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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第2章「邪龍の魔王」

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1話 串カツ同盟

2章始まりです。



「今日の売れ行きも上々だな、スーさん! 酒がうめーな!」


「ふっふっふっ! 俺にかかればこんなもんよ、ハマさん! 酒がうめー!」


 夜の屋台街。それは買い物客で賑わっていた夕方までの屋台街とは違う。

 その一角で俺たち2人は盛り上がっていた。


「はっはっはっ! さすが串カツのスライムさんって呼ばれるだけあるな! あんたのおかげでうちの野菜の売れ行きも爆上がりだわ!」


「そうだろ、そうだろ! まあ、串揚げには野菜が必要だからな! 生で食っても揚げても美味いのは良い! しかし、俺はハマさんには最初から世話になりっぱなしだよ。あんたがいないと俺はここまでなれなかった!」


 この八百屋のおっさんハマンドさんには頭が上がらない。心を込めてハマさんと呼ぶぐらいだ。


「いやいや、オレはただ隣を貸してただけだぜ? 隣で油で揚げ始めた時は焦ったが、それがここまで人気店になるとはな! オレにも還元されてるんだ、隣のスペースを貸した以上を返してもらってるよ! 今やオレも串カツ同盟の一員だぜ!」


「いいな! 串カツ同盟乾杯!」


「乾杯だー!」


「「はっはっはっ!!」」


 俺たちは笑いあう。

 酒が入っているからか盛り上がる。

 お金を数えるだけで盛り上がる。

 今日の売り上げを見るたびに笑いあう。


「妾のおかげでもあるのじゃ!」


「そうだなそうだな! アルデの嬢ちゃんのおかげでもあるな! はっはっはっはっ!」


「そうじゃろ、そうじゃろ! わははははは!」


 盛り上がる、盛り上がる。

 お金というものは偉大である。


「よし! 今日はオレが奢ってやる! 好きなだけ飲め!」


「おおそうか! だったら俺がハマさんの分を奢ってやるぞ!」


「ははははっ! それじゃあ、奢ってることになんねーじゃねーか!」


「そうだな!」


「「はっはっはっ! 乾パーイ!」」


 そんなしょうもない、意味がわからない事でも笑ってしまう。

 お酒とはなんて素晴らしいんだ。


「妾も酒を飲むぞ!」


「だーめーだ。幼女はまだ飲んじゃいけません!」


「そうだぞ嬢ちゃん! 酒は成人してからだ! 嬢ちゃんはこれを食ってみな! 美味いぞー」


 幼女が俺の酒に手を出そうとするが、取り上げる。

 その代わりハマさんが食べていた料理を渡す。


「むっ! 妾は幼女でも嬢ちゃんでもないのじゃ! が……これは美味いから食うのじゃ!」


「はっはっはっ! 良い食いっぷりだな! よし! もっと食え!」


「食うのじゃ!」


 ハマさんに盛られた食べ物を一心不乱に掻き込む幼女。

 こうしてたらこいつも中々かわいいもんなんだがなー。

 おっと、少し酔ってきたか? だったら今日の本題に入らなくては。


「なあ、ハマさん? 話したいことってなんだ?」


 そう、今日ここで飲んでるのはハマさんに誘われたからだ。

 それも話があると言って。


「ああ、そうだな。実はちょっと相談があるんだが……」


「ん? どうした? 改まって?」


 俺が切り出したことで、ハマさんが改まって俺に向き直り、声が少し真剣になる。

 相談とは珍しい。


「実はな、ちょっと酒と合わせて食べて欲しい物があるんだ……」


 そしてハマさんが自分の鞄から何かをテーブルの上に置いた。


「ん? ……ハマさん、これって……」


「串カツだ」


 テーブルに置かれたのは串カツだった。

 この街の串カツ屋は俺だけ。つまりこれは俺の串カツだ。

 そう言えば屋台の終わりかけに買っていたな。


「スーさん、あんたまだ酒と串カツを合わせて食った事がなかったんじゃねぇか?」


「っ!! そう言えばそうだな……」


 盲点だった。

 串カツと言えば酒は付き物だ。何故今まで気づかなかったんだろうか!?


「でだ! あの酒だ、マスター!」


「はい。こちらを」


 ハマさんの言葉にすぐに対応したマスターが俺の前に酒が入ったグラスを置く。

 普通の木のジョッキではなくグラスだ。

 グラスって高級じゃなかったっけ?

 それにこのマスターかなりオシャレなんだが。ここ居酒屋の筈だよな?

 今更だがマスターだけホテルのオーナーみたいな雰囲気なんだけど。


「合わせてみてくれ。俺達の研究成果だ!」


「じゃあ……」


 俺達という言葉に少し疑問を持ったが、出された串カツを食べて酒を一口……、


「……っ!! 美味い! 合うな!」


 少しの苦味と炭酸が串カツの脂とマッチして旨味を増幅させている。

 ああ、駅前の居酒屋を思い出す……。


「だろ? 絶対に串カツ……いや、串揚げ全般には酒が合うんだよ!」


 今まで酒は飲んでいたのに、これまで気づかなかったことが逆に悔しくなってくる。


「で、ここから俺が言いたい事がわかるよな?」


「……ああ、俺の店で酒を扱うって事だな?」


 ここまで来ると流石にわかる。


「そうだ。それにスーさんの店はもうこの街ではかなりの知名度だ。それが夜の屋台街に店を出すと言えば訪れる客は多くなりそうだろ?」


「ああ……上手い事いけばもっと儲かるだろな」


 自負しているわけでは無いけど俺の串カツは行列ができる。売り始めてから1ヶ月以上経ったけど客足は増える一方だ。


「でも、酒はどう仕入れたらいいか……」


 しかし、大量の酒を扱うとなるとこの街でのツテが必要になる。新参者が入る事を良いと思わない者もいるだろう。


「そこでだ! もし酒を扱っても俺の所は贔屓にしてくれるんだろ?」


「当たり前だろ! ハマさんの野菜がないと俺の店は成り立たないからな」


 その言葉を聞いたハマさんが待っていたと言うようにニヤッと笑う。


「だったら、いい案がある」


「っ!? 本当か!?」


「ああ。というか、実はスーさんとその話をするのを待っていたんだよ」


「ん? それってつまり?」


 ハマさんは笑いながら真面目な顔でジョッキに入っている酒を飲み干し、俺を見る。


「仕入れの宛はある。後はスーさんが良いかどうかだ! なあ、サッさん!」


 そうハマさんが声をかけたのはこの居酒屋のマスターだった。


「いつもありがとうございます。店主のササフナードと申します。ハマンドが串カツのスライムさんと仲がいいと聞いておりましたので、少しお話をさせて頂きました。串カツは酒に合うと言う事を」


 ササフナードと言ったおっさんはハマさんに比べて若く見える。

 ハマさんがワイルド系のおっさんならササフナードは居酒屋というよりバーのマスターだ。オーラが違う。

 言って悪いが居酒屋風のこの屋台には違和感しかない。

 それに、このおっさんは見たことがある。


「もしかして、俺が屋台を出した初日に買っていってくれたおっさんか!? いや、実はこの店に入った時から思っていたんだ! その執事服風の黒服は忘れないですよ! それにいつも串カツお買い上げありがとうございます!」


 見たことあると言ってもほぼ毎日見ていたら間違いようがない。屋台初日の記憶は薄れつつあるが、ほぼ毎日買いに来てくれているのは確実だ。


「覚えてくださりありがとうございます。あの日ハマンドの店に用事で寄ったところ、隣から凄いいい匂いがするじゃありませんか! そう思いまして。いざ食べてみたらそれもまた絶品で!」


「ありがとうございます!」


 ここまで面と向かって褒められると凄く嬉しい。


「お礼を言われる事では無いですよ! 逆に私の方がお礼を言いたいぐらいです! 実は密かに串カツと酒を飲むのが最近の日課でございまして、そこで私は思いました。どうにかしてうちの酒と合わせられないかと!」


「と、言うことだスーさん。ここの酒はどうだ? 美味いだろ?」


「ああ、美味いなー」


 酒が入ったグラスを傾けて言う。


「ありがとうございます! それは嬉しい限りです! ふふっ! でしたら実はこんな日があろうと思いまして串カツに合う酒を用意しているんですよ! どうぞ一杯。これは私の気持ちですございます」


 少し興奮気味のササフナードさんが俺の前に出した新しいグラスに酒を注ぐ。


「そうか。じゃあ、遠慮なく」


 俺は串カツを齧り、一口酒を口の中に流す……。


「っ!? ……やばい! これはすごく合うぞ!!」


 酒を入れた瞬間に口の中に広がる炭酸。甘くもなく苦くもないのに飲みやすく、串カツの脂の旨さを引き立てる。

 さっきの酒とまた違う味わいだ!

 その言葉にササフナードさんはより興奮しながら話し始める。


「そうなんですよ! 何と言っても、私は串カツが出たその日からどの酒と合わせるかずっと考えていたんですから! あなたの串カツ愛には劣りますが、その次である自身はあります!」


「妾も串カツは好物なのじゃぞ!」


「おし! 嬢ちゃんこれも美味いぞー! 食ってみるか!」


「食うのじゃ!」


 興奮しすぎてか、さっきまで丁寧だった口調が少し砕けている。

 そしてササフナードさんの言葉だけでなく、目力、熱量に押される。

 ああ、この感覚は……確信した。


「なる程な……。串カツ愛か……。その言葉を聞いた時点で俺はあんたを信じることに決めたよ!」


「本当でしょうか!」


「ああ、ここまで串カツに合う酒を用意してくれたんだ、拒否する要素はまったくない。串カツ愛は深く感じた。それに、他にも合う酒があるんだろ? あんたはそういう顔をしている」


 俺はニヤッと笑いながらササフナードを見る。

 ササフナードさんは嬉しそうに笑う。


「はははっ! さすが串カツのスライムさんです! そこまでお見通しですか。そうです、まだあるんですよ!」


「そうだろ! やっぱりあんたはすげー奴だと俺の勘は言っていたぜ! よっしゃあ! ちょっと待ってろ! 今から串カツを揚げてくるぜ! 肉以外に注文はあるか!?」


「本当ですか!? それは嬉しい!」


 俺のテンションも上がる。酔いが覚めることなんてない。

 串カツ好きが集まり酒好きが集まれば、夜はいつもより長くなる。


「おっ! じゃあ、俺んとこから野菜も持って行くぞ!」


「私は合う酒を飲めるだけ用意しておきましょう!」


 俺の言葉におっさん2人もテンションを上げる。


「はっはっはっ! わかっているな2人共! おいアルデ! 今から串カツを揚げるぞ!」


「むぐむぐ、ごっくんっ! わかったのじゃ! 妾が速攻で揚げてこよう!」


 口の中いっぱいに入っていた食べ物を飲み込み、上機嫌で言うアルデ。


「じゃあ、ササフナードさん……いや、サッさんだな! 今日からあんたも含めてこの4人で串カツ同盟だ!」


「いいね、いいね串カツ同盟! 俺は2番目か?」


「何を言っておる! 2番目は妾じゃ!」


「では、私は4番目で。ですが、私も串カツ同盟に入れてもらい……ふふふっ! これは酒がすすむでしょう!」


「だな!」


「「「「はははははっ!」」」」


 夜の屋台街に4人の笑い声がこだまする。

 酒は美味い。串カツも美味い。野菜も美味い。この3つが合わされば最強である。


 そして、この串カツ同盟による第1回「串カツに合う酒は何か審査会」は日が昇るまで続いた。





「……さん、お兄さん! 今日こそは良い返事を頂きますよ!」


 朝から俺の事を呼ぶ声に起こされる。


「……ん、あ? こんな朝っぱらから誰だよ……? こちとら二日酔いで死にそうなんだよ……」


「二日酔いって……だから、屋台で寝ていたんですか!?」


 昨日の酒は美味かった。楽しくて飲み過ぎて全てを吐き出した。

 記憶も流れるように吐き出した気がする。


「……いいだろ別にー」


「ふぁぁぁ……朝か……。あ、ユリア、おはようなのじゃ」


「おはようございます……って、アルデちゃんまで屋台で寝ていたんですか!? 2人揃って、何してるんですか……」


 誰かが呆れた声で話しているが、頭が痛い。

 早急にウコン的な何かを飲みたい。

 いや、ラーメンが食べたい。あれだ、野菜がドロドロに溶けた濃厚スープのこってりラーメンが食べたい。あれは二日酔いにベストらしい。

 地元じゃ有名だ。


「昨日の夜は楽しかったのじゃ。美味い飯ばかりじゃった。串カツも美味かったのじゃ」


「……おい、アルデ。お前の声は二日酔いに響く。昼まで寝てていいぞ?」


 アルデにビシッと指を刺すが気怠く言う。

 起きてすぐに話し始める幼女らしい高い声が辛い。


「そうか、そうするのじゃ。おやすみなのじゃ……。ぐう……」


「昼までって……もう昼なんですけど……」


「……なにっ! 昼だと!?」


 昼だと言った誰かの言葉で周りを見る。


「うおっ! まじだ! 人が多いし! おいアルデ、昼だ! 起きろ!」


「むぅ、もう昼か? さっきから2秒ぐらいしか寝ていない気がするが……」


「いいから起きろ! くっそ、頭いてー」


 頭が激しく痛む中、起き上がる。

 頭が回らないが、昼ならもうそろそろ客が来る時間だろう。

 お客を待たせては串カツのスライムさんの名が泣く。


「ん? おっ、ユリアちょうどいいところに! お前も手伝え!」


「えっ? ちょうどいい所にって、今気づいたんですか!? それよりも私も手伝うんですか!? ちょっと、待ってくだ……」


「ユリアはこの材料を買って来てくれ!」


 ユリアに今日必要になる予定の食材を書いてあったメモを渡す。

 ユリアがいる事に今気づいたが、使えるものは使おう。


「アルデは串カツの準備だ! で、俺は……ハマさーん! 起こしてくれても良かったと……あれ? おーい、ハマさーん? ちょっとアルデ、隣にハマさんいるか見てきてくれ」


「わかったのじゃ。おい、ハマー」


 アルデがハマさんの所に向かって行った。

 さて、俺も準備にかかろうか。えっと、下準備は昨日してたんだっけ……? あー、頭いてー。


「……ん? アルデの嬢ちゃんじゃねーか? こちとら二日酔いなんだよー、もう少し寝かせ……おい! ちょっと待て! それは駄目な奴だろ! おい! 嬢ちゃん! まっ……ぎゃぁぁぁぁ……っ!!」


 隣から何か叫び声が聞こえた気がする……。まあ、聞かなかったことにしよう。


「おい、スノハラー。ハマーも寝ておったぞ?」


 そんな事考えていたらアルデが戻ってきた。


「っ!! ……何となくわかったから、いいわ……」


 口元を赤く染めて口をモグモグと何かを咀嚼しているアルデが怖い。

 ……たぶんトマトだろうけど、あの叫び声が聞こえた後にこれは怖い。

 特に今のアルデは何でも食べそうで怖い。


「む?」


 純粋そうな顔をしていても、元魔王である。



 大抵の1日はそんな感じで始まり串カツを売って終わる。


 しかし、ユリアは何しに来たんだろうか?

 何かまた来るって言って帰っていったけど。まあ、人手が多い方がいいので助かったが……。




 

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