16話 ティオルリーゼ
「本当か!!」
「ぬなっ……!?」
アルデの叫び声が聞こえた。
「スノハラ!? 何を言っておるのじゃ!! 妾はあれ程嫌と言ったであろう!? こんなトカゲと一緒になど……」
「うるさいぞ幼女! 貴様は黙っていれば良い。主がいいと言ったのだ! 我はとてつもなく嬉しいぞ!」
「こ、このぉぉトカゲがぁぁぁ!」
アルデがドラゴンメイドに煽られ額に青筋を立てる。そしてそのまま襲いかかる準備をする。
たぶん魔王を辞めたばかりのドラゴンメイドならアルデに負けるだろう。しかし、そうなれば俺の背中に乗ると言う夢が無くなってしまう。
つまり俺はアルデを止めなければならない。
「そこまで妾を侮辱するとは、やってやろうではないか! このトカゲががががががぁぁっ!? ……スノハラっ!?」
「『生命吸収』! すまんアルデ。俺は俺の欲望のままに生きるんだ!」
「す、スノハラ……?」
「えっ? お兄さん?」
「……は? 主?」
その発言をした事で変な空気になった。
アルデは倒れながら、ユリアはじと目で、ドラゴンメイドはばつが悪そうな顔で俺を見ていた。
「あ、主。気持ちは嬉しいのだが。我は主の強さは求めているが、別に番いとしては興味がないのだが。その、すまない!」
「いや、違うから!? なんで俺がお前の事好きみたいになってるの!? いや、振られてるの!? それに見た目人間で中身ドラゴンには興味ないから!?」
「そうか、だったらいいが」
「あと、ユリアもそんな目で見ないで!? 俺は普通だからな!? ノーマルだから! 普通に人間の若い子が好きだから!」
「あっ、はい……」
ユリアが俺から目を晒す。
なぜだ!? なんでそんな勘違いが起こるんだよ!?
メイド服で人間の姿が美人なだけで中身がバトルジャンキードラゴンなんで全く興味がないから!
「俺はただドラゴンの背中に乗りたいだけだからな! かっこいいだろドラゴンって! 背中に乗ったらかなり楽しいと思うぞ! アルデだって乗りたいだろ!?」
「……そんな事は考えたことが無かったのじゃ」
「嘘だって! 絶対ドラゴンに会ったら乗りたいって思うって!」
「……それは多分スノハラだけじゃろう」
「そうですね。まずドラゴンに出会って生きて帰れる事自体がありえない事なので」
まじか! ユリアとアルデに変な目で見られているし、さっきとは違う目線もまた痛い。
しかしこの空気をどうしようかと考えていたところ、助け船を出してくれたのはユリアだった。
「それは置いておいて。お兄さんいい判断だと思いますよ」
「なっ!? ユリアまで何を言うのじゃ!?」
アルデがユリアの言動に驚く。
別に少ししか力を吸い取ってないからもう回復しているのか、体全身を使って嫌さを表しているアルデ。
元気だな。
「アルデちゃん。これはこの国にとっても良い方向性に進むと思うの」
「国とか関係ないのじゃ! 妾が嫌なのじゃ!」
「何を言ってるんだ、幼女! 主もその娘も良いと言っているのだ、駄々をこねるな」
「駄々をこねているのは貴様じゃろ! くそっ! この体でなければ一瞬で消滅させてやるのじゃがっ!」
「ふんっ! やれるものならやってみろ、幼女!」
「幼女と言うでない、トカゲが!」
これぞ犬猿の仲である。
しかし、アルデを説得しないといけない。俺の目的のために。
「アルデちゃん。ちょっと私とあっちで話そうか」
俺がどう説得しようと考えていたらユリアがアルデに声をかけた。
「ん? なんじゃ? どれだけ説得しても妾は嫌じゃぞ!」
「うん、わかってるよ。お菓子あげるので行こっか?」
「む? ……仕方がない」
そしてお菓子に釣られたアルデとユリアが少し離れていく。
ユリアがここまで積極的に助けてくれるとは。
まあ、こいつを野放しにしたら大変な事になるのはわかっていることだし。
ちなみに俺はここまで会話をしてしまっているせいか、もう殺すイメージが無くなってしまっている。
「主……?」
「お前は少し待ってろ」
さて、ユリアが説得できるのか。
ちなみにグレイバルトとジェミラは空気である。
「お兄さんお待たせしました」
「……むう、仕方ない」
ほんの数分でアルデとユリアが戻ってくる。
ユリアは満足そうに、アルデは腑に落ちない様な顔をしながらも納得した様に。
「で、アルデは納得したのか?」
「納得はしておらんが、仕方ないのじゃ。これはスノハラの為ではない。ユリアが言うからじゃ。わかったな!」
「わかってるわかってる」
「アルデちゃんは良い子ですね」
そうユリアがアルデをあやす様に言う。
なんか、いつの間にかユリアとアルデが仲良くなっている。
と言うか、アルデの方がユリアに懐いている。
ここ数日一緒に居たわけだし、いつもユリアからお菓子を貰っていたのも関係するだろう。
でも、アルデの説得はかなりのファインプレーである。
「はい、アルデちゃん。お菓子どうぞ」
「うむ、ユリアがくれるお菓子はかなりの美味である」
餌付けされた元魔王とは……。
「……って事で、ドラゴンメイド! お前は晴れて俺のアッシー君だ! いや、アッシーちゃんだ! 飛べない俺を宇宙まで連れて行ってくれ!」
ドラゴンの背中に乗れることを楽しみにしている俺はテンションが上がってしまっている。
「アッシーちゃんとは何かわからないが、主が望むなら背中に乗せよう」
そう言って満足そうに頷くドラゴンメイド。
「あと、主の許可が下りたのは娘……ユリアと言ったな? ユリア嬢、其方のおかげだ、恩にきる。人間として侮っていたが主に物申せる立場だったとは驚いた」
「いえ、私は最善を尽くすだけですから」
ユリアの株が上昇している。
それと、ドラゴンメイドが魔王を辞めた事によって顔色が良くなった事に安心だ。
と言うか、普通に話せる様になってるし。割とユリアって肝が座っているよな。
「さて、色々とあったがこれで落ち着いたであろう。スノハラ、そろそろ帰るのじゃ」
お菓子を口に頬張りながら帰りを促す幼女。
「そうだな。なあドラゴンメイド。お前今すぐ飛べるのか?」
「……すまないがまだ魔力が回復していない。ドラゴンの姿よりこの姿の方が必要なエネルギが少ないからまだこのままなのだ。あと、我はティオルリーゼと言う名前があるのだが」
「ティオルリーゼね了解。じゃあ残念だな。どうするか……ん? 何か忘れている気もするが、まあいいか?」
何か忘れていた様な気がするが、気にならないぐらいな事なので放っておこう。
「そうですね。帰りま……あっ!! 忘れているって、ケンジ様達が来ていないじゃないですか!?」
「あっ……。それだ」
忘れていた。最初は覚えていたが、全く頭に無かった。
しかしまだここに来ていないって事は……どこにいるんだろうか?
「おい、グレイバルト。この城ってモンスターとかいる感じか?」
その場で座ってジェミラと寛いでいた初老のおっさんに声をかける。
「ん? ああ。とっておきのモンスターをこの部屋の前に置いているぞ? オレとお前の戦いの邪魔を誰にもさせない為にな!」
「そうか」
まあ、普通魔王と戦う前の中ボスは強いと決まっている。
大体魔王の幹部とかだな。前はここにモンスターがいっぱいいたけど。
「ちなみにどんなモンスターだ?」
「ベヒモスだ」
「……っ!?」
「捕まえるのに苦労したのだ。中々強くてな、手加減するのが難しかったからな。四肢を切り落として運んだな。回復させるのも苦労したが」
「おお、それは強そうだな? って、ユリアどうした?」
ユリアの引きつる声が聞こえた。そして顔が青ざめていく。
「お、お兄さん! 早く、早く助けに行きましょう!」
ユリアがかなり焦っている。
「どうした? そんなに強いのか?」
「強いも何も! ベヒモスはA級モンスターですよ! それもS級に近いモンスターで、大抵はS級パーティで勝てるモンスターなんです! 流石にケンジ様でも大変な筈です! 助太刀しないと……!」
「そうか……。まあ、そこまでユリアが言うなら行くか?」
また健治達を助ける事になる。やっぱり俺の予想通り、健治の面倒を見ないといけないのだ。
そして俺とユリアは健治達を助けに行った。
ティオルリーゼが仲間になりました。下僕と言ってもそんな事は何も考えてないスノハラです。とにかくドラゴンの背中に乗りたい!




