6話 呼び出し
「はい、釈放です」
「おっしゃぁ!!」
「やったのじゃ! 串カツなのじゃ!」
「肉! 肉が食えるぞ!」
俺たち3人はその言葉に歓喜を上げる。
エミリ様ユリア様ありがとうございます!
「でも待ってください」
「はい」
ユリアが歓喜の声をあげていた俺達に待ったをかけ、真剣な目で注意を促す。
「釈放はします。ですがこれだけは覚えてください。今回釈放されるのはエミリの尽力のおかげです。エミリが陛下に直談判し許しを頂きました。元々死刑だった事を覆すぐらいの条件をエミリは陛下に出したことは忘れないでください」
「エミリがそこまでの事を……?」
そこまでしないと俺達を助けられないのは理解できた。それはかなり感謝しないといけない。
多分ユリアもそれを手伝って……エミリとユリアには助けてもらってばかりだ。
「本当にありがとう。エミリにもお礼を言いたいけど、今はさすがに会えないよな?」
「当たり前です。私がここに来る事も渋られたぐらいですから。まあ、私は勝手に動きますけど」
そりゃエミリには会えないよな。ユリアが来て直接言いに来てくれただけでも大変な事だったんだな。
「それでお兄さんここからが重要な事です」
「なんだ?」
重要な事とは何だろうか。ユリアの目がより真剣になる。
「尽力を尽くしたエミリの為のお願いです。聞いてくれますよね?」
「ああ、当たり前だ!」
俺は即答する。
エミリやユリアのお願いならいくらでもなんでも聞こう。助けてもらったら礼を尽くすのが俺の故郷の習わしだ。
「何でも言ってくれ! できることなら何でもするよ!」
俺のテンションは上がっている。ここから出られていつもの日常に戻れるのなら何でもしよう!
「言質はとりましたよ? では出てから話します」
そう言いユリアは牢屋の鍵を開けた。
やっと出られる! 割と3日間は長かった。
アルデとティオルではないけど、実は俺もそろそろストレスが爆発するところだった。
牢屋を出て、階段を上がり外に出る。そこから何もなくユリアに付いて行く事で城の外まで出ることができた。
その間はアルデもティオルも、もちろん俺も黙ったままだ。うるさくしたらまた捕まるかもしれなかったからな。
ちなみに串カツ調理セットは返って来なかった。
多分あいつらが使うのだろう。ソースも取られてしまった……諦めるしかないか。
色々と思いを巡らしながら、城から一歩出る。
その瞬間、
「外じゃ! やっと出られたのじゃ!」
「もうジメジメした所は嫌だ! 空気が美味いぞ!」
2人が外に出れてはしゃぐ。
まあ、俺もその意見には賛同するが、殆どはお前らが原因なんだけどな。
「ユリア、本当にありがとう。もしユリアが来てなかったら俺達多分脱獄していたから、本当にもうギリギリだったわ! アルデとティオルを抑えるのも面倒くさかったし!」
「……え。それが本当でしたら、よかったです。危ない所でした。私達もお兄さん達も」
「ははっ! そうだろ! 本当に助かった」
俺は笑いながら話すが、ユリアは少し呆れた様な助かった様な顔をしていた。
「エミリにもお礼を言っておいてくれ! また機会があれば自分の口からお礼を言いたいけどな!」
「わかりました。言っておきます。でもその機会もすぐに来るかもしれないですけどね」
「ん? どういうことだ?」
ユリアが意味深なことを言った。
エミリに会うことがある? もしかするとまたリンディンの街に来るのだろうか。
「ではお兄さんにこれを渡しておきます」
そしてユリアから何か白い石のようなモノを渡される。
「これは?」
「それは『通知石』です。対になっている物で、片方の石に魔力を流すともう片方の石が光るようになってます」
ユリアは対の方を持っているようでもう半分の石を見せてくれる。
「へー、そうなんだ。で、これをどうしろと?」
それを渡された意味があまりわからなかったのだが……。
「つまり、それが光ったらすぐに王都のこの城の前まで来てください」
「……は?」
ユリアの返答に対して声が詰まった。
いや、ユリアの言葉に理解が追い付かなかったのだが……。
「はい。すぐに来てください。リンディンからこのセンリスクまでは馬車で1時間で来れますよね?」
「来れるけど……まじで?」
意味はわかったのだが……。
えっと、つまり俺は何かあればエミリとユリアに呼ばれる、都合のいい人間という事になったわけか……?
「はい。命が危なかった貴方達をエミリが助けたのですから、これぐらいはして貰わないとですよね?」
そう言われると理由が何であれ断る事は出来ないだろう。俺は素直に頷く。
「……わかった。呼ばれたら1時間ぐらいで来るよ」
「良かったです! 断られると思ってましたから」
嘘つけ。断らないようにしだろ。ユリアめ、策士すぎるわ。
でも、助けられたのは確かだから仕方ない。
「まあ、そんなに簡単に呼びませんから安心してください。用事がある時とエミリに限界が来た時に呼ぶぐらいですかね」
エミリの限界がって……なんの限界なのかわからないけど、そんな事を言われたら快く引き受けるしかないだろう。
この言い方ならエミリが俺達のために犠牲にしたのが割と大変な事なんだとわかるし。
「わかった。助けて貰ったからな、それぐらいならするよ」
「本当は私もエミリもお兄さんに助けて貰ってますから、お互い様なんですけどね。エミリを少し助けてくれれば嬉しいです」
そう言ってエミリが笑う。
そんな笑顔は反則だわ。
「じゃあこれが光ったら来るってことで。いつでも呼んでくれ」
「はい。ありがとうございます」
また笑顔を見せるユリア。
自分の事ではなくエミリの事で喜ぶ顔。
この笑顔を見るとグレイバルトの城に行く前の時を思い出す。ユリアは何と言うかエミリの事ばかり考えている様に感じる。
今回も自分達がではなくてエミリを中心に考えている様だった。
……まあいいか、俺がそこまで考える事でもないか。
「お兄さん、どうかしましたか?」
「いいや、別になんでもないよ。少し考えてただけ……」
その言葉を言った時、ふとあの約束が頭をよぎった。
「あっ、そうそう。思い出したんだけど、グレイバルトの報酬の件でユリアとのあの約束なんだけど……」
「あっ! そう言えば、早く戻って来いと言われてたのでした!」
「え? ユリア……?」
慌ただしくお辞儀をするユリア。
「すみませんお兄さん。今日はこれで! では、よろしくお願いしますね!」
「あっ……えっ、うん……」
俺の話を切るようにそう言ったユリアは足早に戻って行った。
こんな意味深なタイミングで思い出すとは、避けているのかもしれない……のか?
まあいい。俺は寛容なのだ。相手がいいと言うまで待ってやろう。別にユリアがいなくなるわけでは無いからな。
そんな事を思いながら走っていくユリアの背中を見ていた。
「スノハラ残念じゃったな?」
「おまっ!? このタイミングでそれ言う!?」
アルデに突っ込まれるのは慣れるしかないのだろうか。
◇
「じゃあアルデ、ティオル、今日も頼むわ!」
「了解なのじゃ!」
「ああ、任せろ!」
雲一つのない快晴の気分がいい朝。
もうそろそろ人通りが多くなってくるだろう午前の中ごろ。
店の準備が終わり今から串カツを売り始めようと気合を入れ、アルデとティオルが自分の定位置に移動する。
しかし、本当に惜しいことをした。あの時に認められてたら王都で出張店舗を出し、今頃売上が爆上がりしている予定だったのに。
あいつらが……特にアルデがやらかしたので今回は王都での出店は見送った。
王様に目をつけられたら面倒臭いしな……。
あとユリア達もあれから音沙汰無い。毎日気にして石はチェックしているのだけど。
王都から戻ってきてからも串カツ生活は安定している。
前から考案していた夜の居酒屋は始動する予定で、この街の人にはほとんど浸透していると言ってもいいだろう。
この街の名物になり始めているぐらいだ。
そろそろ時間をかけてソースの改良を考えてもいいだろう。
まずは醤油だな。
あれが最高の隠し味になるし、旨味が膨れ上がる。
でも作るには麹が必要だったんだよな。熟成魔法とかないのだろうか。
「すみません、肉盛りセット5追加いけますか?」
「大丈夫ですよ。すぐ揚げますね!」
目の前を通った兄ちゃんが注文をする。
こんな朝からでも注文は入ってくる。この調子で頑張りたい。
「串カツ、串カツ、美味しい串カツー! 肉も野菜も何でも揚げてー美味しい串カツー……む? おいスノハラ。石が光っておるぞ?」
「ん? あ、本当だ」
鼻歌を歌っていたアルデに言われて見てみると、机の上に置いていたユリアから渡された石が黄色く光っていた。
渡されてから10日ほど経ったこのタイミングで光ったという事は、ユリアが言っていた通りエミリの限界が来たのだろうか?
「アルデとティオル! ちょっとユリアから呼ばれたから行ってくるわー。後は任してもいいよなー?」
「うむ、大丈夫なのじゃ! 其方が売るよりも売上をだしてやるぞ?」
「ああ、主は構わず行ってくれ。ここは我に任せたらいい!」
「おう! 助かるわ」
この2人も大分板についてきた。
アルデは前々から任せていたし、ティオルも最近は串カツを揚げる事が上手くなってきた。数日なら安心して任せられるぐらいに。
懸念があるとしたら、つまみ食いをよくすることで材料費がかなり多くなってしまう事だが、今回は大目に見てやろう。
あと、俺の売上げを超えれるものなら超えてみたらいい。無理だろうがな。
「じゃあ、仲良くしろよ! 行ってくるわ!」
「仲良くは出来ないのじゃ?」
「仲良くはしないぞ?」
「おーう。そんな感じで頑張れー」
俺の言葉に反論し始めた仲良くしている2人に店を任せて、王都に行くため馬車乗り場に向かった。
ユリアからの呼び出しです。
次回の更新は土曜日です。




