10話 グレイバルト
ユリアはそう言った……「剣聖」と。
……はっ? 剣聖?
「剣聖」って俺が持ってる能力で、剣士の最上の職業。この世界には今はいないってギルドの受付のお姉さんが言ってた……。
能力と職業の意味が分からなくなってきた……。
「懐かしい名前だな。100年以上前に捨てた名前だ。今はグレイバルトだ」
と、その元魔王、もといグレイバルトは呟く。
「……本当に、剣聖なのですか……?」
「剣聖か……そんな時代もあったが、今は魔王だな」
「いや、貴様はもう元魔王じゃ」
「お師匠様……そうでした」
元魔王という事をアルデに突っ込まれて謝るグレイバルト。
何というかこの光景が、孫に謝るお爺ちゃんって感じがする。元魔王と元魔王なのだけど……。
「だが、そんな過去の話はいい。今は……っん、なんだ? 全く力が入らんぞ?」
「ま、魔王様?」
そう言って元魔王はその場に崩れる様に座り込む。
何というかこのパターンもアルデと同じなのか。
「魔王の力を解放させる魔王玉を抜き取り壊したのじゃ、すぐに力は回復せんじゃろう。そう考えると妾の時も同じじゃったな」
「なるほど、そういう事ですか。では少し休むとしましょう」
そう言って地べたに座る初老のおっさん。
なんだかピクニックに来た雰囲気になった。
「で、小僧。魔王を辞めてどうするのじゃ? 人間より魔王の方が強いのはわかったじゃろ?」
「そうですね。流石に、考えるとそうだと理解はしました。今まで剣の事しか考えず戦う事に没頭していたので、考えることはジェミラに任していましたし。しかし、今考えると魔王になる方が強くなれるならもう一度魔王になろうと思います」
「そうか、魔王に戻るか」
また魔王になるのか。
どうしたら魔王になれるかはわからないけど、ユリアも不安な顔で見ているし、魔法の準備はしておこう。
「では、私もお供いたしましょう」
「ジェミラ、オレはもう魔王ではないがいいのか?」
「私は魔王だから貴方について来たわけではなく、貴方だからついて来たのです。私の忠誠は魔王様……いえ、グレイバルト様に!」
「そうか……ならついてくるがいい!」
「はっ!」
なんかいい感じにまとまろうとしているんだけど。
何この茶番は?
「なら、これからお前たちは他の魔王から魔王玉を奪いに行くわけじゃな?」
「アルデミス様……そうなります。いつか発生する魔王玉を見つけるより、今いる魔王を倒した方が早いですから」
「そうだな。なら、あいつの所に行くのが早いか?」
「そうですね。まだ魔王様の魔力も体力も戻っていないので少し経ってからになりますが」
ほう。こいつらは他の魔王を倒しに行くわけか。
「お兄さん、お兄さん! この2人放って置いていいんですか? また魔王に戻ると言ってますよ!」
ユリアがその言葉を聞いて俺の肩を揺さぶる。
「みたいだな。でも、こいつらが他の魔王を倒しに行く分には魔王が減るからいいんじゃないか? もしこいつがまた魔王になったとしても俺が倒せばいいんだし。他の魔王を探すのも面倒だしさ?」
「そ、そうかもしれませんが……。お兄さんがまた倒せるかわからないじゃないですか……?」
「まあ、大丈夫だろ。今のところ負ける要素はないし。スライムを繰り出されるか、魔法も剣技も全く使えない状態にされない限りは倒せると思うしな。そんな事滅多にないだろ?」
俺は小声でスライムって言葉がユリアにしか聞こえない様に話す。
「そうですか……そこまでお兄さんが言うなら信じてみましょうか……」
ユリアの性格上まだ納得はしないと思うが、自分ではこの場をどうする事もできないので渋々了承したのだろう。
しかし、これで一応一件落着になるのだろうか?
魔王が魔王じゃ無くなったし、この場で倒せる魔王はいなくなったわけだ。
ユリアも別にこいつを倒せとは言わなかったし。
今はこの状況に戸惑ってるってもあるかもしれないけど。俺だってグレイバルトには面食らったしな。
とにかく大丈夫なら帰ろうと思う。
なにか忘れている気もするが。
「じゃあ、アルデ、ユリア、帰るか」
まだグレイバルト達と話しているアルデにも声をかける。
「そうじゃな、帰るか。串カツも食べたいからの」
「……そうですね。魔王は、倒したわけではありませんが、魔王玉を壊した事で魔王はいなくなりましたから。今頃王都では魔王の消失の話が出ているでしょうし」
「なにそれ? そんなのわかる魔道具があるのか?」
「そうですね。あまり言う事ができない事ですが、一応自国の魔王の魔力はわかる様になってます。方法は教えられませんが」
「そうなんだ。じゃあ俺の強大な魔力はわかるんじゃね?」
そんな魔道具があるなら俺の魔力もわかってるかもしれない。
「一応魔王だけに反応させているので、それはわからないですね」
「そっか」
残念だ。俺の魔力もわかれば直ぐに俺が強いってわかるはずなのにな。
「じゃあ、帰るか」
魔王の魔力の消失って言っていたし、これで魔王も一旦倒した事になるわけだ。
ユリアも普通に立ってられている。
俺は何もしていないんだけど。
ここにいても時間の無駄だ。
帰って串カツ屋を再開させないと。
「うむ、戻るのじゃ。貴様ら邪魔したな!」
「いえ、お師匠様。多分1ヶ月程はこの城に滞在するのでまた暇な時にでも来てください」
「はい、アルデミス様。またのお越しをお待ちしております」
「うむ。また来るのじゃ!」
そうアルデが別れの言葉を言った時、ふと思い出した様にグレイバルトに話しかける。
「あっ、そうじゃ。ふと思ったのじゃが、この城の結界はどうするのじゃ?」
「結界、ですか?」
「うむ。妾の極大魔法で傷ついて、ボロボロじゃろ? 結界の維持には魔王の力も使っていたら、小僧が魔王を辞めたわけじゃから、魔王城の結界は今はもう消えているはず。まあ、ジェミラがいるから今のところ簡易な結界でも張ればよかろうが」
「そうですね、そうしま……っ!! ……いや、もしかするとそれは遅かったかもしれません……!」
その言葉にジェミラの顔が強張る。
「ん? どうしたジェミラ?」
「魔王様、もしかするとあのドラゴンが来る可能性が……」
え!? ドラゴンって聞こえたんですけど?
「っ!! しまった! そうだ! あのドラゴンが来るのか!! 前に来てから今日で何日経った!?」
「確か……今日で5日目です!!」
「やばいぞ!!」
2人が何かが来ると、焦った様に話し始める。
「ん? どうしたのじゃ?」
「いえ、アルデミス様には関係ない事なのですが……」
「いや、関係なくはない。実はですね、約5日に1回お師匠様が嫌いなあいつがオレに戦いに来るのです。その時期がそろそろなので、もしかするとって事なのですが……」
「……なっ! あいつが来るのか!? 何故それを先に言わんのじゃ!!」
グレイバルトの言葉にアルデが怒りを表す。
「すみません! それにあいつ面倒くさいのですよ。オレ達が戦うと城が毎回半壊……いや、4分の3壊させられるので、結界を強化していたのですが……」
「そんな事はどうでも良いのじゃ! おい、スノハラ! 早くここから出るのじゃ! 帰るぞ!」
グレイバルトの話を途中で切りアルデが俺に向かって声を荒げる。
「どうした慌てて? 帰るけどそんなに急がなくでもいいんじゃないか?」
「いいや、急ぐのじゃ! 早くユリアを担いでここを出るのじゃ!」
「えっ!? アルデちゃん、そこまで急ぐって何が……」
「いいから、急ぐのじゃ! 妾の一番の嫌いな……巨大トカゲがやって来るのじゃ!」
巨大トカゲ? おいおいそれってさっき言ってたドラゴンなんじゃ!?
しかし、アルデが初めて焦る素振りを見せている。
ここまで嫌がっているのはおかしい。言う事は聞いても良さそうだ。
「わかった。そんなに嫌なら早く帰え……」
「……っ!!!!」
「きゃぁぁぁぁっ!?」
帰ろうとした瞬間、激しい爆発音と共に、天井が消えた。
「……来よったか! 遅かったのじゃ!」
その言葉と共に上を見るアルデ。
それに釣られて俺も消えた天井の向こう側、薄暗く曇っている空を見る。
「ん? なんだこの紙みたいな城は! いつもみたいに結界が張ってなかったぞ!」
その声に全員が空を見た。
「あの結界は強力だったから中々楽しめたのだがな」
「やはり来たか」
「このタイミングで……魔王様、この状態ではかなり不利です! どういたしますか!」
そいつを見て、グレイバルトとジェミラが一歩後ずさる。
俺もじっくりと目を凝らす。
あれは、ワイバーンか? いや、この前倒したワイバーンより大きいし、見た目も違う。
ワイバーンは翼と腕が一体化していたけど、こいつはしっかり分かれている。
こ、こいつは……嘘だろ? まさか! もしかすると……!!
「帰りそびれたのじゃ……」
アルデも嫌がる様に一歩後ろに下がる。
「う……うそ……」
ユリアはその場にへたり込む。
本日2回目のへたり込みだ。
「……ど、ドラゴン……」
ユリアが呟いたその言葉に俺はテンションが上がり始める。
「やっぱり、ドラゴンか!!」
そいつは異世界だけではない、空想上の最強と言われている生物。誰もが恐怖する生き物……。
そのドラゴンが深紅を超えた赤黒く光る巨大な身体を巨大な翼を動かし、空中から俺たちを見下ろしていた。
魔王を倒さず、帰ろうとしたらドラゴンが登場しました。アルデはかなり嫌がってます。




