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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第2章「邪龍の魔王」

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9話 魔王である為の



 師匠であるアルデには聞かれたくない様で、アルデと離れた所に俺たちはいる。

 ジェミラはアルデと話しており、ユリアは俺の後ろでじっとしている。


「で、俺に聞きたいことって?」


 こうやって魔王を目の前にして話しを聞こうと思えるのは、俺が強いと再認識したからだろう。

 少し感覚がおかしくなっているのかもしれない。


「お前がお師匠様を倒したのは認める。目の前で戦闘不能にしたのだ、あそこまで出来る人間……いや、生物はいない。そこでだ……」


 改まって「剣魔の魔王」が俺の目を見る。

 そして……。


「魔王よりも人間の方が強いのか?」


「……は?」


 ……その質問に変な声が出てしまった。

 待て、待て。どうしてその質問なんだ?

 質問の意味がわからないのだが?


 えっと、普通に考えると魔王に勝てる人間は少なくて勇者ぐらいだって、ユリアが言ってたよな。

 でも、実際人間である俺はアルデもこいつも倒してる訳だし、そう考えたら人間の方が強いことになるけど。


「そうだな、実際俺がいるんだし、人間の方が強いんじゃね?」


 まあ、俺を基準にしてはいけないが、なんとなく答えてみた。


「そ、そうか……。昔に魔王になれば最強の力が手に入ると言われたからなったのだがな……。お師匠様には人間の時に半殺しにされ、魔王になっても勝ててはいない。お前にも勝てない。今になって限界を感じてしまっている」


「そうか。だったら人間の方がいいんじゃね? 俺も人間だし、多分アルデが人間になったのも何か理由があるんだろ」


「お、お兄さん……?」


 ユリアが俺の袖を引っ張るが「良いの良いの」とアイコンタクトをする。

 アルデが人間になったのは俺が理由なのだが……いや、幼女になった理由はわからないが。

 とにかく適当な事を言ってみる。

 

「なるほど、そうか。人間になったと言う事は、お師匠様も力を求めていたわけか? そうすると、オレも人間になるべきか……」


「そうそう! 人間になれるならなった方がいいぞ? 少なくとも俺レベルにはなれるはずだ!」


 まあ、俺はあのクソ爺から力をもらったからこんな状態になってるが、本当なら勇者でもなかったけど。

 つまり通常なら俺レベルにはならないだろう。


「そうか……なら、オレは人間に戻る事にしよう」


「おー! いいんじゃね? 人間になろーぜ?」


 俺は親指を立てて同意する。


 ……ん? 戻る? 人間に戻るって……?


「では…………ふんっ!」


「なっ……!?」


 魔王が自分の胸に右手を刺した。


「……ごはっ!!」


「きゃぁぁぁっ!」


 唐突な魔王の行動に驚き、声が漏れる。

 な、何してるのこいつ!? 急に自分の胸に右手を差し込んだんだけど!?

 うわっ!? むっちゃ血出てるんだけど!

 グロっ!


「ぐふぅぅっ……確かここのはず……」


「ちょっと待って!? お前……」


「ぬぅぅぅぅ! ……ふんっ!」


「うわぁ!?」


「きゃぁぁぁっ!」


 声と共に右手が胸から引き抜かれる。その右手には……黒い球体が握られてる。

 よかった……グロテスクな内臓でなくて。

 ……って、ちょっとそれ、見たことあるんだけど……。


「ぐっ、はあ、はあ、はあ……」


「お、お前何してんの……!?」


「……ん? 人間に戻るために魔王玉を抜いたのだが……?」


「……はあ!?」


 言ってる意味がわからない。魔王玉を抜いたら人間になる!?

 それよりも俺の言葉を信じて即行動に移すか普通!?


「あとはこれを……」


「ま、魔王様! 何事ですか……って!?」


「ユリアとスノハラの叫び声が聞こえたのじゃが……っ!? 貴様何を……っ!!」


「ふんっ!!」


 アルデとジェミラが来た瞬間、「剣魔の魔王」グレイバルトは魔王玉を握り潰した。

 見事に砕け散った魔王玉が粉となりぱらぱらと地面に落ちる。


「……ん? どうしたのですかお師匠様?」


「な、何をしておるのじゃぁぁぁ!!!」


 キョトンとした顔をする魔王に対して、アルデの叫び声が城にこだました。


「ま、魔王様!? い、今……何を、潰したのですか……?」


「ん? 魔王玉だが?」


「「……は?」」


 魔王の言葉に2人が固まった。


「いや、こいつが人間の方が強いって言ったのだ。実際こいつは最強だし、人間になったお師匠様も強かったわけだ。ならオレも人間に戻れば強くなれるわけだと!」


「あ、アホか貴様はぁぁぁぁ!!」


 その考えが阿保すぎたのかアルデが魔王の頭を思いっきり叩いた。


「な、なんですか! お師匠様っ!」


「人間より魔王の方が強いに決まっておるだろう! お前にもわかるように簡単に言えば、寿命がある人間より、寿命がない魔王の方が技を研鑽する時間があるじゃろ! 他にもあるがそれだけでもアホでも考えたらわかることじゃぞ!」


「なっ!? そういえば……。しかしこいつは……」


「そいつは例外じゃ! 貴様は魔王になってから浅いからわからんじゃろうが、妾が出会った生物の中で一番強いぞ! 少なくとも歴代勇者の中で断突で軍を抜いておる!!」


「……そ、そこまで!? お、お前! どう言う事だ!?」


 俺の肩を掴む勢いで迫ってくる魔王を俺は避けながら言う。


「いや、俺も自分が強いから人間の方が強いのかなーって」


「お、お前……」


 俺の事を凄い目で見てくる魔王から逃げるように目を逸らす。言い訳も適当に流す。


「ていうか、魔王が人間になった方がこの世界的にはいい事だしさ」


 その瞬間魔王の顔色が悪くなり、


「な、なんて事を、してしまったのだ……オレは……」


 その場で崩れ落ちる魔王。

 いや、こいつもこれで元魔王になるのか。


「ま、魔王様……。アルデミス様、今から戻る手段は……」


「もう遅いのじゃ……もうすぐにでも……」


「ぐふぅっ……!?」


「……ほら来たのじゃ」


 剣魔の元魔王が胸を押さえ苦しみだす。

 2メートルを超える巨大が、苦しみだす姿はなんとも怖い。


「ぐおぉぁぁぁぁっ!」


 そして白く光り始める。

 ついでに天に黒い何かが登っていく。


 あっ……俺、この光景見たことあるわ。

 あれだ、アルデと同じだ。

 ……まさか幼くなるとなないよな?


「ぐぉぉぉぉ……」


 叫ぶ声も徐々に小さくなり、元魔王を包んでいる光も弱くなる。そして……。


「……ぐっ、はあ、はあ、はあ……」


 苦しみから解放された様に元魔王が肩で息をしていた。


「はぁ……人間になってしまったのじゃ。アホじゃこいつは……」


「……まじか」


 アルデが呆れた声を出した横で俺は元魔王を見る。

 目の前に立っていたのは180センチ程の背丈で白髪というか銀髪を後ろで一つに結んだ、いかにも剣の達人と言える様なダンディーな初老のおっさんだった。


「ま、魔王様……?」


「はあ、はあ……元に戻ったか……」


 自分の手や身体を見て触り、納得した顔で言葉を呟く。

 しかし、さっきまでの魔王とは全く違う。

 体が大きいからか大雑把な動きが多かったのだが、今はその行動一つ一つが洗礼されていて、達人という雰囲気が漂っている。

 というか、魔王は魔王を辞めたら人間になるのか?

 いや、こいつは元々人間だったって言ってたよな。


「……う、嘘……!?」


 後ろでユリアが初老のおっさんを見て目を見開いている。


「ん? どうしたユリア?」


「……こ、この方はもしかして……いや、そんなわけは……」


「なんだ、見たことあるとか?」


 何かあり得ないものでも見たかの様な驚きの声を上げていた。、


「いいえ、見たことはありませんが……この見た目、この雰囲気、伝説として語り継がれている人物にそっくりで……」


「なんだ、そんなに大層な奴がいるのか?」


「かの国の王であり、この世界の人間で最も強いと言われていた男。100年程前に亡くなった人物……」


 ユリアから生唾を飲み込む音が聞こえた。


「「剣聖」リルグレイハルト・バルシエルです」



 


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