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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第2章「邪龍の魔王」

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2話 魔王討伐依頼①



「お兄さんお願いします! 手を貸してください!」


「だから嫌だって」


 今日もユリアは来ていた。

 というか、この数日間毎日来ている。それも冒険者の格好で。


「どうしてですか! 今まではあんなに強さを示したいって言ってたじゃないですか? 今回も魔王討伐ですよ! 強さを見せつけられますよ!?」


 用件は魔王討伐である。

 しかし俺はそれを断りながら屋台の後片付けをしている。


「いや、もうユリア達には俺の強さわかってもらってるからな」


「……そうですけど、実際に私達も見たわけではないですし。魔王はアルデちゃんになってそこにいますし」


 椅子に座ってユリアに貰ったお菓子を食べながら休憩しているアルデを見る。


「そうだけど、無理なものは無理だ。タイミングってのがあるし……おい、アルデ! 先に片付けしろ!」


「む? 片付けよりお菓子の方が美味いのじゃ! 後で速攻でするからよい!」


「速攻でできるなら先にしてくれ! ってことで、今は忙しいんだよ」


 そう言ってユリアに断りをもう一度入れる。


「忙しいのはわかります。けど少しだけ! もう一度話を聞いてください!」


 しかしユリアも引かない。

 昨日までならこれで引いたが、今日のユリアはしつこい。


「少しだけって、話はこの前聞いただろ? それを聞いて無理なんだよ」


 最初に来た日に大まかな話は聞いた。

 それで俺は断ったのだが……。


「この前もそう言ってましたけど、理由は聞いていません!」


「だから、今は串カツ屋が忙しいんだよ。タイミングが悪いんだって」


 まあ、それだけの理由じゃないんだけど。その理由を言うのもアレなので黙っている。

 実際、串カツ屋も忙しい。


「でも時間が無いんです! お兄さん、もうここまで来たら強行手段を取るしかないですよ!」


「……っ!」


 そう言ってユリアは懐からスライムを出すそぶりをする。その行動は少しトラウマになっているから、一瞬ビビる。

 しかしユリアがここで強硬手段を使うって事は、割と焦っているのか?

 もう少し詳しく聞いた方がいいかもしれない。


「……あー、わかったわかった。話だけでもしっかり聞くわ。この後でいいな?」


「ホントですか!? でしたら、待っています!」


 そう言ってユリアは目の前のアルデの隣の椅子に座り、待つ事にしたようだ。


「って事でアルデ! 手伝え!」





「……要約すると。「剣魔の魔王」であるグレイバルトの討伐をして欲しいわけだな?」


「はい」


 「剣魔の魔王」はグレイバルトと言うらしい。それにはアルデも頷いていた。

 しかし問題はその魔王を倒す事ではない。


「そして健治達、勇者一行に付いて行って欲しいわけだな?」


「そういう事です」


 勇者に同行する事が俺に対する依頼らしいが……。


「だったら嫌だ」


 俺はユリアの話を断った。


「えっ! どうしてですか! お兄さんだって魔王を倒す気はあるんじゃないですか!?」


「そうだな。俺に魔王を倒す予定はある。でも、別にいつでもいいって思ってるし、今は丁度串カツ屋が繁盛中だ。そっちに手をかけないといけないわけだ」


「それは私も分かっています。ですが、そこを何とかお願いできないかと……」


 そう、ユリアは今回の依頼を何度も頼んで来ている。今日で連続4日目になる。


「……さっきから思ってたんだが、そこまで頼むって事は何かあるんだよな?」


「……いえ、そういうわけでは」


 俺の言葉にユリアの顔色が少し変わる。


「はっきり言ってくれる方がいい。俺だって命をかけるわけだからな」


「そうですよね……」


 ユリアは考える様に下を向く。

 魔王と戦うわけだ、命をかける事にはなるだろうが内心そんな事は深く思っていない。

 魔王は倒せてはいないが瀕死の状態にはしている実績はある。

 それに俺にとっても倒しきれていない魔王を倒したい気持ちはある。


「ん? 何を言っておるスノハラ? 其方ならあいつぐらい余裕で……」


「アルデ? 棚に出来立てのポテチあるから食っていいぞ?」


「なんじゃと! 食べてくるのじゃ!」


 そう言って幼女はパタパタと走っていく。

 いらない事を言う子は排除する。不利な状況になるなら、作成中の試作品ぐらい大量に食わしてやる。


「……お兄さんの言う通りですね。わかりました。話します」


 ユリアはそう言い、真剣な顔つきに変わり、俺と向かい合う。


「実は……私はケンジ様では「剣魔の魔王」は倒せない、可能性があると思っています」


 ユリアの声は淡々としている。


「知っている通り勇者は、各国に1人以上いるのですが」


 いや、知りません、初耳の情報です。


「今この国の勇者はケンジ様1人です。ですがそのケンジ様は他の国の勇者に比べて戦果が少なく、他国の勇者に劣っている様に見られています。しかし、王や国民はそんな事は気にしていません」


「……どうしてだ?」


「王が統治するこの領土が、勇者の戦果が少なくても平和だからです。見てくださいこの街を」


 そう言ってユリアは手を広げて夕暮れの街を見せる様に言う。

 成る程な。言っている意味はわかる。

 この街は魔王の城に一番近い癖にこの前のアルデ襲来以外今まで何もなかったらしい。

 平和過ぎるという理由なら王が勇者に成果が少ない事を気にしない事もわかる。


「それよりも王は他国の方が危ないと思っています。攻めてこない魔王よりも近くに居る人間の方が怖いわけです」


 まあ、俺だってその立場になったらそう考えるかもしれないだろう。

 強者を求めて来たアルデみたいな魔王ばかりなら別に放っておいてもいい。


「しかしユリアはなんでそんなに情報を持ってるんだ? 王女の側近だからか?」


「私ですか? まあ、それも理由としてありますが、冒険者として活動しているからです。他の国も見てきましたよ」


「あー、なるほどな」


 初めて会った時冒険者の格好をしていたのは、そういう背景もあったのか。冒険者は情報収集には適してるのだろう。


「でも、その話なら別に魔王を倒しに行く必要はないんじゃないか? 平和なんだし?」


「今まではそうでした」


「……今までは?」


「はい。今までは」


 その言葉からユリアの目がもう一段真剣になる。


「今までは何もこの街を襲う事はありませんでした。例えば「剣魔の魔王」グレイバルトは比較的新規の魔王ですが、弱い生き物には興味が無く襲う事はありません。そして魔王城より奥にあるのは「龍の谷」……ですが、そこにいるドラゴンもこの街を襲う事はありませんでした。ドラゴンも強者しか求めません」


 へぇー、そんな背景があるのか。

 あと「龍の谷」って興味が湧くんだけど。


「しかし今回、アルデちゃん……いえ、「不死の魔王」アルデミスがこの街を襲ってしまいました。それが大きな理由です」


 その意味が直ぐにわかり俺は後ろでポテチを食べている幼女を見る。

 俺が見た事で何か反応したが、関係なしにパリパリと食べ続ける。


「魔王アルデミスが来襲した事によって国の危機感は少し……ほんの少しですが上がりました。そこでターゲットになったのが「剣魔の魔王」です」


 まあ、そうだろな。アルデのせいで危機感は上がるのはわかる。

 近くに居る魔王を放ってはおけないと。


「そして、一度瀕死の状態にしたケンジ様が再挑戦する事になりました」


 そうなるのか……。出回ってる情報だけならそうか。


「でも、別に今すぐ「剣魔の魔王」を倒しにいく意味は無いと思うんだが? あれからそんなに日が経ってないぞ?」


 片腕が無くなったほどの怪我だ。普通の人間なら戦いに行きたいと思わないし、メンタルを整えるにしても時間はかかるだろう。

 それよりまず、確実に倒すための準備期間が必要だ。


「……私も早過ぎると思いました。しかし、実は王がケンジ様に言ったのではなく、ケンジ様が王に直々に魔王を倒しに行くと言ったのです……」


「……は?」


 その言葉に俺の思考は一瞬停止する。


「ケンジ様は一度魔王を倒しかけています。だったら次こそは! と王も直ぐに許可をしてしましました」


「ちょっと待って? 健治はそんな無謀なことを……」


「え? 無謀でしょうか? 私はそうは思いませんが? 「剣魔の魔王」は新参の魔王と言っても実力は飛び抜けていますが、その魔王を瀕死まで追いやったのですよ? ケンジ様は実績がありますし、次も可能性はあると思いますが」


 そうか、そうだよな。あいつを瀕死にまでしたのは俺だってみんな知らないんだもんな。それを知ってるのは多分健治達だけ。

 しかし、疑問に思う事がある。


「だったら別に俺に依頼を出す必要はないんじゃないか?」


「そこで最初に言った言葉です。もしかしたら倒せない可能性があると」


 ユリアはここからが本番だと言うかのように手を机の上で組み、前屈みになる。


「ケンジ様は一度負けてからの挑戦までの期間が少な過ぎます。そして、勇者は違う世界から国を挙げて召喚した人間。この世界の人間より強い能力を持っています。そしてこの国の勇者はケンジ様1人です。もし魔王に殺されてしまうとこの国は他国からの圧力が強くなるでしょう。そうならない為にも、不安要素は取り去っておきたいわけです」


「……不安要素」


「そこでお兄さんの登場です。魔王を吹き飛ばすほどの力。そして、魔王の上級魔法から私達を守ることができる防御力。それだけでもケンジ様達のサポート……はっきり言ってメインとして動く事ができると私は思っています! だから……」


「嫌だな」


 俺はユリアが熱く語っている話を遮り、即答した。




   

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