8話 エミリの息抜き②
「あはははっ! すっごく楽しかった! 最初は怖かったけど慣れたらいいね! どうしてユリアは怖がってたんだろう?」
「まあ、苦手な人は苦手だよなー。気に入ってくれてありがとう」
ユリアと違って途中から一種のアトラクションの様に楽しんでいたエミリ。
あれだけ楽しんでもらったら引きがいもある。
まあ、ユリアみたいな反応でも楽しかったけど。
「で、場所はここで良かったんだよな?」
「うん、あと少し歩くけど完璧。時間もまだ余裕があるし、流石おにーさんだね」
「おう」
エミリに褒められて少しいい気分になる。単純だが男はそんなものだ。
あと少し目的地まで歩いて行く。
時間を短縮出来たのでゆっくり目的地について聞く。
「その目的地には何があるんだ? 聞いてなかったけど?」
「うーん、話してもいいけど知らずに見たほうが驚くと思うよ?」
エミリは考えるように言う。
「そんなものか? じゃあ、楽しみにしとくよ」
「あっ、でもヒントだけ伝えておくね。多分木なんだけど、凄く光る」
「……? 光る木?」
イメージしたのがイルミネーションが沢山付いているクリスマスツリーを思い出す。
「多分そのイメージは違うと思うよ。イメージできないと思うし」
「ふーん」
イルミネーションでは無いようだ。
想像できない景色に興味が湧く。
「あっ、着いたよ」
そんな事を考えながら歩いていると着いたみたいだ。
「あれだよ」
「……っ!?」
エミリが指を指す方向に目をやると、その光景に驚きを隠せなかった。
「……これが?」
「うん、これが」
光る木と言っていたが、全くイメージとは似つかないものだった。
光ると言うよりかは透き通るの方が合っている。
全てがガラスで出来ている様な透明感で、人工物の様な感じなのに自然で出来たと伝わる。
木というのが正しくて、上に伸びる枝が分かれていてその先には葉の様なものがある。それも全て透き通ったガラスの様だ。
一言でいうとガラスでできた木。
しかし驚く理由はそれだけではなく、その木が今の太陽の位置関係で虹色に複雑に光っている。
それがなんとも言えない幻想的な光景になる。
その木が草原の中に一本だけ異様に立っていた。
ここまで近くに来ないと分からなかったのが不思議なぐらい、異様で幻想的な光景だった。
「すごいでしょ?」
「……ああ、これは凄いな」
凄いしか言葉が出てこない。それぐらいの衝撃を俺は受けていた。
「でもね、これで終わりじゃ無いんだよねー」
「終わりじゃ無い?」
「うん。時間まであと少しだから待ってて」
そう言ってエミリがその場に座る。
「ああ」
それに釣られて俺もその場に座る。
それにしてもあれはガラスなのか、氷なのか。
触ってみたい衝動に駆られる。
「触ったらダメだからね。消えちゃうから」
俺の心を読み取ったのかエミリが釘を刺す。
「そうなの? ……って事はもしかして触ったことある?」
「あはは。そうなんだよねー。実はここに来たのは今日で3回目。1回目は私が触って消えちゃった。2回目は我慢したからこの次の光景が見えたんだ」
そう言うエミリは懐かしそうに木を見る。
「本当はユリアも連れて来たかったんだけどね」
「うっ……それはごめん」
ユリアの名前が出た途端、即座に謝る。ユリアと来れなかったのは俺のせいだと重々承知している。
「違うの違うの。私がユリアに甘えっぱなしだったから悪いんだと思う。これは絶対ユリアには言わないでね? 私ってユリアがいないと何も出来ないんだ。自分の管理も出来ないし、今の様に生きていくのも難しかったと思う。ユリアには本当に助けられてるんだ」
そう言ってユリアの事を思い出す様に語り始める。
「私が小さい時にユリアと出会ったんだけどね、その頃の私はこの「識別視」の能力で人を疑う事しか出来なかった。だって人の心の感情が全部わかっちゃうんだよ? お父様もお母様も私の事は思ってるけど、私の能力が分かった途端考え方が怖くなった。周りに近づいてくる人はみんな私の能力を使おうとする人ばかり。そんな中で生きていかないとダメなんだと諦めていたんだ」
その能力が有ればそうなる可能性があるよな。今の俺だから何も考えないけど、能力が無かったら利益目的で近づいていたかもしれない。
王女様だから近づけないだろうけど。
「でも、ユリアは違った。まずあの子は私を疑いの目でしか見てなかったの」
……ん?
いや、そう言う時は純粋な目で見てたとかじゃね?
「もちろん私も「何の子?」と思ったよ? でもねその年齢の時にそんな感情があるって普通おかしいんだよね。普通の子と違うのは何かあるって事。だから私は興味を持ったんだ。そこからかな私達が話し始めて、友達になったの」
エミリとユリアの関係がわかる言葉だった。それがあったから今のエミリ達があるような。
「ユリアはそこまでいい階級の出身じゃなくてね、普通は王女の側近なんかにはなれない。でも私は無理を言ってユリアを側近にした。だって、あの子より信じれる人はいないから」
凄くいい話だ。エミリの愛情とユリアの愛情がわかる。
「その時のユリアの顔は面白かったなー。怒って、驚いて、笑って、泣いてたもん。感情もそのまんま」
意地悪そうに笑いながら話す顔はとても楽しそうだ。
「ユリアだけだよ私に信じられる感情をくれる人は……。あっ、でも最近は他にも出て来たんだけどね」
そう言って俺を見てニコッと笑う。
その人物が俺であるなら、そんな俺は大層な人間ではない。ただ、エミリの能力に対して思うところが無いだけだ。
エミリの周りには他に純粋な人間もいるだろう。
「だからね、私はユリアとは絶対に離れたりしない。どんなことがあってもあの子は手放さない。そう決めてるんだ」
エミリは決意する様に強く自分の手を握る。
「でも、ユリア離れはしないといけないんだけどね」
そう言って笑うエミリの顔は何となくユリアが見せた顔と似ていた。
「あっ! おにーさんもうすぐだよ! 太陽が傾き始めてる!」
そう言って木を指差す。
真上にあった太陽が少し傾いていた。
「絶対驚くから! さあ、来るよ……ほら!!」
「……っ!!」
その瞬間、目の前の景色が金色に変わった。
それはエミリが言った通りに驚くほどの景色だった。
さっきまで虹色だった木が太陽の光を浴びて全てが金色に光る。まるで黄金の木の様だ。
「これは凄いな……」
驚いた口が塞がらないとはこう言うことなのか。
絶対今日じゃないと見ないといけないとユリアが言って通り、これは絶対に見なければならない景色だ。
本当にユリアが来れなかった事を俺が悔やんでしまうぐらいに。
「凄いね……」
エミリもその光景に釘付けになっていた。
しかしそれも束の間、エミリは「アイテムポーチ」から何かを取り出した。
「……それは?」
「これは、見た景色のその瞬を取っておく魔道具。去年はこの景色に呆気にとられて使えなかったからね。今回はユリアにも見せたいから」
長方形で両手に収まるか収まらないほどの大きさ。カメラの様に覗くところはなく、映すレンズの様なモノだけが付いている。
「これってホント使うの難しいんだよね。えっと、こうして……こんな感じで、大丈夫なはず……」
角度はどうとか見え方はどうとか呟きながらきれいに撮れる場所を探している。
そして場所が決まったのかそこから動かず、数秒じっとしていた。
「……よし、これでできたかな?」
そう言って魔道具を「アイテムポーチ」にしまう。
「確認しないのか?」
「うーんとね、確認は1時間後しかできないし、他の景色を取ったら見れなくなるから。もし上手にできていなかったらまた来年来ないとね」
へー、そんな制約があるのか。現代のカメラみたいすぐに確認できないのは不便だな。昔のフィルムカメラみたいだ。
「でも、来年も来るつもり。次はユリアも一緒に来れる様にがんばるよ」
笑いながら言う様子に俺はとても申し訳なくなる。
本当に俺達のせいです。特にアルデのせいです。すみません。
「あ、この景色ってすぐに消えるからおにーさんもしっかり見ておいた方がいいよ」
「ああ、わかった」
金色に輝く木を眺める。
これを見ているとなんだか心が洗われて、力が沸き上がるような感覚になる。
そしてエミリが言ったように1分ほどで金色が虹色に変わた。その瞬間、
「……っ!!」
虹色の木がはじけ飛ぶように、輝きをまき散らし消えた。
「……すごいでしょ?」
「あれはびびった。すごいなこれは……」
初めて見る光景は俺の想像を超えて、とてもきれいに記憶に残った。
本当にこれは俺とではなくユリアと見に来た方が良い。
ここって絶好のデートスポットだよ。
今更ながら少し緊張してきたかもしれない。
「さて、帰ろっか。ユリアにずっと任せるわけにもいかないし。ここにいてももう見れないしね」
エミリは木があった場所を名残惜しそうに見ながら言った。
「そうだな。エミリが満足だったら帰るか」
「うん。私は満足だよ」
「りょーかい」
そして俺も名残惜しいがその場を後にした。
帰りもエミリを台車に乗せて時間短縮をする。エミリはユリアに任せっぱなしにする事に気が引ける様だったからだ。
しかしここまでの道で全くモンスターに合わなかったな。別に俺の護衛はいらなかったぐらい静かだった。
「おにーさんお疲れ様ー」
「おう」
変な目で見られないように門から少し離れた所で台車を片付け、歩いて王都の中に入る。
すると門の受付にいた衛兵に声をかけられた。
「ん? ユリアか? どこ行ってたんだ?」
「あ、衛兵さん。お疲れ様です。少し出てただけですよ?」
「その男は、初めてだな?」
「そうですね。ちょっと手伝ってもらう事がありまして」
仲良さそうに話すエミリと衛兵。こう目の前でユリアと呼ばれると本当に魔法がかかってるんだと納得する。
でも、俺に全くかからないってのも不便だな。
一度は俺もかかってみたい。
「そうか。でも一応規則だからな。兄ちゃんギルドカードあるか?」
「ああ、これでいいか?」
「おう……ランクはそんななのにこのモンスターの倒した数。それにワイバーンにベヒモス!? なんだこれは!? ……そうか、何かのおこぼれか」
おいおい! それは俺が倒したモンスターですよ!
グレイバルトの城に行った時にまあまあ倒したから割と増えている。もうスライムだけしか載っていないギルドカードじゃない!
しかし、ランクと比べてそういう目線を俺に向けるのはどうかと思うんだけど。
「そうですね。まあそれは置いておいて、入っていいですか?」
「ああ、いいぞ。引き止めてすまんな」
「いえ」
衛兵に挨拶をして俺達は門を通る。
「エミリってユリアのモノマネ上手いな」
「でしょ? 長年一緒にいるだけあるでしょ?」
「あるある」
ドヤ顔をするエミリが珍しくて面白い。
完璧に口調がユリアだった。声だけだったら瓜二つだわ。
「じゃあ、これで休憩時間も終わりだね。今日はありがとねおにーさん」
「ああ、いいよ。これぐらいだったらいつでも呼んでくれたら来るよ。でもこの後、少しだけ何か食べて帰らないか? ユリアのお土産も買って帰ってあげたらいいんじゃね?」
「あっ、それいいね! ユリアの好きなモノ買ってあげよう!」
俺の提案にエミリも賛同する。
「そーいえば、最近は串カツを食べたいなーって言ってたけど?」
そう俺を見ながらエミリは言うが、今は持っていない。
「うれしい限りだけど今は無いな。じゃあ今度作って持ってくるよ。まだ王都では串カツ屋を開店できなさそうだし」
「そうだね。流石にあれの後じゃ出しにくいよね。絶対カルデム……騎士団長ね。あの人が見に来るから」
「だろうな」
騎士団長の顔を思い出す。あのおっさんが来て勝手に食べられたら面倒くさいからな。
俺はあいつが嫌いだ。
「じゃあ、どこに行く?」
「ユリアが好きなものだよねー。えっとー……」
「……えっ?」
普通にエミリとこれからユリアのお土産をどうするか話していただけ。何も目立つ事などしていない。
でもその時、目の前を歩いていた女性が振り返り、
「え、エミルアリス様……?」
エミリの名前を呼んだ。
エミルアリスって呼ばれた!?
ここから私の中で盛り上がるシーンになりますので、連続更新!
次回は今日の昼13時頃です!




