12話 新たな魔王
「どやつが勇者じゃ?」
1人で立っている黒いローブを着た魔王と名乗った奴の声が響き渡る。
声だけで俺が知っている魔王ではないとわかるが、この魔王は単身で来たのだろうか?
「誰も答えんか……では妾が向かうとしよう」
突然の出来事に誰もその場から動こうとしない。いや、動けないのだろう。動いているのは魔王と名乗った奴と俺だけだ。
門があった場所から魔王が少しずつ歩いて近づいてくる。
「い、今魔王って言わなかったか……?」
「魔王って……」
誰かがそう言った。その瞬間。
「う、うそだ! うそだぁぁ!!」
「ま、魔王だぁぁっ!!!」
「「「う、うわぁぁぁぁ!!」」」
「「「いやだぁぁぁぁ!」」」
広場がパニックになる。その場から逃げようとする人々。王女と勇者で人が集まっていた為、かなりの人数がいる広場が騒然となる。爆発的に恐怖が広がっていく。
「み、皆さん。お、落ち着いてください! ユリアリア! 騎士達! この場をどうにか治めます!」
「わかってます! ですが、このような事態、対処したことが……」
「そ、それよりも、王女様とユリアリア様はお逃げください!」
騎士の誰かが叫ぶ。
「何を言うのですか! 民が逃げ惑う中、わたくしが一番に逃げるなどできません! とにかく、落ち着かせて避難経路を……」
「間に合うわけがありません! お逃げください王女様!」
「その通りです、エミルアリス様! その騎士の言うことを聞きましょう! あなたはこの国の王女ですよ!」
「しかし、ユリアリア……」
「ご安心ください王女様! 俺達がどうにかします。王女様は言う通り逃げてください!」
国民よりも先に逃げる事を渋っているエミルアリスの前に健治が声を上げる。
そして勇者である健治がエミルアリスの前に跪き剣を抜く。
「け、ケンジ様……!?」
「新しい宝剣も授けてくれました。俺に任せていただけないでしょうか?」
「け、健ちゃん何言ってるの!? その状態で、片腕だけでは無理だよ!!」
「そうだぞ健治! お前は何言って……」
「仕方ないだろ! あの魔王は勇者目当てで来ているんだ! ここにいる勇者は俺一人! やらないとこの街が終わるぞ!!」
「うっ……そうだが」
「でも、健ちゃん……」
「わかってる、俺だってわかってるよ! でも、やるしかないんだよ!! 王女様! ユリアリア様! 俺が行きます! だから必ず逃げてください!」
「わ、わかりました」
「この宝剣にかけて必やあの魔王を打ち取って見せます! 行くぞ!」
「う、うん」
「あ、ああ」
そして健治達が魔王に向かって駆けていく。
その様子に周りの人々の様子も変わり始める。
「そ、そうだ! この街には勇者様がいるんだ!」
「勇者様だ! 勇者様が助けてくれるぞ!」
「「勇者! 勇者!」」
逃げていた人々がその場で立ち止まり勇者コールを始める。
「そんな所で止まらないで、逃げてください!!」
それに対して健治が人々に叫びかけながら、近づいて来ていた魔王の前までたどり着く。
「おい、魔王! 俺が勇者だ!!」
健治が声を放つ。勇者を探していた魔王がその声に反応し、健治を見る。
「ほう、貴様が勇者か? あの小僧をあそこまでしたのじゃ。期待をしておるぞ?」
「ああ、直ぐにお前もあいつの様にしてやる!」
健治達が剣を構える。
その健治に対して黒いローブを着ている魔王が笑う。
「ふははははっ! それは楽しみじゃな! では、貴様の実力を試してみようか! 小手調べじゃ『地獄の業火』!」
その声と同時に魔王の魔力が膨れ真上に巨大な炎の塊が現れる。
「なっ! 上級魔法だと!? ……くそっ! 早紀、合わせるぞ!」
「うん、健ちゃん! いくよ!」
「「『水城の堅牢』!」」
魔王から放たれた巨大な炎の塊に対抗する様に健治達は水による壁の盾を放ち、両方が衝突する。
その瞬間、激しい水蒸気が一帯を埋め尽くした。
「ほう、流石に小手調べでは食らわんか。では次じゃ」
魔王が笑い次の魔法を放つ動作をする。それに対し健治達はたった一発の魔法だったが、肩で息をする程消耗している。
「な、なんだよ今の威力は……やばすぎるだろ……。大丈夫か早紀!」
「だ、だめ。こっちも上級魔法を使ったんだけど……今ので魔力の半分使った」
「嘘だろ……」
「け、健治どうする。このままじゃ……」
「作戦会議中か? 妾は待たんぞ? 『撃雷の暴風』!」
「なっ! また上級魔法だと!?」
魔王による広範囲に雷の嵐が吹き荒れる魔法が放たれ、雷が降り注ぐ。
健治達はそれに対して一瞬動きを止めるが、すぐに剣を構えて叫んだ。
「雅人ぉぉ!! 全部打ち落とすぞぉぉぉ!! 『ライトニングソード』!!」
「無理に決まってるだろ!! くそがぁぁぁ!! 『ディバインブレード』!!」
「私も守るわ! 『結界・豪』!」
雷を全て撃ち落とすつもりで健治と雅人と呼ばれた青年が剣を振る。それから漏れた雷を薄い水色の結界で早紀が受ける。しかし、全部受けきることはできない。逃げ遅れている人や騎士に降り注ぐ。
「くそっ! 受けきれねぇっ!!」
「うわぁぁ!!」
「きゃぁぁ!!」
「ぐわぁぁぁ!!」
エミルアリスの周りの騎士達もその攻撃に対処するが、受けきれず被弾していく。
「王女様! お逃げくだ……ぐあぁぁ!」
エミルアリスの近くにいた騎士にも被弾した。
あー、これはちょっと2人に当たるとやばいな。即死レベルの攻撃では無いのが救いだが、当たると瀕死だろう。
俺はは静かにエミルアリス達に近づく。
しかしこの魔王が即死レベルの魔法を使わないのが疑問だが。
「うそ……騎士達が……」
「エミルアリス様! 早くここから逃げま……」
「大丈夫か2人共?」
2人に声をかける。
「わあ!? えっ、お、おにーさん!?」
「っ!? 何で急に!?」
俺が「隠密」により近づいていた事がわからなかったようで、2人は驚いて俺を見た。
「この状況かなりやばいよな? どうにかしないと」
「そうですけど……って、おにーさん! まだここにいたのですか! 早く逃げて! あなたはとても弱いんだか……」
「ちょっ、ちょっとエミルアリス様!? この方にはまだ私達があの2人だってわかって……」
「おいおい、王女様方。言葉遣いが戻ってるぞ? あと、逃げてもこの街の中だし逃げ場はないだろ?」
「……えっ? 何言って……」
「それより、エミリって王女様だったんだな、エミルアリス様」
「っ!!!! どうして……」
俺の発言にユリアが声を上げる。
「ユリア……ユリアリア様も、王女様の側近だってな」
「お、お兄さん……いや、やはりと言うべきですか。あの目線は私達に気づいていたのですね。どうしてバレたのでしょうか……」
「バレたって、何かしてたのか?」
「えっ……?」
俺の指摘に目を開くユリアリア。
「まあ、わからないけど、王女様って知ったのはさっきだぞ? それまで王女様の存在も知らなかったし」
「知らない……?」
俺の言葉に意味がわからない様に驚き続けるユリアリア。
「まあ、王女様って言うのはまた後で聞くとして。それよりもこの状況をどうにかしなダメだろ? 大丈夫じゃないよな?」
「そ、そうですよ! だからおにーさん早くここから……」
「俺があの魔王を倒したら、確実に強さを示せるよな? そうだよな?」
エミルアリスに被せる様に投げかける。
こんなチャンスは滅多に来ない。あれが魔王ならいいタイミングだ。
しかし、ユリアリアは睨む様に俺を見た。
「はぁっ!? こんな時に冗談ですか!! 流石にこのタイミングでは怒りますよ!!」
ユリアリアが怒ってしまったが、俺は止めない。
「冗談じゃないから。とにかくあの魔王って強いよな? 俺でもわかる強さだし」
「強いも何も! あいつは魔王アルデミスと名乗りました。だとしたら最強の魔女の王「不死の魔王」ですよ! この世の中に倒せる者は聖なる勇者しかいません! 強いってどころじゃないんです! 倒すことなんてできません! わかりましたか! だから早くあなたは……っ?」
「……ん?」
ユリアリアが怒りながら話している途中、ふと周りの空気が変わったので魔王の方向を見る。
「くっ、くそっ……」
「ふむ、これは受けきれんのか。ふむ、おかしいのう。このレベルであの小僧を瀕死にまで追いやったのか? まあ良い。期待外れじゃ。では、さっさと終わらせるとしよう。『断絶の氷麗』!」
そう唱えた魔王の周りに百をも超える1メートル程のつららの様な氷塊が浮かぶ。
「なっ……嘘だろ……」
「こんな連続で上級魔法を……健ちゃん……」
「この数は……守り切れないぞ……」
「これで終わりじゃな。さて妾は城へ戻るか」
そして氷麗が放たれる。
「くそっ!! 受けきれ……なっ!? ……うそだろ! 王女様の方に!!」
その迫る氷塊を受ける健治達だが、全て受け切れない。
「王女様ぁっ!!」
しかし全てが健治達に向かうわけではなく、こっちに向かってくる。
やるか……!
「えっ……うそっ! エミルアリス様!!」
「きゃ、きゃぁぁぁ!!」
俺はエミルアリスとユリアリアの前に立ち発動させる。
「『絶永結界』!」
俺に向かう大量の氷麗は結界に当たり消滅し、周りや地面には氷の塊が突き刺さる。俺の後ろにいる奴はもれなく助かる様にはした。
よし、これでいけるな。
「えっ……これは……」
「お、お兄さん……?」
「おっけー、わかった。俺があいつを倒して来る。そしたら俺が強いことを示せるよな?」
指を鳴らしながらエミルアリスとユリアリアに言う。
あの魔王を倒せたらやっと今まで言ってきた事が真実にできる。有言実行ってやつだ。前の魔王も倒せたしこの魔王も倒せるだろう。
「じゃあ! 行ってくる!」
「お、おにーさん!?」
「ちょっ、ちょっと……っ!」
2人に左手を軽く上げたあと、「瞬動」を使い一瞬で魔王の前まで移動する。
「む、手元が狂ったか? ならもう一度……っ!?」
「……ちょっと失礼」
俺が目の前に一瞬で現れた事に魔王は驚き反応が遅れる。
「貴様、なん……」
その一瞬で右手を構え、
「せいっ!!」
「っ!! ……ぬあぁぁぁ!!!」
思いっきり右拳を魔王にぶち当て、吹き飛ばした。
「おー、飛んだなー」
左手を額に当てて飛んでいった方向を眺める。
見事に、綺麗に飛んだな。
「お、お前は……!?」
「ん?」
飛んで行った魔王を眺めていると、健治達が俺を見て声を上げていた。
「け、健ちゃん! この人だよ! この人が助けてくれた……」
「……健治の剣を盗んだ人か!」
「なっ! お前があの剣を!?」
「……」
このタイミングでそれを追求するか……。それより、盗んだって人聞きの悪い事を。俺は拾っただけだから。まあ、絶対に壊した事は隠しておくけど。
「おい、返してくれっ!」
「えっと、ちょっと待って。盗んだって言うか拾って使ってたのは謝る、すまん。でも、事情があって今は返す事が出来ないんだ。それに、今はそんな事話してる場合じゃないだろ?」
「なっ! そ、そうだけど。しかし……」
よし、追求される前に行こう。
面倒くさい事は無視して目の前の利益を取りにいきたい。
「じゃあ、俺は行くから! では!」
そしてその場から離脱する。
今の一撃で魔王は死んではいないだろう。
「ちょっと待って……」
「行っちゃったよ……」
「くそ! 俺らも行くぞ!!」
……後ろで勇者達が何か言っているが気にしない。




