2話 肉を求めてコカトリス
あれからティオルが行動できるようになるまで時間がかかった。
やっぱり面倒臭くなると思った時に止めたらよかったな。
「で、あれがワイバーンだな?」
今は草陰に隠れ、目の前にいるワイバーンを見ている。
「そうだ。我が空から近づくと強大な魔力ですぐに逃げられるからな。今は人間の姿だから魔力は抑えられているが、流石に飛びながら魔力は隠し切れないからな。……そういえば主からはほとんど魔力を感じないな? 初めて見た時もそうだったが、魔法を使われるまで全くその魔力量に気付かなかった。魔力を隠しているのか?」
「ん? 魔力を隠しているとか知らないんだけど? 普通に垂れ流しでいるつもりだったんだけど?」
ティオルの質問に全く知らないと答える。
今までそんな指摘を誰にも言われなかったし、気にもしていなかった。
「……いや、じっくり観察すると強大な魔力が見える。主が言ったとおりに垂れ流れている……。なんだこれは? ドラゴンは魔力に敏感なのだがここまでわからないモノなのか? ここまでの魔力量を気にしなかったらわからないのは……意味が分からないぞ?」
「俺も意味がわからないけど?」
垂れ流れているのに気にならないって、一体なんの能力だろう?
これもマイナス能力なのだろうが……。
まあ、帰ったらアルデに聞いてみよう。教えてくれるか知らないけど。
「まあいいよ。とにかくあのワイバーンは食えるんだよな?」
「ああ、あれは美味いぞ! まず、個体が大きい。成熟したワイバーンほど魔力が多いから美味い! 逆に子供は美味くないわけだ。それでもそこら辺のモンスターよりかは格段に美味いが!」
「へー、そうなのか」
普通は子供の方が肉が柔らかくて美味いと言うけどな。
やっぱり魔力って変な作用を起こしてるよな?
「じゃあ、あれを捕まえて帰るか」
「そうしよう。では我が最高の状態で狩ってこよう! ふふっ! 『アイテムボックス』」
そしてティオルが自分の「アイテムポーチ」ではなく「アイテムボックス」から「煉獄」を出した。
おお、「アイテムボックス」か。これで俺も……使える様になってる!
やっぱり自動で覚える「大賢者」さんは有能である。
しかし、あの剣って元々グレイバルトが持ってたよな?
そうなるとあいつって今何も武器を持っていない状態なんじゃ? 「傲魏」は俺が持ってるし。
……まあいいか、今関係ない事は気にしなくて。
「ふふっ! 一瞬で終わるから主は見ていてくれ」
「おう」
それにしても、さっきからテンションが上がって笑っているこいつの目が、獲物を狙う爬虫類の様になっているのが怖い。
肉を前にお預けを食らっている蛇の様だ。
「では、行ってくる!!」
そう言ってティオルが飛び出る。
「ゴギャァァァ」
それに反応するワイバーンだが遅い。
「ははっ! 遅いわ! ふん!!」
一瞬で間合いを詰められたワイバーンはティオルの「煉獄」により首を一撃で落とされる。
ワイバーンは傷一つなくただその場に首を落として絶命した。
一瞬だった。
「ふっ、こんなものか」
そしてその場には倒れたワイバーンとその返り血を浴びたメイド服を着た赤髪の少女が立っていた。
「どうだ主?」
「一瞬だったな」
「だろう! 鮮度を保つには一瞬で首を落とすのがいい。苦しめると魔力を使うからな。魔力を使わせずに仕留めるのが肝だ! 主も覚えておいて損はない!」
「へー」
俺に教えるように興奮気味に話すティオル。
覚えておいて損はないが、一瞬で仕留められるワイバーンにとってはたまったものではないだろう。
しっかり美味しく頂きますが。
「で、後は血抜きをすれば完璧だ。「アイテムボックス」に入れれば鮮度は気にしなくていいだろう」
そう言う血だらけのメイド姿は中々ホラーである。
そしてティオルはワイバーンの尻尾を掴み飛び上がり、近くにあった高めの木の枝に飛び乗る。
「こんな感じで吊るしておけば数分で血抜きができるが、1番速い方法は尻尾を持って振り回すのだが!」
「あー、それはしなくていいよ」
そんな周りが大惨事になる様な事はしなくていい。
「じゃあ、血抜きが終わったら帰るかー。この大きさなら十分だろ?」
「……いや、我が食べるならこれだけでは節約しても2日ももたない。あと2体ぐらいは狩っておきたい!」
木の上に立ちながら大声で話すティオルはまだまだ狩る気である。
王様に献上する分ならこれで余裕だと思っているが、ティオルが狩る気ならもっと狩ってもいいだろう。
別に俺は何もすることないし、ティオルが狩るなら楽だし。
それに店でワイバーンの肉を特別な日に販売する形にしても面白いかもしれない。
「わかった。じゃあ次のポイントに行くかー」
「ああ! 行こう! 直ぐに行こう!」
そう言ったティオルから何やら嫌な予感がして目をそらす。
すると木から飛び降りる音と主に「ブンっ!」という音が聞こえた。
多分ワイバーンを振り回して血抜きをした音だろう。多分そこは大惨事になっていると思う。
見ないで正解だっただろう。
「やるなって言ったのに……」
「さあ主行くぞ! 少し離れないといないからな」
ワイバーンを「アイテムボックス」にしまいながら歩いていく。
「りょーかい」
俺はそれに続いて歩いていく。
それにしてもティオルの奴、ここに来てから終始テンションが高いな。
そこまで肉を食べたかったのだろうか。
「ふんふふーんっ」
鼻歌まで歌ってるし。
ティオルはここまでワイバーンが美味いと言っているが、俺は今すぐにでも味見したい。
なんとなくだが、こいつの前に肉を置いた瞬間なくなりそうだし。
「……ん? ちょっと待て!」
そんな事を考えて歩いていると、前を歩いていたティオルが手で静止する様に合図する。
「どうした?」
もうワイバーンが見つかったのか?
ティオルが目を逸らさず見ている方向に何かいるのかと俺も覗いてみる。
「これは、珍しいぞ! 見てみろ主! あそこにいるのはコカトリスだ!」
「へー、コカトリス……」
見てみるとそこには巨大な鳥が立っていた。
その見た目は鶏の身体にドラゴンの翼、そして尻尾が蛇になっている想像上のコカトリスそのままだった。
「こんな所にコカトリスが居るとは……脱走してきたのか?」
「……脱走?」
意味深な言葉が出てきたので反射的に繰り返してしまう。
「ん? 知らないのか? コカトリスはドラゴンが飼っている家畜だぞ?」
「……え? まじで?」
知らなかった、初めての情報に驚く。
あの見たものを石に変える力を持つ最強の鳥類……いや蛇だったか? そのコカトリスが家畜だったとは……。
「ああ。あれは大型の鳥のモンスターと蛇のモンスターとワイバーンを掛け合わせた家畜だ」
まさかの品種改良だった。
「……ドラゴンも家畜を育てているとは知らなかったわ。それが一番の驚きなんだけど……」
「そうか? そこまで驚くことはないだろう? 人間も畜産をするだろう。どうしてドラゴンがしていたら驚く?」
そんなの常識だろ? みたいな事を言われても俺にとっては初耳でしかない。
俺の今までの異世界常識が変わっていく。
「……わかったよ。……でも思ったんだが、あの翼ってワイバーンじゃなくてドラゴンぽくないか?」
「どう見てもワイバーンだと思うが? ほら見てみろ、翼に少し爪があるだろ? あの丸々太った体で飛ぶには普通のワイバーンの翼では飛べないからな。飛ぶのに特化したから変化している」
そう言われて見てみるとドラゴンの翼とは少し違う様に見えた。
「元々軍用生物として品種改良したみたいだが、食ってみたら美味かった! そこから家畜に変わった。まあ、我らドラゴンが戦った方が強いからな、別に戦力は要らなかったわけだ」
「へー」
また俺の常識に追加された。
そりゃ、最強種のドラゴンだから戦力は要らないよな。
「っ!? 待て! もう一体来たぞ! まさか番いか!」
俺達とは逆方向の茂みからもう一体同じ見た目のモンスターが向かってくる。見た目は同じなので番いなのか兄弟なのか俺にはわからない。
「よし! あれを狩って帰ろう!」
しかしティオルはとても興奮しながら目を輝かせている。
「いいけど。家畜って言うからにはやっぱり美味いんだよな?」
「当たり前だ! あの上質な肉質は我らドラゴンが日々研究した品種改良の最高峰だ! 美味くない訳がないだろう! それに雄と雌では肉質が違い両方美味い!」
「おぉ、そうか……」
饒舌に語るティオルの圧が凄くて一歩引いてしまう。
「こいつも我が一瞬で狩って来る! 主はそこで見ていてくれ!」
そう言って「煉獄」を持ったティオルが飛び出して行った。
まあ、ティオルに任せよう。
「いただきます!!」
「「グゲェェェェッ……」」
コカトリスは飛び出したティオルを見つけたが、その瞬間2体とも狩られてしまった。
って、「いただきます」って確実に食い物としか見てなかったんだな。
「よし! じゃあ帰ろう! 主!」
両手に持ったコカトリスを引きずって、ティオルが満面の笑みでこっちに向かってくる。満足そうで何よりである。
「おう、帰ろうか。満足そうだしな」
「ここまで収穫が良いと思わなかった! 我は満足だ!」
初めて見た満面の笑みだわ。こんなに肉が好きとは思わなかった。
これからはティオルに肉を買って来て貰うんじゃなくて、狩って来て貰った方がいいな。
安上がりだし、美味いし。
そしてドラゴンに戻ったティオルに乗って街に帰った。
でも終始「食うなよ?」と言っていたからやっぱりやり過ぎた感はあったと思う。
少し反省しよう。
コカトリスって品種改良だったんですね……。
次回の更新は明後日、金曜日のいつも通りの時間です。




