2話 異世界と神様②
「えっと、これはなんでしょうか?」
受け取ったカードの1番上のカードを見せる。
「「剣豪」か? 見たらわかるじゃろ? 剣のスペシャリストじゃ。ちなみにその上位には「剣聖」がある。ほら、次のカードじゃ」
神様に促される通りに2枚目も見る。
へー、俺に剣の才能なんてあったんだな。
「異世界転生者なら誰でもなれる要素はあるわけじゃが」
なんだよ特別じゃないのかよ。
その言葉にがっかりしながらも次々とカードを見ていく。
「じゃあ、これは何でしょう?」
「ん? 「英雄」か? それもその名の通り英雄じゃ。すべての能力値が永遠に上昇し続ける。カンストしない……っとカードに書いてあるじゃろ! ちゃんと読め!」
ほんとだ、書いてあるな。って、細かすぎないか? 保険の契約書かよ。
「ほらさっさと決めるのじゃ。儂は早う帰りたい」
「すみません、じっくり考えます」
面倒くさそうに言う神様に対して、俺は反発する。
「いや、早く決めろと言っておる!」
はいはい。叫ぶな、うるさいから。
そんな横で叫んでいる神様を無視してカードに目を通す。
えーっと、「剣聖」「英雄」「大賢者」「司教」に「金剛騎士」まで、ゲームで言う上級職ばかりだな。他には……「自宅警備員」に「遊び人」「親泣かせ」まで……って、初めて聞く職業なんだけど!? いや、能力だからいいのか? 「村人C」ってBでもないし。
……ちょっと待て。これすべてが俺に適性があるってことなんだよな。異世界転生者共有能力だと思いたいんだけど……。
「ほう、それはおぬしのみに適性がある能力じゃな。ほっほっほっ、これはこれは、無様じゃな!」
笑いながら俺のカードを覗き見る神様……いや、ジジィが、うざすぎる!
「ちなみにそいつらはマイナスカードじゃ。他の能力に比べてステータスが低いと言うわけでなく、ただ単にステータスがマイナス補正でマイナスの能力がつくのじゃな」
……えっ? 待て待て! なんて言った?
マイナスの能力でステータスがマイナスになるのか? どういう意味だよ!
「えっと……じゃあ、これを選ぶとレベルが低いうちの攻撃力はほとんど初期値から伸びないって事でしょうか?」
そう言い「自宅警備員」のカードを見せる。
「ふっ、そういうことじゃ。おぬしにはお似合いじゃろう!」
いや、選ぶかよ!! お似合いって、今までニートも自宅警備員もしたことねーよ!
その前に適正の能力って言っても、魔王を倒すのにマイナス能力を授けるなよ!
「どうじゃ、良い能力じゃろ」
うぜぇ! そのニヤついた顔がうぜぇ!
それに、どう考えてもこれって職業だろ!
一旦落ち着け、俺!
「ちょっと待って下さい。えっと、これって職業じゃないんですよね?」
「そうじゃ、何を言っておる。一度にいくつもの職業に就くなんて無理じゃろ。馬鹿なのか?」
職業じゃなくて、能力ってことなのか。
「職業って、じゃあ……」
「はぁ、やはりおぬしは馬鹿なのじゃな。話す気もなくなるわ」
……うざい、うざすぎる。そんなのわからないだろ普通!
あー、無視だ無視。このジジィの言葉はもう無視しよう。とにかくマイナスは選ばない様に選ぶか。
「えっと、他は……」
そう思いながらカードに目を通していると……あれ? チート系能力ってあまりなくないか? 組み合わせたらチートになるけど、どれも個々の能力だけならそこまでじゃないぞ。一生に一回しか使えない能力って……なんだそれ!
ステータスは流石に良いかもしれないけど、偏ってるし、努力はしないといけないんだよな……。
この「英雄」だって、能力値がカンストしないだけで、能力値の伸び代が良いわけではないし。「大賢者」だって、見た魔法を完コピするってだけで、使うための魔力が足りなかったら意味がない。それだったら「魔導王」の方が、能力が一生に一回だけ極大魔法を無条件で使う事ができる、とか……なんだよそれ。
「えっと、ジ……神様。これらの能力って単体だったらそこまで強くないんじゃ……」
「そりゃそうじゃろ。チート能力はおぬしのレベルに応じてしかルール上与える事はできんからのう。普通は努力してその能力を得るわけじゃからな。ちなみにそのカードは、ほとんどあっちの人間が得られる可能性があり、異世界転生者なら誰しも得られる能力じゃ。ほっ! オリジナル能力がほとんどマイナスじゃな。ほっほっほっ! 笑えるのう!」
ま、まじか……。俺の適性はほとんどマイナスだと……。
こ、こいつ、爆笑してやがる……!
「おぬしならどれを選んでも宝の持ち腐れじゃ。地味に冒険者でも良いんじゃないかのう」
くそっ! 思いっきり見下してやがる!
冒険者って、すべてのステータスが均等に上がるだけじゃねーか! 器用貧乏じゃねーかよ!
「くそっ……」
いや、諦めるな春原勇! 探せばあるはずだ! えっと、何か、何かないのか。
「探しても意味がないぞ?」
うるさい! 何かあるはずだ……っ!? これは……?
「神様、これは、なんですか? 「流動体攻防無効」?」
「ん? ほう、珍しいのう。それは名前の通り、流動体生物に対して攻撃も防御も無効化されるというものじゃな。つまり最弱のモンスター、スライムに攻撃が効かんし、スライムからの攻撃は防御できん。つまり、スライム如きに殺されるというものじゃな! 正におぬしにぴったりな能力じゃのう!」
「選ぶか! そんなもん!!」
反射的に「流動体攻防無効」のカードを地面に思いっきり叩きつける。
意味がわからないカードだな、おい! それになんで俺にそんな適性があるんだよ!
「む? なんじゃ、その不満そうな顔は? おぬしに適性があるに決まってるからじゃろ?」
その言葉に反射的にジジィの顔を見る。
「は? どうしてですか!」
「おぬしの、死因がアメーバーに寄生され、脳が腐って死んだのだからのう。適性抜群じゃろ。落ちてるものを拾って食うからじゃ」
「……は?」
その理由に口が閉じなかった。
待て待て待て! なんじゃそりゃっ!! 怖! アメーバー怖!
え、なに? 落ちてるものを食べたからって、そんな死因あるか!? それとあの状況なら仕方無いだろうよ……。
「さあ、選ぶが良い!」
そんな俺の心境を無視してジジィは選ぶ事を催促する。
くそっ、探しても見つからない。それよりアメーバーの衝撃が強すぎて集中できない。あー……強いて言えば、唯一素質があったプラスの能力「不屈の者」か。死ぬ一撃に対して一生に一回のみHP1だけ残る力……。
いや、能力だけ見ても意味がないかもしれないぞ。ステータスの伸びはやっぱり「剣豪」や「魔導王」の方がいいか。地道に伸ばすしかないよな。別にすぐに魔王と戦うわけじゃないんだし。そしたら、将来的に考えて、「大賢者か」?
どうする……。
「おい、まだか! 遅いぞ! 頭が悪いのじゃから悩んでもしかたないぞ!」
「まだまだ、かかりますんで!」
ジジィが急かしてくる。うざい! 言い方もうざい!
「はぁ、どうして、儂がこんな仕事をしないといけないのじゃ。寿命もあと少ししかないし、人生忙しいのにのう。あの、大神め!」
必死にカードを選んでいる横で、ふと興味が湧く言葉が聞こえた。
……寿命?
少しだけ能力を選んでいた思考を変える。
「えっと、すみません神様。質問よろしいですか?」
「ん? なんじゃ、質問よりも早く決めるのじゃ」
「質問の後にすぐ決めますので。えっと、神様にも寿命があるのでしょうか?」
ジジィが呟いた言葉を聞き返す。
「なんじゃ、まだ質問は許してないのじゃがな……。そうじゃな、神にも寿命がある。いつ死ぬとまでは明確にはわからぬが、大体これぐらいの時期には死ぬというのはわかる。じゃが、神は人間の様に死ぬのではなく、寿命が戻るというのが正しいのかの。おぬしらで言う記憶を持ったままの転生みたいなものかの」
「なるほど」
「おぬしには関係ないがな」
つまり神様もいなくなるってわけか。でも、完璧に死ぬわけではないと。
興味本位で聞いたけど、そんな気にするような話でもなかったか。
「で、春原勇よ。能力は決めたのか?」
「あー、まだ迷ってもいいですか?」
「遅いわ! 先程決めると言ったであろう! 決められないのであれば、儂が決めるぞ! ほれ、貸せ!」
まじか! それは嫌だ。折角の転生だし、チートじゃなくても俺に合いそうな能力にしたい!
「早く貸すのじゃ! はっきり言っておぬしには全く期待しておらん。おぬしを異世界に送り込むのも、もしかしたら魔王を倒すかもしれぬからじゃ。馬鹿なおぬしにわかる様に言うと数打ち当たれって事じゃ。おぬしが魔王を倒せるなど、おぬしにお似合いのアメーバーが魔王を倒すぐらいの確率しかないわ!」
はあっ!? こいつまじで言ってるのか!
つまり、とにかく異世界に送り込んで、運が良かったら魔王を倒してこいってことだろ! それで駄目だったら、また他の人間を送り込むって事かよ! こいつら人の命を舐めてるのか? 神様がどれだけ偉いんだよ!
そんなレベルで異世界に送り込まれたらたまったもんじゃない! 余計に本気で能力を決めないといけないだろ!!
「言いたい事は腐るほどあるけど、少しぐらい待てよ! 神様にしたら一瞬だろ? それぐらい待ったらどうだ!」
俺は神様から逃げる様にカードの束を持って走り出す。
「いや、遅いわ! 早う貸せ! 儂はさっさと帰りたいのじゃ! あと言葉使いを直せ!」
「うるせー! だったら1分ぐらいならいいだろ!」
「ダメじゃ! 貴様に1分でも使うのが勿体ない! 早く貸すのじゃ!」
このクソジジィが! こっちはまだ何も決まってない! 少なくてもメインを武器か魔法かだけでも決めたい! 尚且つマイナス能力は要らない! それだけでも除外せねば!
追いつかれたら終わる! 走れ、走るんだ春原勇!
そして、俺とジジィは全力で真っ白い空間を走り……
「ほら、早う貸しな……さ……ぐぅ!?!?」
「……っ?」
カードを持ちながら走り回っているとジジィが突然苦しみだし、その場に膝から崩れる。
そして、身体が淡く光始めた。
「な、んじゃと……このタイミングで、寿命じゃと……、うそ……じゃろ……」
そしてジジィがその場でうずくまる。
「…………は?」
その光景に俺も立ち止まり、ジジィを見る。
「……寿命?」
……まじで? このタイミングでまさかの寿命? どうしてこのタイミング!? こんな瞬間を見れる人間は初めてなんじゃないのか。と言うか、普通に苦しんでいるジジィを見たくない、ちょっと怖い……。
「くそぅ……今から、若い新入の女神との食事じゃったのに……このタイミングじゃと……」
うずくまっている神様。それを見下す様に全裸で立っている俺。側からみたらさぞシュールな光景だろう。
ん? ちょっとまて、この状況ラッキーなんじゃ……。
「……しかも、こんな奴に看取られる事になるとは……」
「ぷっ!!」
その言葉に笑いが吹き出てしまった。
そして溜めていたストレスという水が決壊する様に、
「ふふっ! 神様、最後に出会ったのが俺のような全裸の成人男性で大変喜ばしい事でしょう。これが若い女の子なら良かったかもしれませんね! あっ、神様は記憶はそのままで若返るだけなのでしょう? だったら、次は良い子に看取られる様にしてくださいね。くくっ!」
俺は笑いながらジジィを馬鹿にする様に話して、今までの鬱憤を晴らす。
これぐらい神様も許してくれるだろう! あっ、神様はこいつだったか!
「……この、クソ人間が……!」
「言葉悪すぎませんか? 神様なんですから。まあ、いつまでも全裸の男なんて見ていたくないでしょうから、俺はさっさと行きますね。あ、このカードの束、ありがとうございます」
「っ!! ちょ、ちょっと……待つのじゃ……それは……」
カードの束を見せて、俺は神様に背を向けて開いている門に向かう。
ああ、これからが楽しみで仕方ない!
「待つのじゃ……それを全て持っていかれると、生まれ変わる……儂の処遇が……」
その言葉に俺は立ち止まる。
このカードにはそれほどの価値があるのか。
「こっちに持ってこい……」
俺はカードの束を見る。
これには俺に適性がある能力が集まっている。ジジィの言う通り、全て持っていくのはいけないと思う。俺としたことが考えが至っていなかった。
俺はその場でカードを素早く分け、神様の前まで歩いていく。
「おお、わかってくれたか……。仕方ない、普通は1枚じゃが……特別に、2枚持って行っても……良いぞ」
「……わかりました。では、これだけ置いていきます」
そして、神様の目の前にカードを置き、
「そうじゃ、やはりおぬしは聡い人間じゃっ……ぬわぁ!?」
俺は走る。
「ははっ! それ、マイナス能力なんで置いていきますね! 全部持っていくのはダメって、そう言う事ですもんね!」
俺は満面の笑みでジジィ……いや、神様に答える。
「おぬしっ!?」
「この能力は大事に使いますので、安心してください! では! またいつか!」
そして開いている扉に飛び込む。
「待たん、かっ……」
ふっ! あの全ての能力が俺の力になれば……! これで俺も名実ともにチート能力を手に入れたって事だな! 一応「冒険者」も含まれるけど。
後ろで音を立てて扉がゆっくりと閉まっていく。
「……おぬ……ぜっ……さな……か……な……」
何やら神様が唸っているみたいだ。まあ、俺には関係ない事だけどな! はははっ! これからが楽しみだ!
「……いてっ!」
しかし、最後に神様を見ようと振り向いたところ、顔面に何かが当たった。目の前に落ちた何かを無意識に拾い上げる。
「なんだよ。ゴミか? ってなんだよこの塊。神様が最後にゴミを投げるか普通……っ!!」
そのゴミを開き、目を見開いて神様の方を見る。
閉まりかけていた扉の隙間から見えた神様はニヤリと笑っていた。
その瞬間、扉が全て閉まった。
「まじかよ……」
投げられた物は丸められたカード。その開いたカードには……。
「流動体攻防無効……」
世界が青白く光る。
そして、俺の異世界生活が始まる。
2話目終了。3話目からは明日から毎日投稿できるようにします。




