3話 目の前に魔王
「知らない天井だ……」
……全く見覚えがないんだけど。
ある日目が覚めたら真っ白な空間……ではなかった。今回は白くはない、どちらと言えば黒い。薄暗い感じだ。
しかもまた大の字で寝ている、あのジジィの時と同じようなシチュエーションだ。
だったら気になることは1つしかない。
俺は恐る恐る体を見て、
「……着ていない、だと……」
案の定、服を着ていなかった……。
「……まじか? いや待って、普通に考えてやばいだろこれ? ここ部屋の中だし……見たところ人がいないからいいけど。外だったら大惨事だろ!」
さっきはあくまでも転生前の空間だと思っていたから冷静だったが、今回は洒落にならない。
というか、全裸で大の字で寝てるとか意味わからん!
「あれか、あのクソジジィの最後の嫌がらせか? 能力もあれだよ、マイナスカード投げつけてきやがったし。どうするんだよこれ……」
俺の周りには転送前に門に持って入ったはずのカードの束はなかった。
お約束なら俺の中に入っているんだと思うが。
投げつけられた「流動体攻防無効」もあるって事が不安しかない。
「……はぁ、無いものは無い、なった事は仕方ない。あきらめて今の状況を考えるか……」
服を着ていないことは早々に諦める。それよりも今の状況把握の方が大切だ。その後に能力を確認するってことで。
そう思い、体を起こしながら周りの状況を把握すると、
「おお……普通に部屋だ」
今回はしっかりと情報があった。
まず、前方には人が同時に5人は通れるほどの大きな扉があり、豪華な装飾がしてある。
そこから順に見渡すと、部屋の中は広く数十人入っても余裕だろう。特に大したものが置いてあるわけではないが、なぜか壁の装飾がすごい。オカルトの様な雰囲気でありながら豪華なのだが、色彩がもう少し明るくしたらいいのにと思うほど暗い。
というか、この部屋全体が薄暗い。
「何の部屋なんだろ……ん?」
立ち上がるために床に手を置いた時、地面に何か線のようなものが光っていた。立ち上がり少し移動しながら、光る線をなぞる様に見る。
「これ、たぶん魔法陣だよな」
一旦壁付近まで歩き見渡す。
その光る線は漫画やアニメで見たことがある魔法陣に似ている。薄暗い部屋に光る線が思っているより幻想的で、ほぅと息が洩れるほどだ。
全体を見ると俺が大の字で寝ていた所が魔法陣の中心だったようだ。
ということは、あの門からこの召喚魔法陣に転移させられたという事になるのか。
「……ん?」
そう思って見ていると、元いた場所に何かが置いてあった。
「これって……」
近づきその何かに触れた時、光っていた魔法陣が消える。
「っ!!」
魔法陣が消えた事にも驚いたが、それよりもこれは……!
「ふ、服だ!! あるよ、服があるよ! おお、マジで助かる! さすがに服がないとか考えられないし……おっ! 割と異世界らしいな! ちょっとテンション上がる!」
念願の服が置いてあった。
早速その服を着る。初心冒険者が着るような服が、上から下まで全部そろっており、違和感がないほど自分のサイズにピッタリである。
これで一端の冒険者に見えるだろう。
何度も頭の中で妄想していた雰囲気にテンションが上がる。
後は強いて言えば、武器があれば完璧だ。
でも無いなら無いで、
「魔法がある! ……って言ってもどんな魔法があるか知らないよな」
異世界と言ったら剣と魔法だ。
あのクソジジィが言ってた通りに魔王がいる世界なら無いわけ無いだろう。
試しによくあるファイアと唱えてみる……が、何も出ない。発音が違うのだろうか。そう思い、火球と唱えてみるが、何も起きない。続けて、知っている魔法っぽい言葉をを色々と叫んでみるが、うんともすんとも言わない。
「魔法が使えない。チートじゃなかったのか……?」
何を試しても発動しない魔法に不安が募る。
やはり大量に持ってきたカードは全て使えないのだろうか。あのカードの束は意味はなかったと……。
つまり俺の力になるのは一つだけってことか……。そうだったらどの能力が俺のものになっているのか。
どうする……? 今の時点で、武器もない、魔法も使えない。どうしたら俺がこの世界で活躍できるのか……。
「……いや、ちょっと待て、春原勇!」
自分で自分の名前を呼び、もう一度部屋を見渡す。
「この部屋、高級だぜ。魔法陣もあった。その中心に俺はいた。だったら……ここが召喚の間じゃないのか?」
口に出してみるとそんな感じがしてきた。
趣味が悪く薄暗いけど高級そうな趣に、もう消えてしまったが床に書いてあった魔法陣。それに人が大量に通れそうな扉。
考えれば考えるだけ……当りだ。
ここは召喚の間で正解だ。
それにあの爺が言うには俺はこの世界を救うための救世主として召喚されたんじゃないのか!
「って事は……! 俺って勇者なんじゃね! うぉ! まじで!? やっぱ異世界転生じゃん! 王道じゃん!」
チート能力が宿ったのかどうかと言われたらはっきりわからないけど、勇者として召喚されたのならテンションが上がる。
チートじゃなくても1つでも能力があれば伸びしろはあるんだろうし。初期ステータスで召喚されるってあのジジィも言っていたしな。
もし勇者じゃなくても勇者候補なら、手厚く歓迎されるんじゃないのか? だったら、今のところはチートじゃなくても後々チートになる可能性がある!
おっ! 俺の主人公生活見えてきたかもしれない!
「つまり、服が置いてあったってことはそういうことなんだろな」
例えば、大体の召喚された勇者が大抵全裸だから、勇者様も見られたくないだろうと。召喚される近くに服を置いといて、着替えたらその扉から出てきてくれと言うことなんだろう。
そう考えたら、服まで一緒に転生するより裸、つまり俺自身のみで転生する方が納得できる。
繋がったな!
「ふんふふんっ!」
そんなことを思いながら、るんるん気分で扉の前までスキップする。
楽しそうな異世界生活が始まりそうだ。
しかし、扉に手をかける前に立ち止まる。
「待て、どんな感じで扉から出る? このままるんるん気分で出たら、チャラい勇者として見られないか? 寡黙にかっこよく出るべきじゃ……いや、俺様オーラを出して全てを跪かせるような感じだろうか?」
うーん、悩むな……。
「……いや、やっぱり勇者らしく堂々としながらも皆に愛されるような感じだ。そう、ありがとう的な感じで出よう。そうしよう!」
召喚とこの状況が嬉しすぎて俺の思考がおかしくなっているかもしれない。
しかし、これは俺の新しい人生の一歩なのだ! 登場シーンは重要な事である。
そして扉の大きな取っ手に手をかける。
ふぅ……、少し緊張してきた。落ち着け俺。この状態で出たら笑いものだぞ。深呼吸だ。大きく吸って大きく息を吐く。
よし、行こう!
そして、異世界生活第一歩の大きな扉をゆっくりと思っているより重い扉を押し、開けきる。
そして、
「待たせたようだな! 俺が召喚されし、勇者である!」
低く、かっこよく、響く声で! その言葉と同時にカッ! と目を見開いた。
よし、決まったぁ!
心の中でガッツポーズをして、目の前を……、
「……へ?」
……固まった。目を見開きその光景を呆然と見てしまう。
「なんだこれ……」
その光景は想像していたものとは違い……いや、まったく程遠い、天と地ほどの差の光景だった。
一言で言うと惨状。人らしきモノと化け物が戦い。魔法らしきモノが飛び、人が飛び、化け物が飛び、瓦礫が飛んでいた。
初見では理解できない、目が点になる程の衝撃だった。
「……ん? 誰だ貴様は?」
俺が呆然とその光景を見ていた時、俺に向かって地面がうなるような声が響く。
「……っ!!」
その声に一瞬体が強張り、声の方を向く。
そこには人間ではない程の大きさの何かが巨大な椅子に座っていた。
「魔王様。この人間、勇者と名乗って登場しましたが?」
……えっ、魔王?
巨大な何かの隣に立っていたローブを羽織って顔が見えない人物が発した、その単語に意識が戻る。
「ふっ、ならこいつらの援軍だろう。一人だけというのはよっぽどの自信家か? 尚且つ、このタイミングだ。仲間がピンチの時に現れるとは、よほどの目立ちたがりか何も考えてないかだな。吾輩は好きであるがな」
魔王と呼ばれたそいつが俺を見て笑う。
どういう事だ? 何がどうなって、こんな状態になってる?
待て待て! 状況を、まずは状況を整理しよう。
とにかく、えっと、目の前に座っているのが……魔王!? この3メートル以上はあるような……漆黒で……うわ! 周りに大量のモンスターがいるんだけど!
「しかし此奴、この我輩の気に当てられても顔色ひとつ変えんとはな」
それに仲間がピンチって……あっ、ちゃんと見てみると満身創痍って感じで……っ! 腕が片方ない人がすごい顔で俺を見てるんだけど!
えっ? やばい、ちょっと待って! ついていけない! 情報多がすぎる!
「しかし魔王様、こいつレベルが1なのですが……」
「ふっ、ジェミラもまだまだだな。見た目も新人冒険者の恰好で、武器も持っておらん。これは吾輩達を油断させるためであろう。そうでなければ、ここまで来れぬしな。そしてお前でも見抜けぬほどの「偽装」の持ち主は間違いない。心して掛かれ」
「なるほど。承知いたしました」
やばいよ、わからないよ、どういうこと? あのジジィのとこから転移したら魔王がいる部屋の前の部屋だったってこと?
待って、待って、待って!? じゃあ俺って早速魔王と戦わないといけないって事か!? それに少し聞こえたけど、あの側近みたいなのが言ってたレベル1って……いやいや、無理だろ! 戦うなんて無理すぎるだろ! 終わった……俺の異世界生活ここで終わったよ……。なんか、レベルが違いすぎて魔王を見ても恐怖とか感じないし。
わけわかんねぇよ!!
「小僧! 私に見抜けない「偽装」とは興味深い。私のオリジナルの魔法でお前を調べつくしてやろう! 『精神支配』!」
「……んっ?」
俺の中で思考がぐるぐる回っている間に、ローブを被ってはっきりわからないが、魔王の側近が魔法を使ってきたみたいだ。……しかし何も起こらない。
その直後俺の頭の中に「レジストしました」と響く。
……レジスト? したのか……。
確か「暗黒王」の一回きりの能力って、状態異常をレジストするだった気がする……。
……っ!! 待てよ? そうなると、俺にはしっかりカードの能力が宿っているってことか? 少なくとも「暗黒王」の能力は使えたわけだ! もしかしたら他の能力も使えるかもしれないぞ!
そう思うと少し心に余裕ができた。
「なに……!? 私の「精神支配」がレジストされただと……? 魔王様! こいつ中々の者です!」
「だから言ったではないか。油断はするなよと。お主が負けるとは思わぬが、誰しも突然死ぬことがあるから気をつけろ」
「おっしゃる通りで。承知いたしました。では、全力で、魔王軍宰相ジェミラの力を見せてやりましょう。お前たち、私が極大魔法を詠唱する間こいつの相手をして差し上げなさい!」
「「「うぉぉぉぉ!」」」
その号令と共に周りにいた大量のモンスターが向かって来る。
試してみるか。もしかしたら「魔導王」の力も一度だけど使えるかもしれない。魔力なしで1回だけって書いてあったし。一撃で倒せたらそれで御の字だ。使えたらだけど……。えーっと……。
「ふん、何を余所見しておる。ジェミラ様がああ仰っているから戦うが、お前からは何も感じん! ワレが一瞬で踏みつぶしてやろ……」
「『超炎熱砲』!」
そう右手を前に掲げて唱えた瞬間……。
半端ない熱量で直径5メートルほどの光線が、目の前を全て消滅させていた。




