6話 健治達との道中
「では、おやすみなさい」
「おやすみなのじゃー」
あれから昼飯を食った後、数時間移動した。
ユリアも冒険者してるといっても今は王女の側近ユリアリアとして扱われる様で、健治達は今日は早めに休む事を提案した。
「おー、おやすみー」
夕飯も食い終わり後片付けを終えユリアとアルデが馬車に向かう。
女の子が馬車で寝る事になり俺たち男はテントで寝る。レディーファーストである。
「……さて」
2人を見送ってから焚き火の方に向かう。
「……」
健治が焚き火の前で座っていた。
こいつとも少し話をしてみた方がいいだろう。
そう思い健治に近づき話しかける。
「なあ、本気でお前は魔王を倒せると思ってるのか?」
「あ? なんだよ、急に……」
俺が急に声をかけ、近くに座ると、その質問に少し嫌な顔をする健治。
「そんな嫌がるなって」
「今までの事を考えたら嫌がるのもわかるだろ」
いや、わからん。逆に感謝される事をしている気がする。
「はっきり言って最初の時も街の時もお前がまともに魔王と戦ったわけじゃない。全部俺がその場に居て、俺が対処しただろ」
「……なっ!? うっ……」
んー、その反応はわかっているんだな。
「で、今回の事だけど。今回魔王を倒しに行くって自分から言ったんだろ? 俺は無謀だよなって思うんだよ。実はお前もそう思ってるんじゃないのかなって」
「な、なっ!? なんでお前が……そんな事を言うんだよ」
「んー、なんとなくだなー」
そう言ったが、実はこいつの顔が苦しそうで、何かを決意した顔をしているからだ。
なんとなく心配になってしまう。そう、多分の同郷のよしみだ。
「な、なんとなくで、言うな! お前に話す事はない! 俺は寝る!」
俺の言葉を切り、健治はテントの方に向かった。
「……はぁ」
せっかく俺が好意で聞いてやったのに、なんなんだその態度は。助ける気が無くなってしまうだろ。
「あ、あの……すみません……」
「ん?」
少しモヤモヤが残っている所に後ろから声がかけられる。
「……少しいいですか?」
「……えっと君は確か、早紀ちゃん? だっけ?」
「は、はい。……ここいいですか?」
健治の仲間である魔法使いの女の子だ。
その子が俺の隣を指さし座っていいか聞いてくる。
なんだろうこんな時間に。顔も少し赤いし……よく見るとこの子も可愛い。高校生ぐらいだけど、日本人らしく黒髪で優しそうな顔立ちだ。
もしかしてアレか?
ちょっとかっこいいお兄さんと話したいのかもしれないのか?
「どうしたの? 寝れないとかかな?」
優しく俺も聞いてみる。
ここで焦った素振りをするとかっこよくないし、落ち着いて、落ち着いて。
「……少しお話ししてもいいですか?」
おお! お話しですか? ここから俺のターンが来るのかもしれないですか?
「いいよ。何か聞きたいことかな?」
「えっと、健ちゃん……健治君の事なんですけど……」
そっちか……。俺についてじゃないのか。
少しがっかりしている自分がいるが、今は置いとこう。
「健治の事って?」
「さっき健ちゃんと話している所を聞いてしまったんですけど……健ちゃん、本当は魔王との戦いに行きたくはなかったんだと思います。それを伝えたくて」
「ん? どういうこと?」
急な話にちょっと意味がわからなかったので、素直に聞く。
早紀は少し考えながら話し始める。
「あの魔王城でお兄さんが来なかったら私達は多分ここにいなかったと思います。私達のレベルではまだ魔王に勝てるはずがなかったんです」
早紀は恐怖を我慢する様に手をギュッと強く握る。
「今は魔法で治っていますが、健ちゃんは右腕を魔王と戦う前になくしてしまいました。ですが、死に物狂いで私達は魔王の間まで行ったんです。でもその場には魔王の宰相がいて、その部下にあしらわれる様な状態で……」
少し声が揺れる。
「もう終わりと思いました。でもその時に……お兄さんが来たんです」
潤んだ瞳で俺の目をじっと見つめる。
その仕草に俺は戸惑う。
「魔王の意識を1人で受けて、宰相の部下も一瞬で倒してしまい、魔王の攻撃からも私達を守ってくれました。お兄さんのお陰で私達は逃げる事が出来たんです。そこから私達は魔王の間に戻ろうとする健ちゃんを無理やり引き連れて街に戻りました。本当に、本当に死に物狂いでした……」
自分の体を恐怖から守る様に早紀は自分の肩を強く抱く。
「あれから魔王とお兄さんがどうなったかは怖くて考えられませんでしたが、魔王が瀕死になったと聞いた時は本当に驚きました。そして、あの街に違う魔王が来たことも……」
早紀は下を向いていた顔を上げて俺を真剣に見つめる。
「そこでも私達は死にかけました。でも、またお兄さんが助けてくれたんです。健ちゃんは認めようとしませんが私はあなたが、あの「不死の魔王」を倒したんだと思っています」
まあ、あれは倒したのか倒してないのかわからないけどな。
今だってあのテントでユリアと寝てる。
しかし、そこまで考えているなら。
「でもあれ、健治の功績みたいになってないか?」
俺は少し意地悪な質問をする。
それに対して早紀は申し訳なさそうに言った。
「違うんです。健ちゃんは言ったんです「俺がしたんじゃない!」って。でも王様も他の人達も信じてくれませんでした。勇者がしたんだって。勇者しか強い者はその場にいなかったって……。それで勝手に健ちゃんの功績だと動いてしまって、断っても強制的に功績にされてしまって……。だから、あなたの手柄を横取りしたみたいになってしまって……」
「……そうなんだ。その事はわかったけど、それが健治が魔王討伐に行きたくない理由にはなってないんじゃないかな?」
意味は分かったが、優しいだけでは納得はできない。
「……健ちゃんは自信があるわけじゃないんです。怖い思いもしているんです! 本当は魔王と戦いたくないんです! でも人一倍責任感が強いから、担ぎ上げられた功績を本当にしないとって! 魔王は自分が倒さないとって! だから……」
早紀の目から涙が溢れる。
「だから、お兄さん……。健ちゃんを……私達を助けてくれませんか!?」
……ん? 急に……えっ!? いや、わからん。
健治が優しい人間だというのはわかった。魔王を倒す事の責任感が強いのはわかった。
でも、俺がそれを手伝うための理由がない。他に倒す手段はあるはずだ。
勇者として召喚されたのなら何かしらのチート能力は持ってるだろう。だったら魔王戦を先延ばしにして自分を鍛えたら良いわけだし、今すぐに倒しに行く必要はない。
そんな事を考えずに止める仲間を振り切って戦いに行くのは無謀だと思う。
「無謀だと思わなかったのか?」
「思ってます! でも、健ちゃんが決めた事なので……」
そうか。んー、この年齢ならこんな感じなのか?
考えが足りない気がするぞ。
「……お兄さん」
でも、あいつについて行ってこの子が死ぬと思うと……思うところもあるか。
元同じ世界出身だとしたら、見放す事は何となく嫌な気持ちにもなる気がする。
それに……。
「お願いです、お兄さん! 助けてくれませんか!?」
何故かこの世界に来てから可愛い子にお願いされると断れない体質になってしまっている。
頭で考えてる事と違って、すでに口が……。
「わかった、いいよ」
動いてしまっていた。
エミリやユリアの時と同じだな……。
ホント、何なんだろうか。こんなパターンばっかしだ……。
「本当ですか!? 本当に!?」
「ああ、それにその為にここに来たわけだし。実は王女様に頼まれたんだよ」
「そ、そうだったんですね。だったら安心出来ます……」
そう言って早紀はホッとしたのか、少し眠そうに目を擦る。
「じゃあ、明日も早いし寝た方がいいよ」
そう言って俺はその場を立つ。
このままこれ以上健治の話をされても困るからな。男の話はどうでもいい。
「あ、あの……」
「ん?」
「お兄さんのお名前聞いてもいいですか?」
「俺の名前? 言ってなかったっけ? スノハラ……春原勇だよ」
「春原勇さん……。ありがとうございました。おやすみなさい」
そう言って早紀は馬車の方へと向かって行った。
「そういえばユリアにも俺って名前で呼ばれてなかったな」
そんな関係ない事を思いながら俺もテントに向かった。
◇
「さて、着きましたね」
「着いたなー」
「ほう。妾が来た時より立派になっているのじゃ」
「ふーん、そうなんだ?」
アルデがそんな事を言ってるが、俺は魔王城を外から見てないからこれが初めてになる。
アルデの言う通り立派なのはわかる。
本当に想像通りの魔王城って感じだ。
魔王がいる雰囲気はある気がするが何とも、時間的に暗くないから割と住み心地が良さそうに見えるのだが。
しかし、あの場所から移動して2日と数時間だ。やっと着いたって感じがするな。
「しかし、スノハラが馬車を引けばあそこから1日も経たなかったのじゃがなー」
「そうですね。お兄さんが「ケンジ様達を乗せたくない!」って言わなければ楽だったのですが」
「いやいや、あれ以上俺を馬扱いしないでください」
流石に健治達まで乗せるのは俺のプライドが許さなかった。だから仕方なく徒歩で来たわけで。
それよりユリアも乗る気満々なのは驚いた。アルデに汚染されてしまってる。
「本当だな。魔王城が新しくなってる」
「本当だね。また一から攻略しないといけないね」
「でも、今回は春原さんがいるから前より楽に行けるだろ」
「そうだね」
「……ああ」
あれから2日間も一緒に行動すると色々と話す事になった。少しは俺もこいつらも打ち解けたと思うし、色々と情報は交換出来た。
やはり健治達は俺と同じ世界から来たみたいだ。
まあ、俺の名前もこっちでは中々聞かない名前だからあっちもおかしいと思ったんだろう。そこからは少し気が許せたみたいで話す様になった。
そこで一番大切な話が、勇者についてだ。
衝撃なのは、実は俺は勇者じゃないらしい。そう言えばあの爺も俺を勇者と呼んで無かった気がする。
ちなみに勇者とは「勇者」という職業があるらしく、それはこの世界の人が召喚した事によって先天性で就ける職業との事。しかし、あの3人も全員が「勇者」というわけではなく「勇者」なのは健治だけらしい。
聞いたところ早紀と雅人は勇者ではなく、俺と同じく神様に転移させられ、健治が勇者として召喚されるから手伝ってやって欲しいと頼まれた様だ。
何というか神様もエゲツないと再度認識した。
まあ、3人とも仲良くしてるからそれで良かったのだろうが。
「でも春原さんの力を借りてるだけじゃダメだよ。ねっ、健ちゃん」
「……そうだな。俺も新しい授かった宝剣に恥じない様な戦いをしないと」
そう言って健治は腰に掛けている宝剣に触れる。
まだ気を張ってるみたいだな。
それもそうか、死ぬかもしれない場所に来たら気も張るだろう。
「よし、じゃあ行くか!」
周りの空気が張り詰める前に、俺は率先して魔王城の扉に向かう。
「あっ、ちょっとお兄さん、1人で先に行かないでください!」
俺を追いかけてユリアが小走りで向かってくる。
「妾もっ……むっ! この魔力……2人とも待つのじゃ!」
「ん?」
「えっ?」
焦ったようにアルデが走ってくる。
そしてその瞬間地面が光った。
「なっ!?」
「えっ!?」
「遅かっ……」
「えっ! 春原さんっ!!」
「ユリアリア様っ!!」
背後から声が聞こえる。
そして目の前の景色が変わった。
「なんだ今の……」
「……えっ!? ここどこですか……?」
「くそっ、遅かったのじゃ。妾とした事が……」
周りを見渡す。
そこはさっきまでの魔王城の前ではなく、部屋の中。そして雰囲気は見た事がある感じで……このパターンは、もしかして。
「はははははっ! よく来たな……いや、やっと来たな! 勇者よ!!」
その声の方向を見る。
やっぱりそうか。そりゃそうだよなこいつなら……。
「魔王様、これでよろしかったのですか?」
「ああ、上出来だ! ジェミラ!」
声の元には「剣魔の魔王」グレイバルトが力を解放した状態で立っていた。
出てきた「剣魔の魔王」グレイバルト。健治達は転移されず、魔王城の入り口にいます。




