの間にか消えていたが、吾輩はまだ生きていると思っている。そうだろ、クレア?」
「ふふっ、そうかもしれませんね」
……えっ? 魔王!? この悪魔が魔王!?
また私の目の前に魔王がいるの!?
待って……だったら、本当に勝ち目が薄くなって……。
「だから、クレアを仲間にしたんだもんな? その話を知らなかったあの時は兄さんも物好きだなーって思ったわ。こんなサキュバス」
「セルドス言いすぎだ。クレナリリスの魔王玉でなければここまで洗脳系魔法は使えなかった。いい拾い物だったぞ?」
「ありがとうございます、陛下」
馬鹿にされているのにクレアは頭を下げる。
「しかし、吾輩が最強になるのは近い。その第一歩が「幻想記」だ。ふはははは。あと少し待つとしよう……っ!?」
魔王が高笑いをしたその時、激しく地面が揺れ、大きな咆哮がが聞こえた。
「どうした!」
「おいおい、なんだ?」
「……わたしが見てくるわ」
セルドスは叫ぶが、落ち着いているクレアがそう言い部屋から出て行った。
なんだろ? 地響きに咆哮?
しかもあの咆哮はただのモンスターじゃない。
聞いたことがあるドラゴンの様な……
……ドラゴン!?
「っ!」
私は反射的に顔を上げてしまう。
「む? どうした? お前何か知っているのか?」
「いいえ、何も……」
いや、可能性があるってだけだ。まだ誰かが助けに来たと決まった訳じゃない。
「ふん、まあいい。何か知っていたとしても吾輩達に勝てる人間などいないからな。少なくとも吾輩と同等の魔王でも連れてくるしかないだろう」
「ホントだな!」
笑う悪魔達。
しかし、その笑い声に高い声が割って入る。
「残念だけど、その魔王が来たみたいよ」
そう言いながらクレアが帰ってきた。
「どう言う事だクレア?」
「魔王?」
「そう魔王。「邪龍の魔王」ティオルリーゼが来ているわ」
……えっ? ティオルリーゼ?
「は? ティオルリーゼだと!? どうしてここにいる!」
「わからないわ。あと、魔王って言ったけど今は魔王ではなくなっていたわね」
……やっぱりそうだ。ティオルちゃんがここに来たんだ……って事は!
「は? 意味がわからねぇ。なんで魔王じゃないのに生きてるんだよ?」
「……そうね。あと、ティオルリーゼ以外に他にも数人この城に侵入者がいるみたい。もしかするとそれに関係があるのかもしれないけど」
お兄さんもいる!?
……って事は私を助けに?
心の奥が少し暖かくなる。
「……ねぇ、ユリアリア様? 貴方何か知ってそうね?」
「……いいえ、知りません。私が魔王と知り合いなわけないでしょう? もし知り合いなら一目散に助けをお願いします」
「……その通りね。わかったわ。セルドス、わたしはティオルリーゼの所に行って騎士達に魔法を掛けてくるわ。貴方はもしかしたらここに来る可能性がある侵入者を始末しなさい」
「ああ? てめぇ、俺に命令すんじゃねぇ!」
「……そう。なら好きにしなさい。わたしは行ってくるわ」
そう言ってクレアが出て行った。
「ちっ、あのサキュバスが……」
「セルドス。クレアの言う通りにしろ。お前は扉の外で侵入者を捕らえろ」
「……兄さんがそう言うなら、わかったよ」
クレアの言うことは聞かなかったが、セルゴラウスのいう事は聞き、渋々セルドスも出て行った。
でも、これはチャンスだ! 今ならここを出れる可能性がある!
扉からでて、お兄さんの元に向かえればいい。
ただここで待ってるだけじゃ、私が嫌だ!
でも、魔王相手にどこまでできる?
いや、これまで何体もの魔王と会ってる!
考えろ! 考えるんだ!
「おい、お前? この期に及んで逃げようとするなよ? 誰が助けに来たとしても吾輩には勝てん。吾輩から逃げられる訳がない。ティオルリーゼでも魔王を辞めているなら、吾輩の方が圧倒的に強いだろう」
そう言ってわたしの目をじっと見つめる悪魔。
でも、関係ない。どれだけこの悪魔が強くてもお兄さんなら勝てると、そんな気がする。
それにアルデちゃんも来てるなら、可能性はある!
私がタイミングを見計らって逃げられれば!
「しっかり捕まえておけよお前達!」
「「はっ!!」」
捕まれている腕に力を入れられる。
でも、これぐらいなら私でも対処はできる。
しかし、今逃げてもすぐに捕まるだろう。扉の向こうにはセルドスが。外にはティオルちゃんの方にクレアが。
タイミングだ、タイミングさえしっかりしたら。
「クレアがさっさと片付けて戻ってくるだろう。戦力としてはセルドスがいれば大抵の奴らは倒せる。ここには吾輩だけで十分か。……一応、召喚はできるようにしておくか」
悪魔の魔王が呟きながら何かをしている。
邪魔した方が良いのだろうか? でも、それで魔力を使えば逃げる方に使えないかもしれない。
とにかく待つしかない。
……それから数十分たった時、扉の向こうで激しい爆発音が聞こえた。
「……っ!!」
とにかく待った。
たったの数十分が長く感じるぐらいに。
「なんだ?」
今だ!!
魔法を構築する。
今この部屋の前にお兄さんか誰かが来ている。少しでもお兄さん達が逃げやすくなる様に私も動くしかない!
私の強みはなんだ!
こいつらに必要とされている「幻想記」を使う!
レベル差で効かないかもしれないけど少しの効果はあるはずだ!
少なくともこの2人には効くだろう!
「『ハイ・スリープ』!!」
魔法を唱える。効果範囲は狭いが強力な睡眠魔法。
私を触っているこの2人には確実に効いた。
私を掴む手の力が弱まり、その場に2人とも倒れる。
セルゴラウスには……効いてない!
でも、これで走れる!
「『アースウォール』!」
目を眩ませやすくするように目の前に2メートルほどの土の壁を生み出す。
少しでも時間が稼げればいい。
そして、私は扉に向かって走る。
扉さえ出れば私が逃げられる可能性が……。
「ふん、小娘が。『バインド』! 危なかったが、吾輩が食らうにはレベル差がありすぎる!」
「きゃぁっ!!」
身体を何かで縛られその場に倒れる。
なに? 魔法の縄?
くそっ……あと少しなのに……。
「おい、お前達! 起きろ!」
その言葉とともにセルゴラウスは指を鳴す。
「「……うっ、申し訳ございません」」
その瞬間、倒れていたはずの2人が起きた。
嘘……? そんなすぐに無効化できるはずが……。
「おい、お前達。その小娘を逃すな。押さえつけてろ!」
「「はっ!」」
「うっ!!」
歩いてきた2人に部屋の中央まで連れてこられ、無理やり床に押さえつけられる。
「ふっ! 流石「幻想記」の能力だ! ただの中級魔法に吾輩が掛かりかけたぞ! この能力が手に入るのが楽しみだ!」
くそっ……どうしたら、どうしたらいい。
悪魔にも私の魔法は効く事はわかった。でも魔王には効かなかった。
だったら、次はもっと強力な魔法を使ったらいい。
でも、魔力が足りるかどうか……。
……いや、するしかない!
「絶対逃げる!!」
「ふん! 逃げられるわけないだろう!! お前ら、腕を折るぐらいなら許すぞ!」
「「はっ!」」
そして私を押さえつける手に力が入る。
「うっ!!」
両腕に痛みが走ったその時、
「ユリア!」
「ユリアリア様!」
知ってる声が聞こえた。
……この声ってまさか!
「お前ら!! その手を退けろぉ!! 『雷の化身』! 『閃光の太刀』!」
その声と共に私を押さえつけていた男達が吹き飛んだ。
「ユリアー!! 大丈夫!!」
「え、エミリ!?」
その後ろからエミリが走って来て私に思いっきり抱きつく。
「うん! 助けに来たよ!」
エミリが目の前にいる。
抱きしめられる温かさが安心感をもたらしてくれる。
助けてくれると思ってなかったのに、助けに来てくれてるって……。
こんなに、こんなに嬉しいの……。
でも、ふと我に帰る。
「えっ!? どうしてエミリがいるの!」
「だから助けに来たって! もちろんおにーさんに連れてきてもらったから!」
エミリが嬉しそうに笑顔を見せる。
「お兄さんが?」
「うん!」
そっか。やっぱりお兄さんが来ているんだ。
ティオルちゃんが来たって事はそうだよね。そうだ、そうなんだ。
より心の奥の方が暖かくなった。
多分、私を気にしてくれる人がエミリ以外にもいるってことがわかったから。
「扉の向こうでアルデちゃんとおにーさんは戦ってるから、私達が先に助けに来たわけ!」
「ユリアリア様、少し動かないでください」
「はい」
そして縛られていた魔法の縄をケンジ様が剣で切ってくれる。
「ありがとうございます」
「さて、逃げるよ!」
「うん!」
そして私達は立つ。
ここから逃げるために。
「ふん、誰が来たのかと思えば隣の国の王女と、最弱の勇者じゃないか?」
「なんだと?」
その言葉にケンジ様が構える。
「貴様らで吾輩から「幻想記」を奪えるとでも思っているのか? ははははっ! 笑えるぞ! 逃げられる訳ないだろう!」
悪魔は高らかに笑う。
「いや、連れ帰らせてもらう! 宝剣開放! 『グランダム』!」
ケンジ様が宝剣を開放させる。
眩く光る剣はまさしく勇者が持つにふさわしい剣だ。
「ケンジ様気をつけてください! そいつは人間じゃありません! 悪魔です! それに魔王です!」
「魔王っ!?」
「それは本当ですか!? 魔王か……わかりました! でも大丈夫です! 悪魔特攻で行きます!」
そしてケンジ様が剣を構えて走り出す。
宝剣グランダムは眩い光を放ちながらセルゴラウスに向かっていく。その光は悪魔も魔王も打ち倒すほどの光に見えた。
「くらえ! 『斬魔の太刀』!」
そして剣を振り下ろす。しかし、
「……そんなものか、勇者だと言うのに最弱の勇者は。『煉獄の晩影』」
悪魔が右手を前に突き出し魔法を唱えた瞬間、ケンジ様の剣が当たる事なく巨大な黒い塊に吹き飛ばされた。
「ぐあぁぁぁっ……!!」
そして扉を突き破りこの部屋から弾き出された。
「うそ……」
その言葉がどっちの口から漏れたのかはわからない。それほどの衝撃に固まってしまう。
ケンジ様が一撃で、やられた? そんな、そんな訳……。
「セルドスもクレアも戻ってこないって事は、ティオルリーゼと侵入者に手間取ってるって事か? まあいい。吾輩自ら邪魔者は排除するとしよう」
「ユリア、魔力はまだ余ってる?」
エミリが小声で耳打ちをする。
「余ってるけど……ケンジ様が……」
「大丈夫、あっちの部屋にはお兄さん達がいるから、それにケンジ様は勇者だよ? そう簡単には死なないから!」
「う、うん。そうだよね。私驚きすぎてた」
そうだ、ケンジ様も勇者だ。それに今までお兄さんがいたら何とかなってきた。
落ち着け私! ここから逃げる事だけを考えるんだ!
「エミリありがとう!」
「うん! で、その魔力は一緒に使うよ! 私達の全力で撃つだけ。一瞬でも隙が出来たら逃げられる。扉さえ出られたら大丈夫!」
そうか、私だけだったら難しいけどエミリと合わせれば。
「わかった。やろう!」
私は悪魔を睨み付ける。
「ふん。まだ逃げる気か? 誰が来ても逃げられる訳が無いと言っただろう!」
「行くよユリア!」
「うん!」
そして魔力が高まる。
エミリと合わせたらどこまでも強い魔法が撃てる気がする!
「「『双凛の爆嵐』!!」」
私達の最大の魔力を込めてエミリとタイミングを合わせて、炎と風の合わせた魔法を放つ。
これで少しでも隙が出来れば……!
「だから無駄だと言っただろう! 『終焉の瀑魔』!」
「……っ!!」
その瞬間、私達の魔法が黒い影に包み込まれて……
一瞬で消えた。
「お前らの魔法など食らわん。大人しくしていろ! 『グラビティ・コア』!」
その瞬間、エミリが上から押さえつけられる様に地面に平伏した。
「くうっ……、ユリ、ア……」
「エミリ!」
「お前は殺さないが、先にその王女は殺すことにしよう! 鬱陶しい蝿は潰すに限る」
腰に下げていた剣を抜きながらこっちに向かって歩いてくる。
エミリが動けない。
「今日はまだ吾輩の機嫌がいい。一思いに殺してやろう!」
そして剣が振り上げられる。
「エミリ!! ……くうっ!」
私はエミリを守る様に被さる。
そしてエミリに掛かっていた魔法が私にも掛かり、体が押さえつけられる。
「どけ! お前は傷つけられん! その王女のみ殺すのだ!」
「どかない!」
「ちっ! 邪魔だぞ! このまま潰れられても困る……解除するか」
私の体が楽になる。
でも絶対に離れない!
今この悪魔は私を傷つけられない! ならギリギリまで私が邪魔をしたらエミリは殺されない。
お兄さんが来るまでだけでも!
「鬱陶しい、退け! そんな事しても時間が来たら無駄……ふっ、ふはは、ふははははっ! いや、もう良い! 来た! 時間が来たのだ!」
「えっ?」
セルゴラウスが悪魔の様に笑いながら、顔を上げた私の頬を剣で軽く傷をつける。
血が流れる。
どういう事? 時間が、来た……?
「あと数分……いや、あと数十秒で日が沈む。やっと、やっとだ! 日が沈めば、今日は満月の日。最も悪魔と契約の力が溢れる時だ! お前を殺し「幻想記」を手に入れる!」
「……っ!!」
私をすぐに殺さず待っていたのはこのタイミングのため!?
「ふっ! 誰かが走ってきてるが、もう間に合わん!」
悪魔は一瞬、私の後ろの方を見てニヤッと笑った。
そして、剣を振り上げる。
その瞬間、エミリが私に覆いかぶさる様に抱きついた。
「エミリ!?」
「ユリアは絶対殺させない!」
「ふははっ! なら、一緒に死ねばいい!!」
その瞬間死が形になって現れた気がした。
色が変わる。
暗く、黒い、色に。
「……」
どうしよう……もう何もない……なにも出来なかった。
私の能力を使った魔法も、エミリと合わせた魔法もなにも。この悪魔には全く通用しなかった。
でも誰かが走ってきてるなら、エミリだけでも……エミリだけでも助かるかもしれない!
私が死んでもエミリは死なせたくない!
ここまで来てくれただけで私は嬉しかった。本当にエミリは私の事を考えてくれてるってわかったから。
私の能力が奪われても、エミリの能力とお兄さんがいたら何とかなる! どうしてかわからないけど、私は確信している。
だから!
私は思いっきりエミリを押し飛ばす。
「ユリ、ア!?」
少しだけでも殺されるタイミングが伸びたら助かるかもしれない。走っているのがお兄さんだったら、間違いなく。
「ありがと、エミリ……」
お兄さん、エミリをお願いします。
「ユリアぁぁぁ!!」
エミリが叫ぶ声が聞こえるけど、私は目を瞑る。
「ゼロだ! 死ね!」
その声と共に振り下ろされる剣。
それが私の身体を切り裂くのを……。
「……」
でも、それはいつまで経っても来ない。
一瞬が走馬灯の様に流れているのだろうか。でも、苦しみたくない。殺すなら一思いに……。
……いや、おかしい。こんなに時間がかかるなんて……。
そして確かめる様に目を開けて、
「……っ!!」
目の前の光景に、また涙が溢れだす。
私に振り下ろされる筈の剣が、目の前に立ってる男の人の左腕によって塞がれている事に。
「ごめん、ユリア。かなり待たせたな」
剣を止めたまま話す声は私に安心感をもたらした。
私は助かったって……。
もう大丈夫なんだって……。
「帰るぞ!」
「……はい!」
そう言って振り向いたお兄さんは、本当に勇者に見えた。
次回からスノハラ視点に戻ります。
さあ、魔王討伐といきましょうか!
次回の更新は土曜日の20時ごろです。




