17話 エミリの代わりに
ここから少しユリア視点になります。
少し時間が遡ります。
◇ユリア視点
「……ってことでエミリ、お兄さんには話を付けてきたから」
エミリの部屋で私はお兄さんに頼んだことを伝える。
「うん、ありがと。でも……ユリアはやっぱり行けないんだよね?」
「そうだね。流石に私も一緒に行くことはできないね。どちらかが残っていないと流石にバレるから」
今日は絶対に外に出ないといけない日だ。
それは今日しか見れないある美しい木を見るためだけど。
それは私とエミリが冒険をし始めたころに見つけた。
約2年前から見に行っていて、毎年この時期の満月で雲一つのない快晴の日にそれは見る事ができる。その日は最も太陽の光が強くて、夜の月までも凄く明るい。
もし今日が快晴でなかったら来年までは見れなかったかもしれないけど、今のところ3年連続で見れるだろう。
「この前の事以来監視が厳しくなってるから」
それを見るために私達は毎年楽しみにしていたのだけど、今年に限っては私は見れそうにない。本当は一緒に行きたいけど、お兄さんの事件でエミリは外に簡単に出歩けなくなった。
だから今日は片方しか外に出る事が出来ない。本当はエミリは無理で私しか出る事ができないのだけど。
「そうだよね……」
エミリは私と行けないことに悲しんでくれる。
そんな目で見られたら私も行きたくはなるが、我慢しないといけない。
「まあ、ゆっくり楽しんできて。この数日エミリは気を張り過ぎてたから。休憩は必要だよ」
「うーん……でも、私じゃなくてユリアが見に行った方が確実でしょ? ユリアの能力がどれだけ凄くてももしもって事があるんだから」
「それは私が嫌。私よりエミリの方が見たいって言ってたし、あれはエミリが見つけたんだから私じゃなくて絶対エミリが見に行くべき。能力については安心して大丈夫だから」
「でも……」
「でもって言われても……もう時間が無いから用意しないと」
それでもエミリはうんとは言わない。無理やり用意をさせようとして冒険者用の動きやすい服を持ってくる。
どうしたらエミリはすんなり行くだろうか。ここまで準備して行かないって事はありえないから、押し続けたら行くだろうけど……あっ!
これなら行くかも?
「だったら、はいこれ! これで取ってきてくれたら私も見れるよね?」
私はエミリに両手ぐらいの長方形の物を渡す。これは景色をその瞬間だけを切る取る魔道具だ。
「魔道具かぁ……でもこれこの前ユリアが自分で取るって……」
「いいから。今日取らないと次は1年後で、もしかしたら来年は見れないかもしれないでしょ? エミリに大役を任せるよ」
「えー……はぁ、わかった。ユリアは頑固だからね。そこまでされたら行くしかないよ。ユリアの気持ちも考えて、甘えさせて貰うね」
良かった。エミリが折れてくれた。
「エミリはもっと息抜きしないといけないから」
「うん、ありがと。でも、ユリアも息抜きしないといけないよ?」
「大丈夫。見えないところでしてるから。冒険してる時とか十分休憩できてるよ。それよりもエミリ、時間が迫ってるから早く行かないと! 間に合わなかったらお兄さんに走ってもらったらいいからね!」
「おにーさんに? 前に言ってたあれの事? でも、迷惑じゃないかな?」
「何言ってるの? 今日外に出られないのは、お兄さんのせいなんだからね? お兄さんが自分で撒いた種だから、助けた分ぐらいはお礼してもらわないと! それにこれぐらいの事では等価交換にはならないよ」
「そうかなー?」
「ほら、そんな事より早く!」
何をお兄さんに遠慮してるのだろうか?
今日は特別な日なんだから、今日ぐらい遠慮する必要ないのに。
私は用意しながら考えてるエミリの背中を押す。
「押さないでって。わかったよ! ユリアが言う通り楽しんでくるね!」
エミリがいつもの笑顔で返事をする。
私はその笑顔に応えようと魔法を構築する。
「じゃあかけるよ。『相姿の幻覚』!」
そしてエミリの周りが淡く光、見た目が変わっていく。
「……うん、大丈夫だね」
「完璧だね。ありがと。行ってくるよ!」
「うん、気をつけていってらっしゃい」
「うん! ありがと! ユリアも気をつけてね!」
そう言って、私の見た目をしたエミリを見送る。
これでエミリも少しは気分転換できるだろう。
あの日、お兄さんが串カツを献上しにきた時からエミリは外に出にくくなってしまった。まだここ数日の事なのだけど、今日は元々予定していていた日だからどうしてもエミリに出てほしかった。
エミリの仕事は数日でも篭ってできるような簡単なものではない。それでもいつも笑顔でもかなりきつい思いをしている。
それも全て「巫女」という能力のせいなのだけど……。
「さて、私もエミリに変わらないと。『相姿の幻覚』!」
そして自分自身にもエミリに掛けた同じ魔法を使う。
部屋にある姿見を見ると、そこにはエミリが立っていた。
うん。エミリだ。
私もこの魔法はなれたものだね。
この「相姿の幻覚」は実は見た目を変えるのではなく、見た人に対して一つの幻覚を見せる魔法だ。だから見た目以外にも声も変わってくるんだけど、魔力の消費が凄い。でも、私が持っている「幻想記」って能力のおかげで丸1日使えるのは私の特権だろう。
まあ、極大魔法の「認識阻害」を使えれば何も気にしなくていいんだけど、それを使えるのは物語の中だけ。
そんな事を考えながら姿見を見ていると扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼致します、エミルアリス様。ユリアリア様が外に出られましが、今日はお見送りは良かったのでしょうか?」
入って来てそう言ったのはエミリの側支えであるメリルだ。
この子が私の事をエミルアリス様と呼んだから間違いなく魔法は発動している。
「今日はユリアリアは急いでいたので私がついて行っても迷惑でしょう。先程まで部屋で話していたのですから大丈夫です」
「そうですか、承知しました。では仰られた通り今日は書類仕事に変更いたしましたので、移動いたしましょう」
「はい。ありがとうございます」
エミリの能力が必要な仕事は私ではできないから明日に回し、周りに疑われないよう今日は書類仕事に変えてもらった。
エミリじゃなくてもできる事なんて私がすれば良い。その分エミリは休んでほしい。
私はメリルの言う通りに部屋を出て移動する。
書斎はエミリの部屋から遠いので、少し歩かないといけない。
今日中に片付けないといけない書類は何んだったけ……。
「メリル、今日の書類って……あれは」
廊下歩きながら質問をしようとした時、前から見覚えがある2人の人物が歩いてきた。
どうしてこの2人がここにいるんだろうか?
後ろにはうちの侍女が付いているから、許可は貰っていると考えられるけど。
そう思って見ていると2人と目が合った。
「あら、今日はお一人ですか?」
「おっ、姫さん1人じゃん? 元気?」
「こんにちは、クレア様とセルドス様」
白に近い水色の髪とピンク色の目のとても美人な女性と、高級で貴族らしい衣装に身を包んでいる少し意地悪そうな男の子に声をかけられ、挨拶をする。
ゲンダルフィンの勇者セルドスとその付き人クレアなのだけど、この2人が今ここにいることがおかしい。
「……メリル、セルドス様方は昨日帰られたはずではなかったでしょうか?」
「はい。そのはずなのですが……、後ろに就いているウルマに確認してきます」
そう言ってメリルが2人の後ろにいる侍女の元に向かう。
昨日帰ったはずなのにとんぼ返りなのは、何かあるとしか考えられない、けど……。
そしてウルマから話を聞いたメリルが戻ってくる。
「エミルアリス様、2人は王からの許可を得ているようです。探し物があるようで戻って来られたと」
「そうですか。わかりました」
メリルの確認を聞きクレアとセルドスに向き直る。
「確かお2人は昨日帰られたと思っていたのですが」
「少し用事がございまして。戻ってまいりましたの」
「ん? 忘れ物だよ忘れ物。持って帰らないといけないモノがあったんだよ」
セルドスがそう言って私の目を見るが、その目に私は映ってない気がした。
忘れ物? 何も報告がなかったはずだけど。
「セルドス」
「はいはい。ってことで、ちょっとまた邪魔させてもらうわ」
「そうですか……」
違和感がある……。セルドスから何か企んでいるような……。
いやそれは元からか。
この2人がこの城に来た時から違和感があった。
特にエミリがこの2人に何かあると言っていたから常に警戒をしていた。
1番危険に遭う可能性があるのはエミリだろう。
例えばだけど、戦争するきっかけを作る為にエミリを攫われる可能性は無くはない。ゲンダルフィンは自分の都合の良い様にするのが特徴だ。それが出来るほどの軍事力を持っている。
でも今日はタイミングが良かった。
エミリは外出している。それにもしエミリを狙うならお兄さんがついている。魔王クラスが来ない限りはどうにかなるだろうから、今この場にいるよりかエミリは安心だ。
そうなると私の仕事はこの2人を監視する事になる。この城に居るのであれば私が付いている方がいいだろう。
「忘れ物でしたら、どの辺りか覚えておられますか? 忘れ物については何も報告を受けていなかったのですので」
「あ? そりゃ……まあ、とにかく忘れ物だよ」
「……いいえ、エミルアリス様。忘れ物ではなく落とし物ですわ。わたしの大切なモノを落としてしまって、探している所なのです」
セルドスに言い方には違和感があるけど、クレアは嘘をついていないように見える。
でも、油断はしない方がいいだろう。どちらかというとクレアの方が要注意人物だ。
「成る程そうでしたか……。でしたら、私もお手伝い致しましょう」
この2人を監視するには1番いい。それにもし何かを企んでたら断るはずだ。
「あ? いいよいいよ別に。俺らだけで大丈……」
「……いいえ、セルドス。手伝って貰いましょう」
セルドスが断ろうとしたのを遮り、クレアが私の提案をのんだ。
「おいクレア? お前何言って……」
「その方が早く見つかりますから。ね? セルドス?」
クレアがセルドスを見る。
「……ちっ。わかったよ」
「という事です。お願いしてもよろしいですか?」
「……ええ。わかりました」
やっぱり違和感がある。何かする可能性もある。
でも私がついていたら何もできないだろう。
でもなんだろう、一瞬クレアが笑った気がしたのだけど……。
警戒するべき人物なのかどうか、見極めるのが重要な場面。
次回の更新は日曜日の20時ごろです。




