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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第1章「不死の魔王」

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幕間 串カツを作りたい!①

幕間です。

ある日雑用という名のクエストで出会った油の話で、串カツを作る話です。



「お金が欲しいです……」


「……はい?」


 俺はクエストという名の雑用を終え、ギルドに戻り、嘆いた。


「お金が欲しいです……」


「……えっと、それで今日もクエストに行ってきたんですよね?」


 そう言って受付のお姉さんはクエスト完了の判子を書類に押し、報酬を用意する。


「これだけですよね……?」


「まあ、F級クエストですしね。仕方ないですよ」


「……仕方ないって、じゃあE級とかD級のクエストを受けさせてください! 儲かる討伐クエストとか!」


 そう切実に俺は頼むのだが。


「それは無理ですよ。スライムさんって、スライムに負けるんですから。外に出たらモンスターに襲われて死んじゃいますよ? 街の中で我慢してください」


 受付のお姉さんは呆れた声で告げる。

 しかし、冒険者になったのに冒険できない。そんなの冒険者でも何でもない! 何のためのギルドカードですか? あれから全くモンスター欄が更新されてないんですけど! スライムばっかりなんですけど!!


「一応、俺だって冒険者ですよね?」


「いや、スライムさんって仮の冒険者ですよ。「冒険者」の適性もありませんでしたよね? それでモンスターのクエストを受けるって無理でしょう? 言ったじゃないですか、冒険はしてはいけませんって」


 赤茶色のポニーテールを動かしながら首を振り、俺を強く否定する。


「流石にわざわざ死人を作らせません。弱い事を自覚してもらわないと」


 俺の強さを否定する受付のお姉さん。ギルドカードを作った本人だからって、俺がどんな状態なのかも詳しく知っているからって、俺のクエストを受注するのは必ずこのお姉さんだ。違う受付の所に持って行っても邪魔をする。エミリやユリアに口を出されているのは確かだろうが。


「なので、仕方なく街の中のクエストを受けてください。何でも積み重ねが大切ですから」


「……はぁ」


 ため息しか出ない。クエストを受けるとランクが上がるが、このギルドではF級クエストしか受けさせてくれない。もう周りにはスライムに負けるお兄さんと周知されてしまっている。


「もっと稼げる仕事はないんですか……」


「他のクエストは受けられません……って、普通なら言いますけど、仕方ないです。特別なクエストを出してあげましょう」


「……っ!? 特別なクエストですか!?」


 その言葉に俺の落ちていたテンションが動きだす。


「稼ぎたいだけなら別にモンスターを倒さなくてもいいんですよ? E級クエストも受けられますよ?」


 そう言って俺の前に紙を一枚出す。


「これって……街の中の仕事ですよね?」


「それでもE級クエストですよ? 報酬は上がります。その分難しい依頼になりますけど」


「なるほど……」


 そうか、E級を受けさせてもらえなかったのは俺が持って行くのがモンスター討伐や採取のクエストばかりだったからか。E級にも街中クエストがあるのを見落としていたな。


「これは人を選ぶ仕事なのでこのランクなんですが、スライムさんにはぴったりです。なんと、1週間分の食費と宿代は稼げます!」


「えっ!? 本当ですか!?」


 その金額に大きく反応する。

 毎日毎日食事と宿代を稼ぐ自転車操業は辛い。これを打破できるのであれば、どんな事でもする!

 でも、お姉さんのいい笑顔に少し違和感があるが……。


「まあ、普通にしたら時間がかかる仕事なんですけどね、スライムさんなら大丈夫なはずです」


「俺なら大丈夫な仕事、ですか?」


「はい。人をかなり選ぶので受注する人がいません」


「……えっ? ちょっと待ってください? まさか、汚い仕事とか……?」


 弱いと思われている俺だから任せられる仕事とか? 無能と思われてるから言える仕事とか?


「大丈夫です、安心してください。汚くはないです。普通ならただの力仕事ですよ」


「はあ、よかった」


 流石に汚くなる仕事は衛生的にも精神的にも受け付けない。どれだけ高い報酬でも断っていたところだ。


「人を選ぶって言うのは、ここです」


 そう言って注意事項を指差す。


「……「アイテムポーチ」の魔法が使える人?」


「はい。スライムさんって、見かけによらず「アイテムポーチ」の魔法を使えますよね? だからですよ? 物を運ぶには好都合なんです」


 見かけによらずは一言多いと思う。


「物を運ぶ仕事、ですか?」


「はい、運搬業になりますね。運ぶ物は油。依頼人が桁を間違えて注文した油を運ぶ仕事です」


「……桁?」


 桁を間違えた? まあ、よくあるミスなんだろうが、それぐらいなら……。


「はい。ケタといってもびっくりしますよ? 一桁じゃないんですよ」


 そう言いながら指を1つ2つと立てる。


「金額もケタが違ったんですが、確認ミスをされましてね。気づかなかったんですって」


 ……そんな商人は、商売を辞めてしまった方がいいだろ。


「なんと、樽の数は5000個です!」


「……ご、ごせん?」


 その指定された数に目を見開く。


「ってことで、人も選ぶ仕事ですけどね! スライムさん、頑張ってくださいね!!」


 いい笑顔でお姉さんがそう言った。





「……想像以上だろ」


 想像して欲しい。バケツほどの大きさの樽が5000個ある光景を……。そんな光景見た事がないだろう。

 街の中の壁際に綺麗に並び積み上げられている。その圧力は圧巻だ。

 それよりも、この量をどうやって持ってきたんだろう。


「……やばいですね?」


「……やばいよな。これはな……まじで大失敗だよ……」


 依頼主が5000個の樽を見ながら苦笑いをしている。話し方も諦めてる臭いがして笑えない。

 それに40代ぐらいって書いてあったんだが、覇気がなくて40代には見えない。


「……こんな量必要じゃないですよね?」


「……必要ないんだよな……ホントどうするよこれ……」


 質問するたびに覇気が無くなっていく依頼主のおっさん。このままじゃ、老け過ぎて死にそうだ。


「本当は50個だったんだけどな、手違いで5000個頼んでたみたいでな……嘘だと思ったんだけどな……発注書にそう書いてたんだよな……」


「……まじですか。返品とか」


「……返品できないし。先払いで、商業ギルドの口座から引かれてるし……」


「……」


 不憫だ。手違いでそんな桁が2桁違う量を頼むとか、意味がわからないぐらい……可哀想。


「借金だよな……」


 ああ……この人も借金持ちか。それこそ桁が違うだろうけど。


 依頼主のおっさんと会ってから愚痴を聞かされている。まあ、愚痴ぐらい聞いてもいいなって思うほどオーラが可哀想だ。


「ま、まあ。とにかく運びましょうか……! 俺「アイテムポーチ」持ちなんで、さっさと運べますよ……!」


「……そうだな。やるか……。俺は空間魔法系は全くダメでな、君が来てくれて助かったよ……」


「そ、それは良かったです」


 一言一言が重く感じる。


「……俺が出せる、なけなしの金では「アイテムポーチ」を使える魔法使いは雇えなかったからな……本当に助かったよ……」


 ってことは、普通はもう少し高い報酬なのか……。でも、それを直接言われると、俺の良心を攻撃される。

 仕方ないよな……。


「……ここにも置いておけないからな……。早くどかせろって言われるんだよな……」


「だ、だったら、早くやりましょう……! さあ、さあ……!」


 このままいくと永遠に愚痴を聞かされそうなので、依頼主の背中を押すように樽の前まで移動する。


「じゃあ、俺は『アイテムポーチ』! これに収納していくんで、油屋さんは持てる分運んでください!」


「……そうだな。ちなみに、俺は油屋でもないんだけどな……」


「……すみません」


 反射的に誤ってしまったが、だったらなんでそんなに油を買ってるんだよ!!

 まあ、そんなツッコミは声に出さずに、油が入った樽を「アイテムポーチ」に次々収納していく。


「……凄いな。そんなに入るのか……」


「……みたいですね」


 思っているよりも入るようだ。余裕で大体100個ぐらいか。これなら50回の往復で行けるな。


「やっぱ、いいよな……魔法」


「……ですね」


 一言一言が気まずくなるんだけど……。

 とにかく、油の入った樽を1キロほど離れた建物に持っていく。おっさんは2個抱えて歩く。そしてその間も、


「あのさ……」


 俺に話しやすいのか愚痴が止まらない。


「俺はさ、元々冒険者みたいな事をしたたんだけどさ……それだけでは面白くないから、いわゆる脱冒険者したんだよ……」


 脱冒険者って、脱サラみたいなもんか。


「それで一発当てようと思って、油に手を出したんだけどな……」


「一発? ですか?」


 ……ん? 一発当てようとしてなんで油なんだ?


「……ああ。俺の周りにいた奴に、占いが得意な奴がいてな、辞める前にそいつに何が売れるか聞いたんだ……。そしたらこの街で油が売れるって言ったんだよ」


「……この街で?」


「……とにかくそいつの言う事を聞いて、油を買ってこの街に持ってきてもらったんだよ……。それがこの結果だ……」


 油が売れるタイミングってなんだろ? 油が大量に売れるって言うのがわからないんだけど。


「俺に商才はないんだろうな……。初めてでこれって……な……」


 まあ、このレベルのミスをしたら商才はないだろう。誰かに嵌められたと疑うぐらいだし。


「……とにかく、運び続けましょうか」


 そして何往復かした。でも、時間が過ぎるだけで樽が減っている感覚がない。移動した先には樽は増えてるから、運べてると思うしかないくらいだ。


「……この油どうしようか」


 そう嘆く様に呟くおっさん。そんな絶望した顔をするなよ、とは言えない。この運ぶ作業だけでも時間が1日では終わらないし。あと、2個ずつしか運べないおっさんは必要ない。逆に愚痴を言ってるからマイナスだ。

 しかしその言葉に一応使い道を考えみる。


「ちなみにこの油って何です?」


 ずっと話していると……いや、愚痴を聞いていると俺も態度が崩れてくる。


「……これか? これは何の油だったか……。食用らしいが……」


 らしい……って、自分でも把握してないのかよ。

 しかし、食用の油か……。


「ちなみに中身見てもいいかな?」


「……いいぞ、別に」


「じゃあ、遠慮なく」


 そして樽を開ける。


「……ほう」


 俺の口から息が漏れる。

 この油は匂いを嗅いだことがある。鼻に付くような臭いはなく、いい匂いがする。凄く香ばしい匂いではなく、優しい香ばしさがある。

 そして「アイテムポーチ」からカップを取り出し、油をすくってみた。


「……おお」


 サラサラと流れる油は黄色味がかかっているが、透明感がある。かなりの品質だ。そして、匂いと見た目と感覚でわかる。これは食用だと!

 そして躊躇いもなく油に指を突っ込み、口に咥えた。


「……っ!!」


「……お、おい。大丈夫か……?」


 俺の反応に心配そうな顔をするおっさん。しかし、俺の反応は心配するような反応ではない。

 その油の質に俺は確信した。


 勝手に舐めた事はお咎め無しなんだな。


「大丈夫。ふふっ……わかった」


「……そうか。それならいいんだが。わかった……って?」


 俺の言葉に疑問を持つおっさんだが、そんな事はどうでもいい。俺の頭の中ではある一つの物が思い浮かんでいる。そのせいか、俺の口調も単調になる。


「気にしなくていい。食用ってわかっただけだから」


「……そうか」


 舐めた瞬間に感じたのは俺はこの油を舐めた事がある。いや、舐めた事があるレベルではなく、日常的に使っていた。この味に匂い。油の色に質。


「ふふっ」


 笑いが溢れる。

 そう。これは植物性油だ。何から搾った油かはわからないが、確信を持てる。


「……笑ってる?」


 急にニヤつく俺を見て変な顔をしているおっさん。まあ、仕方ない。これを見たら顔もニヤつくだろう。

 油とは偉大な材料である。ある人も言っていた。「揚げたら大体のモノは食べられる」と。油へピョーンだ。つまりあの無人島で油があれば、俺はアメーバーで死んでいなかったわけだ。

 まあそれは置いておいて、俺の頭には揚げ物が浮かぶ。フライドポテトに唐揚げ。天ぷらにトンカツ。


 そして、俺のソウルフードである「串カツ」だ!


「……食いたい」


「……ん?」


「食いたいぞ!!」


 俺は叫ぶ。


「……っ!? ど、どうした急に!?」


 俺の急な行動に驚くおっさんだが、俺の思考は油と串カツに持っていかれていた。

 ソウルフードとは、魂の食べ物だ。俺が欲している物がソウルフードである! そしてあの味を思い出すと食べたくなる。それがソウルフードである!!


「俺は串カツを食べる!!」


 そうだ。目の前に油が、材料があるなら作らない手はない!

 無いなら自分で作ればいい!


「……お、おい。何を言ってるんだお前は……?」


「いい、いい。気にしなくて。とにかく運びましょうか!」


 側から見たら変にテンションが上がっている俺を変な目でおっさんが見ている。しかし、そんなの関係なしに俺は油を運ぶために樽の元へ向かう。それについてくるおっさん。


「さて、早く終わらせるにはどうするか」


 目の前に立ちはだかる油が入った樽の山。これを同じように運んだとしても1日以上は確実にかかる。なら、どうするか……。


「持てる量を増やせばいいんだな」


 そして俺は全力で「アイテムポーチ」を使用する。大抵の魔法は魔力が多ければ多いほど強くなるらしい。なら、魔力を込めれば俺の「アイテムポーチ」も容量が大きくなるはずだ。

 そして、樽を収納していく。集中して大量に入るように。


「……あ、あんた。「アイテムポーチ」じゃなくて「アイテムボックス」まで使えるのか……?」


「ん? 「アイテムポーチ」だけど?」


 俺の魔法に驚きを隠さないでいるおっさん。

 まあ、結果500個入ったからさっきの5倍だ。気合でなんとかなるもんだな。


「って事で運びましょうか!」


 驚くおっさんは放っておき移動する。魔力が常時減っているが、なんて事ない。それほど俺の魔力は多いんだと自覚する。


 それを数往復したら……。


「……よし、完了!」


 そして、予定の10分の1の時間で運び終える事ができた。

 見事に並んだ5000個の樽はやはり圧巻である。よく運んだものだな。


「凄いな……こんなに早く終わるとは……。2日以上は確実だと思ってたんだが……」


「って事で、時短で終わらせた俺に追加報酬をくれないですか?」


「……はあっ?」


 金が無いと言っていたおっさんに追加報酬を強請る俺に、口を開けて固まるおっさん。

 まあ、報酬は元々少なかったんだしいいじゃないかな?


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺には追加報酬を出す金が無い! それはあんたも知っているだろ!?」


「ああ。だから、別に金じゃなくていい」


「……そんな事言ったって、俺には油しか……」


「そう! そうだよ! 油でいいんだよ! その油が俺は欲しい!」


「こ、こいつをか……!?」


 5000個並んだ油を見るおっさん。ちなみにそれ、5000個はなかったよ? 数十個足りなかったし?


「ダメか? そこまで大量にあっても邪魔なだけだろ? 金じゃなくて現物なら目の前にあるからいいと思ったんだけど?」


「……いや、いいんだが。逆にあんたが油でいいのか?」


 俺が油を欲しがる事に疑問を抱くおっさん。


「ああ! 俺は油が欲しいって言ってるだろ? それで満足だ。って事で5個ほど貰っていいか?」


「……あ、ああ。持って行っていいぞ。それぐらいの分は余裕で働いてくれているしな。俺にとっては安上がりだからな。もう少し持って行ってもいいぞ……?」


「そこまではいいよ。今のところは多すぎても必要無いし、また貰いに来るよ! 次は少しは金払うから」


 内心、今は金がないからそれだけでも貰えると助かる。


「……そうか。ならいいんだが。そんな量何に使うかわからないが、お得意さんになってくれれば助かるよ……」


「そうだな。頑張ってみるよ! って事で、お疲れ様でした!」


「おお。ありがとな! 助かった……!」


 油が片付いたことで、少し元気になったおっさんに依頼完了の印鑑を押してもらい、足早にギルドに結果報告を済ませに向かう。

 ギルドの受付のお姉さんは早すぎて驚いていたけど、依頼書を見て納得した。

 しかし、そんな事よりも俺は油で揚げる事だけが頭を埋め尽くしていたから、ギルドも足早に立ち去る。


「待っている。俺を串カツが待っているんだ!!」



      

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