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魔王は倒せるが、スライムが倒せない 〜最強魔王も倒せるけど、スライムが倒せないってどういうことですか〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第1章「不死の魔王」

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19話 魔王撃退の功績



「はい、スライムです」


 ユリアは笑顔でそう答えた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!? なに!? お前マジ何やってんの!?!?」


 その唐突なユリアの行動に慌てふためく。

 両手で頭を触るが相手は液状、掴むこともままならない。だったら頭を振る。降った勢いで飛んでいけばいいと、ヘドバン並みに動かす。

 しかし、そいつは一向に落ちる気配は……あれ? 取れてる!?


「やっぱり、当たってましたね。お兄さんそれ、ただの水の塊です。私の魔法ですよ?」


「……え?」


 その言葉に動かしていた体が止まる。


「それって、どういう……」


 俺の言葉にユリアがニコッと笑いながら答える。


「先程スライムを出したのは半信半疑でしたが、これで確信を得られました」


「……うそ、だろ?」


「これからはスライムですね!」


 なにぃぃ! 嘘だろ! やらかした!! 半信半疑だって……今確信を得たって……! 

 同じ罠に引っかかってるじゃねーか! 弱みを握らせないって言ったそばから!! 何やってるんだよ俺!


「ユリア、お前……」


「あっ、ちなみに本物のスライムも持っていますよ?」


「っ!? そ、それをどうするかは……」


「聡明なお兄さんなら、わかりますよね?」


 そう笑うユリアの笑顔は黒かった。


「……はい。わかりました……」


 その瞬間ユリアが満面の笑みになり、


「エミルアリス様ー! 修理代の目処が立ちましたよ!」


「ちょっと、ユリ……、くそぅ……」


 俺の言葉を無視しながらエミリの方に大声で叫んでいった。

 その素早い行動に俺はついていけない。


「……本当ですか! それは良かったです! 今の国の財政はあまり良くなかったので助かります!」


 騎士達と話していたにも関わらず、そう言って俺の方に向けて凄い笑顔を見せるエミリ。その姿に俺は口を紡んでしまう。

 いや、断れる。断れるはずなのに……。この笑顔を向けられるとなんで俺は断れなくなるんだよ!


「まあ、さっきのは殆ど冗談ですけどね」


「え? 冗談……?」


 俺がこれからどうするかで悩んでいるとユリアが笑顔で言った。


「お兄さんが屋台ですぐに大金を手に入れられるとは思いませんが、また違う魔王は倒せる可能性は大きいですよね?」


「……え? ああ、まあ」


「もし、その時大金を手に入れられたらこの国に少しでもいいので寄付していただければ、エミリも喜びます」


 成る程な、そう言う事ならいいか。

 それにユリアは俺に期待をしてくれてるのは嬉しいからな。


「わかった。命を助けてくれた礼はそれで返すよ。期待されるのも嬉しいからな」


「お兄さん、ありがとうございます!」


 ユリアが笑顔で頭を下げる。


 しかし、何か綺麗に丸められた気がする。何でだろうか? まあ、全額払わなくていいだけマシか。


「其方、頑張るが良いぞ!」


「だ、ま、れ! お前も手伝うんだよ!」


 自分には関係ないみたいな口調でそんなことを言う幼女の頭を片手で鷲掴みにして力を入れる。


「痛い、痛いのじゃ! それはやめるのじゃ!」


 涙目で俺の手を叩く幼女。しかし、俺は力を一切緩める気はない。

 お前は絶対にこき使ってやるからな!


「じゃあ、お願いしますね」


 そしてユリアがエミリの下に走って行く。


「ここで話しているのもお疲れになるでしょう。エミルアリス様、街に入りましょう。勇者様方にも報酬を渡していませんし、あの方にも……」


「そうですね。わかりました。皆さん、街に戻ります!」


 そう言ってエミリとユリアは俺の方をちらっと見てから街に入っていく。

 瓦礫の山を避けて門に入る一行。

 その後ろを俺もついて行く。


「ゆ、勇者様だぁ!!」

「勇者様が帰って来たぞ!」

「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」


 街に入った瞬間に街の人達の声が響き渡った。


「「え、えっ?」」


 急な声に驚くエミリと勇者一行。

 しかし俺にとっては当たり前の歓声。

 魔王を倒した勇者が帰ってきたらこれぐらいの歓声があるのは当たり前だろう。


「王女様と騎士様達もよくぞご無事で!」

「流石勇者様だ! ここまで来た爆風でビビっていましたが、勇者様が帰って来たということは!」

「勇者様が魔王を倒したぞ!!」

「「うおぉぉぉぉぉ!」」


 さらに盛り上がる。

 爆風……。そうか、俺の凄さもみんなに伝わったのか。あの爆発は中々だったもんな。

 それに魔王をぶっ飛ばしたのは俺だとみんな見ていただろうし!


「妾は倒されてないんじゃが……」


「お前は黙ってろ」


 さて、ここから俺の凄さが世に広められていくわけか。ここから俺の本当の異世界生活が始まるんだな!

 さあ来い! 俺を崇めまたまえ!


「さあ勇者様方、こちらに!」

「宴の用意をしますので、王女様もご一緒に!」

「「勇者! 勇者! 勇者!」」


 そして、健治達とエミリ達が連れられて行く。


「み、皆様……!? お、お待ちくださ……」


「大丈夫です王女様! 今回は死人がいないのです! 皆祭をできるぐらいの怪我ですから! それに祭りの準備はすぐにできますので! 王女様と勇者様は待っていてくだされば!」


「いや、そうではなくて……」


 エミリとユリア達が町の人たちに囲まれる。


「お前らぁ! 祭りだぁ!!」

「「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」」


 そして門の前がとてつもなく騒がしくなる。


「……あれ?」


 しかし俺は戸惑ったまま。


「勇者様も! さあ、さあ!」


「……え? いや、あいつは……」


「行きますよ!!」


 有無も言わさず手を引かれ強制的に連れていかれる健治達。

 街の人たちには健治達以外、つまり俺は全く目に入ってないように見えた。


「……あっ、お兄さ……」


 一瞬エミリとユリアがこっちを向いたが、一瞬で囲んでいる人達で見えなくなる。


「ちょっ、ちょっと……」


 エミリ達と健治達勇者一行を囲みながら街の人達が広場へと向かっていく。


「祭りだぁ! 祭りだぁ!! 魔王撃退祭だぁ!!」

「「「うおぉぉぉぉ!!」」」


 そして騒がしい声が徐々に遠のいていき、俺と元魔王だけがその場に取り残されていた。


「……何でだよ!!」


「やはりあいつが勇者じゃったか」


「お前は冷静に考えてるんじゃないわ! というか、意味がわかんなぇよ!!」


 えっ、何で!? 俺が魔王を倒した勇者ですよね? 健治は魔王に押されてたし、途中で出会った魔王のモンスターと相手していただけですよ? 俺じゃなくて何であいつが連れて行かれてるの!?

 頭の中の整理がつかない。どう考えてもあいつができるわけがないだろ!


「ん? おう、兄ちゃんじゃねーか。こんな所で何してるんだ?」


 2人残されて叫んでいたところ、知った声がかかった。


「……あ、ハマンドさん」


 隣の八百屋のおっさんだった。


「みんな広場でお祭り騒ぎだぜ? それに……ん? その嬢ちゃんは、初めて見たな? 兄ちゃんの妹か?」


「いや、妹ってわけではないが……」


「妾はアルデミスじゃ!」


 元気よく自分の名前を言う幼女。やっぱりこいつ頭も幼女化しているだろ。


「そうかそうか。元気がいい嬢ちゃんだ。でもな、今撃退した魔王の名前を名乗っちゃダメだぞ?」


「何を言っておる? 妾が……むぐっ!?」


「おまっ! す、すみません。この子アホな子で」


 また暴走しそうな幼女の口を慌てて押さえる。


「あんた、兄貴として教育はしっかりしたほうがいいぞ。まあ、それよりも、あんたも来るだろ? 今からのお祭りはあんたの串カツがあった方が盛り上がるからな!」


「串カツかっ!!」


 俺の手から逃れ、串カツという言葉に声をあげる幼女。


「おう! うまい物があれば盛り上がるからな! 嬢ちゃんもうまい物食えるぞ! さあさあ、行くぞ!」


「ちょっ、まっ……」


 俺の手を引っ張って行く八百屋のおっさん。


「妾も楽しみじゃ!」


 元気にるんるんと擬音が見えるように歩く元魔王。


 そして俺は八百屋のおっさんに連れられて広場へと向かった。


 そこでの祭りは俺が祭りのメインとなる事なく、串カツのスライムさんとしてその場で永遠に串カツを揚げさせられ、幼女は永遠に串カツを食べ続け、祭りは夜まで続いた。


 楽しそうに食べているエミリとユリアに対して、疲れ果てた顔をしている勇者達は割と見ものだったけど。

 絶対王都でおもてなしされてる方が良かっただろう。


 そして俺の魔王討伐は歴史に残ることはなかった。




 

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