5話 「剣聖」と「大賢者」
「行くぞ勇者!」
そして魔王が真紅の剣を片手で縦横無尽に振る。
「……っ!!」
その一撃一撃が即死であり、食らえば俺の異世界生活が終了だ。
とにかく必死で避ける。
「はははははっ! これも避けるか! 動きが素人だが、それもまた欺くためか? なら、まだまだ行くぞ!」
スピードが一段階上がった。
……って! やめろ! やめて! やめてください!!
どうしよう、どうしよう。一撃でも食らったら消滅ですよ! 俺の身体能力も上がっているけど、こんな命のやり取りしたくないから!
避けられてるだけでも奇跡ですから!
「これでも避けるか! 素晴らしい! 素晴らしいぞ勇者! ではこれはどうだ! 『破滅の死雨』! 「死の斬撃」の広範囲攻撃だ。避けきれんだろ!」
「っ!!」
その瞬間、俺の真上が黒く染まり、そこから異様な魔力が溢れる。そして複数の斬撃が降り注ぐ。
「な……」
その瞬間、俺は死んだと確信した。
目の前まで迫っている複数の斬撃の雨がゆっくりと感じる。俺の体が早くなったわけではない、走馬灯の様な感じだろうか。これが死の一歩手前なのだとわかる。いや、当たれば確実に死ぬのだろう。
ああ、一瞬の異世界生活だったな。もし、死んであの白い空間に行けたら、あのクソジジィをぶん殴ろう。いや、あいつはもう生まれ変わったのか? なら違う神様かもしれないな。
……ダメだあいつに復讐ができない!
って、まだ死にたくないから!!
そんな事を考えているうちに頭にある能力が浮かぶ。
それを咄嗟に唱える。
そして消滅する斬撃の雨が降り注いだ。
「はははははっ、流石の勇者もこれは避けきれんだろう。あっけなかったが、オレをこの形態にさせたのは人間の中では初めてだ。中々楽しめた……ぞ……?」
魔王が喋っている中、斬撃の雨による土煙が晴れる。
「死ぬ瞬間ってこんな感じなのかな? って、俺一回死んでるんだよな」
そしてその場に俺は仁王立ちで立っていた。
俺が立っている所以外「破滅の死雨」によって消滅している。
どうなってるんだろうなこの建物。
「お、お前……」
俺が斬撃の雨から生きていたことに魔王は驚いているようだ。
「な、なぜだ! なぜお前は生きている!? 「破滅の死雨」は確実にお前を……」
自分でもかなり驚いている。
咄嗟に「絶永結界」を唱えたけど、もう一回使えるとは……魔法だったんだな。
それより、見るだけじゃなくて自分が使った魔法も使える「大賢者」半端ねぇな!
となれば、色々と使える手が増える。
「ふっ、ふははは、ふははははははっ! ここまでとは勇者! これほどオレも滾ったことがない! 全力で、全力で来い!」
「『超炎熱砲』!」
「むっ! ぐおぉぉぉぉっ!?」
「やったか?」
フラグ的なことを言ってしまったが、倒せるとは思ってないからいい。
瞬間に魔法を放った。威力は申し分ないはずだが、魔王にダメージを与えられるのか。
「……くっ! 中々の威力だな。ジェミラに使った時より大幅に威力が上がっているぞ!」
やっぱり倒せないか。黒焦げではないが、ミディアムレアぐらいにはなっているかもしれない。湯気が立っているし。
そして間髪入れずに、
「『超炎熱砲』!」
「ふん、その攻撃は俺にくら……ぐぉぉぉ!」
もう一度撃ってみた。
「……だ、だからオレにはそれぐらいの攻撃は食らわんと言っているだろう!」
そう言うけど、少しはダメージを与えられているだろ。まあ、大きなダメージは与えられていないだろうが。
よし! 次を試してみよう!
「次は何をしてくる勇者よ……」
「『精神支配』!」
「……なっ!?」
「……これはどうかな?」
そして魔王は動かなくなる。
成功か? 側近が使った魔法を使ってみたんだけど? 俺はレジストできたから魔王もできるのかとお思っていたが、少しずつだが魔王と線が繋がっていく感覚がある。……よし、繋がった! これで魔王も動かせるってわけか。凄いなこの魔法! レジストされなかったぞ!
「おーい、魔王さーん?」
「……」
「動かないな……っ!!」
その瞬間魔王から流れるように魔法や剣技が入ってくる。これも「剣聖」と「大賢者」たちのおかげなのだろうか。
おっ、おおっ! さすが魔王だ、レベルが高い技が多い。一般では使えない技ばかりなのが、エグいけど。剣技は簡単なモノから難しいのまで殆ど使えるが、魔法は思ってるより少ない。威力が強い魔法だけで、初心者でも使える魔法を知らないのはこの魔王らしい気もする。
その中でも一番は「死の斬撃」と「破滅の死雨」だな。これ以上の強い技はない。
しかし、この「精神支配」は魔力をすごく使う。使用中はゴリゴリ減っていく感覚だ。
じゃあ、さっさと魔王から勝利を頂こう。
「さて、もうそろそろ自滅してもらおうか……って!?」
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「まじか……」
命令を出そうとした瞬間、俺の「精神支配」レジストされた。頭に「レジストされました」って響いている。
「まさか、この俺が「精神支配」を受けるとはな。この魔法はジェミラのオリジナルなはずだ。これほどの支配系魔法は他の誰も使えないはず。何故お前が使える!」
どうしてかわからないけど、レジストするとは流石魔王だな。
「……それも話さないか。勇者らしい! しかし、これで確信した。勇者よ、お前はオレよりも強い! だが、お前に勝つことで俺が最強になってやろう!」
ちょっと魔王さんが余計やる気になっちゃいましたよ。
しかし、ここまで魔王に強いと言わせるってことは、確実に俺はチート能力を得たと確信する。まあ、ここで諦めてくれたら楽だったんだが。
しかし、さっきからやっている「精神支配」はもう効かないみたいだな。同じ手は二度食らわないか。
「もう「精神支配」は効かんぞ勇者。最後の最後だ。剣で語ろうではないか!」
魔王が走りながら剣を振る。
ならこっちも王道に戦って、倒してやろう。
「行くぞゆう……っ!」
「『死の斬撃』!」
「なにぃっ!! ぐぉぉっ!!」
魔王はギリギリ剣で俺の斬撃を防ぐ。
ふむ、相手の最強の技を使える「剣聖」って最強だな。
「何故お前が「死の斬撃」を使える!! この魔王のみ許される剣技だぞ!!」
「お前の言い方を借りると、勇者だからかな?」
ちょっとかっこよく言ってみる。
「ふっ、ふははははっ! それが勇者の力か! 素晴らしいぞ!」
その言葉と共にまた魔王の力が膨れ上がる。何かする様だ。だが、その前に俺は唱え、剣を振る。
「『破滅の死雨』!」
「っ!? なにぃっ!!」
その瞬間、魔王に向かって斬撃の雨が降り注ぐ。
「まさかこの技もか!! ぐぉぉ!!」
しかし魔王は上から降り注ぐ無数の斬撃の雨を剣で薙ぎ払い、全てを捌き切るかの如く、打ち払っている。
「ぐぉぉぉぉぉっ!!!」
そして最後の一撃まで受けきった。
「はあ、はあ……どうだ、全て受けきったぞ!」
流石魔王か。全て受けきるとは、俺には絶対出来ない芸当だろう。
しかし間髪入れずにもう一度、今度は力を多めに込めて、放つ。
「『破滅の死雨』」
「っ!! またかっ!! それにさっきより数が多いだと! 滾るではないか! なら! 来い『傲魏』!」
そう叫んだ魔王に応える様に魔王が座ってた椅子付近から漆黒に染まった剣が飛び出す。
そして魔王の左手に握られる。
「この「煉獄」と「傲魏」で全て受けきってやろう! ごぉぉぉぉぉっ!!」
凄い勢いで両手の剣を振り続ける魔王。そのスピードは片手の時とは比べものにならない。このままなら確実に全て受けきる勢いだ。
この魔王ならそれぐらいする。
「さて……」
しかしこっちは戦い素人だ、長引かせるのはよくないだろう。
じゃあ、さっさと終わらせようか。
「これで、最後だぁぁっ!」
その言葉と同時に魔王が斬撃の雨の最後の一礫を弾き飛ばす。
「はははははっ! どうだ受けきったぞ、勇者! さあ、次はどうす……っ!?」
しかし魔王の目の前に俺はいない。「暗殺者」による「隠密」で影を消す。
魔王レベルには隠れることはできないだろうが、一瞬だけ魔王の視界から外れれば十分だ。
魔王が見失っているうちに後ろに周る。
静かに上段に剣を構える。
そして、
「『龍轟一閃』!」
掲げた剣を振り下ろす。
静かながらも激しく振り下ろされた「剣豪」の能力による閃光の一撃は、古龍をも斬り倒す一筋の斬撃。
「……っ!! ぐがぁぁぁぁぁ!!!」
魔王が振り向くが間に合わない。
一線上に閃光と共に魔力と風圧により周囲の瓦礫が舞い、魔王の左腕が消し飛ぶ。
「ぐぉぉぉぉぉっ!!! 俺の腕を……!!」
それと同時に、持っていた剣が砕け散る。
極大剣技による一撃でも剣が砕け散れば威力が下がる。しかし剣が砕け散るとは何となくわかっていた。
わかっていたからこそ、次の一手が打てる。
この「龍轟一閃」を受けてもなお、折れない「傲魏」。技の強さは武器の強さにも比例する。どれだけ「死の斬撃」を使っても同じ剣技を撃ち合えば、相手の剣のレベルが上なら剣技のみでは勝つことができない。
それがわかったのは手応えが違うからだ。「剣聖」より剣技についての感覚が研ぎ澄まされている。
そして考えられる結論は、強い武器を使えば良いという事。
「ふっ」
消し飛んだ魔王の腕から離れた宙を舞う「傲魏」を掴む。
「まさかっ!! お前っ!!」
「『破滅の死雨』!」
瞬間に放つ。
これで魔王とほぼ同等の力になる。そして片手だけでこの斬撃の数は受け切れないだろう。
「ぐぉぉぉぉぉ!!!」
必死に片腕だけで降り注ぐ斬撃を受ける魔王。その瞬間に俺の勝ちは決まった。
「煉獄」と「傲魏」を比べると「傲魏」の方が強そうだから狙ったわけだが、「煉獄」の方が使いやすそうだから倒した後、しっかり拝借させてもらおう。
「ふぅ……」
「傲魏」が手に馴染まない。流石最上の魔剣。持っているだけで魔力とと精神力が削られているのがわかる。
しかし振るのは一撃だ。
静かに「傲魏」を横に構え、
「っ!!!」
放つ。
「『死の斬撃』」
横薙ぎに振り抜いた一撃は、一線上を消滅させる。
「がぁぁぁぁぁ……っ!!」
「死の斬撃」を受けても消滅までいかないのは流石の魔王だ。しかし「破滅の死雨」を受けきれず所々が消滅していく。
「……ん?」
しかし、今もなお降り注ぐ斬撃に対する手を止め、俺をじっと見た。
「これが勇者か……!」
魔王がそう笑いながら呟いた瞬間、
「魔王様ぁぁぁ!!!」
その叫び声と共に目の前が青白く光った。




