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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第3章「封惑の魔王」

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10話 攫われた者



「攫われたのが私ではないのです」


「……どういう事だ!?」


 王様がエミリの言葉に反応する。

 エミリはユリアが攫われているとわかっているので、その話をしやすくする為にこの場の空気を整えたわけか。


「実は……」


「王様! 遅くなり申し訳ございません!」


 エミリが話し始めようとした時、俺の横を走って誰かが王の間に入った。

 ……この声は健治か?


「……む? おお! 勇者ケンジか! よく来たな!」


「はい! 王女様が攫われたと聞き飛んできました! 王女様は誰に……っ!? エミルアリス様!? え? えっと……攫われたのでは……?」


「……申し訳ございませんケンジ様。今からその話をする所でしたので一緒に聞いていただいてもよろしいでしょうか?」


「は、はい」


 健治は攫われたと聞いていたエミリが目の前にいる事に驚いていたが、エミリの圧力に少し冷静になる。


 エミリがここまで淡々と話せる事に凄いと思っていたが、思っているより焦っているのかもしれないな。

 冷静にして凛としているが後ろから見ると少し震えている様にも見える。


「簡潔に言いますと、城で私の格好をしていたのはユリアリアなのです」


「……む? ユリアリアが其方の恰好をしていただと? 意味がわからん。其方の格好をしても側仕えがユリアリアと其方を間違えるわけがなかろう?」


「いいえ、間違えるのです。数時間は効果が消えない幻惑の魔法で、ユリアリアを私に見える様にしていました。なので側仕えにはわからなかったのでしょう」


「……待て! その様な魔法があるのか!」


「はい。ユリアリアがその魔法を使えます。その魔法についても後で詳しくお話しいたしますが、先に話すべき事は、今日城にいたのはユリアリアという事です」


「……どういう事だ?」


 その反応からエミリが本題に入る為に声の大きさを変えた。


「私の側仕えはユリアリアと私といる時と同じように行動をとっていたのです。しかし昼から1時間ほどたった時、昨日帰られたはずのゲンダルフィンの勇者セルドス様とそのお付きのクレア様が来られたと聞きました」


「ああ。その様に報告は受けている。何か忘れ物か探し物をしに帰ってきたとか」


「はい。それを一緒に探していたと聞いております。しかしある部屋に入った時に事件が起こった。その3人が目の前で消えたと……そうですねメリル?」


「はい、お嬢様……」


「ああ、余もその様に報告は受けている。そうだなカルデム?」


「はい。その通りでございます。その報告からエミルアリス様の姿が見当たらず城中を探していたのです。しかし、エミルアリス様は今ここに戻られました。もう何も考える事もないはず……っ!! まさか、そういう事ですか!」


 騎士団長がエミリの言葉から何かを連想したようだ。

 エミリに確認する様に反応する。


「はい。カルデムが考えている通りだと思います。最初に言った通り普通この場にいるはずのユリアリアが何故かいません。考えられる事は、その時攫われたのはユリアリアという事です」


「ほう、成る程。エミルアリスではなくユリアリアが攫われたと」


 しかし、ユリアが攫われたとわかったのに、王様は思っているより反応しなかった。


「……はい。しかし、それだけではありません。考えるとすぐわかる事なのですが、今回の騒ぎは計画的に私を攫うために仕組んだ事だと言う事です!」


「なに!?」


 エミリの言葉に王様が驚く。

 周りの騎士団長達も驚いている様子だ。


「この城で人を攫うという事は計画が無ければできません。当たり前です、厳重な警備がある城の中でなのですから。そしてあの勇者達をゲンダルフィンの国王から預かっていた期間は1ヶ月ほど。期間は十分にあります。そうでなければ転移魔法など使えません」


「て、転移魔法を使っただと……?」


「はい。あのクレアという者は転移魔法が使える事で有名です。そうでなければ目の前で人が急に消えることも無いでしょう。あとでその部屋を調べれば何か痕跡が出るはずです」


 確実に計画犯罪だったと、エミリが言い切った。


「これでお父様もお分かりになったと思いますが、他国の王女を攫う計画をするなど言語道断です! つまりこの国はゲンダルフィンから宣戦布告を受けたのと同じ事でしょう!」


「そうだな。これは由々しき事になる」


「そうです。ならばユリアリアを連れ戻すために動くべきなのではありませんか?」


 エミリはこの言葉が言いたかったかのように力強く叫ぶ。

 しかし……。


「無理だ」


「……え? ……今、なんと……?」


「無理だと言った」


 王様はその言葉を否定した。


「ど、どうしてですか!? ユリアリアが攫われているのですよ!? 攫った相手も分かっています! こちらも動かなければ!!」


「わかっている。だから無理なのだ」


「っ!? どうして……」


 王様がエミリの目をじっと見つめて話始める。


「理由は2つある。1つがエミルアリスも知っている通りこの国の戦力はゲンダルフィンより劣っている。それに加えてあの国は話し合いに応じる様な国ではない。話し合える国ならこの様なやり方はしてこないだろう。できないからこそ戦争になるのは決まっている。だからこそ、戦争を回避できるなら回避したいのだ」


「なっ……」


 王様の言葉にエミリが言葉を詰まらせる。

 その言葉は、自分の国の王女が攫われかけたけど相手の国に対して何もできない。いや、しないと言うことだ。つまり勝負に立つ前から負けを認めているという意味になる。

 今はこの城の中だけしか伝わっていない情報だが、国民に知れてしまえばこの国は喧嘩を売られても買うこともできない負け犬の国と認識される。少なくともゲンダルフィンが他の国に言うことでこの国の弱みは握られる。

 どちらにしても悪い状況になる。


「そ、それはこの国の為になりません! 他国からしたらこの国は何をされてもいいと認めているようなものですよ!?」


「それでも負けるとわかっている戦争にわざわざ兵を送りだすほど余も馬鹿ではない。無駄に国民も危険に晒すわけにはいかん! そうだろうカルデム!」


「……はい。恥ずかしながらこの国の戦力ではゲンダルフィンには勝つことができません」


 自国の弱さを王様と騎士団長が堂々と言い張るのはやばいだろ。


「ちょっ、ちょっと待ってください! だったら俺が行けば戦況は変わるのではないでしょうか!?」


 そこに健治が口を出す。しかしそれは騎士団長に却下される。


「難しいです。ケンジ様とその仲間たちがこの国で一番強いと言っても、ゲンダルフィンの戦力を全てなぎ倒すことは不可能です。それにもしケンジ様がいなくなってしまえばそれこそこの国の戦力の大半減になります」


「なっ……」


 その言葉に健治がうつむく。

 と言うか、健治がこの国で一番強いっていう事に驚いた。

 あの強さでこの国一番ってどれだけ弱いんだ? いや、ベヒモスをS級としてそれと互角に戦えるぐらいの強さなら、強い方なのか。


「だからずっと戦力の増強をと言っていたのですが……」


 そうエミリは近くにしか聞こえないほどの声でつぶやいた後、声を張り上げる。


「しかし、それでは他国に舐められるだけです! であれば、他の手を打つぐらいしなければ……」


「ああ、そうだな。しかし、それはエミルアリスが攫われたらの話だ」


「……は? それはどういう……」


「今回は王女誘拐事件となる可能性があったが実際はエミルアリスではなくユリアリアが攫われたわけだ。もしエミルアリスが攫われていたらこの勝ち目のない戦争を回避するために色々と動いたであろう。しかしユリアリアが攫われたことでその懸念も無くなった」


「……お父様? その、意味が分からないのですが……?」


 エミリの顔色が変わる。


「わからないか? 側近の役割と言えば何がある? 主人の側で見守る事か? 世話をする事か? 違う。一番は主人の危険を回避することだ。今回は様々な事がこの結果に導いたのかもしれないが、結果としてはユリアリアは其方の代わりに攫われたと言うことになる。つまり、エミルアリスの身代わりになり危険から守ったと言う事なのだ」


「……っ!!」


 エミリはその理由に言葉を詰まらせた。


「側近は主人の為に動くもの。つまり主人の身代わりになる事も側近の務めなのだ!」


「……」


「なら側近であるユリアリアにとってはこれ以上ない喜びなのではないのか? 考え方を変えるとユリアリアは事前にゲンダルフィンとの戦争を回避する策を打ったとも考えられる。ユリアリアはこれ以上ない良い仕事をしたわけだ。ならこの国が動く事はユリアリアの行動を無下にする事になるのではないのか?」


「……」


 エミリは答えない。しかし後ろから見てもわかるぐらい身体が震え、強く拳を握っている。


「国民にも、他国にも攫われたのはただの側近だと周知すれば良い。エミルアリスと言わなければいい」


 この王様は一人の命を捧げる代わりに多くの命を守ると言ったわけだ。それは一国の主としては正しい事なのだろう。

 しかし理由が戦争を回避したいから他国から侮辱されても我慢する選択を取るということだ。

 そうなるとこれからこの国は悪い方向に傾くだろう。


「なら王様、俺がユリアリア様を助け出してきます! 俺一人なら戦争にもならないでしょう?」


 健治がそれに口を挿む。

 しかし、その言葉が騎士団長によって否定される。


「それは許されない!」


「っ!? どうしてですか? カルデム騎士団長!」


「ケンジ様。さっきも言った通り貴方はこの国の最強戦力です。もしゲンダルフィンに行き、貴方が死ねばこの国の戦力は落ちます。そうなれば今以上にこの国の一大事になるでしょう。ユリアリア程度の命と引き合いにするほどのことではありません」


 その言葉に、一瞬俺は耳を疑った。

 この騎士団長が何を言ったのか、わからなかった。





     

次回の更新も今日! 20時頃です!

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