13話 「不死の魔王」①
飛んで行った魔王を追いかけ、跳ぶ様に駆ける。
ただ走っているだけなんだけど、思っている以上に身体能力が上昇している。ここに来る前の数十倍の力になってるだろう。測りきれないその強さを感じるだけでも楽しい。
しかし今のところまともにモンスターと戦っていない。前の魔王の時は初めての事ばかりで何も考えてなかったし、スライムには何も通じなかった。そう考えれば、この魔王はちょうどいいかもしれない。
前の魔王は剣をメインに使う魔王だった。今回の魔王は確か、魔法が最強とか言ってたな。まあ、俺も魔法はそこそこ自身はある。
「……そう言えばさっきの魔王、妾って言ってたよな。まさか女性型モンスターか? 魔女の魔王と言ってた気もする」
登場時の爆発音とローブと威圧感で、あまり気にせずはっきり見てなかったけど、そう言えばシルエットが女性ぽかった気が……。
もし女性の人型だったら抵抗は生まれるだろう。でも、ここまで来たらモンスターと割り切ろう。
そんな事を考えながら走っていると、門を出てから少しして目の前の異常さに気がつく。
「うわ、なんだあの数」
目の前に数百以上の大群のモンスターがひしめいていた。それにアンデットなどの暗い系のモンスターで、ここまで大量にいるとかなり気持ち悪く感じる。
そして目を凝らすとそのモンスターの上……空中に、吹き飛ばしたはずの魔王が浮かんでいた。
漆黒のローブに身を包み、漆黒の髪をなびかせ、漆黒の瞳で俺のことを見据える女性。
「うそだろ……」
俺はその光景に絶句する。
遠目でもわかるその美しい見た目……ではなく、
「……そ、空を飛べるって! うらやましすぎる!」
俺の思考は空を飛んでいることに持っていかれていた。
当たり前だ。空を飛ぶ事は人類の永遠のテーマだ!
自分で空を飛ぶのさ当たり前。モンスターに乗って飛ぶのも憧れる! ドラゴンの背中とか夢だ! とにかく人間は飛びたい生き物なのだ。
そんな事に思考を奪われていると、
「ふはははっ! 妾を吹き飛ばすとはな! 凄まじい威力だったぞ? 油断しておったわ」
俺を見ながら話し始める魔王。
あっ、よく見ると割と美人だ。モンスターだし美人とか関係ないけど、普通に人間らしい見た目。
魔法を使う人型モンスターなら、リッチーだろうか?
リッチーにしてはイメージよりも人間味がある感じがする。結論、魔女だ。
「貴様とも戦うのは面白そうじゃが、妾は勇者に用があるからのう。さっさとあの勇者を倒して帰るのじゃ。じゃから貴様の相手はこやつらに任せるとしよう」
そして魔王が手を振る。
「『死霊の軍勢』! これだけあれば充分じゃろ」
魔王が発動した魔法により、魔王の下でゾンビ等のアンデット系のモンスターが大量に召喚される。
元いたモンスターに加えてより圧迫感が生まれる。
総数は数えきれないほど。千は超えてるんじゃないだろうか。
しかし、こいつらが俺の相手をするようだけど、俺は魔王に用があるんだよな。
「……ちょっと待って。あんたを倒さないと俺の強さが証明できないので、あっちには行かないでほしいんだけど……」
そうつぶやいてみるが、
「そいつを倒した奴には褒美をやろう! やるのじゃ!」
「「オォォォォッ!!」」
「聞いてないか……」
そして指示を出された大量のモンスターが一斉に動き始める。
叫びながらすごい勢いで向かってくる大量のアンデットは、普通に気持ち悪い。
……とにかく吹き飛ばすか。
「『超炎熱砲』!」
右手を前にかざし熱の破壊光線を発射する。
モンスターの大群の右端に命中した熱の塊は一瞬でモンスターを消滅させる。
しかしそれで終わらず、右から左にかけて動かしていく。
すると一瞬でその場にいるほとんどのモンスターは溶けていなくなった。アンデットでもしっかり効いたようだ。
「こんなもんか」
この魔法は本当に掃除が楽で素晴らしい魔法だ。
難点はその場が高熱によって炭素化して何も残らない事か。自然環境破壊が凄まじい。
「グ、ゴォォォ……」
まだ生き残りはいる様だ。だったら……。
「ほう、『超炎熱砲』を使うとは。『魔導王』の一度きりの能力をこの場で使うか……ふははっ! その思いっきりの良さは気に入った!」
「『撃雷の暴風』!」
「ふん、ただの上級ま……なっ!?」
上空からモンスターに向かって雷の雨が降り注ぐ。
さっき見たから使ってみたかったんだよな。雷ってかっこいいし。それにこの魔法、雷が落ちる場所をある程度は指定できるのか。便利だな。
数発雷を降らせると、魔王を残しその場のモンスターはいなくなった。
「ふっ……ふはははっ! 貴様、やはり『魔導王』じゃな! ただの上級魔法をここまでの威力で放つとはさぞかし魔力も豊富と……! ああ、なる程。この威力、貴様があの剣魔の小僧を瀕死にさせた勇者じゃな?」
魔王がこっちを見て確信を持ったように叫んだ。
でも、その言葉にちょっと気になることがあるんだけど。
少し質問してみる。
「えっと、剣魔の魔王ってわからないけど、あの剣を使ってた魔王を倒したのは俺かな? でも瀕死ってことはあいつはまだ生きてるのか?」
「ほう、やはり貴様か。ふっ、あいつなら生きておるぞ? まあ、妾が訪ねていなかったら死んでたかもしれぬがな」
健治達が戻ってきてからの話を聞いていたら、あの魔王は倒せてなかったと薄々気づいていたが、こうしっかり言われると倒し切れなかったことがちょっと悔しい。
最後の最後に転移させられた事で倒し損ねたってわけか。あの側近め、やってくれたな。
「妾が小僧の城に言ったらほぼ全壊しておったから何事かと思ったのじゃが、貴様がやったと言うなら納得ができる」
そう魔王が納得してるけど、あの崩壊はほとんどあいつ自身がしてた気がする。
「それは良いとして、あんたの目的が勇者って何か理由があるのか? 魔王ってあまり自分から攻めないって聞いたんだけど?」
ふと、思っていた疑問をぶつける。
しかしその答えは、
「ん? 何を言っておる? 妾が育てたあの小僧を瀕死まで追いやった勇者なら、楽しめるじゃろ?」
あー、こいつも戦闘狂か……。ただ、戦いたいだけか……。育てたって、この師だからあいつが生まれたって事か。納得する。
「貴様がその勇者だと理解した。なら、さっさと始めようか? 妾は楽しみたいのじゃ!」
ほらー、何かあいつとセリフが似てるし! 目が真剣になってるから!
そして魔王の魔力が膨れ上がる。
「ゆくぞ! 『断絶の氷麗』!」
気温が一瞬下がり、氷の塊が俺に向かって飛んでくる。
これはさっきの技か。これも上級魔法ってやつだよな。前の魔王の魔法の中にあった。
「ふっ、「魔導王」なら「地獄の業火」で焼き尽くすか? しかしこれは威力を上げ、先程とは違うぞ! 生半可な……」
「『超炎熱砲』!」
魔王の言葉を遮る様に俺は魔法を放つ。
温度が全く違う2つの魔法が衝突し、一瞬で溶けた氷は気体となり、その場で水蒸気爆発が起きる。
この魔法は熱量が半端ないからな。初めて見たよ、水蒸気爆発。まあ、あれぐらいの魔法なら「絶永結界」で余裕なんだが。ちょっと魔法戦を楽しみたい。
「ぬっ……!?」
水蒸気爆発による煙が晴れる。
なぜか魔王が驚いているんだけど。それほどの威力だったか?
まあ、さっき何百ものモンスターを一掃したからレベルも割と上がっているんだろうけど。ピコンピコン鳴ってたし。
「貴様、「超炎熱砲」を2回放ったのか……? まさか「魔導王」ではなく……「大賢者」か! そう考えれば一部炭素化していた魔王城も納得できるが……。人族の若者が「大賢者」じゃと……?」
「何を驚いているかわからないけど、行くぞ!」
そして俺は「アイテムポーチ」から「傲魏」を取り出す。
「っ!? その剣は……!」
地面を蹴り上げ魔王の近くまで跳び上る。そして構えも無く、魔王に向かってただ横に振り抜く。
「『死之斬撃』!」
「なにっ!? ぬあぁっ!!!」
その剣技は振りぬいた直線状を消滅させる。『龍轟一閃』より射程距離が短いのが難点だが、消滅させる力なら強い。
しかし、魔王には避けられる。
「その技は! 貴様、なぜその技を使える!!」
「なぜって? それは俺が最強だからかな?」
ふふっ、言ってしまった。異世界に行ったら言ってみたかったセリフがやっと言えました。
そんな事よりも、俺はそのまま自由落下していく。
飛ぶ魔法がないってのは難点だな。
「意味がわからぬ! なら貴様の中身を見るまでじゃ!」
その瞬間俺の周りに何かがまとわりつく様に感じ、
「『精神支配』! ジェミラの奴が作った魔法じゃが、妾の方が数段上手い使い方を……」
前の戦いで一度喰らった魔法を魔王が放つが……。
あ、やっぱり聞こえたよ、「レジストしました」って。
「効かないな」
「な、んじゃと……!?」
落ちながらだけどかっこつけてみる。
「さあ、次も行くぞ! 『破滅の死雨』!」
「ぬなっ!?」
剣を振り下ろし魔王の上から斬撃の雨を降らせる。
落ちながらだと『死の斬撃』は届かない。なら、最恐の剣技があるじゃないか。
これが魔王を瀕死に追いやった技で、魔王から頂いた技だ。
「くそっ! 『幻想の朧火』『断絶の氷麗』! くっ、『追撃の残影』!」
しかし魔王は「破滅の死雨」を避ける為に連続して魔法を使う。
自分を魔法で何重にも姿をブレさせ、複数の氷塊を今までの何倍もの数で放つ。それに加えて氷塊の影までもが氷塊になり、大量に降り注ぐ死雨に対し物量で押し返している。
そして、消滅の斬撃の数を減らし、その場から離脱した。
……まじか、全て避け切ったぞ。
「これが、魔法か……」
相手が放った魔法に対して称賛の声が自然と口から漏れる。
魔法を上手く使うというお手本みたいだ。
全て避けられるとは思わなかった。
「はあ、はあ……なんじゃそれは! その技もあいつの剣技じゃ! わからん「大賢者」に剣技が使えるわけが……」
俺も自由落下から無事に地面に降り立つ。
ああ、飛べるのはうらやましいな。飛んでいるところを見るだけでは「大賢者」は発動しないらしいし。詠唱か使う瞬間を見ないといけないのか。
「……まさかっ! いや、まさかな。流石に人族が複数の種類の能力を極められるわけがない。しかし、そうでないと辻褄が……」
何か知らないが魔王がぶつぶつ言ってる。その距離はここからじゃまた跳ばないと届かないんだけどな。いや、直線だったらいけるか。
「降りてこーい。『龍轟一閃』!」
俺は剣を振り下ろす。
「……っ!! 『堅凱の岩城』! ぬっ、なぁぁぁっ!」
俺の一撃を受ける為に魔王は空中で一瞬で岩の壁を作り防ぐ。
受けられたか。でも、少しはダメージが入っただろう。魔王が腕を軽く押さえている。
「くっ! 受けきれんか……。しかし、これで確信を得たぞ! 『龍轟一閃』。『剣豪』の能力で一度しか使えない剣技をこんな簡単に無造作に使うとは普通ではありえぬ。なら『剣聖』の能力が使えるというわけじゃ! はっはっはっ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 妾の生涯で2つの能力を極めている人族など初めて見たわ!」
うわ、喜んでるし……。なんか褒め方もあいつとそっくりだよ。この顔で戦闘狂って美人でも引くぞ。
「今世紀、いや、これまでの歴代勇者の中で最強の勇者か! ふははははっ! これは楽しすぎるではないか!」
こいつ、余計喜んでるんですけど……。
「久々に妾も全力で戦える、なあっ!」
その言葉と同時に魔王の魔力が膨れ上がる。
流石にここまで来たら何も考えていない俺でも、こいつのやばさをビンビン感じる。この魔力の上昇の仕方もあの剣魔の魔王と似すぎだ。
「しかし、なぜ貴様は飛ばない? 『大賢者』が飛べないわけがなかろう。地上よりも空中戦の方が魔法も剣技も使いやすいはずじゃが」
いや、その魔法知らないので飛べないだけです。
「まあよい。それよりも妾の全力を受けてみよ! 極大魔法じゃ!」
そして魔王は嬉しそうに叫んだ。
その瞬間、
「……っ!!」
空気が震えた。
魔王から放たれるだろう魔法は、先程使った魔法とは次元が違うとわかる。初めて「死の斬撃」を見た時と似たレベルの寒気が全身を駆ける。
空気が一瞬で凍りつく温度に下がり、この付近一帯が一瞬にして凍土と化す。
それがまだ魔法が放たれていない状態でだ。
魔王から集められたエネルギーがあふれ出す。これに対処するにはいつもの様にただ使うだけではダメだと勘が言っている。
「どう対処するのか見ものじゃ!!」
俺も右手に魔力をためる。ここで初めて、魔法の感覚を理解する。
どの魔法を使うのかでその過程が変わる事に気づく。『魔導王』による『超炎熱砲』は極大魔法であり、それは放つことでただ単に環境を破壊するわけではない。その魔法を使わずしてもそれを使おうとするだけで周りに影響が出る。ただの予備動作で自然現象を変える。
今まではただ魔力があるから簡単に準備もせずに使っていた。だが、今の俺の周りがその熱量に燃え、炭素化し、凍り付いていた空気を溶かし、燃やす。
「『絶対零度』!」
「『超炎熱砲』!」
魔王が魔法を放つと同時に俺も放つ。
そして俺と魔王の間で激しく衝突した魔法は、威力を相殺し合い、起こるはずの爆発が起こらず、収縮し、一瞬の激しい光を放った。




